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2024.04.20(Sat)
目次
Interop TokyoでのIOWN展示は2023年にNTTが実施し、翌2024年からはNTTドコモビジネスがその役割を引き継いで発信を続けてきました。出展全体を統括する、NTTドコモビジネス イノベーションセンター IOWN推進室の平本 将也は「IOWNの認知を広げる『知る』から始まり、徐々に『実際に使える』という段階へと進めてきました」と説明します。そして今年のテーマがIOWNを「広げる」です。

その狙いについて、平本はIOWN APNの本質に紐づけて説明します。「IOWN APNは、離れた拠点間をつなぎ、リアルタイムに大容量のデータをやり取りできることに大きな価値があります。今回は、既にさまざまなサービスに活用されているIOWN APNの価値を実際に感じていただくため、展示会場と全国の拠点をIOWN APNで接続したリアルタイムの動態展示を展開し、来場者の皆様にIOWNの可能性を体感していただきたいと考えました」
今回のブースは、9つの展示にセミナー・対談コーナーとIOWN全体紹介を加えた構成。注目は、このうち5つの展示が、イベント会場である幕張と全国にあるNTTドコモビジネスの拠点を実際に結んだ動態展示である点です。全国の拠点をIOWN APNで結んだ合計距離は約1万kmにおよび、Interop史上最長の動態実証として、「Best of Show Award」APN部門のグランプリを受賞しました。
展示ブースの目玉の1つが、AIインフラ領域の「GPU over APN Testbed」です。生成AIの普及でGPUの需要は急速に高まっていますが、GPUサーバーを増やそうとすると、電力・冷却・設置スペースといった制約が単一のデータセンターに重くのしかかります。
その解決策の1つが、複数拠点をつなぐ分散型データセンターです。しかし拠点が離れるほど通信に遅延が生じ、GPUの処理性能に影響します。こうした従来のネットワークでは難しかった課題に応えるのが、IOWN APNです。
IOWN APNを使えば大容量データを低遅延で送れるため、離れた拠点のGPUがあたかも1つのデータセンター内にあるかのように、高いパフォーマンスで利用できます。実測値ベースで見ると、拠点間の転送帯域は福岡〜横浜間で98.3Gbps、全データセンター間の平均で95.5Gbps。分散推論の応答性能は、単一データセンター内と比べてReqLat(リクエスト遅延)の差がわずか−0.01%、ITL(トークン間遅延)の差も0.34%以内に収まり、「ローカルと変わらない性能」を裏づけました。
展示を主管するNTTドコモビジネス(イノベーションセンター IOWN推進室 担当課長)の野山 瑛哲に、想定する顧客と狙いを聞きました。

──GPU over APN Testbedについて、改めて教えてください。
野山:GPU over APN Testbed は、札幌・金沢・福岡・大阪・東京近辺などの全国8拠点を、IOWN APN(100Gbps級)で接続した実証基盤です。仮想マシンとKubernetesの両方に対応し、マルチテナントで環境を切り出して提供できます。NTTドコモビジネスはこの基盤を、半年で構築しました。

──ブース展示内容と、どのような課題を持つお客様に価値を届けたいかを教えてください。
野山:今回、ブースでは(1)APN網・データセンター状態を可視化するダッシュボード、(2)APN越しの分散推論、(3)広帯域転送、(4)PoCの設計・運用を伴走するAIエージェントの4つのデモを展示しました。
想定しているユースケースは、たとえば東京のデータセンターが使えなくなったときに札幌へ処理を逃がしたい、山間部などに分散したい、といったニーズです。AI活用を広げたくても、データセンターに限界があり、要求が満たせない。そうしたお客様が、拠点間をリアルタイムにつなぐ分散システムを求めています。5~10年後を見据えて分散化のマイルストーンを描く企業の方々に、共感していただいています。
──読者へメッセージをお願いします。
野山:分散環境でのAI学習から推論まで、さまざまな用途で対応できるよう整備を進めています。すでに実証に進める段階にあり、具体的なユースケースをお持ちのお客様とは、PoCを通じて活用可能性を検証していきたいと考えています。
続いて、3つからなる量子系の展示を見ていきましょう。量子安全なIOWNのセキュリティ技術をSIMカードに組み込んだ相互認証システムの主管である、NTTドコモビジネス イノベーションセンター IOWN推進室 エバンジェリストの森岡 康高に聞きました。

──量子技術のセキュリティ領域への応用にはどんな背景があるのですか?
森岡:背景にあるのは、暗号の「危殆化」です。危殆化とは、これまで安全と考えられてきた暗号方式が、計算機の性能向上や新たな解読手法の登場によって、安全性を保てなくなることを指します。量子コンピュータが2030年代から本格的に実用化されると、これまで暗号化して送ってきたデータが容易に解読されかねません。こうした状況下で、米国、EU、英国、オーストラリア、カナダは、2035年までに既存の暗号アルゴリズムを新しいものへ移行すると宣言しています。日本は少し出遅れていますが、おそらく年内には方針が示されるはずです。
──展示内容について改めて教えてください。
森岡:今回のデモ内容の特徴は、暗号アルゴリズムをPQC(耐量子暗号)へ入れ替えるだけでなく、両者がお互いを認証し合う「相互認証」まで量子安全にした点にあります。暗号通信を量子安全にした会社は増えてきましたが、相互認証まで踏み込んで実装できたのが最大のポイントです。
──具体的な相互認証のユースケースを教えてください。
森岡:スマートフォンやIoT、ドローンなどのデバイス間で、正しい相手同士であることを確かめ合います。低処理負荷で実装する技術は特許出願中で、SIMを差し替えるだけで導入でき、クラウドから提供されます。
デモでは、攻撃者の端末がIDとパスワードを盗んでも、Quantum Safeを有効にすると相互認証が通らずタイムアウトし、ログインできないという流れを実際に見ていただきました。端末を紛失した場合は、サーバー側からそのSIMを使えないように設定できます。

──今年の来場者の反応はいかがでしたか。
森岡:2、3年前は、PQCやQuantum Safeと言ってもピンとこない方が大半でした。それがこの1年ほどで理解が一気に進み、今年は『この言葉を見て来場しました』という方が増えました。
──導入はどのように進みますか。
森岡:今年度はPoCができるお客様と一緒に実績を積み、ノウハウを蓄積し、1年後を目処に実ビジネスへ持っていきたいですね。移行の期限が決まっているので、『試したい』というより、実導入を見据えた具体的な検証をイメージしています。
続いて、ダッソー・システムズとコラボレーションした産業DXの展示です。製造業では3DCADによる3D設計が一般的になり、数GBから数十GBにおよぶ大容量データを扱う一方、こうした大きなデータの取り扱いが課題となっています。そこで、産業DX領域の主管である、NTTドコモビジネス イノベーションセンター IOWN推進室 担当課長の羽石 正則に聞きました。

──従来のネットワーク技術の課題についてお聞かせください。
羽石:コンピューターグラフィックスは、データが複雑で共通部分が少ない傾向があるため、圧縮効率が上がりにくい特徴があります。例として3DCADの圧縮が難しい約50GBのデータをそのまま扱おうとすると、従来のネットワークでは遠隔での共同作業は極めて困難でした。結果として、設計レビューのたびに関係者が対面で集まる必要があり、移動コストと時間が課題になっていました。
そこで、ダッソー・システムズの3D EXPERIENCEプラットフォームを、IOWN APNの上に乗せ、非圧縮のまま低遅延で送る仕組みを構築。これにより、離れた拠点でも同一モデルをリアルタイムに共有・編集できるようになります。

──ダッソー・システムズとの協業について詳しく教えてください。
羽石:2025年12月、IOWN APNを活用し、世界で初めて3DCADを用いたリアルタイムな遠隔共同作業の実証に成功しました。武蔵野市の東京第11データセンターと、大手町プレイスのOPEN HUB ParkをAPNで接続したこの実証では、同一ビル内で接続した場合とほぼ同等の性能を確認しました。さらに、3DCADの編集環境が同期される速度は、従来のインターネット経由と比べて最大約500%向上しました。
──今年の展示内容について教えてください。
羽石:会場では幕張と福岡・名古屋を結び約1,000km離れた福岡のクライアント画面をリモートデスクトップで表示し、幕張側と共同操作する様子を披露しました。「これまでは実用にならなかったものが、ここまでスムーズに動くのか」とお客様に驚いていただいています。
──課題を持つお客様へメッセージをお願いします。
羽石:いまCADを活用されている製造業だけでなく、建築、土木、都市開発など幅広い分野で活用できると考えています。場所の制約を超えた協働を実現し、デジタルツインの活用を広げていきたいと思います。
AIインフラのもう1つの動態展示が、長距離間のリアルタイムデータ同期です。IOWNと日立のストレージ仮想化技術を組み合わせ、会場では幕張(千葉)側と大阪側をAPNで結びました。読み込みと書き込みの業務を続けながら東京側で障害を発生させると、クラスタソフトがこれを検知し、大阪側へ自動的に切り替わります。人手を介さず業務が継続される様子が示されました。

産業DXでは、低遅延・高精細の空間デバイスをAPNで接続した「OPEN HUB Window」も体験できました。デモでは、幕張と名古屋、広島、九州、北陸と複数の拠点を結び、4K・等身大の映像と音声に触覚を重ねて伝送しました。遠隔地のアイドルやスポーツ選手とのファンイベント、リモート接客などが想定シーンです。

触覚と3D映像を組み合わせた「リアルハプティクスロボ」は、幕張と東京・大手町を往復約140kmで結び、握る・挟むといった感覚を双方向に伝送します。スポンジを挟んだ手応えが反対側に跳ね返り、遠隔手術や、重機の遠隔操作といった精密作業への展開を見据えます。
このほか、AIインフラの基盤技術として光電融合デバイス「PEC-2スイッチ」を展示。通信の高速化で消費電力のボトルネックになる電気配線を、PEC-1から段階的にデバイス内部まで光化し、低電力化を狙います。また、光量子コンピュータも出展しました。いずれも持株会社であるNTTが主管する取り組みで、光量子コンピュータはスタートアップのOptQCと連携しています。
IOWNブースでは、展示とあわせて全19のセミナー・対談を開催し、延べ1,000名を超える来場者を迎えました。セッションでは、AIインフラ、量子セキュリティ、データセンター連携、産業DXなど、多様な分野の専門家が登壇し、最新技術や取り組み事例、IOWNへの期待を紹介しました。

また、Interop Tokyoの相互接続ネットワークを構築するShowNetメンバーからの講演では、ドコモビジネスから提供したAPN(All Photonics Network)やGPU over APN等の、ShowNetでの実際の構築・運用現場で得られた知見やチャレンジについて共有されました。各分野の専門家による知見や実践事例の共有を通じて、業界横断での課題解決や新たな価値創出に向けたIOWN活用の可能性を示しました。
今年のテーマ「IOWNを広げる」が示したのは、IOWNがすでに社会実装の段階に入ったという現在地です。全国拠点を結んだ動態展示と、APN部門グランプリの受賞は、IOWNが将来構想ではなく「いま使える技術」へと進んだことを意味します。GPU over APN Testbedをはじめ各展示は、PoCや共同検証のパートナーを募っており、分散AI基盤、次世代セキュリティ、産業DXといった切り口から、自社の課題に当てはめて検討いただける展示内容となりました。

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