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2024.04.20(Sat)
目次
――昨今、データスペースへの関心が高まっている理由を教えてください。
NTTドコモビジネス 平野敏行(以下、平野):主に「サステナビリティ規制対応」「サプライチェーンの強靭化」「AI/AIエージェントの企業間連携」の3つが挙げられます。
1つ目の「サステナビリティ規制対応」は、とくにヨーロッパの環境規制の厳格化をきっかけに広がっている動きです。企業は製品のライフサイクル全体を通じて、サプライチェーンの各段階で発生する環境負荷を記録・管理し、開示することが求められるようになってきました。代表的なものがCO₂排出量の算定です。これには自社の排出量だけではなく、サプライチェーン全体の排出量を把握しなければなりません。企業単体で完結できるものではなく、必然的に企業間のデータ連携が重要になります。
2つ目の「サプライチェーンの強靭化」も重要な課題です。近年は、地政学リスクや自然災害、半導体不足などにより、サプライチェーンが寸断され、生産計画の策定が困難になっています。直接取引しているサプライヤーならまだしも、その先にある二次・三次サプライヤーの状況まで把握するのは、データ連携なしには実現できません。

さらに、生成AIの爆発的な普及により、3つ目の「AI/AIエージェントの企業間連携」の機運が一気に高まっています。ここ最近、AIエージェントを導入する企業が増えていますが、いずれは各企業のAIエージェント同士が自律的に取引を行うようになると考えられています。
今後は、AI/AIエージェントが他社データを参照したり、AIエージェント同士が企業の垣根を越えて連携する際の基盤としてデータスペースが利用される可能性があります。AIエージェントの企業間取引はまだ実証実験レベルではありますが、データスペースという共通基盤が整備されれば、実装がさらに加速すると見こんでいます。

――企業が特定のプラットフォームを通じてデータを共有する仕組みはすでに存在します。データスペースは、こうした従来型のデータ基盤とどのような点で異なるのでしょうか。
平野:従来のデータ共有基盤は、中央集権型であることが一般的です。各企業がデータを一つの共通基盤に集約し、その基盤の管理者がアクセス権限を管理します。一方、データスペースは分散型・自己主権型です。データは各企業が自らの環境に保持したまま「コネクタ」と呼ばれる通信制御ソフトウェアを介して、合意した相手とのみ共有します。つまり、データを一カ所に集めるのではなく、各企業がデータの主権を維持したまま、安全に連携できるわけです。
もちろん、すべてのデータがオープンになるわけではありません。誰に、どのデータを、どの範囲まで共有するかを細かく設定できるほか、共有先企業の身元を確認したうえでデータをやり取りできます。

――実際のところ、データスペースはどの程度、普及しているのでしょうか。
平野:世界的に見ると、やはりヨーロッパがこの領域のトップランナーで、他地域に先んじて取り組みが進んでいます。冒頭でお話しした「サステナビリティ規制対応」や「サプライチェーン全体の強靭化」などの観点から、ドイツの自動車業界では「Catena‑X」というデータスペースの運用がすでに始まっています。
「Catena‑X」は官民連携のコンソーシアムとして、技術開発や基盤構築のフェーズにおいて、ドイツ政府から約1億1,000万ユーロの公的資金が投入された巨大プロジェクトです。サプライチェーンは世界中に張り巡らされているため、フランスやスウェーデンといった欧州各国の企業も次々と参画。異なるシステム間をスムーズに接続する「相互運用性」を確保することで、欧州全体へと広がりを見せています。
「Catena‑X」の評価すべきポイントは、自動車業界以外の製造業へのデータスペースの展開にもつながっていることです。Catena‑Xを雛形として、化学業界に特化した「Chem‑X」や、航空宇宙業界向けの「Aerospace‑X」といったデータスペースに派生しています。
――日本国内の企業は、こうしたデータ連携基盤とどう向き合っていくべきでしょうか。
平野:データ連携基盤を導入するにあたり、企業には「守り」と「攻め」の2つのシナリオがあると考えています。「守り」は、法規制や顧客からの要請に対応するため、必要最低限のリソースとコストで導入するケースです。
一方、「攻め」のシナリオでは、データ連携基盤を競争力の強化につなげます。データ連携を前提に業務プロセスを見直し、自社が保有するデータを競争力の源泉として活用していくアプローチです。こうした取り組みを進めるのであれば、データ連携技術を早い段階から検証するとともに、自社システムとの統合シナリオを準備しておくことが重要になります。さらにその先には、自社のデータ資産や他社との協業、AIエージェントなどを活用し、新たなビジネスやサービスを創出していく可能性も広がっています。

――スマートシティ領域におけるデータスペース活用の可能性について、教えてください。
平野:ヨーロッパでは、製造業のように一つの業界を起点として展開するのではなく、さまざまな分野でデータ連携が進み、その活用範囲がスマートシティ構想へと広がっている印象があります。
具体例として、ドイツの「Mobility Data Space」(MDS)が挙げられます。このプロジェクトにはBMWやメルセデス・ベンツといった自動車メーカーが参画しており、コネクテッドカーから取得できる位置情報や操作履歴、EVの充電場所などの膨大なデータを、都市側が保有するデータと組み合わせて活用しています。
例えば、コネクテッドカーの匿名化されたデータを監視カメラや交通渋滞情報と統合することで、空いている駐車スペースを可視化したり、その情報をドライバーへリアルタイムにフィードバックしたりすることが可能になります。また、急ブレーキが多発している場所を特定できれば、ヒヤリハットや道路の安全対策にも活かせるでしょう。

――データスペースの概念が、都市インフラにも広がっているわけですね。
平野:経済産業省が主導する日本のデータ連携基盤「Ouranos Ecosystem」でも、スマートシティ・モビリティ領域でのデータ連携を視野に入れています。例えば、スマートメーターから取得した電力データを需要予測や省エネルギー、災害対応などに活用するユースケースが検討されています。そのほか、データ連携によるドローン航路の最適化や、地下埋設インフラ設備情報の共通化、自動運転車両の安全運行や物流効率化を目指す取り組みも始まっています。
なかでも興味深いのがドローンの運行管理です。地図情報に高さの軸を加えて三次元化し、さらに時間軸を持たせた「四次元時空間ID」としてデータを管理します。この共通のIDのうえにドローンの飛行計画や機体情報、運行ルールをひも付けておけば、飛行前に関係者間の調整を効率よく行え、安全な航行調整や空域のシェアリングが可能になります。ドローンを飛ばす際の関係者調整は本来とても煩雑ですが、共通基盤があれば大幅に簡素化できるのです。
一方で、民間企業もスマートシティ・モビリティ領域でのデータ連携に力を入れています。当社が具体的に進めているのが、「Smart Data Platform for City(SDPF4City)」を中心としたスマートシティ基盤です。一つのビルを起点に、ビル内の設備やセンサー、カメラ、ロボットといったフィジカルな情報から、利用者の動きやイベント・アンケートの情報まで、これまで分散していたデータを連携させ、AIで統合的に分析・活用できるようにしています。単にデータを集めるだけでなく、レポートの自動作成や、対話型アシスタントによる案内、ビル運用事業者への改善提案まで踏み込んでサポートします。
これは一つのビルで完結する話ではありません。複数のビルのデータソースが安全につながれば、街全体での横断的なデータ活用が進みます。さらに、警備・清掃・配送といったロボットや、エレベーター、入退場ゲート、サイネージなど、メーカーの異なる機器を共通的に管制するAIプラットフォームの実証も進めています。物理空間で動くフィジカルなサービスまでを束ねていく構想です。
今後は、こうした民間主導の取り組みと公共主導の取り組みが相互に連携し、スマートシティのエコシステムへと発展していくのではないかと考えています。

――スマートシティ版データスペースはどのように形成されていくと考えていますか?
平野:スマートシティには、自治体や交通事業者、電力・水道などのインフラ事業者、物流事業者、さらにはビル運営会社など、多様なステークホルダーが存在します。それぞれが保有するデータの主権を守りながら、必要な相手と安全にデータを共有できる仕組みが必要です。その基盤として有望な技術がデータスペースです。
スマートシティの領域では、すでに「都市OS」や「ビルOS」と呼ばれる個別の基盤が動いています。データスペースの考え方は、その上位にオーバーレイするかたちで機能します。各基盤をまたいで、データ提供者と利用者の間に明確なルールや合意、場合によっては対価の設計を持ち込めるため、オープンデータとしては扱えないような機密性の高い産業データまで、安全に流通・活用できるようになります。個別サービスの寄せ集めではなく、都市全体を一つのシステムとして見立てられるようになるのです。
――データ経済圏の実現に向けた、NTTドコモビジネスのビジョンを教えてください。
平野:私たちが目指しているのは、データスペースによって、製造業や物流、スマートシティ、モビリティ、ヘルスケアといった異なる業界同士が連携できる世界です。業界ごとのデータ活用にとどまらず、分野を超えたデータ連携によって新たな価値を生み出すことが重要だと考えています。
その実現の鍵になるのが「トラスト(信頼性)」です。フィジカルAIやAIエージェントがデータをもとに判断し、さまざまなサービスを連携させながら人を支えていく世界では、「誰がそれを指示したのか」「そのAIは信頼できるのか」「どのデータにもとづいて判断したのか」を確認できる仕組みが欠かせません。
当社は、AIとデータを安心して活用できる社会の実現に向けて、これらの信頼性を技術面から支えていきます。通信事業者として培ってきたネットワーク、クラウド、セキュリティの知見に、データスペース、AI、認証・認可などの技術を組み合わせられることが、当社の強みです。こうした技術を活用しながら、業界を超えたデータ連携を実証実験で終わらせるのではなく、社会インフラとして定着させていきたいです。
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