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Co-Create the Future
2023.09.26(Tue)
目次
戸松正剛(以下、戸松):日本でも名のある企業がオープンイノベーションに取り組み始めて、10年ぐらいたったでしょうか。個々企業の自前主義による多角化経営の限界もあり、スタートアップとの連携や大企業同士の共創が注目されましたね。
巽 達志(以下、巽):おっしゃる通り、「新規事業」領域のフェーズは変わりました。新規プロジェクトの場合、10年ほど前までは各社の新規事業開発担当同士で組むのが一般的。そうすると担当者同士はいいのですが、さまざまなコンフリクトが生じた際に他部署からの理解が得られずに会社としてドライブできないというケースもよく見聞きしました。いまは当時と違い、現場の社員もオープンイノベーションに参加することが多く、社会実装も早くなったのではないでしょうか。
戸松:企業の規模にかかわらず、新規事業の「アイディエーション」「インキュベーション」「スケーリング」という3つのプロセスのなかで、現在は「過去に共創したインキュベーションは本当にスケールしたのか」と問われている時です。
よくイノベーションにはスタートアップ企業が優位と言われますし、実際に「アイディエーション」や「インキュベーション」ではスピードが重要となりますので、小回りが効くスタートアップのほうが強い。一方でスケーリングは大企業の優位性が色濃く出てくるフェーズです。つまり大企業の持つノウハウ・リソース・社会的信用などの「レガシー」が生きてくる。そしてなにより、大企業にはプロジェクトを長期の時間軸に支える「体力」があります。
巽:そもそも大企業がスタートアップと全く同じ土俵で勝負しても、強みが生かせないのです。戸松さんがおっしゃったようにレガシーを生かし、プロジェクトを社会実装するためのレバレッジを効かせることが、スタートアップとの差別化になるのです。
戸松:一方、大企業同士の掛け合わせでいうと、例えば住友商事さんもNTTコミュニケーションズも、事業は多角的に展開しています。同じ企業同士でも、ある時は仲間、ある時は競合、と変化するのが難しさでもあります。そのような立ち位置を乗り越えて、日本や世界全体のマーケットへとつながる社会課題解決や社会可能性発見に同じ目で取れ組めるかどうかが成功のカギ。また組むチームは、スタートアップと同様に、例えばロールプレイングゲームのパーティーのように「勇者」「魔法使い」「商人」などバランスが取れるとよいかと。「ビジョンを掲げる人(Visionary)」「モノやサービスを作れる人(Hacker、Hipster)」「お金に変えられる人(Hustler)」がいれば軌道に乗りやすいです。
巽:いまグローバル全体でも、脱炭素やDXなど、従来の価値観がシフトしているフェーズ。求められるケイパビリティも技術やエネルギーなど多様な要素があるので、それらを複雑にミックスしないと社会課題も解決できません。もうひとつ、共創の必須要素として付け加えるなら「ストーリーテリング」。ストーリーに説得力があればあるほど、周りの人を巻き込む力も強くなり、事業も大きくなります。
戸松:当社でも2021年から社会価値の創出を目指した共創プログラムである「OPEN HUB」を運用しています。一つの特徴は、どのプロジェクトも早い段階から取り組みのプロセスを公開していること。良くも悪くも早めに、多くのフィードバックを受けることで、スピードを上げています。
巽:同じく住友商事も2019年からオープンイノベーションラボ「MIRAI LAB PALLETTE」を運営しています。そこでのプロセスの重要性は押さえつつ、成果については考え続けています。プロジェクトから生まれた価値は何か、社会実装が進んだのか、ビジネスに繋がったのか、など。もうひとつ社外とのネットワーク構築も大事で、社員のマインドセット変革と共に重要視しています。さらには「取り組みへの継続」も必要です。1スパンとして、10年間は続けないと社内文化にならないのですよね。
戸松:全く同意見です。「OPEN HUB」では各分野に精通した社内外の400人を「カタリスト(CATALYST)」と名付け、WEBに公開しています。社員としては、自分の名前がエゴサーチでヒットするようになり、世界に顔と名前、活動内容が知られる。マーケットに対して自分が何者かを示す舞台装置として共創の場を使ってもらいたいと考えています。
戸松:私は『Xtrepreneur AWARD』の設立にも関わりましたが、その意図は大きく3つあります。1つは巽さんがおっしゃってくださった、課題の複雑化へのアプローチ。2つ目は、そもそも「社会課題解決」というよりは、多くの方が課題と認識していない「社会可能性発見」をすすめるポジティブな意識改革。3つ目は、さまざまな企業が具体的なレガシーを持ち寄って、可能性発見のベン図をいかに重ねていけるか、という命題への取り組みです。
巽:審査では、カテゴライズの議論を通しても気づきがありましたね。カテゴリは「GX/カーボンニュートラル」「サーキュラーエコノミー」「地域活性/流通/モビリティ」「働き方」「女性活躍/ダイバーシティ」などが生まれましたが、カテゴリも議論を通じて変化していきました。課題は、捉え方にも様々な切り口があります。審査員によっても見方が違う。ダイバーシティを実現した審査員同士で徐々にコンセンサスが形成され、課題に応じてフレームワークを組んでいくことは有意義でした。課題が複雑化しているからこそ、このような多様な視点をもってポイントを見極めることが、社会可能性発見につながるのでしょう。
戸松:私自身、今回の選考を通じて、「無知の知」というか、自分自身が把握していない社会可能性発見があることに改めて気づきました。
具体的には2つあり、1つは「レガシーの転用」。企業が持っているアセットを変えると、違う価値が生まれることを実感したのが、今回グランプリに輝いた『SORA-Q』(タカラトミー×ソニーグループ×JAXA×同志社大学)です。アニメの世界から飛び出してきたかのような超小型の変形型ロボットが宇宙開発に貢献する、それにおもちゃメーカーが長年の技術をもって参加する、という発想が新鮮でした。
もう一つは「レガシーそのものの強み」を感じたのが、住友商事さんも参画されている『Advanced Air Mobilityを活用した物流事業創造への挑戦』(NEXT DELIVERY×エアロネクスト×セイノーホールディングス×KDDIスマートドローン×住友商事※)。人、モノ、金を長らく動かしてきた総合商社が交通インフラを見ると、このような視点を持ち、こういったソリューションを生み出せるのかと実感したのです。まさに「レガシーの賜物」だと感じました。
巽:ありがとうございます。戸松さんのおっしゃるように、アワードはさまざまな「知」のきっかけになります。その入口から多くの人がプロジェクトに興味を持ち、さらにそのプロジェクト自体の推進、ユーザーや問い合わせの増加にもつながるのが理想です。将来的には今より充実した共創のコミュニティができれば、事業展開も早く、未来の社会実装の可能性が広がります。そうしたネットワークの創出、拡大にも期待したいです。
戸松:結果のみを議論するのではなく、プロセス自体を観察することが大事ですね。アワードを通じてプロジェクトをオープンにし、解像度を上げ、分解すれば、クロストレプレナーとして取り組める新たな領域を探すことにもつながります。
もうひとつ今回面白かったのは、審査の過程で「プロジェクトAとプロジェクトBはバリューチェーンとして隣接領域だから、手を組んだらさらに発展しそう」などというアイディアも生まれることです。鳥瞰による気づきですね。このようにプロジェクト単体がゴールすれば終わりではなく、さらにつながりが広がれば、より大きな価値を持つ可能性があります。その意味では、12月の表彰式もまた受賞者同士のパーティーが生まれそうで楽しみですね。ここに、Forbesのような“メディア”もうまく巻き込みながら、それぞれの境界を超えて共感力を伝播させていくことが必要。それが未来の社会可能性発見につながっていくと思います。
Xtrepreneur AWARD 2023 特設サイトはこちら
https://forbesjapan.com/feat/xtrepreneur_award_2023/
受賞プロジェクト講演が実施されるdocomo business Forum’23の詳細はこちら
https://www.ntt.com/business/go-event.html
※『Advanced Air Mobilityを活用した物流事業創造への挑戦』
千葉県勝浦市において、Advanced Air Mobility(ドローンや空飛ぶクルマなどの次世代航空機による航空物流・交通システム)を活用し、商店街等ECモールサイト構築・運営及び共同配送業務を目指すプロジェクト。
巽 達志
戸松 正剛
Text by Nayu Kan / photographs by Yoshinobu Bito / edited by Kaori Saeki
Forbes JAPAN BrandVoice 2023年9月20日掲載記事より転載
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