New Technologies

2023.11.24(Fri)

自由な働き方を選択できることが企業価値を上げていく。
進むハイブリッドワークのいまとこれから(後編)

#CX/顧客体験 #働き方改革
前編ではハイブリッドワークに関するトレンドとその対応策について関西大学社会学部教授 松下慶太氏とNTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)の中山正之の対談を通じて考えました。いち早くハイブリッドワークを導入し、各種サービス・ソリューションの提供を行ってきたNTT Comはオフィスをどのように進化させてきたのか。大手町プレイス29階「Live Office」のオフィスの企画運営を担当し、日々社外の人たちに対しオフィスツアーを行うNTT Comコミュニケーション&アプリケーションサービス部(以下、C&A部)の浅沼麻衣と同部の総務担当としてオフィスの管理を担う中山浩司とともに、ハイブリッドワークの導入に悩む企業の声を明らかにしていきます。

生産性と効率性を追い求めた新オフィス

前編はこちら

――NTT Com全社としてハイブリッドワークを推進する中で、C&A部はどのような役割を担っているのでしょうか。

浅沼麻衣(以下、浅沼):NTT Com全社として「フレキシブル・ハイブリッドワーク」という概念をもとに、ワークスタイル変革を推進し、2022年2月に大手町プレイス29階のオフィスをリニューアルしました。私たちC&A部のミッションはコミュニケーションサービスやアプリケーションサービスの開発提供ですが、合わせて社員自らが自社で開発したサービスを活用しながらワークスタイル変革を実行し、さまざまな働き方の実現を目指しています。

ハイブリッドワークに移行して、オンラインとオフラインがシームレスにつながるようになった中で、オフィスのあり方が問われるようになりました。在宅勤務でワークスタイル変革ツールを利用するのはもちろん、オフィスにおいてもツールを利用してオフィスの利用価値の向上を目指し、社員が主体性をもって出社するための取り組みを行っています。

浅沼麻衣|NTT Com コミュニケーション&アプリケーションサービス部 Catalyst/Service Coordinator
ワークスタイル変革を支援するサービスを中心にプロモーション業務に従事。自社が開発するサービスの活用方法やハイブリッドワークの推進について、社内外へ発信する取り組み「Live Office」を運営。お客さまへのオフィスツアーを通して、お客さまのワークスタイル変革に関するコンサルティングを行う

――オフィスのリニューアルはどのような課題を踏まえたものだったのでしょうか。

浅沼:社員の生産性や効率性を上げるために必要なオフィスの機能は何なのか、というアプローチからスタートしています。リモートスタンダードが主流になったいま、出社を煩わしいと感じる社員もいる中で、オフィスにどんな価値があれば主体的に会社に来たいと思えるのか。そうした課題感のもとで空間づくりやツールの導入を検討しました。

――オフィスのリニューアルは具体的にどのような内容でしょうか?

浅沼:空間については「The Park」というコンセプトで、オフィスに必要な機能をコンパクトにまとめ、心を安らげるような空間づくりにしました。畳の上でくつろぎながら仕事ができるエリアがあったり、緑に癒やされるエリアや、開放的な空間でディスカッションが活性化するエリア、個人が集中できるエリアといった、4つの区画で構成されています。それらを自分の業務や気分で自由に選びながら働くことができるようになっています。

また、特徴的なのはデスクの配置方法です。オフィス内の導線に対して斜めにデスクを配したことで、デスクに座っている人と歩行者の目が合いやすくなるのです。ちょっとした工夫ですが、社員の皆さんから「フリーアドレスでも誰が出社しているか分かりやすくなったし、声をかけやすくなった」という意見がよく聞かれるようになり、コミュニケーションが活性化したと感じています。


――エリア分けのほかにさまざまなツールが導入されていますが、どういったものでしょうか?

浅沼:私たちはオフィスの価値を「偶発的なコミュニケーションを行える場」、「0→1を生み出す議論の場」、「集中スペース」と置き、この3点を意識してツールの導入を含めたオフィスづくりを行っています。ツールありきではなく、そのフォーカスした課題の解決をサポートする手段としてツールの導入を決めました。

まず、「偶発的なコミュニケーション」が起こるには、偶然性を生む仕掛けが必要です。私たちはフリーアドレスを導入していますが、それだけでは誰が出社していて、どこにいるのか分からないために、コミュニケーションの機会が損なわれてしまいます。社内を探し回ったり、連絡を取り合ったりすることで解決できますが、煩雑なコミュニケーションといえるでしょう。

そこで、「PHONE APPLI PLACE」という位置情報把握システムを活用したソリューションを導入し、社員の出社状況や居場所を可視化しました。この位置情報システムはオフィスの一角に常に表示していますが、ブラウザーからでも把握できるので、在宅の場合でも「あの人が出社しているなら、午後から会いに行こう」ということもできるようになりました。また、社員録システムと連携しているため、ブラウザーから顔写真のアイコンをクリックすると名前や職務内容はもちろん、経歴や趣味などのプライベートな情報も公開設定できます。ちょっとした会話のきっかけづくりとしても役立っていますね。

29階オフィスに投影された「PHONE APPLI PLACE」の画面。出社している社員がオフィスのどの辺りにいるのかが顔写真アイコンで一目で分かる

2つめの「0→1を生み出す議論の場」として活用しているのが、イトーキさんが開発した什器に、NTT Comが提供するオンラインワークスペース「NeWork®(ニュワーク)」を組み合わせた、「office surf」です。新しいアイデアというのは時に雑談から生まれたりしますが、チームメンバーがオンサイトとオンラインの異なる環境で仕事をしていると、気軽な会話は発生しづらいものです。「office surf」はスタンド型になっていて、常にオンラインで仕事をしているメンバーが表示されているので、実際にオフィスで対面するのと変わらない感覚で話しかけることができます。

合わせて読みたい:
ハイブリッドワークを新たなフェーズに リアル以上のコミュニケーションを生む、次世代のワークスペース

※office surfは株式会社イトーキ様の商品となります

最後に「集中スペース」もオフィスに欠かせない機能です。よくある課題として挙げられるのが、出社した際に仲間とコミュニケーションできるのはいいけれど、一人で集中して作業したいときにそうしたスペースがなかったり、個室ブースが常時埋まっていたりで、出社をためらうというケースです。ここでは50台もの個室ブースを設置し、そうした悩みが起きにくいようにしています。

ただ、個室ブース内は快適な環境であることもあり、つい長時間滞在してブースが埋まってしまい本当に入りたいときに入れない状況になることがあります。そこで「droppin」というソリューションを試験的に社内導入しています。droppinは全国の提携先のワークスペースをアプリで検索・予約できるサービスですが、オフィス内の個室ブースもアプリ上で予約できる対象に取り入れ、入りたい時間帯に個室ブースを確保することができます。

「リアルなオフィスツアー」が共感を生む

――オフィスのリニューアルからおよそ1年半がたちました。社員の方々の反応はいかがでしょうか?

浅沼:エンゲージメント調査を行ったところ、想定以上の結果が出ていると感じています。データにもあらわれていて、「協力体制」や「ワークライフバランス」といった項目は日本平均※を3~8ポイント上回る水準になっています。

また、リモートワークの導入でおろそかになりがちな「コミュニケーション」もリモートワークでは先にお話しした「NeWork(ニュワーク)」、オフィスでは「PHONE APPLI PLACE」といったツールによって一定の満足度を得られていると考えられ、「コミュニケーション」の項目においても日本平均を上回っておりポジティブ(肯定的)に捉えている社員が多いです。

※調査元:クアルトリクス合同会社によるエンゲージメント調査結果

――C&A部には1,000名を超える社員がいます。総務担当としてオフィス管理を担う中山さんは、これらの取り組みをどのように捉えているでしょうか?

中山浩司(以下、中山):仕事の生産性だけでなく、生活の生産性が上がっているという声をよく聞きます。当社は「在宅勤務・フレックス制度・リモートスタンダード制度」など柔軟な働き方ができる制度を導入しており、1日7.5時間の労働時間の内訳などを自分で計画することができます。例えば、日中に分断勤務として子どもの送り迎えをしたり、朝7時から働いて16時に終業したりといった、自分のライフスタイルに合わせた働き方ができるので、結果的に仕事もプライベートも効率的なスタイルを実現できているのではないでしょうか。

一方でオフィスに出社する機会が減り、社員の方々のコミュニケーションのあり方を考えたり、オフィスで仕事をする意味や価値を提示していく必要性もあると感じています。このLive officeはそうした課題感を捉えた取り組みだと感じています。

中山浩司|NTT Com コミュニケーション&アプリケーションサービス部

――企業の方々へオフィスツアーを実施されているそうですが、企業の皆さまはどういった目的や課題感を抱えているのでしょうか?

浅沼:企業規模や状況によってさまざまですが、大きく3つの課題に分類されます。1つめはハイブリッドワークのスタイルにしたものの、毎日出社していたころと比べて生産性やコミュニケーション面で思うような結果が出ていないという課題です。2つめはそもそもハイブリッドワークの導入ができていないお客さまです。経営層がハイブリッドワークに対する知見が少なかったり、リモートワークに対して偏見を持っているので検討が進まないといったお悩みです。3つめが、会社のオフィス移転やフロアリニューアルにともなって、抱える課題を解決するようなアイデアやヒントを得たいというお客さまです。

――そうした課題感をお持ちのお客さまに対して、ハイブリッドワークに関するソリューションやサービスを提供する会社はほかにも多くありますが、NTT Comのオフィスツアーならではの価値とはどういったものでしょうか?

浅沼:プレゼンテーションの方法に違いがあるのではないでしょうか。一般的には、ショールームにご案内してデモ機を見せたり、オフィスツアーの場合でも決まったルートで紹介する、といったものかもしれませんが、私たちは実際に社員が働く場にご案内し、お客さまの要望に合わせながらオフィスツアーを実施しています。働く社員を見て「サクラですか」とよく聞かれますが、本当に普段の業務風景の中でご案内しています(笑)。

お客さまとしては実際にツールが使われているシーンを体感できるので、自社に導入したときの具体的なイメージを持ちやすくなります。それを見たうえで「これだったらうちの会社でもできるかも、自分たちだったらこういう使い方はできないか」というように、相談しながら進めていくことが多いですね。私たちとしても想定していなかった課題や声をいただくこともあるので、自社のサービスや働き方のアップデートにつながる貴重な機会だと捉えています。

中山:アフターコロナになって、効率性や利便性に加えて心地よく働けるオフィス環境を目指す企業が増えてきていると実感しています。私たち社員もオフィスツアーで来訪するお客さまを身近に感じながら業務をすることで、オフィスのあり方や働き方への意識が変わりつつあることを実感しています。

オフィスを通して実現する社員のウェルビーイング

――オフィスツアーに参加したことで企業の方々からどんな反応があるのでしょうか?

浅沼:ハイブリッドワークをどうやって定着できたのか、というご質問は多いですね。創業年数が長い企業だと時代の変化への対応が遅れがちかもしれませんが、私たちは時代に即したサービスをお客さまにご提供している以上、まずは自分たちが実践できていないといけないという意識があります。経営層も柔軟な考え方を持っていて、先陣を切って新たな制度を取り入れる風土があります。そうした環境があるから皆さまに活用いただけるサービス開発ができているのではと感じています。

自社の働き方に課題がある、ツールを実際に見てみたい、などのご興味を持たれたお客さまがいらっしゃいましたら弊社の営業担当などにお問い合わせなどいただければと思います。

――ハイブリッドワークに対する課題感は日頃変化していると思いますが、C&A部として今後はどのようなビジョンをお持ちでしょうか?

浅沼:私たちが最終的に目指すのは、社員のウェルビーイング向上です。NTT Comの働き方改革において、ペーパーレス化やデジタル化による生産性向上を目指す「STEP3」の達成が近づき、現在は「STEP4」の段階で、社員間のコラボレーションの実現や裁量コントロールなど、主体的に働き方を選べる仕組みづくりに差し掛かっています。ただ、いくらツールや制度が整っていても、仕事はどこまでいっても人と人の関係性が重要ですし、自らの仕事に対する達成感やポジティブな感情は社員の心理的安全性や生きていく意味を見いだすうえで欠かせない要素です。C&A部としてはオフィス環境改善の視点から、ウェルビーイングの実現を目指していきたいですね。

ウェルビーイングを達成する1つが「ありがとう」という言葉です。感謝の気持ちはリモートワークになってからはあまり聞かれなくなったといわれていて、ささいなことですが、ポジティブな感情を想起するうえで大切だと感じています。そこで、「PHONE APPLI THANKS」という、電子版「THANKSカード」のツールを活用し、部署や部下・上司関係なく、簡単に感謝の気持ちを伝えられる仕組みを導入しました。

全員に公開されるものなので、チーム外からも自分の仕事ぶりを評価してもらえるのは単純にうれしいことですし、モチベーションの向上にもつながります。人事評価に影響するものでないからこそ、素直な気持ちで、皆さん自発的に利用されているように感じますね。

中山:テレワークになってから、メンバーと一度も対面することなくプロジェクトやタスクが完結するといったこともありえるようになったと思います。そうしたスタイルも働き方の1つの解ではありますが、業務効率の点から考えても一度会ったことがあるとプロジェクトの進み方が変わってくるものですし、ウェルビーイングの観点からも、対面によって肯定的な関係性を築くきっかけになります。とはいえ、「出社する圧力」といったものは決して感じてほしくないので、出社率を上げたり、出社回数を増やすという目標値を設定する方向ではなく、オフィスの価値や対面で業務をする意味を見いだしてもらえるように、出社タイミングをチームで合わせるといった機会をこれからつくっていく予定です。