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vol. 11

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“食べる”ことの当たり前をいま一度問い直す―今読むべき「食」の本5選 後編

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安全でおいしく、そして持続可能な食料生産や消費のあり方を問うために、私たちは「食」についてより多くのことを学ぶ必要があります。そこで、OPEN HUBの「Food Innovation」特集にご協力いただいた有識者の皆さんに、今読むべきオススメの一冊を紹介してもらいました。後編は、佐川友彦氏、齊藤三希子氏の2人です。

「世間の無責任な好印象に甘えず、内実をともなった強い経営へ移行していくべき」―推薦者 佐川友彦

「食料自給率は下がり続け、危機に瀕している」「日本の伝統的農業の価値は守られるべきだ」「有機農業を推進して環境負荷を低減するべきだ」。農学部出身の私も、在学当時はメディアや大学の講義で耳に挟んだこれらのオピニオンを信じて疑いませんでした。「でも規模拡大しか道はないよね〜」と軽口を叩いていたものです。しかし、当時の自分は現場の実態を把握していたわけでもなければ、そうしたことが叫ばれている背景について「なぜそうなっているのか」「どうすればいいのか」を自分の頭で考えられていませんでした。それにも関わらず、議論は立派なのに遅々として改善しない一次産業の行く末に、うっすらと不満を感じていたことも白状しましょう。

そんな学生時代の私が知りたかったであろう、日本農業に関する誠実な分析と提案が、久松農園代表の久松達央氏の著書『農家はもっと減っていい 農業の「常識」はウソだらけ』に集約されています。日本農業論の選好的で誤ったバイアスを遠慮なく指摘できるのは、当事者たる農業者であり、ポジショントークを必要としない久松氏だからこそでしょう。

農業の都合のいいイメージだけ借用し合う「集団浅慮」について警鐘を鳴らす序章から始まり、「規模拡大」「有機農業」「新規就農」といった業界で何度も論争の起きた重たい話題について新鮮な視点から整理がなされています。

食や地方創生に関わる皆さんにこそ、本書で農業の実体を直視し、どう関わるか再考していただきたいと思います。農業界も農業者も世間の無責任な好印象に甘えず、内実をともなった強い経営へ移行していくべきだという氏なりの激励と、温かさを感じる良書です。

佐川友彦
ファームサイド 代表取締役

「食と農をめぐる世界は転換期にあり、そこには大きなビジネスチャンスが潜んでいるとも言えるのです」―推薦者 齊藤三希子

地球温暖化や海洋環境変化の影響により、サンマやイカ、サケの記録的な不漁が続いていたり、新型コロナウイルスの感染拡大やロシアのウクライナ侵攻により食料や飼料が高騰している今。食料安全保障の懸念が世界的に高まっていることを多くの人が肌で感じていると思います。

日本の場合は、コロナ禍以前より経済力が低下していたことが影響し、食肉や魚介において中国に対して「買い負け※」が発生していました。さらに、昨今の円安の影響で、国際的な購買力が著しく低下しており、食料だけではなく、食料生産に欠かせない肥料や飼料なども大きな影響を受けています。
※ 買い負け:水産物の国際市場での価格高騰や購買力の低下によって買い付けができず、他社に購入されてしまうこと

食料安全保障は経済安全保障と並ぶ喫緊の課題となっており、課題解決に向けて細胞農業※、ゲノム編集技術などといったアグリ・フードテックを活用することで、従来の生産方法の根本的な見直しが図られています。
※ 細胞農業:本来は動物や植物から収穫される産物を、特定の細胞を培養することにより、動物たちを自然に返しつつ生産する方法

マッキンゼー・アンド・カンパニーの『マッキンゼーが読み解く食と農の未来』は、パンデミックやウクライナ侵攻以前に執筆されたものですが、日本の食料事情に関して、地球温暖化や世界情勢などの視点から分かりやすく分析・解説されています。

食と農をめぐる世界の事情はまさに転換期にあり、変化の中には商機が潜んでいます。今後の農水産業は、これまで縁遠かった業界にとっても、大きなビジネスチャンスとなると期待されています。

齊藤三希子
スマートアグリ・リレーションズ 社長執行役員 

日本の農業や水産業の現状を直視してきた両氏ならではの視点で選ばれたこちらの二冊は、聞こえがいい理想論ではなくシビアな視点によって今後の道筋を分析し、再考する機会を与えてくれそうです。前編では、食品ロス問題ジャーナリストの井出留美氏や、『フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義』の著者の一人である岡田亜希子氏、ダイバースファーム 共同創業者CEOの大野次郎氏が推薦する書籍を紹介しています。合わせてご覧ください。

“食べる”ことの当たり前をいま一度問い直す―今読むべき「食」の本5選 前編

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