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Generative AI: The Game-Changer in Society
2024.03.13(Wed)
目次
――『社会可能性発見AI』はどのような発端で生まれたのでしょうか
山根尭(以下、山根):私は日々、OPEN HUB Parkやオンラインツール等で社内外の人たちとのワークショップやアイディエ―ションを行う機会が多いのですが、そうした場で頻繁に出てくるのが「こんな可能性はないかな」という議論です。OPEN HUBは共創を推進するコミュニティなので、会員企業やお客さま企業が持つアセットとNTTグループのアセットを掛け合わせることで、新たな共創アイデアが生まれるのではないかと、漠然と考えていました。
そんなときに、以前からNTTコミュニケーションズがメタバースの研究で共創していた、資生堂研究所様が主導するオープンイノベーションプログラム「fibona」主催イベントへの出展のお話を頂いたのです。
「fibona」には資生堂様ならではの新しい化粧品やビューティーテックといった魅力的な体験コンテンツの展示が目白押しです。このなかで、単純にOPEN HUBの取り組みをパネルで展示しても足を止めてもらいにくいですよね。
なんとか、来場者を惹きつけ、盛り上がるコンテンツがないかと模索していたときに、蘇ったのが、さまざまなアイデアを画像生成AIでビジュアル化してみた時の記憶です。これをテキスト生成AIと組み合わせることで、日頃から考えていた、企業が持つアセット同士を掛け合わせた共創を、AIで実現できるのではないかと思いました。
―― “社会課題”ではなく、“社会可能性”発見AIというのも、興味深いワーディングですね。
山根:社会可能性という言葉は、OPEN HUBの代表を務める戸松(戸松正剛)が話していたものです。社会課題というと、解決が求められる顕在化した「社会問題」といったネガティブなイメージを抱きがちですが、社会可能性という言葉には、誰も気づいていない視点、なにをしても変わるはずがないと思われていることなど、社会にひっそり隠れているポジティブな「可能性」、つまり次のイノベーションのタネが含まれています。私も、この考え方に共感したため、『社会可能性発見AI』と名付けました。
――かなり、時間のないなかでの開発だったと聞いています。
山根:出展の依頼を受けてからイベントの開催まで1ヵ月しかなく、残された時間はわずかでした。『社会可能性発見AI』のアイデアが浮かんだのがほぼ1週間前、そこからプロトタイプをつくりあげました。開発にあたったエンジニアなどのメンバーには無理なことをお願いしたと思っています(笑)
――『社会可能性発見AI』とは、どのようなものなのでしょうか。
山根:『社会可能性発見AI』は、端的に言えば、各企業が持つさまざまなアセットとNTTグループが持つアセットを掛け合わせることで、テーマに沿った社会可能性の種を、AIがビジュアルとテキストで提案してくれるというものです。実際に使ってみていただくと、その機能や簡単に利用できることがご理解いただけると思います。ただ、現時点ではオンラインでの公開を行っていませんので、順を追って説明させていただきます。
山根:まず、スタートボタンを押すと、いくつかのテーマが表示されます。ここではカーボンニュートラルを選ぶことにします。すると、それに関連した【一緒に考えたい社会可能性】(社内ワークショップなどにより表出した可能性や問い)が表示されます。
カーボンニュートラルでは、「捨てる選択肢がなくなり、あらゆるビジネスがサーキュラーエコノミー化したときの可能性」や「炭素排出量ゼロが当たり前になった未来、どんなサービスが求められるだろうか」といった5つの社会可能性が表示されました。ここでは「個々人のCO2排出量が完全に可視化される未来になったときの可能性」を選択します。
次のステップでは、利用者が所属する企業名とその企業が所有するアセット(自社の注力商品や独自技術など)を入力いただくことを想定しています。※ここでは、企業名を「NTTコミュニケーションズ」、所有アセットを「バーチャルヒューマン」として入力。続いて、自社のアセットと組み合わせたいNTTグループのアセットを選択します。ここでは「AR/MR」を選択しました。
これで入力は完了です。1分から1分半程度で、選択したテーマ×企業独自のアセット×NTTグループが持つアセットを掛け合わせた、サービスコンセプトをAIがビジュアルとテキストで表示してくれます。
――かなりアウトプットに説得力を感じます。どんな活用を想定しているのでしょうか。
山根:当面はOPEN HUB会員のみなさんに、イベントなどの際に使っていただき、出てきたアウトプットでディスカッションしたいと思っています。なかなか、ゼロからサービスコンセプトを考えるのは難しいものですが、なんらかのアウトプットがあればたたき台として、議論のきっかけになります。
また、人間が考えたサービスコンセプトだと、否定的な意見を言うのがはばかられるケースもありますが、AIによるアウトプットであれば気遣い不要です。みんなで自由にディスカッションできるのではないかと考えています。
とはいえ、まだまだAIの精度的にドンピシャのサービスコンセプトが出ることはありません。これをきっかけとして議論してより良いものに仕上げていくことが重要です。もしかしたら、最終的にはまったく違うアイデアになるかもしれませんが、共創を加速する一つの方法になるとよいなと思っています。
――「fibona」のイベントに出展した際の反響はいかがでしたか。
山根:評判は良かったですね。サービスとしての販売は考えていなかったのですが、ぜひ売って欲しいという申し出も何件かいただきました。理由を伺うと「オンラインホワイトボードよりも話が早い」というのです。
『社会可能性発見AI』のように、各社が持つアセットを掛け合わせるようなワークショップを開催しようとした場合、まずはオンラインホワイトボードなどのフレームワークに落とし込む、という作業が発生します。このための準備を行い、議論に入るまでに数日間を要することも珍しくありません。
また、ワークショップのファシリテーションには一定のノウハウが必要ですが、適任者がいない場合は議論が膨らまず、いいアイデアが生まれないこともあります。
こうした方法に対し、『社会可能性発見AI』であれば、4つのステップですぐにアイデアが生成されるため、それをきっかけに議論したほうが話は早いと仰っていました。自分にとっても予想外だったので意外な気づきでしたね。
――その後、OPEN HUBで開催した「社会可能性発見AI」体験イベントも大盛況でしたね。
山根:『社会可能性発見AI』のようなAIを活用したプログラムのいいところの一つは、スピード感だと思っています。メタバースもAI同様に注目を集めている技術ですが、実際にメタバースをプロトタイピングして初期導入するためにはプラットフォームを用意し、空間をつくるためのCG制作などで最低でも数千万円の費用が必要になり、それなりの稼働と時間もかかってしまいます。
一方でAIであれば、今回のように1週間でプロトタイピングして、スピード感を持ってテストができるわけです。だいたい40名ほどのみなさんが『社会可能性発見AI』に触れ、体験されたのですが、そういったスピード感への反響が多かったですね。
――社会可能性発見AIでは、次の展開があるとも伺っています。
山根:社会可能性発見AIではすぐにサービスコンセプトがアウトプットされますが、逆に早すぎて「自分ごと化」しづらくなるという課題があります。大勢で議論を重ねたワークショップでのアウトプットに比べると、どうしても想い入れの感情が薄くなってしまうのです。そこでAIのアイデアを育てていくために、別の形でのワークショップを考えています。
また、3月18日にOPEN HUB Parkで開催するイベント「有識者と対話する、ビジネスアイデアを磨く秘訣」でも「社会可能性発見AI」をご紹介し、アップデートした社会可能性発見AIの展示や、社会可能性の新しいテーマを募集しようと思っています。
――今後のアップデートプランについて教えてください。
山根:『社会可能性発見AI』のアウトプットの精度を高めるため、さまざまなチューニングをかけていく計画です。まず、【社会可能性】の項目数はOPEN HUBのコンテンツ内での有識者の発言、ワークショップの成果、OPEN HUB会員の意見などを踏まえて、随時増やしていきたいと思っています。アセットについてもNTTグループとは別軸で会員企業のアセットを追加するなど、NTTグループ×A社×B社といった異業種間で掛け合わせの幅を拡大していきます。もちろん、アウトプットにも会員のアイデアを反映していくつもりです。
あとはOPEN HUBのカタリスト機能をいかすために、一緒に考えてもらうカタリストを選んでもらう項目を追加します。たとえば、新規事業開発を得意としているビジネスプロデューサー、公共サービスをデザインしてきたデザイナーなどを最初に選択すると、設定キャラクターに合わせたアウトプットが出るようになるとか、そういった実験も今後していきたいですね。幸い、OPEN HUBにはエンジニア、デザイナー、ビジネスプロデューサーといった多様な肩書きを持つカタリストが名を連ねているので、社会可能性発見AI上でもカタリストに考えてもらおうと考えています。
いずれはNTT独自の大規模言語モデル「tsuzumi」(つづみ)の実装も視野に入れています。「tsuzumi」には特定業界の言語表現、知識に対応できる追加学習機能があるので、「○○メソッド」「○○思考法」といった専門書を覚え込ませれば、よりクリエイティビティなアウトプットが出せるようになるかもしれません。
まだ『社会可能性発見AI』はあくまでプロトタイプなので、ぜひ、どんどん触ってもらってアップデートのアイデアをいただけると嬉しいです。現在は「OPEN HUB Park」、あるいはイベント出展でしか触れる機会はありませんが、近々、「OPUN HUB Virtual Park」への実装も計画していますので、いずれは日本全国、世界中から触れていただけるようにしていきたいです。一人でも多くの方に気軽に触っていただきたいですね。
――『社会可能性発見AI』を通して見えてきた、生成AI自体の可能性はありますか。
山根:私はAIの専門家ではありませんが、社会可能性発見AIを開発していくなかで見えてきたことがあります。それは、AIと人間のクリエイティビティ(創造性)をどのように棲み分けるかです。
まず、【0から1】の部分である、「考えさせること」は人間がやらなければなりません。考えさせること自体はAIができないわけではないですが、どんな問いを設定するかは、人が行うべき役目だと思います。社会可能性発見AIで言うと、最初に選んでもらう社会可能性が該当します。外部カタリストである山口周さんもおっしゃっていますが、人間には解きがいのある良い問いを提起する能力が求められると考えています。
そしてもう一つは、遠い体験をアウトプットに紐づけるということです。人間の場合、一見テーマとは関係ないような体験が、実はアウトプットに役立ったというのはよくある話だと思います。しかし、現段階で生成AIはこうした遠い体験を、アウトプットに結びつけるのは得意ではありませんので、こうした点も人間のクリエイティビティが発揮しやすい部分だと言えるでしょう。
ただ社会可能性発見AIでは、こうしたAIが苦手とするような部分にも、クリエイティビティが発揮できるように育てていきたいですね。
――最後に少し夢を交えて未来のことを語っていただけますか。
大げさかもしれませんが、いつの日かワークショップの必要性が薄くなるほど、いろいろなイノベーションの創出をサポートする生成AIをつくりたいと思っています。おそらく、AIが人間を超えるようなすごいアイデアを考えるようになるには、もうしばらく時間がかかります。
しかし、『社会可能性発見AI』をさらにアップデートすれば、イノベーションの始まりとなる、【0から1】のタネを人間、そしてそのタネと従来のアセットを掛け合わせる【1から9】をAIが担い、アウトプットされたアイデアを議論、ブラッシュアップしていく【9から10】は、また人間が担うという役割分担はそう遠くない未来に実現可能です。
私自身も『社会可能性発見AI』の企画・開発を通して、さまざまな気づきがありました。ぜひ、みなさまとの、より良好かつクリエイティブな生成AIと人間の可能性を築くための一助となれたらうれしいです。
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Generative AI: The Game-Changer in Society
生成AIが社会を変えるとき