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Coming Lifestyle
2023.09.29(Fri)
目次
今回のイベントを主催するOPEN HUBカタリストの岡直樹は、イベントテーマ、そして若宮氏と小橋氏の出演経緯について、次のように語ります。
岡直樹:NTTドコモグループは、9,000万人を超えるドコモのユーザー基盤から生み出されるビッグデータや、これまで培ってきたデジタル技術、パートナー企業とのつながりを活用し、「新たな生活価値・ライフスタイル」を提供するスマートライフ事業を展開しています。ドコモが持つテクノロジーをオープンにして、さまざまなパートナー企業と協力しながら「0歳も100歳も誰も取り残されることなく上機嫌で暮らせる世界」を実現したいと考えています。
そんな世界を考えるヒントを、若宮さんと小橋さんのセッションから見いだしていこう、というのが今回のイベントです。おふたりは世代がまったく異なりますが、それぞれデジタルテクノロジーと自然体で関わりながら、多彩で豊かなキャリア、ライフスタイルを実現されています。
若宮さんは、最高齢のプログラマー・アプリ開発者としてAppleが開催するWWDC(Worldwide Developers Conference:世界開発者会議)に招待され、CEOのティム・クック氏から紹介を受けたことをきっかけに、世界中から注目を集めるITエバンジェリストです。Excelの機能を活用してアート作品を生み出す「Excel Art」の創始者であり、またシニア向けオンラインコミュニティー「メロウ倶楽部」の設立・運営に携わるなど、デジタルデバイドや超高齢社会の課題解決にも取り組まれています。いつも自然体で好奇心に満ちた人柄がとても魅力的で、ビジネスからカルチャーまで、柔軟な価値観と広い視野は、誰にとっても参考になると考えました。
小橋さんは、俳優として成功を収めながらも、より自分の感覚を活かせるキャリアを模索してクリエイティブディレクターに転身され、日本最大級の野外ダンスミュージックフェス「ULTRA JAPAN」などの世代を超えて共鳴できるイベントを数多く手掛けてこられました。2025年の大阪・関西万博で催事企画プロデューサーに就任されたことも話題になっていますね。日ごろラジオDJとしても、ITやアート、エンターテインメント、果ては建築やまちづくりに至るまで、さまざまなイノベーターから知見を引き出されており、幅広い見地から“新たな生活価値”を捉えてもらえると思います。
若宮さんと小橋さんは、人の心をいかに震わせ、どのように巻き込むか常に考えています。今を生きている人の気持ちやニーズをくみ取ることは、ビジネスの成功においても大事なのはいうまでもありません。企業が提供する価値で個人の生を豊かにし、社会を豊かに変えていく。そのために今必要なことは何か。イベントでおふたりとディスカッションする前に、当イベントの開催にあたってそれぞれが思い描く新たなライフスタイルへの展望についてお聞きしました。
「超高齢社会の先進モデルになることが、日本経済にとって将来的な収益向上につながると思います」。そう話す若宮氏は、新たなライフスタイルを考えていく切り口として、「誰もがポテンシャルを発揮して輝ける環境整備」の重要性を語ります。
若宮正子氏:サステナブルな社会を築いていく上で、ビジネスの本質は、資本主義の原動力である「大量生産・大量消費」から必要最小限の資源消費へ、いわば「あなたひとりのための特注の椅子をつくる」時代に向かうでしょう。“製造の専門家”と“消費者ニーズの専門家”が話し合いながら、世代によって、人によって異なるさまざまな消費者ニーズを発掘してビジネスを進めていく必要があると思います。
例えばデンマークをはじめとした福祉先進国のビジネスやライフスタイルは、日本にとってとても参考になると思いますよ。補聴器の性能などもデンマークのものが一番良いのです。ニーズに細やかに対応していますよね。実際に訪れてみると、デジタル技術の進化や社会の変化に追いつくために、誰もがリスキリングや「大人の部活」のような自己開発活動にいそしんでいます。「幸福度の高い国」としても知られていますが、家族との時間を大切にする傾向がとても高く、世代間の交流が多いのも印象的でした。
これからは世界中が高齢化します。パソコンやスマホはもちろん、家電も高齢者が自分ひとりで使いこなせないものでは困るのです。高齢者を機械に慣れさせるより、機械のほうが高齢化に対応すればいい。その製品は高齢化が進めば進むほど売り上げが伸び、将来的には次なる高齢化国家への輸出も期待できます。
また日本では、シニア層の生産者としてのポテンシャルもまだまだ十分に発揮されていないと感じます。世界は目まぐるしく進歩し、変化しています。新しいアイデアやビジョンを膨らませ、実現させていくには、年齢、性別、国籍などより“何ができるか”こそ大事だと思うのです。日本ではビジネスパーソンを見るとき、その人の“背景”で人物を判断しがちですが、その人が25歳でも75歳でも、性別がどうでも、体が不自由でも、学歴がどうでも、外国の方でも関係ないはずです。大事なのは、どんな人でも成長して力を発揮できるような環境が整えられているかどうか。
例えば、私が運営に携わる「メロウ倶楽部」では、97歳でWindowsもMacも使いこなしてレクチャーしている方や、自動生成AIを駆使してアート作品をつくっている方もいます。ただ使い方を教えるだけでなく、「どのように人と共有して楽しむか」まで理解できれば、シニアの方でも素晴らしい創造性を発揮できるのですよね。
AIという部分でさらにいえば、省人化に貢献してくれることで人々が自己開発に投資する時間を捻出できるだけでなく、ファンタジーの国、日本ならではの新しいAIアートやエンターテインメントも今後出てくるのではないでしょうか。デジタルテクノロジーの力によって、誰もが積極的にポテンシャルを発揮できる。デジタル社会の先に、そんな未来を思い描いています。
シニア層ならではの観点から「新たなライフスタイル」を語ってくれた若宮氏。一方、小橋氏は、“体験設計”の観点から「新しい価値と出会える」社会を実現する重要性を語ります。
小橋賢児氏:昔に比べると、今は新しい価値に出会う機会がどんどん減っていると思います。あらゆる価値観がコモディティ化されていく中で、国も、企業も、個人もチャレンジしづらい世の中になっている印象があります。
1970年の大阪万博は、日本社会に強いインパクトを与えましたよね。なぜそんなことができたのかといえば、「前提/ルールがなかったから」だと僕は考えています。今までなかったことだからこそ、前代未聞の予算がつぎ込まれ、みんなの想像力と熱量がカオティックに凝集した過去最大級のイベントが実現したわけです。
しかし、今は違います。前例があり、積み重ねてきた経験もある中で、前提やルールに縛られてしまう。最初は右脳でワクワクしていたはずなのに、いつの間にか左脳がそれにストップをかけてしまうのですね。想像力がシュリンクしていく方向にばかり舵がきられるので、想像を飛び越えるようなものを創り出す環境がどんどん失われている。万博のみならず、ビジネスにおいても、あるいは個人の内面においても、同じことが起こっているように思います。
また、ウェルビーイングや「サステナブルな社会」を実現しようとする動きに対して、若い世代がこれを素直に受け入れているかどうか、僕は疑問です。彼らは、「利己的に生きてきた先行世代」が残した世界に向き合わされている立場にあるわけですから。当然、腑に落ちない部分もあるでしょう。でも、生きていかないといけない。そういう意味では、すごく苦しんでいると思うのです。だから僕は、若い世代が自分を解放できる場所、チャレンジして本当の自分に出会える時間を創り出すことに力を注いできましたし、これからの社会にはそういう場所や環境が必要だと考えています。
「圧倒的な驚きや感動が、個人の中に新しい価値を生み、前進する原動力になる」と小橋氏は言います。「新たな生活価値・ライフスタイル」というキーワードに際して、おふたりを通じて「新しい自分と出会える環境づくり」への期待が感じられた事前インタビュー。トークイベントでは、若宮氏と小橋氏、そしてOPEN HUB代表の戸松正剛を交え、それぞれの観点から「デジタル社会の先」について考えを深めていきます。
「これからは『クリエーター』『イノベーター』の時代ですよね。スケールの大きなプロジェクトをクリエートする、そのアイデアはどこから湧いてくるのか小橋さんにお伺いしたいです」と若宮氏が語る一方、「Stable Diffusion」といった最新のAI技術の話題がよどみなく湧いてくる若宮氏のエピソードの数々に驚く小橋氏。イベント当日、三者のクロストークから見えてくるのは、どのような「新たな生活価値・ライフスタイル」なのでしょうか。
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