Smart City

2022.04.08(Fri)

「都市開発✕デジタル」に必要なSmart Cityの発想と乗り越えるべき課題

#IoT #スマートシティ #データ利活用
ここ数年のテクノロジーの進化によって、デジタルと融合した都市開発、いわゆる「スマートシティ」の実現が現実味を帯びてきました。まちづくりを推進するにあたって、どのような課題を検討すべきでしょう。また、将来はどんな可能性があるのでしょうか。野村総合研究所の大道亮氏とNTTコミュニケーションズの近藤剛が考えます。

目次


    第2期のブームを迎えたスマートシティ計画

    ——大道さんが所属されているアーバンイノベーションコンサルティング部は、現在(2022年3月3日時点)どんなことをなさっているのですか?

    大道氏:私たちのミッションは、都市で事業を営む方々をサポートすることであり、「都市課題」にフォーカスを当ててコンサルティングをしています。

    私自身、これまで不動産や住宅などのコンサルティングに携わってきたのですが、この領域では3年ほど前から「不動産DX」や「スマートシティ」といったデジタルにまつわるキーワードが急に増えてきました。そこで、直近の1年間で「都市DXグループ」というグループを新たにつくり、「不動産・住宅領域×デジタル」という分野で皆さまの課題にお応えできるように活動しています。

    大道 亮|野村総合研究所 コンサルティング事業本部 アーバンイノベーションコンサルティング部
    東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻修了後、2009年NRIに入社。不動産・住宅業界を中心に150本以上のプロジェクトに参画。主なテーマは経営戦略・事業戦略・新規事業検討など。近年は不動産DXやスマートシティにも専門領域を広げる。
    2021年4月に、スマートシティ領域のコンサルティングおよびNRI自身の新規事業立ち上げ検討を担うチームとして都市DXグループを旗揚げ。

    近藤:私自身は、2021年からスマートシティ推進室にて、デベロッパーやゼネコン、自治体などまちづくりに関わるパートナーの皆さまと、デジタルを活用したスマートシティの実現に向けてさまざまな取り組みを行っています。

    「シティ」の全体像を考えた際、ビルや商業施設の建物だけでなく、例えば、モビリティやヘルスケアといった分野もシティの世界観に入ります。領域の幅が広いからこそ、社内のいろいろな部署とつながりながら、全社で掲げる「Smart World」というビジョンを通じて、お客さまにスマートシティのサービスを提供しています。

    近藤 剛|NTTコミュニケーションズ スマートシティ推進室
    東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻修了後、2011年NTTコミュニケーションズ入社。クラウドサービスの技術調査や企画開発を手掛けたあと、2017年から2021年までNTT Ltd. Hong Kongにて海外現地のクラウド事業やスマートエアポート事業を担当。2021年に帰国後、スマートシティ推進室にて、国内およびグローバルのスマートシティ事業に携わる。世界経済フォーラム第4次産業革命日本センターのスマートシティプロジェクトフェローも務める。

    大道氏:実は、スマートシティという言葉はそれほど新しくないんですよね。源流をたどると、IBMが2008年の秋に始めた『Smarter Planet』キャンペーンにたどり着きます。主にエネルギー分野から、「スマート〇〇」という言葉が世の中に浸透していきました。

    その構想が形になってきたのが2010年代半ばくらいです。「Fujisawa SST」や「柏の葉キャンパス」駅前の開発など、日本のスマートシティの先進事例がいくつか形作られました。

    今の仕事でスマートシティという言葉に接したのは、私の入社から数年後、2011年に起きた東日本大震災のときです。復興を考える際に、当時は「ただ震災前の姿に戻すのではなくて、新しいまちづくりをしなければならないのではないか」「次世代型のまちづくりでの復興を目指そう」といった議論が盛んでした。

    近藤:震災が起きたのは、私の卒業間近のタイミングでした。当時、大学院で地球温暖化と水資源に関する研究をしていたのですが、震災後、エネルギー供給問題を受けて社会全体の関心が再生可能エネルギーの利用や省エネルギー技術の導入に移った時期がありました。

    大道氏:10年前の「スマートシティ第1世代」の中心テーマは、どちらかというとエネルギーや防犯といった分野で、普段通り生活していると価値を実感しにくいものでした。そのためか2010年代の半ば、スマートシティというキーワードが下火になっていました。

    近藤:近年の気候変動による豪雨災害の激甚化など、まちづくりにおいても「防災対策を見直そう」という機運が高まり、インフラのハード面だけでなくデジタルの力を活用したより強靭なまちづくり、住民がより安全に暮らせるまちづくり、といった考え方がスマートシティとして10年越しに求められてきたと感じています。

    大道氏:現在、第2期のスマートシティ計画がブームを迎えているのは、2019年からのスーパーシティ法案提出から成立といった政府の動きに加えて、技術の進展もあるでしょう。AIの実用化で画像解析をしっかりできるようになりましたし、世代によらず一人ひとりがスマートフォンを持って常時つながる世界観も生まれました。

    さらにIoT関連のセンサー類や通信回線がリーズナブルになって、経済的にも街に実装しやすくなった。そういう背景があって、新しい姿としてのスマートシティが盛り上がってきたと考えています。

    「街区OS」と「都市OS」というカテゴリー

    大道氏:スマートシティを考えるときに注意したいのは、ひと口に「シティ」といっても、対象となる規模がさまざまなことです。狭い意味だと、ビルが1~2本あるような開発を「〇〇シティ」と呼ぶ例があります。もう少しエリアを広げると、複数の事業者がまちづくりの協議会を立ち上げるような単位です。広い意味では、自治体の「市」と同じ意味合いで東京23区、さらには東京都市圏を「シティ」と表現できます。つまり、規模感に1000倍ぐらい差があるわけです。

    民間だけで開発するスマートシティは、大きくても数街区が限界だろうと思いますが、ここに導入されるデジタルの基盤を「街区OS」と私は呼んでいます。それに対して、ちまたでいわれる「都市OS」というものは、基本的には自治体が整備する公的なデジタルの基盤だと理解しています。金融機関や医療機関、インフラ系の企業のデータまでも含めて、広く連携していくことを想定したつくりです。

    近藤:私たちは、民間企業にも自治体にも「Smart Data Platform for City」というプラットフォームサービスを提供しています。建物・街区・都市の規模や、防災・観光・交通・エネルギーなどの領域に応じて「シティ」が抱える課題はさまざまですが、そこで流れる多様なデータを横断的に収集・分析・活用することで、民間や自治体のスマートシティの取り組みを支援しています。データ利活用を通じてビジネスに役立てていただく。あるいは、自治体が抱える防災などの課題に対して解決の糸口を見つけていただく、いわば「まちづくりの仕掛けとしてのOS」です。

    Smart Data Platform for Cityのイメージ図

    大道氏:街区OSを考える場合は、その街の中で「より体験を作り込む」ことが優先だと思います。都市体験を作り込み、デジタルとリアルを融合させる。必要ならば、複数の異なるサービスをつないでいく。それらの仕組みを、その人一人に焦点を当てて、どういう人なのかをつまびらかにしながらレコメンドしていく姿勢が大切ですね。

    ——これまでNTT Comが手がけているもので、そういった事例はあるでしょうか?

    近藤:完全な民間事業ではないですが、よりパーソナルなレコメンドをする例だと、名古屋の大須商店街で展開する「FUN COMPASS®」というサービスがあります。ユーザーの趣向や地域の天気、時間帯、店舗情報といったデータを集めて、その街へユーザーが遊びに来たときに新たな発見をしてもらえるような仕掛けです。

    複合的なデータを掛け合わせて「今日はこれをするのがオススメです」とか「この時間帯なら、このお店がいいですよ」とパーソナライズされたレコメンドサービスを提供します。より来街者を増やし、初めて訪れる人にも街の魅力を知ってもらう仕組みの実証実験です。

    「FUN COMPASS®」のソリューション概要

    大道氏:商店街で実施されたのがポイントですね。スマートシティのサービスを検討するときには、何らかのアクティビティが展開されるようなエリアで都市体験を作り込むことは非常に大事だなと思います。

    商店街は大型商業施設や観光地などと違って、日常的に訪れる頻度が圧倒的に多い場所です。その人のデータが貯まっていき、よりパーソナライズされた情報を提供しやすい。結果、通い慣れた商店街の知らなかった魅力を伝えるようなサービスもあり得るな、と思いながら伺っていました。

    課題になるのは、都市開発とデジタルの相性

    大道氏:スマートシティに向けた環境が整い、さまざまな取り組みが1部の街で始まっていますが、通常のオンビジネスで定着させていくまでには課題も多いです。それを、単純な「技術面の課題」、実装など「運用面の課題」、それから投資回収といった「経済面の課題」、この3つぐらいに分けて把握すると良いです。

    最初の技術面の課題は、お金に糸目さえ付けなければさまざまなことができるようになりました。実証実験などでも尖った事例やサービスがすでに出てきていますから、今や大きな課題ではありません。

    一方、既存の業務とデジタルの整合性を図るという、運用面の課題は大きいままです。民間主導型のスマートシティの場合、来街者への魅力づくりだけでなく、街区やビルの管理効率を上げるという「効率化」の要望もあります。将来の労働人口不足から、警備員や清掃員、設備の保守点検担当などの人手が足りなくなる事態が予想されるからです。しかし、これまでの管理業務の仕組みも変えなければならないし、何らかの規制や法律が障壁となって新たなデジタルの仕組みをインストールできないこともあるかもしれません。こうした課題を丁寧に乗り越えていくことが求められるでしょう。

    大道氏:さらに、経済性の観点からの課題です。ここでは「都市開発とデジタルの相性の悪さ」という問題が顕在化してくる可能性が高いんですね。デベロッパーの街区開発では、初期投資のイニシャルコストは大きいものの、投資額に対するランニングコストは年間4~5%という相場観です。ところがデジタルの世界では、SaaSの利用料、サーバー費用、保守・運用の人件費など、翌年以降に掛かってくるランニングコストは年間20~30%ぐらいが普通です。しかもデジタルのシステムはアップデートしなくてはいけないし、5年ほどで償却したらリプレイスしないといけません。

    つまり、ほとんどイニシャルコストで構成される不動産ビジネスに対して、一定程度のランニングコストが掛かり続けるデジタルのビジネスは、食い合わせが悪いのです。果たしてランニングコストに見合うだけの「街の価値向上」がなされるか、ここが最も顕著に問われる課題になると見ています。

    近藤:技術的な観点だと、建物の数十年単位のライフサイクルに対して、デジタルの進化の速さのギャップも激しいでしょうね。

    今計画されているまちづくりは、着工が2~3年後、街の形が見えるまでに10〜15年、最終的に街全体が完成するのは、それこそ20年後というタイムスパンです。そこへどういった価値をデジタルで提供するのか。まだ誰も答えを持っていませんから、みんなでやってみるしかない。従来型の都市開発と異なり、まちづくり構想段階から私たちのようなICT企業が参画して、コンソーシアムを組みながら「街のあるべき姿」や「デジタルによる新たな価値の創出」を議論するフェーズに入っています。

    まちを「育てていく」という発想が大切

    大道氏:「都市開発」と「システム開発」のフォーマットはよく似ていると思われがちですよね。最初に企画があり、それを設計に落とし、施工して、作り終えた後に運営していく。それゆえに今後は両者の違いがくっきり見えるようになるでしょう。

    両者を掛け合わせたスマートシティという新しい領域がすぐにきちんとワークするか、いきなり価値提供できるかというと、それは難しいと思います。関係者の皆さんは、もしかしたら少し辛抱強くならなければならないタイミングも来ると思います。

    それでも、私は「都市とデジタルの融合」に可能性を感じます。これからの日本社会では、業種間の垣根がどんどん低くなるからです。デベロッパーが建物を建て、その建物の床を貸して、利用料を賃料でいただくビジネスモデルにも変化が迫られるかもしれません。単に空間を貸すだけでなく、その空間でどんな体験ができるのか、より過ごしやすい空間になっているか。そういった価値の提供にまで踏み込んでいけるのではないでしょうか。

    近藤:最近は、特にコロナ禍の社会情勢で人々の生活が様変わりしました。私自身もリモートワークをしたり、あるときはコワーキングスペースで働いたりして、仕事や生活のスタイルが「面」的に広がっています。

    まちづくりが建物のことだけではなく、人々のワークスタイルやライフスタイルまで扱うようになるのでは。これまでは限られたプレーヤーが都市像を考えれば良かったのに対して、多様なプレーヤーが集まって「社会全体をより良くするため、どのようなサービスが必要か」を話し合う時代になりつつあると肌で感じています。

    大道氏:そうした時代、リアルとデジタルをつなげる役割、複数のサービスをつなげていく役割はどんなプレーヤーが担うのか。顧客接点をしっかり作り込み、IDを管理して、行動データを蓄積して、場合によっては分析までするといった担い手は現れていません。

    こうしたところをNTTコミュニケーションズが新しいビジネスの領域として見ていらっしゃるかもしれないし、私自身もそこで何かできるといいなと思っています。単にシステムとしての仕組みを提供するだけではなくて、そこに蓄積されたデータを分析して、サービスにフィードバックをしていく。あるいはそのサービスを使う個人に対してもフィードバックする。いわゆる「街区OS」の提供者は、こうした仕組みをきっちり形作る必要があるでしょう。

    近藤:プラットフォームに求められる役割は広いです。建物の物理的なデザイン、その上に乗せていくIoT、データ利活用によるサービス提供と、インフラからサービスに至るまでの深さがあるレイヤーをどう扱えるのかがポイントだと思います。私たちはまず、リアルのデータを収集し新たな価値提供を実現するために、建物や街区に広がる統合ネットワークとデータ利活用のプラットフォームを組み合わせ、まさにインフラ領域からさらに上のレイヤーに向けたサービス提供をしようとしています。

    大道氏:どこか1社ができるものではないかもしれません。デジタルやシステムを技術的にちゃんと分かる能力も必要だし、まちづくりや不動産事業に関する理解も必要です。さらに、街で展開するサービスの企画力、それを事業として成立させるビジネスのケイパビリティーも必要でしょう。今後は複数のプレーヤーが持っているノウハウを持ち寄る進め方になると思います。

    近藤:リアルとバーチャルが融合する新しい世界観の中、そこに関わるプレーヤーがすべてそろって、初めて現実のまちづくりができると考えています。「都市とデジタルが融合して便利になる」と言ったところで、そこに人の生活が伴わないと「誰のためのまちづくりなのか?」という事態になりかねませんから。

    これから試行錯誤を重ねていくフェーズですが、NTTコミュニケーションズとしても、いろんなプレーヤーとの接点を持ちながら共創していく姿勢を大事にしたいですね。

    大道氏:スマートシティは、トライ&エラーを繰り返しながら2020年代に形作られていく事業領域です。「やってみて、うまくいかないからやめよう」と思うのではなく、「どうやったら課題を乗り越えられるのか?」「どうやったらより良い街にできるのか?」という問いに知恵を出し合いながら、次の世代に向けて都市とデジタルの融合を目指していく挑戦が、ここから5年ぐらいは求められるのではないでしょうか。

    まちづくりは「作って終わりではなくて、そこから育てていくことが大事」だといわれ続けてきました。今、日本中で「いい街だね」といわれている都市も、関係者の方々の絶え間ない努力で良くしてきた歴史があると思うのです。デジタルを大きく含んだ都市開発でも、まさに街を育み、みんなで育てていく発想が大事になってくるはずです。

    NTTコミュニケーションズ スマートシティ推進室の取り組みはこちらから。

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