Smart City

2026.11.04(Wed)

【尾原和啓】コパイロットからオートパイロットへ。
AIエージェント時代に問われるインフラの条件

AIエージェントの活用が急速に広がっています。現実世界のあらゆるところにAIエージェントが浸透し、人間の代わりにAIエージェント同士がやりとりをする。そんな時代がもうすぐそこまで来ています。

一方、すでにAIの急速な普及に伴い、電力やデータセンターの不足が課題となっている中、このAIエージェント時代の爆発的なトラフィックを、通信インフラはどのように支えていけば良いのでしょうか。IT批評家の尾原和啓氏と、NTTドコモビジネスのエバンジェリスト 吉田友哉が語り合いました。

目次


    「使う」から「任せる」へ、AIエージェントがもたらす自律の時代

    尾原和啓氏(以下、尾原):海外ではAIエージェントの登場を「コパイロットからオートパイロットへ」という表現で言い表します。

    コパイロットは副操縦士です。行きたい場所があるときに、そこまでの道筋を示したり、操作を助けたりする。これまで、あくまで主役は人間で、AIはその仕事を手伝う存在でした。ところがオートパイロットとなると、目的地までの操縦を丸ごと任せてしまえます。AIは「使う」ものから「任せる」ものへ変わってきている。これが、いま起きていることの本質だと思っています。

    尾原 和啓|IT批評家
    京都大学大学院で人工知能を研究。マッキンゼー、Google、iモード、楽天執行役員、2回のリクルートなど事業立上げ・投資を専門とし、内閣府新AI戦略検討、経産省対外通商政策委員等を歴任。現在13職目、AI変革を描いた「努力革命」(伊藤羊一共著)はAmazonビジネス書にて新着3日連続1位「アフターデジタル」は13万部、元 経産大臣 世耕氏より推挙。けんすう氏と共催のPodcast「ハイパー起業ラジオ」はAppleビジネスカテゴリーで10週連続1位。

    NTTドコモビジネス 吉田友哉(以下、吉田):コパイロットからオートパイロットへ、というのはとても腑に落ちる整理です。

    私たち自身の働き方でも、まさに同じことが起きています。NTTドコモビジネスでは社内で「AIコジー」と呼んでいる、社長の小島克重を模したAIエージェントを開発しています。これからは、少しずつ業務が人の手から離れていくのでしょう。

    極端に言えば、私のクローンが何体もいて、私が知らないうちに業務が終わっている。今日のような対談さえ本人の知らないところで完結していて、人間はAIが出したアウトプットを後から追いかけるだけ。そんな未来もありうるのかなと。それが究極のエージェントなのかもしれません。

    吉田 友哉|NTTドコモビジネス クラウド&ネットワークサービス部 エバンジェリスト
    1998年日本電信電話会社入社。翌年、NTT再編によりNTTコミュニケーションズ株式会社(現 NTTドコモビジネス株式会社、以下 NTTドコモビジネス)へ異動し、OCNの基幹ネットワークの運用・開発を担当。「Mr. OCN」と呼ばれる。日本のインターネット通信に欠かせない経路台帳システム(日本版IRR)の創設や、日本全体のトラフィック流通の効率化を推進する協議会(CONECT)を総務省と設立するなど、会社の枠を超えた貢献も多数。「2011年 日経ビジネスが選んだ100人」に選出。幼少期よりクラシック音楽に親しみ、ピアノ演奏や作曲が得意。日本将棋連盟千葉県支部連合会の会長も務める。現在は同サービス部の開発オペレーション部門 部門長。

    尾原:いまのお話にあった「知らないうちにクローンが会話を終えている」というのは、とても大事な観点です。「コパイロットからオートパイロット」へという変化の先に、実はもう一段あるんです。

    日本では「AIエージェント」と呼びますが、海外では「エージェンティックAI」と言います。「自律的に動くAI」という意味ですね。つまり、自動ではなく自律なんです。決められたことを繰り返すのが自動だとすれば、自律は、自分で目的を立て、自分のルールの中で、変わる状況を判断しながら実行していくことを指します。

    「AIコジー」がまさにそうで、新入社員の仕事に対しても、社長の目線に立ったエージェントが「社長ならこう言うだろう」と助言してくれる。社長が1万人の社員全員と話すことはできませんが、そこに自律したエージェントが入ることで、一人ひとりが巨人の肩に乗った判断ができるようになるのです。

    中国に見る、AIエージェント後の世界

    尾原:中国では、先ほどお話した「使う」から「任せる」への変化が、デジタルの中だけでなく現実世界にまで染み込んでいます。決済が分かりやすくて、大手の決済プラットフォームでは、1週間に1億件を超える支払いを、利用者があらかじめ許可した範囲で人間ではなくAIが代わりに済ませています。

    また、スマートフォンのAIエージェントに「これから4時間空くから友人と映画を見に行きたい」と話しかける。すると、あなたと友人が本人同意で公開しているプロフィールや過去の好みから、「この作品はどうですか」と理由つきで薦めてくれます。「当日でいいから割引はないか」と聞けば、「直前で席を埋めたい映画館があるので、電車で少し移動すれば4割引きです」と返ってくる。「予約して」と言えばいい席を選んで見せてくれて、ワンクリックで予約が終わる。さらに「隣の席も買っておきますか」「そのQRコードをご友人に送っておきますか」まで下書きができていて、押せば友人に届く。待ち合わせの相談すらいりません。

    利用者から見れば接点は音声のアプリ1つですが、裏側ではたくさんの会社がつながっています。ここが中国の面白いところで、レビューサイトも予約サイトも決済も、AIから操作できるモジュールとして切り出されているんです。

    「いくらまでならエージェントの判断で買っていい」という基準をあらかじめ渡しておくこともできます。そうなると認証の意味も変わってきて、本人確認のKYC(Know Your Customer)から、「このエージェントは信用していいのか」を確かめるKYA(Know Your Agent)へと軸が移りつつある。モジュールをつなぐコネクタの標準化も進み、MCP(Model Context Protocol)やA2A(Agent2Agent)は世界的な共通規格になろうとしています。

    AIエージェント時代のインフラの役割

    吉田:今のお話のようにデータを使う主体が人間からAIエージェントに移れば、トラフィックは足し算では済まず、掛け算で増えていきます。だからこそ、ネットワークがコントローラブルでなければいけません。私が3、4年ほど前から構想し、サービスにつなげてきた「Network as a Service(NaaS)」という考え方の出発点は、そこにあります。

    いま、通信の使われ方には大きな偏りがあります。動画の視聴などで夜の22時台が突出して使われていて、あまり使われない朝5時台とは3倍ほどの開きがある。裏を返せば、通信路にはまだ使える帯域が相当あるということです。

    一方でAIは、人間の生活リズムに縛られません。終わってさえいればいつ処理しても構わない作業もある。そうした処理を空いている時間帯へ寄せていくような、帯域を分散して使う工夫が、これから必要になるはずです。

    その先として想像しているのがダイナミックプライシングです。テーマパークや宿泊業では当たり前になっていますが、ネットワークの世界でも価格で需要を動かしていく。その情報をAIエージェントが察知して、「この時間帯が安いから、ここで作業しよう」と判断する。そういう時代が来るのではないかと想像しています。

    そのために、当社の「docomo business RINK」では1分単位で課金できる仕組みをつくりました。これまではPCもスマートフォンも、パケットの量を積み上げる考え方でしたが、その粒度のままでは、あらゆるAIをコントロールすることはできません。

    尾原:いまのお話は、すでに実際に起きていることです。エージェント同士が「ここはこうしたほうがいいのではないか」と問いを投げ合って結果を高めていく自己改善系の仕組みも広がっていますし、デジタルで完結する世界から物理世界へ出ていけば、通信の往復はさらに増える。

    面白いのは、その仕事が動く時間帯です。いまシリコンバレーのAI企業では、寝る前に「こういうものをつくっておいてほしい」と頼んでおくと、AIが自分の部下にあたるエージェントへ仕事を割り振り、仕様を磨き、実現できるかを調べ、オープンソースの部品を組み合わせてつくり、テストまで済ませて、朝には出来上がっているという話も聞きます。昔話の小人のようですが、まさに吉田さんのおっしゃる、トラフィックの少ない深夜にこそAIが働いて成果を出す社会に移りつつあるわけです。

    吉田:まさにそれを実現したいですね。そして、あわせて考えなければいけないのがセキュリティです。特にスマートシティの世界で、あらゆるものがIoTでつながると、エンドポイントにセキュリティソフトを入れられない非力なデバイスも必ず出てきます。

    そうした端末が悪意の込められたサーバーと通信していたら、ネットワーク側ですぐに検知して通知し、お客さまが遮断、もしくはネットワーク側で自動遮断できるようにする。端末側の努力だけでは守りきれないという前提に立ち、ネットワークで見て、検知して、制御する。そこまで含めて初めて、AI時代のネットワークだと言えます。

    尾原:カメラやIoT機器のように、性能にも設置環境にも余裕のない機器が、どんどん自分でデータを処理するようになっています。クラウドに全部送らず手元でさばく、いわゆるエッジコンピューティングですね。ところがそういう機器にはセキュリティソフトを入れる余地がない。だからネットワーク側で守る、ということですね。

    吉田:おっしゃるとおりです。人が見ていない現場や、人が乗らない機械が増えるほど、ネットワーク側で面倒を見る範囲は広がっていきます。

    AI-Centric ICTプラットフォームで、日本の国力を上げる

    吉田:まさにそこです。そうした考え方をまとめたものが、当社が進めている「AI-Centric ICTプラットフォーム」です。

    ひとことで言えば、AI時代の日本の社会インフラを目指してつくっているプラットフォームです。AIエージェント自身が、人間が関与しない状況でネットワークやコンピューティングリソースを使うことを前提に置いています。

    柱の1つは、コンピューティングリソースをどう配置するかです。かつては、大きなデータセンターに集めればいいという考え方でつくってきました。しかしAI向けの大規模GPU基盤は従来より大きな電力を必要とします。特に都市部ではデータセンター向けの電力確保が難しくなりつつあり、従来と同じ発想だけでは拡張が難しくなっています。

    ですから、電力のあるところへ計算のほうを持っていく、という発想の転換が要る。大きなデータセンターを構えつつ、同時に分散も進めます。小売にたとえるなら、郊外の大型店と街なかの小型店を併せ持つようなイメージですね。まとまった計算は大型店にあたる大規模データセンターが引き受け、小さな計算資源は、電力確保がしやすい地域や必要とされる場所へ配置していく。持ち運びのできるコンテナ型のデータセンターも、その小型店にあたります。GPUをどこにどれだけ配置するか、全国の配置を描き直すところから始めているところです。

    尾原:コンテナ型のデータセンターですが、スマートビルは自前の発電設備を持っていて余剰が出ていることがありますし、昼間に太陽光発電の電力が余っている地域もあると聞きます。そういう場所に置けば、地域や企業の収益源にもなりますね。

    吉田:おっしゃるとおりです。また、災害への対応も問われます。ネットワークは通常、同じ役割の系統を2つ用意し、冗長構成をとります。片方のネットワークが切れても、もう片方のネットワークで救済できます。ただ日本は災害大国ですから、必ずどちらか一方が無事だとも限らない。そこで当社のIPバックボーンネットワークは、系統を3つに増やす「3面化」を進めていて、今年、完成する予定です。障害に強くなるだけではありません。緊急時や想定外のトラフィックが発生した場合には3面使えるので、容量そのものが3倍になる。AIのトラフィックが急に増えても受け止められます。

    尾原:範囲が広がるほど、災害のときに途切れないよう分散しておく必要が出てきます。けれども利用する企業からすれば、分散していること自体は見えている必要がない。運用をプラットフォームでラッピングして、AIで自動化していく「AIOps」を実現することで、利用する企業も安心して利用することができます。

    AIインフラも自律しなければならない

    吉田:AIエージェントの時代に私が一番気にしているのはガバナンスの問題です。AIが自律的に動く世界は素晴らしいのですが、便利さと自由度が上がるほど、ガードレールの役割をどう入れるかが課題になります。

    尾原:まさに「ヒューマン・オン・ザ・ループ」という言い方をしますが、確実に人間が確認しなければいけない箇所を設計する、ということですね。何よりガードレールは、安心して高速に走るために置かれているものです。AIエージェントが速く動くために、安心・安全のガードレールをどう設けるか。そこまで提供できるかどうかが、これから非常に重要になると思います。

    吉田:おっしゃるとおりだと思います。私たちが目指しているのは、ありとあらゆるものと人がつながる時代に、安心して、しかも自由度を持って柔軟に使っていただける社会インフラです。

    AIに任せきれる社会をつくるには、任される側であるインフラもまた、自律していなければなりません。AIが自分でコントロールしたいようにネットワークを制御できる仕掛けをつくる。トラフィックの量にも、性質の違いにも、災害にも耐える。そのうえでコストの最適化まで引き受ける。それが「AI-Centric ICTプラットフォーム」で実現したい世界です。

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