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vol. 07

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メタバースが農業を救う? 3つの視点のクロッシング 前編

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食料自給率の低い日本は、いかにして農業人口の減少や耕作放棄地といった課題をクリアし、来たる食糧危機の時代を乗り越えていけるのでしょうか。その答えの鍵は、実はメタバースが握っているかもしれません。

一見、対極にありそうなこの2つの世界が融合することで、どんな可能性が開かれるのか?考えうる農業の未来を、企業DXのコンサルティングを通じてメタバースの可能性を探るOPEN HUBカタリストの藤元健太郎氏と、農業経営のスペシャリストである佐川友彦氏、さらにゲームクリエイターの視点から地方創生事業にも携わってきた蛭田健司氏の3人による鼎談を通じて考えます。

日本の農業を取り巻く現状

ー農業コンサルタントとして活躍されている佐川さんは、農業が現在直面している課題について、どのように捉えていらっしゃいますか。

佐川友彦氏(以下、佐川氏):少子高齢化が進み、特に地方は働き手の減少が著しいです。最近は後継者がいないため、農地が荒れてしまうという事例も散見されます。また、農業経営の安定化のためにも、作物の販売価格をなるべく生産者側が望む価格に設定できるようなマーケットのありかたが求められてきています。

技術と経験でおいしい作物を大量に、均一価格でつくるという従来の構造では農業そのものが難しくなりつつあるなかで、テクノロジーを活用した農業のスマート化が求められています。本日のテーマになるメタバースもそうですが、人材不足をカバーするロボットや、熟練の農家さんの技術を定量化しデータにするITなどが必要とされていますが、普及はまだまだなのが現状です。

佐川友彦|ファームサイド株式会社 代表取締役
東京大学農学部、同修士卒。外資系企業を経て阿部梨園へ参画。500件の業務改善を実施し、農業経営のスマート化を実現した。その改善ノウハウを「阿部梨園の知恵袋」として無料公開している。 後にファームサイド株式会社を起業し、講演や経営支援で全国を周回中。

藤元健太郎氏(以下、藤元氏):AIやロボティクスを活用した便利なツールはすでに多く開発され市場に出ています。例えば、作物の画像をクラウド上にアップロードすれば、収穫対象の作物の選定をAIがしてくれるといったツールです。こうしたツールの導入には昔は複雑で高価なシステム構築が必要でしたが、今は誰でも購入できて手軽に使えるものがある。そうしたツールは揃ってきたので、次は利用のサポートや、情報を共有する場所が必要とされる段階にきていると思います。

農家が自分の言葉で伝えるオンリーワンな魅力

佐川氏:おっしゃる通りだと思います。他方で、近年の農業経営の特徴の1つに、市場を見極めて独自性のある戦略を自ら組み立てられるかどうかが、経営に大きな差を生むということが挙げられます。昔は、特定の品目を大量に生産して、同じ流通の仕方、同じ売り方をすることが求められていましたが、最近は産地や作物、売り方で自由な付加価値をつける「フリースタイル」になりつつあるのです。

藤元氏:確かに、昔はとにかく大量生産と均一品質を突き詰める「効率化」が求められると同時に、それによる利益も保証されていました。しかし、現代のトレンドは「多様性」。効率化によって同じ価格、同じ味を実現する方向とはまったく別軸のトレンドがあるということを意識しなければならないのだと思います。

例えば、トマトと一口にいっても本来はすべて同じ味がするわけではありません。甘いものがあれば、酸っぱいものもある。そのまま生で食べておいしいトマトもあれば、トマトソースにしたらおいしい品種など、本来はさまざまなはずです。食育的な話でもありますが、消費者側がそうした食材の多様さをしっかり理解していれば、生産者とより良い関係性で結びつくことができるでしょう。

藤元健太郎| D4DR 代表取締役社長 OPEN HUBカタリスト
野村総合研究所在職中の1994年からインターネットビジネスのコンサルティングをスタート。日本発のeビジネス共同実験サイトサイバービジネスパークを立ち上げる。2002年よりコンサルティング会社D4DRの代表に就任。テクノロジーを下支えに新しい野菜栽培システムの開発などを行う「PLANTIO」の取締役も務める。

佐川氏:まさにそうですね。消費者と生産者の関係は変化していて、最近ではD2Cの農産物直販サービスアプリが普及していきているのは広く知られているところだと思います。また、自ら発信したりコミュニティをつくりたいと思っている農家さんもとても多いと感じています。

私が観測してきた限りでは、農家さんが好むSNSやオンラインメディアは「音声系」なんです。Clubhouseやポッドキャストなどは農作業をしながら発信したり聴いたりできるので、使いやすいのでしょう。また、消費者とのつながりだけでなく、生産者同士のコミュニケーションも生み出されているんです。実際、農業系のポッドキャストは日本だけで数十チャンネルあって、農家さんたちの「伝えたい」エネルギーはかなり大きいなと感じます。

藤元氏:おっしゃられたような生産者と消費者の新たな関係性の構築、コミュニティーの形成、食材の多様性の認知といったことは、農業の抱える課題をクリアする上でも重要です。メタバースのような仮想空間を使うことでその実現の可能性が高まることが想像できますね。

農業にもいかせる、「メタバース」と「ゲーム」の強み

ー現状そうした課題を抱え、構造が大きく変化しはじめている農業がメタバースの世界とつながったとき、どのような可能性が生まれるのか。今回の鼎談では、「ゲーム」および「ゲーミフィケーション」がその鍵の一つになるのではないかという仮説についても考えたいと思います。ゲームの持つポテンシャルについて、蛭田さんはどのように考えますか。

蛭田健司氏(以下、蛭田氏):まず、ゲームの歴史を眺めてみると、時代に適応して進化し、遊べる環境やユーザー層を拡大してきたことに大きな特徴があると思っています。かつてゲームは据え置き型ゲーム機で遊ぶのが一般的でした。それが携帯型ゲーム機が出てきて外でも遊べるようになり、現在はスマートフォンでも遊べます。時代を追うごとに、ゲームはより身近になり、いつでもどこでも、だれでも、だれとでも遊べる「入り込みやすく、熱中しやすい」かたちに進化してきました。ユーザーが求めるプレイスタイルや手にするデバイスは変化しても、ゲームは常にそれに対応するように進化し、そのフィールドを広げ続けてユーザーから支持を得てきたのです。こうした特性は、ほかのエンターテインメントコンテンツには無いものです。

また、ゲームの開発者は、ユーザーが楽しめるように演出や操作性にこだわります。ゲーム特有のだれでも迷わず、簡単に操作ができる「UIの洗練」は、メタバースで何か新しいサービスを展開する際にもいかされるのではないでしょうか。

蛭田健司|株式会社AKALI代表取締役
ゲーム業界の人材育成に力を入れているゲームクリエイターであり、株式会社AKALI代表取締役、東京国際工科専門職大学 准教授、総務省 地域力創造アドバイザー、NPO法人国際ゲーム開発者協会日本 理事・SIG-地方創生 正世話人を兼務。 産学官の垣根を越えて活動している。 セガにてサクラ大戦シリーズなどの開発に参加。

ー蛭田さんはメタバースの開発にも携わったことがあるそうですが、農業とメタバースが融合しうると考える背景にはどんなものがあるのでしょうか。

蛭田氏:ゲーム業界におけるメタバース的なコンテンツの起源は1997年にリリースされた「ウルティマ オンライン※」にあるかと思います。その後、グラフィックなどがどんどんリッチになり、オンライン接続によるインタラクティブな遊び方なども、進化を続けてきました。そうしたゲームの世界から、農業のような産業との融合に可能性が広がる要因となったのは、NFTなどの技術によってメタバース上でより安全な経済活動ができるようになったことが大きいでしょう。

また、ゲーム感覚で農業を「遠隔操作」するといった可能性もあり得るかもしれませんね。例えば、東京にいるプレイヤーがVRゴーグルをつけて、またはスマートフォンのアプリから地方のトラクターを運転する。収穫量に応じて報酬を得られ、達成率やランキングによってユーザー同士が競うという仕組みがあれば、プレイヤーたちがアクティブになって、労働力として大きく貢献するかもしれません。
※ ウルティマ オンライン:1997年にリリースされたゲームソフト。ネットワークRPGゲームの元祖のひとつとされる。

佐川:なるほど。現在、週末だけ農業を行うなど、フルコミットではなく短時間だけど日常的に農業に携わる就農のかたちを国も推進しています。たくさんの人たちがメタバースからゲーム感覚で参加してくれるようなことになれば、農業が今よりずっと身近なものになりますね。

藤元氏:そうですね。私もメタバースは農業に必要な変化をもたらすと思っています。経済行為が可能になるという観点以外にも、「教育」や「学習」に関する期待も大きいです。就農経験のない方も、VRを活用すれば害虫駆除や災害、事故などといった緊急時への対応を一通り経験できるようになるわけですから。

佐川氏:現実の就農の中で10年に一度あるかないかの経験を、VRであれば短時間で経験でき、必要なスキルを身につけられる。新たに農業を始めたい方々にとっては非常に大きなメリットだと思います。

後編では農業とメタバースが融合した未来の理想像について、三者が語ります。

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