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2026.10.28(Wed)

汎用型ロボット時代の新常識
ロボットは「一台の知能」から「つながる知能」へ

多様な動きに対応する「人型ロボット」の進化は目覚ましく、ニュースを賑わせています。そのような中、人手不足の深刻化や、現場で求められる作業の多様化といった変化に柔軟に対応するフィジカルAIとして期待されているのが、AIが周囲の状況を認識・判断し、さまざまな業務を担う「汎用型ロボット」です。

では、汎用型ロボットは今どこまで進化しているのでしょうか。そして、その能力をさらに高め、社会実装を進めるには何が必要なのでしょうか。本記事では、その先にある「つながるロボット」の未来までを、一般社団法人AIロボット協会 理事長で、AIとロボティクスの融合を研究する早稲田大学教授の尾形哲也氏と、NTTドコモビジネスでIoT・フィジカルAI領域を担う柏大、IOWNの社会実装を推進する莊司哲史に話を聞きました。

目次


    実世界を学習し、さらに進化する汎用型ロボット

    ——話題に上ることが増えた「汎用型ロボット」ですが、どのようなロボットなのかについて教えていただけますでしょうか。

    尾形哲也氏(以下、尾形氏):ある意味、ロボットはすべて汎用型だと言えます。従来の産業用ロボットも、プログラムを変えたり、扱う物に合わせてハンド(手先)を交換したりすれば、さまざまな用途に使えます。今あらためて「汎用」という言葉が注目されているのは、AIの存在が大きくなっているからです。人間が用途ごとにプログラムやハードウェアを変えるのではなく、ロボット自身が状況を判断できるようになりました。例えば、目の前にあるものがタオルなら畳む、段ボールなら箱を組み立てる。AIによって、自ら判断して複数のタスクをこなせるのが、現在の汎用型ロボットの特徴です。

    尾形 哲也|一般社団法人AIロボット協会 理事長、早稲田大学 理工学術院 基幹理工学部 表現工学科 教授
    認知ロボティクス、深層予測学習、ロボット基盤モデルを専門とし、深層学習とロボットを組み合わせた予測学習、模倣学習、マルチモーダル統合などを研究。2020年より早稲田大学次世代ロボット研究機構AIロボット研究所所長、2025年よりJST CREST「実環境知能システム」研究総括を務める。2023年文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)受賞、2026年IEEE Fellow。

    ——汎用型ロボットというと、人型ロボットを思い浮かべる人も多いと思います。

    尾形氏:必ずしも人型である必要はありません。ロボットには、移動型ロボットにアームを取り付けた「モバイルマニピュレーター型」「双腕型」、すでに工場で多く使われている「ロボットアーム型」など複数の形態がありますが、作業を自ら判断して実行できれば汎用型になり得ます。

    一方で、世の中は人間の生活前提でデザインされているため、手で多様な物を扱い、足でいろいろな場所へ移動できる人型ロボットにとっては都合がよい。「できることの種類が多い」という意味で、汎用型ロボットの代表として語られやすいのだと思います。

    実際、歩く、走るといった全身制御は、この1年ほどで急速に進歩しました。しかし、物をつかむ、タオルを畳む、料理をするといった上半身のマニピュレーション(手を使った操作)は発展途上で、「この作業なら完全に人間を超えた」と言えるものはまだ多くありません。その理由は、シミュレーションによる学習のしやすさの違いにあります。歩く、走るといった動作は、仮想空間でロボットを何千台と並べて長時間練習させれば、効率的に大量の学習ができます。

    しかし、手を使ってタオルを畳んだりひもを結んだりといった行為を物体の挙動とともにシミュレーションさせるのは、かなり計算が複雑です。特に難しいのは、ハンドと物体との接触状態です。例えば、物体が乾いているのか、濡れているのか、でも摩擦は大きく変わります。こうした現実世界を完璧にシミュレーションしようとすると、膨大な計算コストが必要になるのです。

    そこで、採用されているのが、模倣学習と呼ばれる方法です。これは、実世界で人間がロボットを操縦した動きをデータとして取得し、学習に活用します。ロボットの知能をさらに高めるには、こうしたデータを実世界から大量に集め、共有していくことが重要になります。

    ロボットの進化で、通信は「回線」から「データ基盤」へ

    ——模倣学習にも活用されているのが、尾形先生が研究されている「深層予測学習」です。一般的な深層学習と何が違うのでしょうか。

    尾形氏:深層予測学習は2016年ごろから提案しているものですが、現在のVLA(Vision-Language-Action)モデル*やワールドモデル*にも近い考え方です。ポイントは2つ。1つ目は、ニューラルネットワークに「次の状態」を予測させること。ロボット自身の次の動作だけでなく、その結果、自分から見た世界がどう変化するかまで含めて学習します。

    2つ目は、予測して終わるのではなく、現実との予測誤差をフィードバックしながら推論を繰り返し、行動を調整することです。現実世界では、学習していない状況が必ず起こります。だからこそ、事前学習だけですべてを解こうとせず、その場で考えながら適応することが重要です。現在の生成AIも近い方向へ進んでいますが、私たちはこの考え方を約10年前からロボットに適用してきました。

    * VLA(Vision-Language-Action)モデル:画像と言語(テキストによる指示など)をもとに、ロボットが取るべき行動を生成するAIモデル
    *ワールドモデル :映像や言語などから現実世界の仕組みを学習し、ある行動によって環境がどのように変化するかを予測・シミュレーションするAIモデル

    ——汎用型ロボットが普及すると、通信環境に求められるものも変わるのでしょうか。

    柏大(以下、柏):従来のロボットにとって通信は、工場のロボットを監視したり、決められた作業を継続できるように確認したりする、「ロボットを動かすための回線」という意味合いが強かったと思います。

    しかし、尾形先生が話されたとおり、汎用型ロボットはさまざまなデータから学び続けなければなりません。そう考えると、ネットワークは単なる回線ではなく、AIが学び続けるためのデータ基盤へと役割が変わっていくはずです。現場からデータを収集し、AIに学習させ、そのデータをさまざまな場所へ流通させる。しかも、必要な場所へ必要な品質でダイナミックに、安全に届けなければいけない。そうした方向へネットワーク自体が進化していく必要があると考えています。

    柏 大|NTTドコモビジネス プラットフォームサービス本部 IoT&フィジカルAIサービス部 第一サービス部門長
    1997年 NTT情報流通プラットフォーム研究所に入社、高度ネットワーク・セキュリティの研究開発に従事。2004年 NTTコミュニケーションズ(現NTTドコモビジネス)入社。長年SDx(Software Defined Everything)の技術開発・商用導入に携わる。Open Networking Foundation ボードメンバー(2015〜2023)、SDxエバンジェリスト(2019〜2024)。2021年より5G/IoT領域のサービス開発をリードしている。ソフトウェア技術をIoTにも拡大して、真に現場で役立つDXソリューションを実現すべく奮闘中。

    企業連携で学習データを循環させる「ロボットデータエコシステム」

    ——尾形先生はAIロボット協会を立ち上げられましたが、どのような目的で設立された団体なのでしょうか。

    尾形氏:AIロボット協会(AIRoA)は、AIとロボット技術の融合によるロボットデータエコシステムの構築を目指して2024年12月に設立し、2025年度から活動を本格化しています。基盤モデル開発に必要なデータの収集・保管・管理・公開、モデルの開発・公開、開発コミュニティの運営などに取り組んでいます。

    現在、アメリカのビッグテックや中国では、巨大な資本を投入して大量のロボットデータを集めています。しかし、日本が同じことを一企業、一研究機関だけで行うのは難しい。そこで、さまざまな企業や組織が協力してデータを集める仕組みをつくろうと考えたのです。その核となるのが、「ロボットデータエコシステム」です。

    まずデータとモデルをつくり、それを一定範囲でオープンにする。企業が自社の用途に合わせてファインチューニングし、現場で使う。そこで生まれたデータを再びエコシステムへ戻してもらう。この「データを集める」「モデルを育てる」「現場で使う」営みを通じて、さらに新たなデータが生まれていく。こうした循環をつくる構想です。

    すべての企業がゼロからAIロボットをつくるのではなく、共通のデータやモデルをベースラインとして使い、その上で独自性を競う。中堅・中小企業も含め、ロボット開発への参入障壁を下げる意味もあります。

    ——ロボットデータエコシステムのような取り組みに対して、通信基盤側ではどのような貢献ができそうですか。

    柏:私はネットワークが、現実世界とAIをつなぐ「神経網」のようになると思っています。ロボットやIoTデバイスからデータが生まれ、それをAIへ届ける。逆にAIの判断を現場へ戻す。その間を支えるのがネットワークです。そのためには、セキュリティを担保することはもちろん、必要に応じた通信品質の提供、データの管理、ロボット・エッジ・クラウドの連携などが必要になるでしょう。

    NTTドコモビジネスでは、AI時代に求められる「分散」「柔軟」「安全」「リーズナブル」を軸に、コンピューティング、ネットワーク、マネージドサービスを組み合わせて提供する『AI-Centric ICTプラットフォーム』という構想を掲げています。その中で映像データなどIoTにより収集したデータを分析し活用する『docomo business SIGN』といったサービスを提供しています。コストを最適化しながら、エッジやデータ活用基盤などを用途に応じて組み合わせられるほか、セキュリティ機能を標準搭載しているためIoTデバイスに脅威が生じた際の遠隔検知・対処にも対応します。

    視覚・言語だけではない。触覚も「ロボットの学習データ」へ

    ——ロボットデータエコシステムでは、多くの企業がデータを共有することになります。一方、企業としては競争優位につながるデータまでは共有しづらいという面もあるのではないでしょうか。

    莊司哲史(以下、莊司):情報は共有すれば価値が高まる一方で、独占することで競争力になる面もあります。特に汎用型ロボットの稼働ではリアルタイムに情報が生まれるので、その価値をどう判断し、どこまで流通させるのかをマネジメントする仕組みが重要になるでしょう。

    人間が介在すべきところを残しながら、第三者的な客観性と公正さを持ってデータを管理する仕組みも必要です。例えば、秘密計算などのプライバシー強化技術です。NTTドコモビジネスでは、機密性の高い情報を秘匿したまま保管・加工・分析することで、データの保護と利活用を両立する『析秘 -SeCIHI-』というサービスを提供しています。

    莊司 哲史|NTTドコモビジネス イノベーションセンター IOWN推進室 IOWNエバンジェリスト
    1991年にNTT入社。研究所で光ファイバー切り替え装置やシリコンフォトニクス、波長選択スイッチ、触覚デバイスなどの研究開発に従事。2021年よりNTTコミュニケーションズ(現NTTドコモビジネス)にて、IOWNの技術や可能性を社内外に発信するとともに、企業との共創によるユースケース開拓やソリューション開発を通じ、IOWNの社会実装を推進。IOWNと3DHaptics技術*を組み合わせた触覚のリアルタイム伝送の実証にも携わっている。

    ——汎用型ロボットが扱うデータ量が増えていくと、データ処理の負荷や遅延、「エッジかクラウドか」といった課題が出てくると考えられます。NTTが社会実装を進める次世代情報通信基盤「IOWN」は、こうした課題に対する一つの解決策になり得るのでしょうか。

    莊司:IOWNによって大容量・低遅延で接続できれば、離れた場所のGPUと接続しリアルタイムに分析結果をフィードバックしていくことが可能です。IOWNのユースケースの一つとしてリアルハプティクスがあります。この技術を活用すれば、物に触れた際の力加減や硬さ、柔らかさなどの触覚(手応え)を、ネットワーク経由でリアルタイムに伝達・再現することができます。IOWNの低遅延の良さと操作の柔軟さを生かした非常に面白い活用例です。

    ただ、人型ロボットのような自由に動くもののデータをやり取りする場合は、無線通信が基本ですので、通信が途切れるリスクへの対策が欠かせません。それに備えて、ロボット側では何を処理して、クラウド側では何を処理するのか、バランスよく振り分けることが重要です。

    尾形氏:まさにエッジとクラウドのバランスですね。通信が不安定ならロボットに搭載したエッジでAI処理をする。安定しているなら、より正確な判断を上位のAIへ仰ぐ。人間も、危険を察知して素早く反応する場合と、蓄積した経験や知識をもとに時間をかけて考える場合を使い分けています。異なるタイムスケールの判断を協調させる「マルチタイムスケール」の考え方が、ロボットにも必要になると思います。

    ——2025年大阪・関西万博ではIOWNを活用して、音や映像に加え、触覚・振動を送り合うことができる「ふれあう伝話」を設置しました。触覚・振動情報までネットワークで伝送できるようになると、汎用型ロボットの活用の幅が広がりそうです。

    莊司:私は小型重機の免許を持っており、実際に乗って操作したことも、遠隔で操作したこともあるのですが、その感覚はまったく違いました。遠隔操作の際、もし言語情報として「右に傾いています」「衝撃が来ました」と通知が来たとしても、それでは状況が十分に理解できないだろうと思います。こうした身体感覚へのフィードバックは、汎用型ロボットでも非常に重要だと思います。

    尾形氏:今はVLAモデルに加えて、触覚(Tactile)まで含めたVTLA(Vision-Tactile-Language-Action)という考え方も出てきています。実際、私の研究経験でも、触覚情報をロボットに与えて学習させると性能は大きく向上しました。データセットに加えられるようになれば、ロボットの学習にとって非常に大きな意味を持ちます。

    *3DHaptics技術:振動によってリアルな感触を生み出す技術。特殊な波形パターンがデバイスを持っている人の脳内に錯覚を起こし、押されたり引っ張られたりするような感触が伝わる。

    汎用型ロボットの社会実装に必要な「人との関係」の再設計

    ——汎用型ロボットは、どの分野から普及していくのでしょうか。

    尾形氏:汎用型ロボットの価値を出しやすいのは、人間にしかできなかったけれど、人間にはできればやらせたくない仕事です。例えば、病院や介護施設など、高い衛生水準が求められる場所での仕事。さらには、放射線のある場所、危険な薬剤を扱う仕事です。清掃やベッドメイキングのように長時間同じ作業を続ける仕事も考えられるでしょう。

    最もハードルが高いのは、一般家庭での普及です。家の環境は千差万別で、物も多くタスクも多様。もし、家庭でできることを増やせれば、その能力はレストラン、空港、病院、福祉施設など、人間向けにつくられたさまざまな環境へ再利用できます。

    ——汎用型ロボットやロボットデータエコシステムの実現に向けて、企業には何が求められますか。

    尾形氏:一つは、AIとロボットの間をつなぐ人材の育成です。人工知能とロボット工学は、大学でも別の学部になっているほど文化が違います。企業でもAI部門とロボット部門が分かれていることが多い。双方を理解して翻訳できるキーパーソンが重要になります。

    もう一つは、失敗を含めたチャレンジを許容すること。AIは100%ではありません。大企業だけでは挑戦しづらいのであれば、スタートアップと組み、その挑戦を支える形もあると思います。

    莊司:汎用型ロボットの普及は、人間の仕事への置き換えを強く連想させます。企業は、効率化だけを目的にせず、働いていた人がよりよい仕事へ移れるのか、新しい産業や価値を生み出せるのかまで考える必要があります。ロボットはあくまで、人間の幸せを実現するための手段であるべきです。その時、人とロボットがともに価値をつくる社会をどう設計するか。私たちがどんな社会で生きたいのかという問いも考えていく必要があると思います。

    ——未来の社会では、人と汎用型ロボットはどのような関係になるのか、お考えを聞かせてください。

    柏:これまでの産業用ロボットは、人の代替でした。しかし汎用型ロボットは仲間や頼れるバディになっていく可能性があります。相棒に対して「100%ミスするな」とは言わないですよね。多少の失敗はあっても、自分にはできない価値を出してくれる。その価値を認め、一緒に働く。人とロボットがそうした関係になる未来は面白いと思っています。

    尾形氏:私は内閣府の「ムーンショット型研究開発制度」で、ロボット領域の研究開発プロジェクトに携わっており、当初、「ロボットは執事であるべきだ」と明記しました。人型ロボットが精巧であるほど、人は感情移入します。だからこそ、淡々と命令をこなし、強い依存を生まない存在がよいと思っていたのです。

    ただ、この数年のAIの進化を見ると、人間がAIに依存しないようにすることは難しいとも感じています。すでに人はAIに知識を聞くだけでなく、悩みを相談し、共感してもらっています。そういったAIを搭載した人型ロボットが生まれたとき、単なるツールと割り切らず、過度に依存もしない。そんな関係をどう設計するかが重要になると考えています。

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