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2026.10.16(Fri)
目次
――最初に、NTTドコモの災害対策室が担う役割と業務内容から教えてください。
NTTドコモ 災害対策室 河口誠(以下、河口):災害対策室が扱う事象は、大きく2つに分かれます。1つは自然災害によるネットワークの故障、もう1つは装置の故障です。こうした事態が発生したときに、迅速かつ確実に対応することが最大のミッションです。もちろん、平時の備えも重要で、普段からネットワークを強靭化するために何が必要なのかを検討したり、災害発生を想定して必要な物資を準備したり、自治体や民間企業と協定を結んだりしています。災害が起きてから考えるのではなく、通常時から緊急時に備えておくことが災害対策室の重要な仕事です。

――重谷さんは、NTTドコモビジネスで能登復興支援プロジェクトチームの担当部長も務められています。NTTドコモビジネスの災害対応についてお聞かせください。
NTTドコモビジネス IoT&フィジカルAIサービス部 重谷剛史(以下、重谷):NTTドコモが通信インフラそのものの復旧を担うのに対し、NTTドコモビジネスは、法人のお客さまと向き合う会社なので、災害時もお客さま対応班として動きます。
災害が起きれば、県や市町、企業などでは、さまざまな業務上の課題が発生します。そこにデジタルツールを組み合わせ、復旧を1日でも早める。通信インフラの復旧はもちろん、その先にある地域の産業や行政活動を立ち上げ、復興につなげていく。そこまで含めて支援していくことが、私たちのミッションだと考えています。
――近年、災害時の通信断絶が社会に与える影響は、どう変化していると感じていますか。
重谷:2011年の東日本大震災と比較すると、その影響は格段に大きくなっています。当時はまだモバイル通信もフィーチャーフォンが中心で、被災状況把握や安否確認などの通信は音声通話が中心でした。いまは、多くの方がスマートフォンを持っています。災害が起きたときも、家族とLINEなどのメッセージアプリで連絡を取って安否確認をしたり、現地の被災状況を写真や映像で伝えたりします。個人の利用だけに留まらず、物流、行政、医療、企業活動など、社会を動かす多くの仕組みも、通信を前提に成り立っています。

――災害時に通信が止まるのは、基地局が破損するからなのでしょうか。
河口:そうではありません。大きな要因は、停電と伝送路の断絶、つまり、基地局に電力が届かなくなる、あるいは基地局とネットワークを結ぶ光ファイバーなどが切れることによって、サービスを提供できなくなることです。そのため、重要な基地局では大容量バッテリーで電源を強化したり、伝送路を冗長化したりして、そもそも止まりにくくする取り組みを重ねています。とはいえ、大規模災害による影響を完全になくすことは簡単ではありません。
重谷:実際、能登半島地震では、サービスエリアが通常時の3割にまで縮小しました。当然、止まったら復旧のため基地局に直接赴くのですが、それが難しい。半島なのでアクセスできる道路が限られていますし、道路そのものが寸断されることもありました。そのため、どの道が通れるのかという情報を行政や自衛隊と連携して把握することから始めました。
河口:沿岸部などでは、現地へ行くこと自体が難しい場所があり、KDDIと連携し船上基地局を設置。海から通信を確保するといった対応を取りました。こうしたときに重要なのが自治体や自衛隊、ほかの通信事業者をはじめとする関係機関との連携です。NTTドコモは各支社にも災害対策室があり、常に自治体との関係づくりを進めています。災害が起きてから連携を始めるのでは間に合わないため、平時の関係性が復旧のスピードに影響します。
――実際に通信が途絶えた場合、どのような方法で復旧させていくのでしょうか。
河口:基地局が破損した地域には、移動基地局車を派遣するのですが、道路が壊れていたり、倒木があったりすると、大型車では入れないことがありました。その経験もあって、現在は軽自動車に近いサイズの小型移動基地局車の導入も進めています。
ただ、一つの方法だけを使うわけではありません。地形や道路状況、必要な通信容量、通信の目的などを勘案して、複数の手段を使い分けます。例えば、多くの方が集まる避難所であれば移動基地局車を使いますが、人数が少なければ高度約300~2000kmを周回するLEO(低軌道衛星)を活用した衛星ブロードバンドインターネット「Starlink」を設置するという選択肢もあります。
また、大規模災害・停電時に人口密集地の通信を確保するため、通常の基地局とは別に、半径約7kmのエリアをカバーする災害時専用の「大ゾーン基地局」も全国105カ所に設置しています。今後は、Starlink以外にも、衛星ブロードバンドインターネット「Amazon Leo」や高度約20kmの成層圏に滞空する空飛ぶ基地局「HAPS(高高度プラットフォーム)」なども含め、技術の進歩に合わせて災害対応の選択肢を増やしていくことが重要だと考えています。
――Starlinkの活用について、もう少し詳しく教えてください。
重谷:モバイル通信が使えない避難所や駅などにStarlinkを持ち込み、Wi-Fiを介してインターネットを利用できる環境を構築しました。ただ、能登半島地震では、Starlink自体が一般に知られていなかったこともあり、機材を自治体へ届けただけでは、すぐに設置できないことがあったんです。「機材の設定方法」「アンテナの設置場所」といったノウハウがまだ十分に共有されておらず、NTTドコモグループのシステムエンジニアが避難所を回りながら設置に協力しました。
――その経験は、その後の熊本地震での対応にも活かされましたか。
重谷:能登で経験を積んだことで、NTTドコモのネットワーク担当者だけでなく、NTTドコモビジネスのメンバーにもStarlinkを設置するノウハウが蓄積されました。熊本地震では、現場へ機材を持っていき、電源を確保できれば比較的迅速に設置できるようになっています。また、自治体の方々を含め、Starlink自体の認知度も能登のころより高まっています。ただし、認知されていることと、災害発生時にすぐ使える状態で準備できていることは別です。だからこそ、常日頃から実際に使い、扱いに慣れておくことが重要になります。
――今後、期待されているHAPSとは、どういった技術なのでしょうか。
河口:簡単にいうと、高度約20kmに通信基地局を滞空させて、上空から広いエリアへ通信を届ける仕組みです。StarlinkやAmazon Leoよりも地上から近い分、高速で安定した通信により、大容量の画像なども扱うことができます。また、Starlinkや移動基地局の場合、基本的には必要な設備を現地まで運ぶ必要がありますが、能登半島地震のように道路が寸断されると、「現地まで持っていく」こと自体が課題になります。HAPSであれば、空から通信エリアを構築できる可能性があります。災害対策としての本格的な活用はこれからですが、機動性の高い手段になると期待しています。

重谷:能登では今後、災害時だけではなく、平時から使うことを想定した気球型HAPSの実証実験を行います。StarlinkもHAPSも、いざというときに使えるようにするためには、普段から慣れておくことが重要。能登の復興や産業振興の中で、StarlinkやHAPSをどのように使えるのかを考えていきます。
能登では農業や水産業が盛んです。例えば、これまでネットワークが届きにくかった場所を通信エリア化し、IoTによるセンシングに使う。海であれば、水温などのデータを取得して水産業に活用する。日常的に使用するネットワークであれば、災害が起きたときにも使い方がわかります。これが結果的に地域の通信レジリエンスを高めることにつながります。
――通信が復旧しただけで、社会が元に戻るわけではありません。通信を活用した技術やソリューションで、どのように地域の復旧を後押しするのかを教えてください。
重谷:ここからがNTTドコモビジネスの役割でもあります。まずNTTドコモが通信インフラを復旧する。その通信を使い、デジタルサイネージ、IPトランシーバー、ドローンなど、さまざまなソリューションを使って自治体や地域の活動を支援します。
なかでも、能登半島地震で初めて避難所に導入したのがデジタルサイネージです。スマートフォンを使える方であれば自治体のWebサイトなどから情報を得られますが、すべての方が同じように情報を取得できるわけではありません。特に高齢者の方には、「大きな画面で情報を確認できる」と喜ばれました。
以前であれば、自治体の職員が紙を印刷し、一つひとつ避難所を回って掲示板に貼り出していましたが、デジタルサイネージがネットワークにつながっていれば、市役所などから情報を更新できます。災害時、自治体職員には非常に多くの業務が発生しますから、情報伝達の効率化という意味でも効果があります。
能登半島地震で評価が高かったので、熊本地震でも早い段階で展開しました。例えば、八代市、宇城市、氷川町など、それぞれの自治体・避難所に合わせた情報を表示。一斉配信することもできますし、特定の避難所だけに必要な情報を出すこともできます。災害対応のノウハウを全国で共有できることは、NTTドコモグループの強みだと思います。
一方、熊本地震で初めて導入したのが「AIカメラ」です。避難所の防犯目的で宇城市に設置しましたが、これからは転倒検知や人数把握にも活用範囲を広げたい。映像を人が一つひとつ見るだけではなく、「倒れている人がいる」「通常とは異なる動きがある」といったことをAIで検知する。避難所への出入り人数を把握して、職員配置や物資の量を考えるといった活用も考えられます。

――能登半島地震では、避難者の把握も大きな課題になりました。
重谷:災害が起きると、必ずしも全員が指定避難所に集まるわけではありません。さまざまな場所へ分散して避難するため、「誰がどこにいるのか」「どの場所に何人いるのか」を把握することが難しくなります。
そこで重要になるのが、マイナンバーカードなど既存のデジタル基盤を活用し、住民の状況を把握できる仕組みです。現在、石川県では能登6市町を対象に住民参加型サービス「のとピット」を構築しており、マイナンバーカードを活用して住民の状況を把握できる仕組みを推進しています。
平時には、公共施設や商業施設に設置されたQRコードを読み取ることで、ポイントを獲得できます。歩数計測アプリ・みまもりメール・ポイントサービスなどと連携できるので、日常生活における住民サービスにもつながります。そして、災害発生時には、この仕組みを利用して、物資の受け取りや入浴施設の利用状況を把握して、避難所運営などを支援します。
――災害時のレジリエンス対策を進めるうえで、自治体や企業は何に留意すべきでしょうか。
重谷:お客さま側の視点で言えば、平時から備えておくことに尽きます。Starlinkなども含めて複数の手段を確保しておく。誰がどこにいるかを日常的に把握できる環境をつくる。自治体などは、ドローンで撮った映像にAIを掛け合わせれば被災状況を瞬時に把握できますが、日常的に飛ばしていなければ操縦もできません。そこで、インフラ点検などで日常的に使っておく。理想は、危機管理部門だけでなく、各部署が使える環境をつくること。それがレジリエンスにつながります。
――今後、AIやIoTの利用がさらに広がれば、通信への依存はますます高まります。その中で通信のレジリエンスをどう進化させていくのでしょう。
河口:衛星画像から道路の状況を把握したり、AIを活用して被害を予測したりすることも考えられます。災害が起きた後の復旧だけではなく、新しい技術を活用して、どうすれば被害を小さくできるかまで進化させていくことが重要だと思います。
重谷:フィジカルAIやロボットも今後は重要になるでしょう。加えて、NTTドコモグループにはデータという強みがあります。例えば平時の人流データを持っていれば、災害時にどこへどれだけの人が移動するのか、どこに帰宅困難者が集まりそうかを予測できます。実際、東日本大震災後には人流データを分析し、帰宅困難者向けの備蓄をどう配置するかといった検討にも活用されました。
――最後に、今後どのような災害対応をめざしていきたいと考えていますか。
河口:近年は特別警報級の大雨が毎月のように発生し、規模も大きくなっています。人命救助の生存率が低下すると言われる72時間以内の復旧を心掛けていますが、自分たちだけでできることには限りがあります。そのためにネットワークを強くし、新しい技術を取り入れ、さまざまな企業・団体と連携していきます。
重谷:私たちは通信インフラの復旧だけを見ているわけではありません。通信を確保した上で、交通、教育、医療、行政、地域産業など、社会を構成するさまざまな活動をどう支えるかを考えています。
通信を切らさないことは大前提です。しかし本当に重要なのは、通信がつながっているからこそ、その先にある社会の営みを止めないことです。普段の生活で便利な仕組みが、災害時には命や暮らしを守る仕組みになる。そうした街を、自治体や企業の皆さまと一緒につくっていくことが、NTTドコモグループとしてできることだと考えています。
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