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Generative AI: The Game-Changer in Society
2024.05.08(Wed)
この記事の要約
石角友愛氏と新高勇飛氏の対話では、DX人材不足やリスキリングの重要性、キャリア形成の変化などに焦点が当てられた。
DX白書によれば、日本企業はデジタルツールの導入は進むがトランスフォーメーションが追いついておらず、DX人材不足も深刻。
キャリア形成は「4 to 4」に変化し、スキルの賞味期限が約4年と言われる現代では、持続的なスキルの獲得と拡張が求められる。
特に、新たなスキルを既存スキルと組み合わせて付加価値を生む「π型人材2.0」が重要視される。
また、リベラルアーツ思考力や問いを立てる力の育成、新技術の積極的活用、現場経験を生かした人材育成も不可欠。企業は人事戦略とタレントマネジメントを見直し、実践的なリスキリングの場を提供すべきだ。
※この要約はChatGPTで作成しました。
目次
新高勇飛(以下、新高):石角さんは、パロアルトインサイトCEOとして日本企業のDX推進やAI導入を支援されるかたわら、一般向けにリスキリングの方法論やその重要性を伝える著作も刊行されています。昨今、リスキリングが重要視されるようになった理由について教えてください。
石角友愛氏(以下、石角氏):2023年にIPA(独立行政法人情報処理推進機構)が発表した「DX白書2023年版」に、『進み始めた「デジタル」、進まない「トランスフォーメーション」』というサブタイトルが付けられていたのをご存じでしょうか。
このサブタイトルが示す通り、デジタルツールの導入(デジタライゼーション)は進んでいる反面、ビジネスモデルや働く社員のマインドセット、産業のあり方といった「DX」の「X」に当たる「トランスフォーメーション」部分での変革が追いついていないのが、日本の実情です。2022年度に実施されたアンケートにおいては、米国でDXに取り組んだ企業の89%が「成果が出た」と答えましたが、日本企業は58%に留まりました。
これらの原因のひとつとして挙げられたのが、「DX人材不足」。本来は、生成AIの登場に象徴されるような環境の変化を踏まえ、企業は人材戦略の方向性を見極め、DXに向けたビジョン設定をしなくてはなりません。しかし、日本企業の多くでこの過程が不十分でした。そして、DXを進めるために必要な人材も、市場の需要に対して供給が追いついていませんでした。そもそも「DX人材」の定義すら固まっていなかったのです。そこで、政府の予算も投じてDX人材を積極的に育成していこうとしているのが、日本の現在地というわけです。
新高:なるほど。そうしたDX人材がより一層求められていくAI時代において、ビジネスパーソンのキャリア形成ではどのような考え方が重要になるとお考えでしょうか?
石角氏:これまでは、大学4年間で学んだことで40年間仕事しようという「4 to 40」のキャリア形成モデルが前提にされてきました。ですが、生成AIの急速な進化などに象徴されるように、市場が急速に変わる中で、いまやスキルの賞味期限は約4年しかないといわれています。つまり「4 to 4」を繰り返して、新しいスキルを継続的に獲得・拡張していくことが求められているのです。
さらに、発展的なキャリア形成を考えるならば、新しく獲得するスキルは、すでに修得しているスキルと相乗効果を発揮して付加価値を生むようなものであることが理想的です。こうしたキャリア形成モデルを、私は「π型人材2.0」というワードで表現しています。
例えば、「マーケティング」というドメインスキル(すでに獲得しているスキル)があって、「データ分析」をスパイクスキル(新たに獲得するスキル)として習得すれば、「データドリブンなマーケター」になれるでしょう。そして、4~5年の実績を積んだら「データドリブンマーケター」がドメインスキルになり、次に「アナリスト」という新たなスパイクスキルを会得する、といった具合にどんどんスキルを拡張していくのが「π型人材2.0」です。
このとき、「マーケティング」という元来のスキルは、新たな「データ分析」スキルの価値を高める役割を担っています。つまり、スキルとスキルをつなぐ「マスタースキル」へと昇華されているわけです。英語では、これを「Cohesiveness(統合力)」と呼びます。この「統合力」が、リスキリングにおいてはとても重要なのです。
新高:たしかに、何かしらのドメインスキルを身につけたビジネスパーソンが、そのスキルをほかのスキルと効果的に掛け合わせることに難しさを感じるケースは多いですね。スキルを増やすのみならず、マスタースキルを育てていけるかどうかがリスキリングのポイントということでしょうか。
石角氏:その通りです。スキルの獲得自体が目的化され、履歴書に資格を20個書ける、といった状態を推奨しているわけでは決してありません。あくまでもマスタースキルのもとでの統合力が重要で、こうしたリスキリングによるキャリア形成は、「環境変化に適応する速さ」、あるいは「新しい教科が目の前に降ってきたときに学習・会得する速さ」といった能力として言い換えることもできるでしょう。
新高:不確実性の高い時代にあって、環境変化への適応力向上やリスキリングの重要性はより高まっていくでしょうね。NTT Comでも、主に社会人向けの学びのプラットフォーム「gacco(ガッコ)」を展開する中で、「与えられた問題を解決する」ビジネスケーススタディが求められた時代を経て、今後は「自ら問題を設定する」訓練が求められていく流れにあると感じています。
例えば、最近だと「リベラルアーツ思考ビジネスプログラム」というリリースしたばかりのサービスが大手企業を中心に強い引き合いを得ています。“リベラルアーツ”とは元来、人間を束縛から解放して、自由に生きるための手段を学ぶ学問を指す言葉ですが、「歴史」や「生物」などのビジネスとはまったく畑の違う知識とビジネスシーンを掛け合わせたお題を立て、いわば「思考回路の訓練をする」講座です。
「あなたがもし石田三成だったら、関ヶ原の戦いでどのような戦い方ができたと思いますか。チームマネジメントの観点から考えてください」「あなたがもしジャーナリストだったら、SDGsについてどのような報道をしますか。ジャーナリズムの観点から考えてください」といった具合で、“正解”のない自由なディスカッションによるリベラルアーツ思考から、ビジネスに役立つような「問いを立てる力」を養います。
一方で、「Power BI」「RPAツール」「Python」「Tableau」などのデータ分析スキルに対する研修も、需要は今でも高いのですが、それこそスキルの賞味期限にどのくらいの期間があるのかはわかりません。また、そもそもどんなスキルがあるのか、自分の獲得すべきスパイクスキルがなんなのか、わからない人も多いのですよね。
石角氏:勤務してきた会社や業界の常識にとらわれていたり、あるいはこれまで培ってきた知識から、逆に選択肢を狭める自己判断をしてしまったりするケースもありますね。
ほかにも、現場経験のある人材は、新たな知識を具体的な業務に落とし込んで活用できるメリットがあり、新たなスキルを習得するまでの時間が比較的短いともいわれていますが、本人がそうしたリスキリング効果のポテンシャルの大きさに気づいていない場合も多々あります。組織として、キャリア形成やリスキリングを支援することも重要ですね。
新高:仰る通りです。そこでNTT Comでは、自律型人材育成プラットフォーム「BoostPark(ブーストパーク)」を2023年12月より新たに提供開始しました。BoostParkでは、「人事部が会社に求める人材像」と「個人がなりたい人物像」の双方にアプローチして、必要な学習やジョブをレコメンドするマッチングサービスになっていて、近い将来にはAIマッチング技術も活用される予定です。
「人生100年時代」といわれる今、従業員の自律的なキャリア形成と人事部の戦略的なタレントマネジメント、双方をサポートしていかなくてはと考えています。
新高:リスキリングによる人材育成が重要視されていく中で、生成AIの進化・普及も大きな影響力があるかと思われます。DX人材の育成において、今後どんなことが重要になるのでしょうか?
石角氏:ポイントは主に3つあります。1つめは、ソフトウェアエンジニアなど新技術を活用する能力に長けた人材を増やすことです。先ほど挙げたDX白書では、AIの活用領域において、アメリカでは新サービスや新製品の開発、プロジェクトローンチに使われる傾向が高く、日本ではコスト削減に使うことが多い、という違いがあることもわかっています。この傾向は、会社にエンジニアがいるかどうか、という人事戦略の差が影響しています。アメリカでは、非IT企業でもソフトウェアエンジニアがたくさんいるからこそ、新技術を使ったツールやサービスを内製で用意しやすかったわけですね。
2つめは、新高さんが述べられたような「リベラルアーツ」による思考力や「問いを立てる力」を高めることです。生成AIが登場したことで、より簡単に二次情報(誰もが入手可能な情報)にアクセスできるようになった今、LLM(大規模言語モデル)には書き出せないような自らの体験談や実証結果、論文などの一次情報、いわば“生のデータ”の価値が高まっています。この生のデータを「顧客に対する市場価値」に変換するために必要なのが、リベラルアーツの思考力なのです。
有名な例として、Amazonは、商品が購入されたデータを使って、「これを買った人にはこういう商品もおすすめです」とレコメンドする機能をつくり、顧客単価を引き上げましたよね。この例からも「新しいビジネスモデルをつくらなくてはいけない」といった大上段に構えずに、プロダクトのフィーチャーや、新しいサービスモデルを考える、くらいのステージに落とし込んでいく発想力が重要だとわかります。
3つめは、「ChatGPT」のように新しい技術・ツールが出てきたときに積極的に使っていくことです。新技術が登場するたびにトライできる人と、「なんか嫌だなぁ……」と距離を取ってしまう人では、学習曲線の差が徐々に大きくなってしまいます。例えば、ChatGPTを試したときに、期待通りの回答が出ずに使うのをやめてしまう人と、指示の仕方が良くなかったのかもしれないと試行錯誤できる人では、成果にも差が出てくるでしょう。言い換えると、シャットダウンは“機会損失”につながるのです。
また、ひとりで使いこなせない、という人に対するサポートも重要になります。例えば、パロアルトインサイトでは、初心者向けに「ChatGPT for beginners」というオンライン講座を展開していて、GPTの3.5と4で何が違うのかなど、基礎的なところを教材にしたものですが、こうした講座の引き合いが非常に多くあります。企業としても、こういった基礎の部分をサポートすることで、人材育成として機会損失している部分を底上げできるのではないかと考えます。
新高:たしかに、自律的なキャリア形成にスムーズに取り組める人ばかりではないので、そうした人たちへの効果的なサポートの拡充は課題だと思いますし、そのように認識して対策する企業も増えていますね。ですが現状では、世の中にツールが溢れすぎていることもあって、「とりあえずツールは入れたのだけど……」という企業が多い印象です。その結果として、経営戦略や人材のポートフォリオの方向性、そのための採用や育成をどうしようか、と上流部分で悩まれているので、まず会社として欲しい人材の定義づけをしていくことが重要だと考えています。
タレントマネジメントシステムやeラーニングツールを導入したところで、上流が定まっていなければ根本的な課題は解決しません。さらに、こうしたソリューションは本来、付加価値を生むためのものですが、「コストを下げるための省人化ツール」として導入されてしまって使いこなせず、負のサイクルに陥ってしまうこともあります。人事部にしっかりと人的リソースを配置したうえで、研修やタレントマネジメントの基盤を整え、客観的基準で評価するためのアセスメントツールを導入・活用していくことが理想的です。
石角氏:そういう観点では、パロアルトインサイトがリンガーハットと共同開発した、AIを使った需要予測モデルの導入事例も参考になるかもしれません。この新システムは、販売実績や気象情報、地域別情報から消費者の需要を予測し、在庫管理やスタッフ配置を効率化することで人手不足解消に寄与するもので、「リンガーハット」と「とんかつ 濵かつ」の直営492全店舗にて2024年の2月に導入を完了したのですが、500近い店舗に新システムを導入するというのは、並大抵の努力では実現できません。各店舗の店長さんに「明日からこれを使ってください」とポンッと渡して終了、というわけにはいかないのです。
導入するためには、異なるインセンティブを持っている人たちを束ねて、同じ方向を向いてもらい、新しいツールが定着するまで何回も何回も使いこなしてもらうことで新しい業務フローに統合してもらわなくてはなりませんが、「新しいシステムにも現場にも精通している人材」なんて当然いないわけです。そこで今回は、店舗経営の経験が20年くらいある方に、リンガーハットのDX部署の窓口になってもらいました。
その人は、もう店舗のことならなんでもご存じで、顔見知りの店長の方もいるし、アルバイト視点の意見も理解されていました。おかげでコミュニケーションは円滑に進んで、現場からの声も吸い上げて、PDCAがスムーズに回って――。つまり、「現場のエキスパート」のDXリスキリングが成功要因になったというわけです。
現場のことがわからない部署がトップダウンでやっていたら、こううまくはいきません。エンジニアに現場を教えるよりも、現場を知る人にデジタルの知識を教える方がずっと効率的ですし、リスキリングを絡めた人材育成では、このような結果を見据えた人事部の戦略が欠かせないと思います。
新高:なるほど、DX人材の不足をリスキリングで解決した好例ですね。世の中、研修はたくさんあるものの、リスキリングしたことを試す場が足りていません。例えば、AIについて学んだものの、プロジェクトとしてAIの知識を試す場がない、といった状況はもったいないです。今伺った事例のように、社員が実践する機会を整えていくリソース采配や経営判断が、より企業に求められていくのではないかと思っています。
石角氏:また一方で、ビジネスパーソン視点では、「情報を理解してただ業務をこなすだけ」という姿勢は、今後評価されなくなるでしょうね。生成AI時代に本当に重要になるのは「自分ごとに落とし込む」スキル、つまり「0→1で問いを立てられるかどうか」で、評価軸もそうした方向にシフトしていくと思います。
「問いを立てる力」は、筋トレと似たようなもので、鍛えていくことで次第に身についていきます。例えば、メディアの記事やニュースなど、いろいろな情報を耳にする・目にする中で、それを自分ごとに落とし込む。何かサービスを使うときでも、ぼーっと使わずに「なぜこんなに使いにくいのだろうか」とユーザーの視点で考えてみると、改善点が見つかったりしますよね。日々、当事者意識を持って考える・感じることが重要だと思います。
新高:たしかに、知的好奇心や問題意識がとても重要で、それを鍛えるためには、日常で目にするモノに意識を向けて、自分なりに問いを立て直すことがやはり有効ですよね。
正直、昨今の研修というのは、皆が漠然と「答え」を把握したうえで、受けている風潮があると思います。「タイムマネジメントをして、ロジカルに考えましょう」といった、“正解ありき”のフォーマットですね。しかしこれからの時代は、答えがないことに対して問いを立てる能動的な訓練も大切になっていくと思いますし、自分に必要なスキルのヒントも、そこから見つけられるのではないでしょうか。
石角氏:そうですね。4年に1回リスキリングしなくては、と思うと面倒くさく感じるかもしれませんが、一度体験してしまえば決して大変なことではなくなります。また、最初の一歩が重く感じられるような人にこそ、効果が大きい側面もあります。まずは日常の中から、その一歩を踏み出してみるとよいかもしれません。
■各サービスの詳細はこちら
自律型人材育成プラットフォーム『BoostPark』
https://www.ntt.com/business/services/boostpark.html
リベラルアーツ思考ビジネスプログラム『gacco』
https://gacco.co.jp/service/liberalarts/index.html
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