DIVE to METAVERSE

2023.07.19(Wed)

憧れの“車中泊キャンプ”をVRで仮想体験
アウトドアカルチャーにメタバースがもたらす恩恵とは

#イノベーション #事例 #メタバース #共創
コロナ禍を通じてキャンプブームが加速するなか、VR空間内でアウトドアライフを体験し、日本最大級のアウトドアWEBマガジン「CAMP HACK」編集部の厳選したキャンプアイテムに出会えるサービスが、VRメディア「360 Media」上にオープンしました。

VRメディアが切り拓く、ライフスタイル提案の新たなかたちとは。監修を手がけたCAMP HACKの編集長 松田隆史氏と、開発を担当したNTTコノキューの大垣哲也氏に話を伺いました。

目次


    VRと「バンライフ」の意外な共通点とは

    ー現在「360 Media」は、現実世界のライフスタイルにフィードバックできるようなコンテンツをVR空間で表現するというコンセプトで、さまざまなジャンルのチャンネルが用意されています。そのなかで「キャンプ」というテーマを選んだのはなぜなのでしょうか。

    大垣哲也氏(以下、大垣氏):もともと360 Mediaをつくる以前から、VR空間内に商品を展示することで、既存のECサイトでは得られない使用感や実際に配置をしたときの雰囲気みたいなものを表現できるんじゃないかと考えていました。

    そんな中でコロナ禍になり、需要として一番伸びていたキャンプ領域のコンテンツをつくったら良いのではないかということになりまして。キャンプ・アウトドアのメディア「CAMP HACK」を拝見し、コラボレーションのご相談をさせていただきました。

    大垣哲也|NTTコノキュー

    ーこのプロジェクトのオファーを受けたとき、CAMP HACK編集部としては、どのような印象を持ちましたか。

    松田隆史氏(以下、松田氏):僕たちは普段、WebメディアとYouTubeチャンネルを運営していますが、VRコンテンツの監修はやったことがなかったので、新しい表現ができるんじゃないかとすごくわくわくしましたね。挑戦への不安もありましたが、新しいユーザー体験を生み出すことへの期待の方が大きかったので、お受けしました。

    松田隆史|株式会社スペースキー CAMP HACK編集長

    ーキャンプの中でも、「バンライフ(車中泊をしながら車で旅をするスタイル)」を最初のコンテンツテーマに選んだのはなぜでしょうか。

    松田氏:バンライフは、以前からじわじわと人気が伸びていたキャンプスタイルだったんですが、そこにコロナ禍が重なったことで人気が急上昇しました。感染リスクの特に低いアウトドアスタイルとして、再注目されたんです。各自動車メーカーからも車中泊仕様の車が続々と出ており、ブームが来ていると感じますね。

    また、車を拠点にしてあちこちを気軽に散策するというバンライフの体験は、さまざまな世界観を気軽に探索できるVR空間の体験に似ていて親和性が高いと思い、今回バンライフをテーマとして提案しました。

    360Media「キャンプ・アウトドア」チャンネルのトップ画面

    時系列を意識したコンテンツで、キャンプ場での1日をリアルに体験

    ーコンテンツを制作していく中で、特にこだわった点はどこですか。

    大垣氏:キャンプ場に到着してからの流れを時系列で表現した点は、1つの特徴になっていると思います。

    NTTコノキューでは、いわゆるメタバースと言われるVR空間も持っているのですが、メタバースには空間に降り立ったときにどこにいけばいいのかわからない、という課題があります。広いエリアを自由に散策できるオープンワールドは、メタバースの魅力の1つではありますが、その自由度の高さゆえに、どこに行けばいいのかわからずユーザーが離脱してしまうケースが多いのです。

    そのため今回はある程度ガイドラインをつくった方がいいんじゃないかということで、キャンプ場に到着してからの流れを時系列で体験できるような仕様に変更しました。

    バンライフであれば、テントを張る必要がなく比較的時間に余裕があるため、昼の時間にSUPを楽しんでいただき、夜は焚き火をして寝るという流れで1日を楽しむことができます。昼間は水辺の風景、夜は星空という具合に、時間帯ごとの自然の美しさを楽しんでいただけるよう、景観の表現にもこだわりました。

    松田氏:今回、コンテンツ内で紹介するアイテムを選定させていただいたのですが、一番気にしていたのは、「やってみたい!」と思ってもらえるかどうか。そのために、全体のバランスも見ながら実際に手に取ってみたくなるようなアイテムを選びました。

    やはり私たちとしては、このコンテンツを体験したユーザーに、実際にキャンプに行きたいと思ってもらいたい。しかし、機能性が優れていても見た目がよくないと、そう思ってもらえないかもしれないので、たとえばバンライフの車自体も、CAMP HACKが機能性とデザイン性の両面で優れていると考える、AUTO MOTIVE JAPANさんのカスタム車をチョイスしました。

    VANACE(AUTO MOTIVE JAPAN)

    他のアイテムも、定番商品というよりは、少し定番から外れた奇抜なアイテムや、何かしら意外性があったり新たな発見があるようなアイテムを選んでいます。いずれもCAMP HACK編集部が実際に使ったり、メーカーに開発の裏側まで取材した上で厳選した商品です。

    ギアショップ

    Web VRが拓く、新たな購買体験の可能性

    ー2023年4月25日に本サービスはリリースされたわけですが、現時点で感じられている手応えはありますか。

    大垣氏:利用していただいたユーザーさんが、コンテンツ内を実際に時系列で移動しているというデータはとれているので、今回の試みがある程度うまくいったことが検証されたのではないかと思っています。

    嬉しかったのは、ユーザーに一番見られているのがバンの車内だったことです。車中泊って、キーワード的には皆さんご存知だと思うんですが、実際どうなのか、本当に快適に寝られるのか、疑問を持たれている方はけっこう多いと思うんですよね。なので、実際にシュラフを置いてみたときのスペース感や、ランタンを配置したときの明るさについて、納得いくものができるまで何度も素材を撮り直し、グラフィックの調整を行いました。

    バンの車内は360°カメラで撮影し、車内に置かれているアイテムは別途撮影したものを貼り付けるような形でつくっています。

    また、同じ角度で撮影した写真を差し替えることで、車内のアイテムは簡単に入れ替えられます。例えばシュラフはシーズンによって使用するスペックが異なるなど、季節に合わせたラインナップをその都度提示していくことができます。再訪してくれたユーザーの方にも新たな発見を提供できると思うので、今後は秋口に向けてアイテムを入れ替え、アップデートしていきたいですね。

    ーアイテムの入れ替え以外に、今後はどのような展開を予定しているのでしょうか。

    大垣氏:まずは扱っているアイテムについて、各メーカーのECサイトにつなぎ、購入できるような導線をつくる予定です。また、「360 Media」の基盤にはEC機能が備わっているので、将来的には「360 Media」の内部でアイテムの購入決済までが完了できるような仕組みを実装していきたいと考えています。

    また、VRは3Dの表現が簡単にできる領域なので、アイテムを3Dモデルにしてさまざまな角度から見られるようにしたり、ARで取り出して、実際に自分の部屋に配置したときのイメージを見られるようにする、といったことにもチャレンジしていきたいと考えています。

    ーこのようなVRコンテンツによって、人々の購買体験はどのように変わると考えていますか。

    大垣氏:InstagramなどのSNSを通じて商品を紹介する場合、ユーザーが「おしゃれだな」と思っても、そこから実際にその商品について調べ、購入するまでには、けっこうタイムラグがあるんです。たとえば、Instagramで紹介されていた商品を商業施設などに行ったときに、たまたま売り場で見かけて買う、みたいなケースが多いんですね。そこには、1週間〜1ヶ月以上の空白期間がありますし、そもそも購入まで辿り着かないケースも多いです。

    その点、360 MediaのようなVR空間で新しい商品に出会い、3Dモデルに触れることで品定めをし、購入までができるようになれば、購買体験のあり方は大きく変化するのではないかと考えています。

    ーメタバースを使ったショッピングモールというのは、既にいくつか存在していると思うのですが、そうしたプラットフォームに比べて、「360 Media」のようなWeb VRの有利な点は何ですか。

    大垣氏:Web VRの特徴として、風景やアイテムを非常に綺麗に見せることができるという点が挙げられます。いわゆる一般的なメタバースでは、360°の空間に降り立ち、自分でアバターを操作しながら商品を見ていくかたちになると思うんですが、端末への負荷などの観点から、リアルな商品をそのまま見せるのはけっこう難しいんですね。そのため、現在のメタバースは、ある程度デフォルメされた空間で、商品もデジタル化されており、デジタルコンテンツを売買するという方向へ進んでいます。

    そうなると、実際のキャンプ用品を買ってもらうことを目的にしたときには、Web VRで商品をなるべくリアルに見せ、質感や雰囲気を訴求していくことで、新たな購買体験を生み出せるのではないかと考えたのです。

    松田氏:僕は今回、夜のシーンの星空の美しさにすごく感動して。本当にリアルに美しくできているし、ぐるぐると回して見られるので、やっぱりVRってすごいなと感じましたね。

    車内からも夜空を眺めることができる

    VRは、今後のメディアの新たな支柱に

    ーメディアとしてのVRにどのような可能性を感じていますか。また、今後このサービスをさらに発展させていくために、どのようなことに力を入れていきたいですか。

    大垣氏:VRでつくった3DコンテンツをYouTubeに投稿したり、コンテンツ間でのコラボレーションの可能性もありますよね。まだリリースしたばかりのサービスなので、まずは皆さんに知っていただくことが一番重要だと思っています。リアルなイベントと掛け合わせる等、まずは認知拡大のための取り組みに着手していきたいですね。

    松田氏:私自身、こんなにも簡単にキャンプを擬似体験できるのかと、非常に大きな発見がありました。僕たちは、これまでWebサイトというメディアを使ってビギナーがキャンプを始めやすくなるような入り口をつくってきましたが、「360 Media」が提供する体験は、それらとはまったく別物でした。

    設営をして、昼にSUPをして、夜は焚き火をして、というタイムラインを自然に体験できるので、ユーザーはキャンプ場で過ごす1日をより具体的にイメージすることができる。そこで、「車で寝れば、テントを張らなくていいからその分たくさん遊べるじゃん!」みたいな気づきまで得られるとすると、記事コンテンツではできない、読者との密度の高いコミュニケーションが実現できるのではないかと思います。ビギナーにとっても、これは非常に魅力的な入り口になり得るんじゃないかと感じました。

    そのまま購買にまでつなぐことができるという点も大きな魅力です。今後、「360 Media」のようなVRのプラットフォームを1つのチャンネルとして持つことは非常に強力な武器になると感じたので、是非より沢山の方に訪問していただきたいです。