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2025.03.06(Thu)
Future Talk
2025.07.30(Wed)
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――まず、2018年に経済産業省が『DXレポート』を出した背景からお聞かせください。
DXレポートは、端的にいえば日本の経済界や産業界への警鐘です。2018年はIoTやAI技術によりビジネスモデルの変革が始まるタイミングで、グローバル市場では競争環境が激変。この流れに置いていかれると、日本の失われた30年が、40年、50年と長引く危機感がありました。そこで、日本全体の機会逸失を回避するため、企業のDX経営を国家レベルで推進していく意思を表明したのがDXレポートです。
DXレポートが指摘した本質は、経営全体の改革です。システム刷新だけに目を向けて表面的な改善を試みても、ゲームチェンジャーにはなれません。経営者は従来の経営を振り返り、システム刷新と経営改革を一体で考える重要性を理解しなくてはいけません。
――2018年のDXレポート発表から7年。企業のDXを取り巻く状況は変化しましたか。
2018年に公表されたDXレポートではレガシーシステムを抱える企業は約8割に上っていましたが、今回のレポートでは約6割に減少しており、着実に進展しています。しかし、その進捗は非常に緩やかです。こうしたレガシーシステムを最新の仕組みに置き換えるモダナイゼーションには、特にシステムの規模が大きい場合は通常3〜5年の期間を要します。しかも、必ずしも順調に進むとは限らず、途中で予期せぬ問題が発生してさらに期間が延びることも珍しくありません。
レガシーシステムの刷新が遅れている背景には、技術的・経営的な要因の両方が複雑に絡まっています。技術的な側面は、複雑化(肥大化)・老朽化・ブラックボックス化の3つの問題が主な要因です。まずは、既存のシステムに新しい機能を次々と追加していくことで、全体が複雑で巨大になり、管理が困難になってしまう。その結果、システムを構成するソフトウェアやハードウェアのサポートが終了したり、当初のシステムの開発担当者や運用担当者が退職などでいなくなったりして、古い技術の維持が難しくなり老朽化が進む。さらに、仕様書が不十分で失われている場合も多く、なぜその機能が動いているのか誰も説明できない状態、いわゆるブラックボックス化に陥ってしまうのです。

――経営的な要因についても教えてください。
まず最も大きな要因は経営者の意識にあります。システム刷新には多額の費用がかかり、一時的に利益が減少する可能性もあるため、自身の任期中にリスクを取りたがらない経営者は少なくありません。システムが稼働しておりビジネスも支障なく回っている状況では、差し迫った危機感が生まれにくく、結果としてレガシーシステムを使い続けてしまいます。多くの場合、大きなトラブルに直面して初めて、経営層が事の重大さに気づく。これがレガシーシステムの怖いところです。
欧米の経営者には、ビジネスとシステムを不可分のものと捉え、両者を一体でトランスフォームしていくマインドが根付いています。一方、日本の場合は、システムはあくまで業務のための道具と捉えられ、そこにかける費用は投資ではなくコストと見なされがちです。こうした意識の下に生まれたのが、システム構築を外注するSI(システムインテグレーション)ビジネスです。
――確かに、多くの企業では、システム開発は外注するのが一般的です。
システム構築をベンダーに委ねすぎることは、企業のITリテラシーを著しく低下させ、いわゆるベンダーロックインの状態に陥るリスクを高めます。また、ベンダーも、企業からの高度で多様な要求に対応するために、下請け構造の多層化、低利益率化、IT人材の専門領域への過度な固定化(いわゆるタコツボ化)といった課題を抱えるようになります。その結果、企業からIT人材が流出し、極端にベンダーに偏在する弊害が実際に生まれています。
しかし、企業にとっては「ベンダーに要求すればシステムを構築してもらえる」、ベンダーにとっても「安定して案件を受注できて一定の売上を確保できる」という、お互いに”ハッピー”な関係性から、このある種良くできた構造は形成されてきました。企業とベンダーとの強い依存状態を、私たちは『低位安定モデル』と呼び、深刻な問題として捉えています。なぜならば、外部環境の変化に対して極めて柔軟性に欠け、対応力が低下してしまうからです。
この構造から脱却するには、まず企業側が変わる必要があります。企業自身がITに対する理解とリテラシーを高め、自律的な判断と推進力を持つことが不可欠です。同時に、ベンダー側も適正な利益率と価値創出を実現できる市場構造へと変わっていく必要があります。
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