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2025.03.06(Thu)
この記事の要約
日本のDX停滞の背景には、依然根強いタテ割り構造がある。西山氏はDXを産業全体の変革=IX(インダストリアル・トランスフォーメーション)と捉えながら、生成AIは部門横断的に活用可能な「ヨコ割り技術」であり、そうした技術を活用したサイロを超えた情報流動性の実現がIXには不可欠だと指摘する。一方、生成AIの民主化が進み、現場や若手が主体となる活用が広がりつつある。イノベーションにはマネジメントが打ち手を指示するのではなく、未来像を共有して現場主権を後押しする姿勢が重要である。属人的な「秘伝のタレ」を開放し、抽象的なレイヤーで業務を再定義する発想が、新たなサービスやビジネスモデル創出の鍵となる。さらに日本は公共性やフェアネスを強みとし、理念面でリーダーシップを発揮することでグローバルに存在感を高める余地が大きい。
※この要約は生成AIをもとに作成しました。
――西山さんは著書『DXの思考法』で、DXは単にツールやテクノロジーの話ではなく、「産業丸ごとの転換(IX=インダストリアル・トランスフォーメーション)が必要である」と説かれています。「そのためにも日本の組織に根強く残るタテ割り構造の打破が不可欠だ」とも。本書の発刊から4年たった今、日本のデジタルビジネスの現在地をどのように捉えていますか?
西山圭太氏(以下、西山氏):コロナ禍を経てDXの機運がさらに高まり、4年前より実際にDXを進めた企業や自治体が増えたのは間違いないですよね。ただ、「組織のタテ割り打破」を含めたIXが推進されたかというと、まだまだ道半ば。いまだタテ割り文化が根強く残り、それが日本のDX、ひいてはデジタルビジネスが世界にますます後れをとっている要因にもなっています。
とくに4年前と比較すると、企業経営の現場で生成AI活用の必要性が説かれている割に、サイロ化の打破は進んでいません。タテ割りのままでも部分的な業務効率化は可能ですが、新たな価値を創出するためには、タテ割りにもとづいた今の企業経営を変革してビジネスモデルそのものにイノベーションを起こす必要がある。
そのためにはまず、ChatGPTのようなAIチャットにしろAIエージェントにしろ、AIが「ヨコ割り」の技術であることの価値を理解するところから始めなければなりません。

――AIが「ヨコ割りの技術」とはどういうことでしょうか?
西山氏:そもそも、あらゆる生成AI技術は、「創薬に活用できるかもしれない」「すてきなポエムが書けそうだ」「効率的な新しい在庫管理が実現できるに違いない」といった、それぞれの個別ケースに特化した技術ではありません。
なので、発想次第、組み合わせ次第で「部門も職域も関係なく、誰でもどこでも使いこなせるアプリ」ができる。それが「ヨコ割りの技術」です。そうしたヨコ割りの発想によってサイロを超えた情報の流動性を実現し、全社を最適化して開発のスピードを上げ、事業を爆発的に成長させてきた最たる例がビッグテックですよね。
つまり「ヨコ割りの技術」というのは、「これさえあれば何でもできるんじゃないか?」と、サイロを超えてビジネスの本質を抽象化する発想と相性のいい技術なのです。だからこそ汎用性も高く、あらゆる産業、社会にインパクトを与える。「どんな機能(アプリ)も取り込める」スマホが急速に浸透したのも、同じ理由でしょう。

では、なぜ日本はそれができないのか。直近の例でいえば、コロナ禍のときに、給付金システムがスムーズにできませんでしたよね。その原因はどこにあるか、を考えるとわかりやすいと思います。
――コロナ禍の給付金ですか?
西山氏:そうです。本来、コロナ禍の対応であろうとなかろうと、給付金の仕組みは「ある一定の条件を満たせば、国のお金を個人や法人の口座に振り込む」ものでしかない。中小企業庁でも他の省庁でも、以前から補助金、給付金はあったわけだから、基本的な仕組み自体は共通化して整備できるはずでした。
ところが、それをしてこなかった。タテ割りで省庁ごとに、制度もシステムもバラバラにつくってきたためです。だから、実は骨組みは本来共通の給付金を緊急に支給する必要が出てきたのに、またいちいちゼロから制度と仕組みをつくるのに手間と時間がかかってしまった。
――企業や社会の構造がタテ割りでそれぞれ独自に進化してきたことで、DXにしろ生成AIにしろ、本来の汎用的な価値を発揮しにくくなっているわけですね。
西山氏:「業種」「会社」「事業部」といったタテ割りありきでは、中身がどんどん狭い範囲でタコツボ化するばかりで、いつまでもヨコ割り技術による標準化のダイナミズムを活かせません。いわば「太りながら痩せたい!」といっているようなもので、論理矛盾に陥ってしまっているのです。いや、私だって太ったまま痩せられるなら最高だと思っていますけどね(笑)。ムリな話です。
――一方、荒川さんはビジネスの現場で、まさに生成AIを含めたDXの推進を図っています。意欲的な企業や組織から依頼が多いとは思うのですが、どこかで「タテ割り」の構造や意識がボトルネックになる局面は実際にあるものですか?
荒川大輝(以下、荒川):もちろん企業によって濃淡はありますが、見受けられる機会はあります。「自分たちの業務やスキルを代替する方法として、生成AIを使えないか」という発想で、「社内ドキュメントの検索に使えたらいい」「今の業務が効率化できたらいい」と考えて、いわばスポット的な活用イメージでお声がけいただく機会も以前は多かった。
ただ、2025年に入ってから、少しずつ潮目が変わったとも感じています。「自分のスキル」「所属している部署」「職種」「業界」といったタテ割りの思考にとどまらず、もう少し自由に「もしかしたらこうしたことができるのではないか」と、現場のビジネスパーソンはもちろん、経営層の一部からもアイディエーションができるようになってきた感触があります。

――潮目が変わった理由には何があるのでしょう?
荒川:ひとつ大きな背景としてあるのは、生成AIの「民主化」が進んだことでしょうね。2024年あたりからより多くの方が、ChatGPTに代表される生成AI技術を遊び半分でも触るようになりました。それまで専門家が使う領域だと思われていたテクノロジーがぐっと身近になった。
そのタイミングでAIエージェントの概念も浸透しはじめ、人のタスクをAIがどう代替するかだけではなく、AIがどういう役割を担うことができ、人とどういう形の協働体制を仕立てられるか、あるいはどうすれば新たな価値を創出できるか、などまで考えられるようになってきた気がします。
西山氏:良い兆候ですよね。AIエージェントの活用は、その掛け算で企業全体のタスクを組み立て直したらどうなるのか、というヨコ割り、抽象化の発想に直結します。スポット的な業務効率化だけの目的で、生成AIの導入をすると、そもそも投資対効果を得られません。
生成AI、ひいてはDXによって、これまではなし得なかった高い品質を実現する、あるいは革新的なサービス/プロダクトを次々に生むことで売り上げを高めていく。その意識が不可欠です。
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Generative AI: The Game-Changer in Society
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