Manufacturing for Well-being

2023.07.07(Fri)

「人工流れ星」に託す夢とは?
宇宙開発が拓くウェルビーイングとものづくりの可能性 前編

#サステナブル #Smart World #イノベーション
民間企業によるロケット打ち上げや宇宙開発に関するニュースを目にする機会も増え、宇宙旅行や惑星移住など、SF作品の中で描かれてきた世界観が現実のものとなりつつあります。一方で、ビジネスとしての宇宙開発は、まだまだ多くの人にとって馴染みの薄い領域かもしれません。

宇宙開発の発展が秘めている多様な可能性とは? 世界初の「人工流れ星」をつくる宇宙スタートアップ・株式会社ALE代表の岡島礼奈氏と、NTT先端技術総合研究所所長の岡田顕氏をお招きして、「なぜ今、宇宙開発なのか?」についてお話を伺いました。

目次


    テクノロジーを進歩させ、宇宙への夢を広げる「人工流れ星」

    —岡島さんが2011年に立ち上げられたALEは、世界初の「人工流れ星」をつくりだす宇宙スタートアップ企業とのことですが、宇宙ビジネスにもさまざまな領域がある中で、なぜ「流れ星」をやろうと思われたのでしょうか。

    岡島礼奈氏(以下、岡島氏):とにかく流れ星が好きだった、というわけでは実はないんです。マネタイズをして資金を得ることと、研究によって科学を進化させること。その両方が可能になる宇宙ビジネスのモデルを考える中で、「人工流れ星」というアイデアに至ったんです。

    宇宙ビジネスを通じて実現したいのは、科学への貢献です。私は元々天文学を学んでいた身なのですが、天文学のような領域の研究にはお金がかかり、成果が出るのにも時間がかかるため、研究者たちが資金集めに非常に苦労しているという課題感がありました。自分は大学で研究をやるようなタイプではなかったこともあり、研究者としてではなくマネタイズのための仕組みづくりを通じて科学の発展に貢献できたらと、ALEを立ち上げました。

    ですので、人工流れ星をエンターテイメント事業として成功させることだけが目標ではありません。夜空を流れた流れ星の観測を通じて、中間圏と呼ばれる大気圏のデータを収集しようと考えています。このデータを既存のデータと組み合わせることで、地球全体の大気モデルの精度を上げ、天気予報の精度向上や気候変動現象の解明につなげられるのではないかと考えています。

    —テクノロジーの進歩という観点でも、意義のあるプロジェクトなのですね。実際にはどのようにして人工流れ星をつくり出すのでしょうか。

    岡島氏:人工衛星に直径1cmほどの流れ星の素となる粒を搭載します。そして人工衛星をロケットで打ち上げ、流れ星の粒を放出すると、それが大気圏に突入する際に明るく光り、地上からは流れ星として見える、という仕組みです。天然の流れ星も、宇宙空間にある塵が大気に突入することで起こっている現象なので、原理としては同じです。

    2023 ALE Co., Ltd.

    人工流れ星を使ったビジネスとしては、まずは観光業における利用を想定しています。私たちの流れ星は直径約200km圏内で見ることができるので、地方自治体やホテルなどがショーを開催することで、地域の観光産業に大きな経済効果が生まれます。また、イベントのオープニングセレモニーやブランドのPRにも使いたい、というお問い合わせもいただいています。現時点では、2024年に人工衛星を打ち上げ、2025年に最初の流れ星を流す予定です。

    岡島礼奈|株式会社ALE 代表取締役/CEO
    東京大学大学院理学系研究科天文学専攻にて博士号(理学)を取得。卒業後、ゴールドマン・サックス証券へ入社。2009年から人工流れ星の研究を開始し、2011年9月に株式会社ALEを設立。現在、代表取締役/ CEO。「科学を社会につなぎ 宇宙を文化圏にする」を会社のMISSIONに掲げる。宇宙エンターテインメント、大気データの取得等の事業を通じ、科学と人類の持続的発展への貢献を目指す。

    —なるほど。NTTグループも宇宙に関わる研究開発を行っているかと思いますが、具体的にどのようなことに取り組んでいるのでしょうか。

    岡田顕氏(以下、岡田氏):まず、NTTには宇宙環境エネルギー研究所という研究所がありまして、こちらでは核融合や宇宙太陽光発電など、次世代エネルギー技術とレジリエントな環境適応を可能にする技術の創出に取り組んでいます。

    人工衛星間の通信を可能にする技術や、宇宙から地上に情報を送るためのセンサー技術など、宇宙に関わる要素技術の研究開発は、私が所長を務めるNTT先端技術総合研究所でも行っています(下図参照)。
    ※NTT先端技術総合研究所の宇宙に関する研究開発の取り組み:https://group.ntt/jp/newsrelease/2019/11/05/191105c.html

    超高速大容量宇宙光無線通信に向けた光増幅技術の適用イメージ
    次期衛星搭載に向けた観測用、通信用無線デバイスの効果実証

    宇宙領域に対する関心が日に日に高まっている中で、光通信などの地上で使われている技術を宇宙で使うにはどうしたらいいか、という切り口の研究も重要になってきていると感じますね。

    —さまざまな研究領域の中で、「宇宙」というのはどのような可能性を持ったフィールドなのでしょうか。

    岡田氏:一言に「宇宙」と言っても、低軌道衛星が周っているような地球に比較的近いところから、静止軌道衛星上や他の惑星、太陽系の外部まで空間があり、さまざまな活用の可能性があると期待しています。

    たとえば昨年は、NTTはスカパーJSATと共同でSpaceCompassという会社を立ち上げまして、宇宙空間に大容量通信や情報処理の基盤を構築する宇宙データセンター事業や、災害時の高信頼通信、離島やへき地への通信サービス提供を可能にする宇宙RAN事業を行っています。そうした新たな情報処理・通信のインフラ構築基盤としても、宇宙は非常に魅力的な空間であると思います。

    岡田顕|NTT先端技術総合研究所 所長
    1993年に日本電信電話株式会社に入社後、光通信や情報処理に資する光デバイス技術や光サブシステム技術の研究開発、並びに人材育成・研究開発マネジメントに従事。1997年から1年間、客員研究員としてスタンフォード大学に在籍。現在、NTT先端技術総合研究所の所長として、情報処理・通信技術、サステナブル技術、人間科学・バイオ技術の基礎研究・応用研究を統括し、10年後を見据えた技術開発を推進している。博士(工学)。

    —他の領域の研究開発と比べて、宇宙領域の研究開発が特にユニークだと感じる点はどこですか。

    岡島氏:一般的な技術開発は、何らかの課題解決を目指して行われることが多いと思います。一方、宇宙領域においては、何かの課題を解決するというより、「未来の人々はこういうふうに生活していて、そこにこんなものがあったら面白そう」と、何十年も先の未来を妄想しながら技術開発に結びつけていくようなイメージです。私たちが会社のビジョンやミッションを策定するときも、流れ星が流れたあとの未来のことを考え、ディスカッションを行いました。

    SFプロトタイピングという手法をとっている会社も多いですね。NASAのアドバイザリーにも、皆さんが知っているような映画監督の方が入っていたりします。そうしたSF的な想像力も借りて、みんなでビジョンを描きながら技術を開発していくという点は、この領域の面白いところだと思います。

    後編では、宇宙開発の発展が私たちの生活にもたらず恩恵について、未来の構想とともに語ります。

    JOURNAL
    「人工流れ星」に託す夢とは?宇宙開発が拓くウェルビーイングとものづくりの可能性 後編
    民間企業によるロケット打ち上げや宇宙開発に関するニュースを目にする機会も増え、宇宙旅行や惑星移住など、SF作品の中で描かれてきた世界観が現実のものとなりつつあります。一方で、ビジネスとしての宇宙開発は、まだまだ多くの人にとって馴染みの薄い領域かもしれません。 しかし、宇宙開発は、地球上で暮らす私たちの生活、ひいては人々のウェルビーイングにも大きく寄与するものでもあるのです。後編では、宇宙領域のビジネスと研究開発が拓く、ウェルビーイングとものづくりの新たな可能性について、株式会社ALE代表の岡島礼奈氏とNTT先端技術総合研究所所長の岡田顕氏にお話を伺いました。
    民間企業によるロケット打ち上げや宇宙開発に関するニュースを目にする機会も増え、宇宙旅行や惑星移住など、SF作品の中で描かれてきた世界観が現実のものとなりつつあります。一方で、ビジネスとしての宇宙開発は、まだまだ多くの人にとって馴染みの薄い領域かもしれません。 しかし、宇宙開発は、地球上で暮らす私たちの生活、ひいては人々のウェルビーイングにも大きく寄与するものでもあるのです。後編では、宇宙領域のビジネスと研究開発が拓く、ウェルビーイングとものづくりの新たな可能性について、株式会社ALE代表の岡島礼奈氏とNTT先端技術総合研究所所長の岡田顕氏にお話を伺いました。