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Carbon Neutrality
2024.01.19(Fri)
目次
カーボンニュートラル実現を表明する国や地域はGDP総計で約9割(154の国や地域)に達しており、排出削減と経済成長を両立するGXに向けた投資競争が激化しています。2023年2月、日本政府でもGX実現に向けた基本方針を閣議決定。政府が20兆円規模の先行投資支援を行うとともに、今後10年間で官民150兆円超のGX投資を実現するため、GX投資に前倒しで取り組む「成長志向型カーボンプライシング構想」という仕組みを創設しました。
折口直也氏(以下、折口氏):成長志向型カーボンプライシング構想には2つの機能を持たせています。まず一つ目は、20兆円の先行投資支援の財源としての機能、もう一つは投資の前倒しを促すための機能です。この取り組みにはリードタイムを設けており、「最初は低い負担で導入できるが、あとになるほど炭素の排出コストが引き上げられる」という全体像をあらかじめ示すことで、先行投資にインセンティブを持たせています。
また、世界各国でもGXに向けた官民での取組が進められているところであり、こうした国内外の動向を踏まえ、経済産業省では「GXリーグ」を設立しています。これは、GXに積極的に取り組む企業群が、官・学・金(金融機関)でGXに向けた挑戦を行うプレイヤーと共に経済社会システム全体を変革する議論と実践を行う場です。
折口氏: GXリーグにはEUと同水準、日本の炭素排出量の総量の4割以上を占める560社を超える企業群に参画していただいています。主な活動は2つ、自らの排出削減を進めるための取組と、サプライチェーン全体での排出削減やGX製品を投入といった他社も巻き込み排出削減の取組です。前者については排出量取引、後者についてはルールメイキング等に取組んでいます。前者は、排出削減による経済的優位性や市場からの企業評価につながる「競争領域」、後者は他社と課題意識を共有して集合知を生かして共同で取り組みを進める「協調領域」にあたると言えます。この2つの領域がGXの実現には重要です。
すでにGXリーグには「GX-ETS(Emission Trading Scheme)」と呼ばれる排出量取引の仕組みがありますが、諸外国のETSと異なるのは、参加が義務ではなく、自主性を重んじながら取り組みを進められる点です。
Scope1(燃料による排出)、Scope2(電力使用に係る排出)で立てた排出削減目標をもとに、実際に排出量を算定・報告、必要に応じて取引を実施しますが、排出量が目標より超過した場合は、排出枠を購入するするか、自ら合理的な理由を説明を行うことになっています。目標達成状況や取引状況は情報共有プラットフォーム「GXダッシュボード」で公表され、いつでも確認できます。
ニュースなどでご存じの方もいらっしゃると思いますが、先日東証にカーボン・クレジット市場が開設されました。今後創出される超過削減枠以外にもJ-クレジット(※)、JCM(日本企業の海外での削減量)でも排出量取引ができるようになっています。
※J-クレジット:省エネルギー設備の導入や、再生可能エネルギーの利用による炭素などの排出削減量、適切な森林管理による炭素などの吸収量をクレジット化したもの。J-クレジット制度により認証されている
折口氏によれば、今後も経済産業省ではGXリーグの活性化に向けて、新たなワーキングの立ち上げ、ルールメイキングによる参画企業間の連携、参画企業とスタートアップ企業とのビジネスマッチング、定期的なネットワーキングの場を設けての交流促進など、さまざまなアプローチで日本企業を支援していく方針だといいます。
折口氏: GXで重要なのは競争と協調です。経済成長しながら確実に排出量を削減するために、GXリーグを活用いただきたいと思います。
続いて、森林資源を最大限に活用することでカーボンニュートラルの実現を目指す林野庁の増山氏が登壇しました。森林資源を有効活用するカギは「循環」にあるそうです。日本独自のユニークな取り組みとはどのようなものなのでしょうか。
現在、日本の森林蓄積量は過去最高水準、50年で約6倍に増加していることをご存じでしょうか。しかし、まさにいま森林資源は成熟し、炭素吸収量はピークに達しているため、日本の森林の炭素吸収量は今後減少トレンドに突入していくといわれています。
増山寿政氏(以下、増山氏):森林は人間と同じ生き物ですので、歳を重ねるとどうしてもCO2吸収量は減ります。これをどうするかが非常に大きな課題です。政策的には「伐って、使って、植えて、育てる」森林資源の循環システムの構築が急務だととらえています。ここで重要になるのが森林・林業セクターによるカーボンニュートラルの実現です。つまり、直接削減できない炭素の排出分を再造林などを通じた森林吸収で相殺することですが、最近は高齢化・後継者不足などにより再造林されずに放棄されるケースが拡大しているのです。
増山氏:海外のカーボン・クレジット制度では森林は炭素を「貯める」場所と位置付け、伐採や森林の開発を取りやめた場合に炭素蓄積が増えた量を評価する仕組みが一般的です。一方で、日本は森林を「循環させる」場所だと考えています。単純に炭素を貯める場所という視点だけでとらえるのではなく、きちんと木材を活用し循環させることを目指しています。
そこで、必要になるのが木材活用を推進する取り組みです。都市における森林づくりとして木造建築物を建てることによる「木材製品の炭素貯蔵」や、鉄鋼やセメントなどのエネルギー集約型の資材を木材に置き換える「資材代替」、化石燃料からバイオマス燃料に転換させる「エネルギー代替」なども含め、森林・林業セクターのカーボンニュートラルへの貢献を最大化させていく取組が求められています。
2022年8月、林野庁では森林資源の循環システム構築に向け、J-クレジット制度における森林管理プロジェクトのルールを改定しました。この改定により、主伐(主に森林の更新、または更新準備のために行う伐採を指す)を含む森林プロジェクトにおいて主伐後に再造林を行う場合の吸収量・排出量の計上方法が見直され、その後のJ-クレジットの登録・認証実績にも大きな変化が出ています。
増山氏:J-クレジット制度の要件として「追加性」があり、これまではJ-クレジットの認証対象期間中は、林業経営が赤字であることを証明する必要がありました。主伐による伐採収入などで黒字化してしまった場合は、登録要件が満たされなかったのです。しかし、主伐後に再造林を計画する場合などには、この証明が不要となりました。加えて、主伐は森林の炭素蓄積が減少するため「排出」として扱われますが、再造林すれば伐ったときの排出の一部を実質的に取り戻せる制度を新たに導入しています。
つまり再造林すれば40年くらいの吸収量を「前借り」して、一度にクレジット化できる仕組みです。さらに、伐った木材の活用を炭素の固定とみなし、一定の条件の下で吸収量の算定対象に加えました。こうした、再造林を後押しするルールの改定が契機となり、2022年度のJ-クレジットの森林管理プロジェクトの登録件数は過去最高の伸びになっています。
増山氏:一方で森林管理プロジェクトの登録者には山林を所有する都道府県、市町村といった自治体、林業公社が多く、なかなか民間の企業や林業事業体に広がっていない現状があります。林野庁では、この状況を打破し、民間への拡大を目指すために、必要な手続きやクレジット創出のコツをまとめた、森林由来J-クレジット創出者向けハンドブックを公表しています。
現時点(2023年10月時点)のJ-クレジット認証量は累計で905万トンまで伸びていますが、太陽光発電が過半数を占め、森林は全体の2.1%に過ぎません。しかし、近年は森林吸収系のJ-クレジットは非常に伸びてきており、昨年は初めて単年度ベースで年間5万トンを達成しています。さらに最近は認証見込量が大きい大規模プロジェクトの登録が多く、森林のJ-クレジット市場供給量が増えていくのはまちがいないでしょう。
増山氏:今後、GXリーグで取引が広がってくれば、カーボン・クレジット市場に対する需要も増えると見込まれます。私たちがGXリーグの参画企業を対象に実施したアンケートでも、GX-ETS始動後の森林J-クレジットの購入意向は、参画企業の26%、1/4の方が前向きにとらえられていました。さらにGX-ETSが活性化すれば、この数値はさらに伸びていくと考えています。
増山氏:こうした好循環を後押ししていくために、林野庁では森林づくり活動などに取り組む団体を表彰する「森林×脱炭素チャレンジ」を実施しています。今年度より新たにJ-クレジット部門を設けました。森林づくりだけではなく、クレジットを流通させる仲介業者、あるいは森林J-クレジットを購入した企業も一体として評価したい思いがあったためです。
森林J-クレジットは企業活動にも役立つものです。売り手よし、買い手よし、地球よしの三方よしになります。森林J-クレジットにはいろいろな可能性がありますので、ぜひ、前向きにご検討いただきたいと思っています。
今後、日本がカーボンニュートラルと経済成長を両立していくためには、折口氏や増山氏に紹介いただいたような、官民の共創が不可欠です。本レポートでは紹介しきれませんでしたが、当日のイベントでは、より詳細な説明や事例紹介等も行われており、その模様を下記で配信しています。
経済産業省×林野庁が語る
カーボンニュートラルへの道筋
https://openhub.ntt.com/event/7627.html
配信動画では、
・GXリーグの活性化に向けたルールメイキングの実例
・ビジネスマッチングイベントの模様
・木材利用による炭素排出抑制事例
・森林J-クレジットの購入を環境・サステナビリティ報告などで公表している事例
といったより具体的な内容の解説を行っております。
今後の脱炭素経営に関する取り組みや、ビジネスの創造に関心のある方はぜひご視聴ください。
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