Future Talk

2023.10.13(Fri)

OPEN HUB Base 会員限定

物流クライシスは「荷主」に原因あり?
フィジカルインターネットが切り開く、物流と日本企業の次世代戦略

#働き方改革 #サステナブル #イノベーション #モビリティ #サプライチェーン
「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」の施行によって、2024年4月からトラックドライバーについて時間外労働の上限が年間960時間になります。トラックドライバーの待遇改善が図られる一方、これまでのように荷物を運べなくなり、物流の停滞が懸念される「物流の2024年問題」を目前にして、2023年は人手不足への対応に迫られている過渡期。しかしこの物流クライシスは「人手を増やす」だけでは解決しないであろうことも明らかになってきています。ボトルネックとなる問題はどこにあり、そしてどのように対策を講じていくべきなのでしょうか。

自動配送ロボットや自動運転の活用、AIや量子コンピューターを用いた配送ルートの最適化、荷台に空きのある車と運びたい荷主を結びつける「求貨求車」におけるマッチング技術の活用といった、さまざまなDXの先に見えてくる新しい物流システムが「フィジカルインターネット」です。2022年3月に、政府によるロードマップとしては世界初となる『フィジカルインターネット・ロードマップ』を取りまとめた、経済産業省商務・サービスグループ消費・流通政策課長兼物流企画室長の中野剛志氏に、次世代物流システムの要点、そして日本企業が目指すべき「物流を中核に据える」経営戦略についてお話を伺いました。

物流に顕在化した「荷主/消費者側の問題点」

――昨今、さまざまなメディアで「物流の2024年問題」が取り上げられていますが、そもそも物流クライシスとはどのような背景から生じているのでしょうか?

中野剛志氏(以下、中野氏):例えばヨーロッパやアメリカ、中国の企業に目を向けてみると、かなり物流が重視されていて、「CLO(Chief Logistics Officer)」という物流担当の役員が立てられていることも多いです。これは国土が広大であるとか、また大陸ゆえの事情もあって、物流のミスが在庫の山へとつながり即致命傷になるからでしょう。

一方で、日本は小さい島国であり、2日間あれば大抵のものが輸送できてしまう。物流事業者が少し無理をすれば荷物を届けられてしまうからこそ、後回しにされてきた諸問題が複合して物流クライシスを引き起こしました。日本では、箱が破損して届くこともないですし、中身を抜かれたりすることもない。諸外国と比べ品質もとても良い日本の物流産業は、いわば“頑張りすぎ”の状態にあるのです。皆でそこに甘えてきたことを、まず認識する必要があります。

「物流の2024年問題」についても、ドライバー不足の文脈が強調されがちですが、問題は決して人材不足だけではありません。トラックの積載効率が年々低下し、4割以下になってしまっているという効率性の問題もある。解決のために「物流事業者をどうにかすればよいのだろう」と思っている方も多いかもしれませんが、そこがもう間違いなのです。急いで女性のドライバーを増やす、外国人労働者を入れるとか、そういう物流事業者の“対症療法”だけで乗り切れる問題でもありません。これは、物流のドライバー不足の根本的な原因が「荷主」にあるからです。

年々成長するEC市場、サプライチェーンにおけるBtoBの多品種・多頻度・小ロット輸配送によって、1件あたりの貨物量は年々減少しながらも物流件数は増加。トラック1台あたりの積載効率低下は人件費や配送コストの高騰、ひいては道路貨物輸送のサービス価格の高騰を招いた。一方、物流サービスの競争激化による労働環境の悪化、少子高齢化などからドライバーは減り続けており、今後さらなる「物流コストインフレ」の加速からさまざまな悪影響が危惧されている(出典:経済産業省「フィジカルインターネット・ロードマップ」、以下同様)

例えば、BtoC市場におけるネット通販の拡大は物流の話題として目立ちやすいですが、重量ベースでは物流全体のたった5%程度しかありません。日本の物流の大部分はBtoBが占めています。

このBtoBの輸配送において、荷主企業が物流事業者に対して「明日持ってこい」と要求するから問題が起こるのです。例えば、工場ではデジタル化が進んでいますから、在庫を抱えないようにオーダー量に応じて部品発注・製造を行う「ジャスト・イン・タイム」方式で稼働するため、多頻度・小ロットの部品の納品、製品出荷を要求している。そうすると物流事業者にシワ寄せが来て、トラックの積載効率も4割以下になってしまう。これを「3日以内に持ってくればよい」などに変えられるのかどうか。

つまり物流クライシスというのは、根本的には「荷主」の問題であって、「企業と企業の関係性」の問題なのです。物流業を所管している国土交通省ではなく経済産業省が「フィジカルインターネット実現会議」を主催しているのも、荷主となる企業を所管しているのが経済産業省であるためです。

中野剛志|経済産業省 商務・サービスグループ 消費・流通政策課長 兼 物流企画室長
1996年東京大学教養学部卒業後、通商産業省(現経済産業省)に入省。2000年、英エディンバラ大学大学院に留学(政治思想を専攻)し、2005年博士号取得。京都大学大学院工学研究科准教授、経済産業省商務情報政策局情報技術利用促進課長、製造産業局参事官などを経て現職

――ちなみに、残りの5%を占めるBtoCの輸配送にも、課題はあるのでしょうか?

中野氏:はい。ECが普及したことで、リアルな店舗を持つ小売業も「オムニチャネル」化――つまり、オンラインでの販売も行うようになりました。顧客からの注文は簡単にスマホからできますが、フィジカルな物流で商品が運ばれているという状況は今も変わっていません。特にラストワンマイルの配送というのは、特殊な荷物を少ない量で、しかも頻繁に運ぶことになるため、積載効率は極めて悪い。ものすごくコストがかかります。

BtoCにおける物流のデジタル化の進展は、「需要」だけを伸ばしてしまいました。ここからは、フィジカルな部分の能率を上げなくてはなりません。こうしたところで、無人フォークリフトや、自動配送ロボット、自動運転、ドローンといったデジタルテクノロジーの活用を検討していく必要が出てきているわけです。

ポイントは荷主同士の“協調”。次世代物流システム「フィジカルインターネット」とは

この記事は OPEN HUB BASE 会員限定です。
会員登録すると、続きをご覧いただけます。
この記事の評価をお聞かせください
低評価 高評価
必須項目です。
この記事の感想があればお聞かせください