01
2024.04.20(Sat)
目次
——そもそも都市OSとは、どのような概念なのでしょうか。
阿多信吾氏(以下、阿多氏):根本にあるのは「街のあらゆるものをソフトウェアで動かそう」という思想です。例えば、パソコンやスマートフォンは汎用的なハードウェアにソフトウェアを載せて、特定の用途で動くようにしています。これならば、ソフトウェアのバージョンアップでシステム全体が進化します。自動車業界でも、テスラのように自動運転機能をサブスクリプションで後付けするといった、「ソフトウェア定義型(Software Defined)」の思想が主流になっています。
この考え方を街や建物にも適用し、都市空間をソフトウェアで動かすための基盤を作ろうというのが、都市OSの基本的な概念です。

——都市OSにおける「都市」はどの程度の範囲を指しますか。
阿多氏:実は、「都市OS」の「都市」の定義はさまざまです。地方自治体が都市OSを語る際は、当然ながら一つの行政区域を想定します。しかし、私たちの実際の生活圏は必ずしも一つの自治体に閉じているわけではなく、近隣も含めた広域にまたがっています。その場合、行政区域をまたいだ都市OSが必要です。都市OSを動かす主体が誰かによって、都市空間の定義や解釈が変わってしまうのが実情です。
木村昭仁(以下、木村):NTTドコモビジネスでも、動かす主体に応じてビルOS、エリアOS、都市OSなどの言葉で説明することがありますが、正直、言葉に縛られる必要はないと思っています。重要なのは、OSの基盤上で街中のさまざまなシステムが疎結合※し、プラグインのような形で接続でき、結果として、データが流通可能な世界観を実現することです。
※疎結合…システムやプログラムの部品同士が緩やかに結びつき、互いの依存度が低い状態
この前提に立てば、都市OSはすべてを制御するものではなく、「独立した多数のシステムの状態を捉え、最適解を導き出すためのデータ解釈ができること、そしてそれを疎結合で束ねるルールと基盤」と考える方が実態に近いかもしれません。この思想は、ビルOSやエリアOSでも同じです。つまり、ビルOSやエリアOSで培った知見は、そのまま都市OSにも流用が可能ということです。ビルOSでビルを可視化しつつ、さらに街区や都市OSと接続する。最終的には、それら複数のOSが連携して動くイメージです。大規模な街区になると共通的な領域(共通街区)といった考え方も出てきますが、これらもデジタルコモンズという思想で考えれば、より柔軟な利用や価値創造に繋がるのではないかと考えています。

——内閣府の「統合イノベーション戦略2025」には、都市OSの導入地域数は2024年度末で78地域とあります。大規模ビルの共通基盤であるビルOSや街区の共通基盤であるエリアOSを含めると、徐々に普及が広がっている印象を受けます。
阿多氏:自治体においては、「デジタル田園都市国家構想交付金」(現在の「地域未来交付金/デジタル実装型」)の存在が大きいと思います。これは、交通・医療・防災などにおいて、データ連携基盤を活用して地域課題を解決するサービスや事業を立ち上げる場合、データ基盤開発の費用を支援するものです。この交付金もあり、地方自治体ではデータ整備やプラットフォーム導入自体は進んでいます。
一方で、実務に落とし込まれていないという課題もあります。推進するのは政策企画やデジタルの部門が中心で、窓口や実務を担う部署では日常業務に使われていません。
木村:我々も多くの街区開発に協力していますが、そもそも何を実現するためのデジタル活用、データ活用なのか、技術ありきでなく課題・仮説ドリブンでの街区開発のご相談は増えています。そのために我々が力を入れているのが、MSI(マスターシステムインテグレーター)です。ビルや都市のスマート化において、IT・OT、通信、設備などの多岐にわたる専門知識を用いて、企画・構想から設計、構築、運用までを一元的に支援します。また、その中で複数の知見から得たベストプラクティスをガイドラインという形で提示していくことにより、効率的な街区の在り方の提言と合わせ、新しい街の在り方をご提案しています。
——SCRA4.0まででは、都市OSが実現すべき代表的な特徴として「相互運用」「データ流通」「拡張容易」が示されてきました。また、さきほど話に出た交付金の条件にも、「オープンなデータ連携基盤を使う」「オープンAPIを提供し、他サービス・他地域と接続できる」「複数の事業者が異なるサービスを提供する」「特定分野専用ではなく、幅広い分野と接続できる」「データを政府の標準データモデル等に準拠させる」とあり、都市OSの標準化は必須の流れです。阿多教授は、都市OSの標準化の重要性についてどのようにお考えですか。
阿多氏:都市からデータを取得する際、基本的にはセンサーなどの機器を用いますが、現状はメーカーや装置によって通信プロトコルが異なります。さらに、センサーから送られてくるデータも、小数点以下か整数か、数値か文字列かなどバラバラです。これらが統一されていないことが、データ流通の大きな阻害要因になっています。そうした違いをできるだけ減らして、データを流通させやすくするのが、標準化の基本的な考え方です。
例えば、2000年代初頭、スケジュール管理機能などを搭載した携帯情報端末「PDA(Personal Digital Assistant)」が一世を風靡しました。しかし、各社が独自のOSや端末仕様を採用したので、徐々に廃れていきました。都市OSにも、これと同じことが起きても不思議ではありません。
一方、AppleやGoogleのスマートフォンは、開発環境とAPIを開放したことで、サードパーティーがアプリを提供できるエコシステムが形成されています。都市OSも同じで、普及・活用につなげていくには、「オープンなデータ連携基盤を使う」「オープンAPIを提供し、他サービス・他地域と接続できる」「複数の事業者が異なるサービスを提供する」「特定分野専用ではなく、幅広い分野と接続できる」などの標準化が重要です。

木村:NTTドコモビジネスでも、積極的に外部団体との標準化活動の連携を進めており、スマートビルの標準化を進めているSBCO(スマートビルディング共創機構)や、ビルや設備の省エネ・管理制御に関わる通信プロトコルの国際標準化を主導するGUTP(東大グリーンICTプロジェクト)といった団体や研究機関とも協力しています。最近はAIがデータを扱いやすくするために、自然言語でも読み取れる形での標準化にも取り組んでおり、そうした考え方やUXを街区設計の提案に盛り込んでいます。
——NTTドコモビジネスでは、都市OSにどのように取り組んでいるのでしょうか。
木村:我々はもともと、ビルOSを中心に『Smart Data Platform for City(SDPF for City)』を展開してきました。これは、人流や施設内外の情報、環境センサー、エレベーターやロボットなどのモノの情報など、都市に点在するさまざまなデータを融合し、サービスに活用するためのプラットフォームです。
例えば、エレベーターとロボットを連動させたり、AIで空調を制御したり、設備のデータを収集したりする機能を提供しています。最近は、MCP※のような技術が出てきたことで、より広範なシステムとの連携や、AIエージェントによる運用効率化、管制制御への活用も進めているところです。
※MCP…Model Context Protocol:LLMアプリと外部ツール・情報源をつなぐためのオープンな標準仕様

——NTTドコモビジネスは、SDPF for Cityを東京ミッドタウン八重洲で運用したり、虎ノ門一丁目東地区再開発でスマートビル化プロジェクトに参画したりしています。また、品川港南2050プロジェクトでも、エリアOSを活用した実証を行っています。この品川港南2050プロジェクトについて、どのような実証を行ったのか教えてください。
木村:品川港南2050プロジェクトは、NTTアーバンソリューションズを中心にNTTグループ各社が連携し、周辺企業や住民とともに品川港南エリアの長期的な街づくりを進めるプロジェクトです。さまざまな技術やイベントを試しながら、「どういうイベントなら人が集まるのか」「どういう街が魅力的に映るのか」といった点を検証しています。
特徴的な実証実験は、NTTドコモビジネスが提供する『AIコンステレーション』の活用です。エリアOSと疎結合した複数のLLM(大規模言語モデル)を連携させて、ビル運営管理の高度化・効率化を行っています。具体的には、AI同士が自律的に議論を行い、人間の思考の偏りを補正しながら、街でどのようなイベントを企画すれば集客できるかといった企画を立案できるような機能です。
さらには秘匿性の高いデータのAI処理です。現在、ビル運営においても管理の高度化・効率化への寄与が期待されています。一方で、個人情報やビル固有情報などパブリック環境での活用が難しい場面も出てきており、Open型LLM/Closed型sLLMなどデータの機密性担保やデータ暗号化のアーキテクチャーについて、現実的な利用とセキュリティ確保の両立についてあるべき姿を検証している状況です。
ほかには、エリアOSと疎結合している複数のシステムにAIエージェントが指示を出し、デジタルサイネージの表示最適化や会社が異なる複数のロボットの行動最適化といった、マルチな管制制御も今後の街区には必須の機能と考えています。これにより、プログラムを組めない人でも、「自然言語でLLMに指示を出す→AIがエリアOSを通じて各々のシステムにワークオーダーを発出→システムが動作し、その結果をAIにフィードバック→それを受けてAIが次のタスクを割り出し、再びワークオーダーを発出する」という、双方向のやり取りができるようになります。
——阿多教授が在籍する大阪公立大学(森之宮・中百舌鳥キャンパス)でも、ビルOSの実証を行っていると伺いました。
阿多氏:キャンパス内の空調や照明の稼働状況、Wi-Fiの接続人数など、設備データすべてをビルOS上で取得しています。また、受付の際に渡される名札の裏にはビーコンが取り付けられており、天井に設置した多数のセンサーと連携させることで、誰がどこにいるかという位置情報をリアルタイムで把握しています。これにより、配送ロボットに対して「会議室に行け」という場所指定ではなく、「〇〇さんのところへ資料を届けて」といった人ベースの指示が可能になります。さらに、巡回ロボットが床の汚れを発見し、その位置情報を清掃ロボットに伝えて掃除させるといった、ロボット同士の役割分担と協調制御もビルOS上でできるようになっています。これらはビルOSの実証ですが、目的と束ねる範囲が違うだけで、考え方は都市OSの標準化と全く同じです。

——都市OSが広がることで、今後どのような領域にビジネスチャンスが生まれてくると考えていますか。
木村:ひとつはモビリティ領域です。都市とモビリティの関係は密接で、地方の高齢化や過疎化、一方で都市の複雑さに起因する事故、渋滞などを考えると、自動運転を含めたモビリティの高度化は必要になるでしょう。その際、移動の地域特性や必要な行政サービスなどは、人流データや住民データなどと突き合わせながら、その都市に合った仕組みをつくる必要があります。都市OSを通じて自治体サービスとモビリティがつながることで、地域の経済や暮らしそのものを良くしていく。そこには大きな可能性があると思っています。
もうひとつは、不動産や建設の領域です。現在は建築コストも上昇しており、建物を建てるだけで事業を成立させるのが難しくなっています。重要なのは、建築後にビルや街区で生まれるデータを使って、どう資産価値を上げるかです。住む人や働く人、訪れてくれる人を増やし、賑わいを生み出すために、パーソナルデータなども適切に活用して、建物が完成した瞬間から、新しい体験を日々得られる仕組みが出来上がっている。その基盤となるのが都市OSです。

——最後に、阿多教授が考える、理想の都市OSのあり方を教えてください。
阿多氏:理想は、都市OSの存在を感じさせないようにすることです。生活の中でやり取りしていると自然にデータが集まり、必要なときに活用される。私がよく使う言葉は「小さなお悩みをどれだけ解決できるか」です。スマートフォンも一つのアプリで全部をやっているわけではなく、用途に応じて使い分けています。都市OSでも同じことを実現するべきです。

都市OSが整備され、生成AIを使ったシステムと連携されれば、劇的な進化をもたらします。例えば、街を歩いていて汚い場所を見つけたら、それを都市OSと連携しているアプリで呟けば清掃車がやってくる。そんな、「対話するビル」「対話する都市」のような未来が実現するかもしれません。
OPEN HUB
THEME
Smart City
#スマートシティ