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2024.10.02(Wed)
Coming Lifestyle
2025.03.19(Wed)
この記事の要約
株式会社タネトシカケ代表取締役の髙口氏が、マーケティングにおける生活者の感情理解の方法を論じています。同氏は「仕事/会社」というフィルターを通して物事を見ることが、生活者の本質的な感情理解を妨げる原因であると指摘します。
特にプロダクトに重きを置くあまり、商品やサービスの本来の目的を見失う「マーケティングマイオピア」(近視眼的マーケティング)に陥りやすいことに言及した上で、その解決策として、髙口氏は「視座の高さ」の重要性を強調します。顧客だけでなく、生活者全体や市場の大きな流れを捉えることで、新市場創造や独自化の可能性が広がるといいます。
また、「共創マーケティング」の重要性も説いています。例として、お酢と果物を組み合わせた新しい提案や、新聞販売店の配送機能を活用した宅配サービスなど、既存の枠組みを超えた柔軟な発想のモデルケースが紹介されました。
さらに、アイデアを実現するためには社内外の関係者の理解が不可欠とし、納得感のあるストーリーづくりの重要性を指摘、論理的な構成と熱意ある説明が、提案を通すためのカギになると述べています。
最後に、視座を上げて市場全体を把握すること、他社との協働を検討すること、そして効果的な提案方法を工夫することの3点を、成功への重要なポイントとして挙げています。
※この要約は生成AIをもとに作成しました
目次
髙口氏は、生活者の感情を捉えることの難しさについてこう分析します。
「マーケターも生活者も、日々いろいろなものを見て、触れて、購入して、さまざまなことを感じています。なぜ同じ人間なのに、自分の感情は分かっても、他人の感情を捉えることは難しいのか。それは『仕事/会社』というフィルターを通すからではないでしょうか」
ここで紹介されたのが「より良いネズミ捕りの誤謬(ごびゅう)」として知られる、ある米国企業のエピソードです。
より良いネズミ捕り器をつくろうと商品改良に注力したその企業は、部屋に飾っておきたくなるデザインのネズミ捕り器を販売しました。最初は飛ぶように売れたものの、『ネズミと一緒に捨てるにはもったいない』『かといって洗って再利用するわけにもいかない』と、本来の用途で使いづらい商品になってしまいました。
なぜこうしたことが起きるのか。それは、商品を購入する顧客のニーズが見えづらくなることが原因といえます。商品開発に注力するあまり、顧客にとって必要のない機能が付加され、結果として商品が売れなくなる。これがいわゆる「マーケティングマイオピア(近視眼的マーケティング)」だと髙口氏は語ります。しかしこれは珍しいことではなく、意識していないと誰もが陥ってしまう可能性があると警鐘を鳴らします。
世の中が変化し、生活者の好みが変わると、企業は「新商品をつくろう」という思考になりがちです。しかし、実はここにも落とし穴があると髙口氏は話します。
「企業にとっては苦労してつくった『新商品』でも、お客さまから見れば既存商品と似たり寄ったりで、新しいものを買う気にならないことはよくあります。新規と既存商品のポジショニングが近すぎるとカニバリが起きて、売り上げは1+1=2にならないどころか、原材料費や在庫数が増えて大損失につながるリスクもあり、むしろ新商品を出さないほうがよかったという結果になることもあるでしょう。担当するブランドや商品のターゲットに自分自身が当てはまらなくても、ターゲットを自分に憑依(ひょうい)させて、本当にこの商品を買いたいと思うかどうかを具体的にイメージすることが大切です」
では生活者の真の感情を理解するために、マーケターはどんなことを心がけるべきか。髙口氏は、ポイントは「視座の高さ」にあると強調します。
「視点、視座、視野のうちマーケターにとって最も需要なのは『視座』です。視点とは『どこを見るか』、視座は『どの高さから見るか』、視野は『どの範囲を見るか』。この3つのうち、視座を変えれば、視野が変わり、視点も変わります。
ビルの1階から外を見るのと29階から見るのとでは、景色が全く違うように、視座を変えることで入ってくる情報が大きく変わります。あえて少し離れたところから生活者全体に目を向けてみることで、社会のトレンドや生活者のニーズがより鮮明に見えてくるはずです」
また、視座を高めることは「新市場を創造するヒントにもなります」と言う髙口氏。
「顧客の奪い合いには『差別化』が必要ですが、本来の経営やマーケティングの目的である新市場を創る(顧客の創造)には『独自化』が求められます。そのためには視座を高め、自分たちの業界だけでなくさまざまな業界の動きに目を向けなければなりません。
世の中の動きをキャッチしながら、自分たちのブランドや商品を顧客はどう評価しているのか、何が足りないのかを考えてみるのです。より大きな文脈の中で生活者の感情をとらえることが、近視眼的なマーケティングからの脱却に役立つはずです」
続いて髙口氏は、「3C(Customer・Competitor・Company)」「STP(Segmentation・Targeting・Positioning)」「4P(Product・Price・Place・Promotion)」といったフレームワークの有用性と盲点について話します。
「フレームワークにもとづいて考えることで頭の中が整理できますが、その一方で、決められた枠組みの中だけで課題を解決しなければならない、と思い込んでしまうリスクがあります」
その結果、理屈は通るけれど、あまり代わり映えしない、面白いアイデアにならない、ということも少なくないのではないでしょうか。髙口氏は、枠組みを超えて柔軟に考えることの重要性をお酢のマーケティングを例に話します。
「酸っぱいのが苦手な方にお酢を取り入れてもらうにはどうすればよいでしょうか。理論上は『酸っぱくないお酢』をつくることも考えられますが、現実的ではありません。一方で生活者全体に目を向けると、『物価上昇で節約したい』『美容と健康のために野菜や果物を積極的に摂りたい』『いろいろなレシピに挑戦したい』といったニーズがあります。
そこで、『お酢』×『果物』のレシピ発信というソリューションを提案するとします。お酢そのものではなく“おいしくお酢を飲む”ストーリーを提供し、新たな顧客の獲得につなげる狙いです。お酢の酸っぱさは変わらなくても、訴求したストーリーに納得してもらえれば商品を変えずに買ってもらうことができます。このように新たな商品に置き換えるのではなく、まずは他の要素と組み合わせることができないか、掛け算で考えてみることが大切です」
髙口氏は掛け算の事例として、配達機能を有する新聞販売店と宅配ポータルサイトがタッグを組み、飲食店の商品を新聞配達員が宅配代行するという協働モデルに言及します。
「これは『自分たちだけで解決しない』という発想ができたからこそのサービスです。何でも自前でやろうとか、既存の顧客だけを見ようというのではなく、世の中の課題を自分たちが持っているものとうまく組み合わせて解決し、より多くのお客さまを喜ばせようという考え方ですね。
今あるモノやコト同士のかけ合わせでも新結合(イノベーション)を生み出せるのですから、これまでの常識にとらわれず、共創マーケティングを積極的に取り入れてみてほしいと思います」
仮説を立てていざチャレンジというとき、障壁になりやすいのが「社内の巻き込み」です。関係者をいかに納得させるべきか、髙口氏はこう見解を示します。
「こんなに良いアイデアなのになぜ分かってくれないのか、と悔しい思いをしたことのある方は多いと思います。そこでぜひ意識していただきたいのが、相手に『意思決定してもらう』のではなく『判断材料を提供する』ということです。上司は、担当者ほど細かいことを把握していません。そのため担当者の皆さんにとっての“当たり前”をどれだけ一生懸命に語っても、伝えたいことの半分も伝わらないのです。
大切なのは、話の筋が通っていて具体的なイメージがしやすいかどうか。Aが起きるとBになり、BになるとCになり、CになるとDになるというように、順序立てて話せば、相手が否定する余地は少なくなりますし、そこに熱意を乗せて話すことで思いが伝わりやすくなります。
SNSなどで動画が増えているのも、ストーリーがあるとすっと頭に入りやすいからです。人間は感情の動物です。大前提として理屈が合っていて、やる気や自信もあると感じてもらうことができれば、話が通る確率は一気に上がるでしょう」
トークセッションの最後に、髙口氏はマーケターに意識してほしい3つのポイントについて改めて語ります。
「まずは視座を上げること。顧客だけでなく生活者全体に目を向けてください。電車の中吊り広告では、どんな企業が誰に向けてメッセージを発信しているのか。自分とは関係のない業界のものはあまり見ないかもしれませんが、一つひとつに目を向けていけば、日本人のリアルをとらえるヒントがあるはずです。
アイデアが浮かんで仮説をつくったら、それを自社のリソースだけで形にしようとするのではなく、他社と手を組んで実現できないかを考えてみてください。顧客に価値を届け、喜んでもらう方法は1つではありません。最後に、舞台に立つには工夫が必要です。社内を巻き込みアイデアをアウトプットにつなげるため、納得してもらえる伝え方を工夫しましょう。皆さんの活躍を応援しています」
髙口氏の講演に、会場からは大きな拍手が送られました。トークセッションに続き、参加者から寄せられた質問に髙口氏が回答。ここでは質疑応答の一部をご紹介します。
Q. 普段どのように情報収集をされているのか教えてください。
A. SNSやニュースサイトに登録して自然とニュースが流れてくるようにしています。一つひとつをじっくり読むのではなく「最近この業界の話題が多いな」と大きな流れをつかむイメージですね。メディアが流すということは、そこに多くの人が関心を寄せているということ。そうやってヒントを集めています。
Q. 他社とのコラボレーションを実現するにはどんなことが必要でしょうか。
A. 人的ネットワークは大きな財産になります。私の知り合いのCMOたちはいつも初めての出会いがある場に積極的に顔を出しています。友人の輪を広げてさまざまな業界の人とつながっておくことは自分自身の成長にもつながると思います。
Q. 「視座を高める」とはどのレベルまで上げればよいのでしょうか。
A. 自社の外の世界ってすごく広いですよね。そのすべてを見ることはできないので、最近よく目にするニュースがどの業界で起きているのかをチェックすることから始めてみてはいかがでしょうか。そうすると興味の幅が広がり、少しずつ世の中の流れが見えてくると思います。親しい友人の会社や業界について意外と知らないことも多いと思うので、質問してみるのもいいですね。
Q. 生成AIは高い視座からアドバイスをしてくれる可能性があると感じますが、いかがお考えでしょうか。
A. ある程度ルールが決まっている場合や急いで解を出したいときなど、活用できるところは大いにあると思います。ただし人間の感情には濃淡がありますから、生成AIが提示するセオリーに、感性をうまく掛け合わせて使っていく必要があるでしょう。
トークセッション後にはネットワーキングが行われ、大いに盛り上がりを見せた本イベント。髙口氏や参加者同士で活発に意見を交わす様子が印象的で、視座を高めるよい機会になったのではないでしょうか。今後もOPEN HUBではマーケティングをはじめ多様なテーマでイベントをお届けします。ご期待ください。
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