Hyper connected Society

2025.01.31(Fri)

IoTビジネスのビッグウェーブがすぐそこに。
次なる社会インパクト「IoT×AI」を考える

#IoT #データ利活用 #AI #法規制
スマホはもちろん、スマート家電やスマートホームの普及で、先進技術としての認知が広まっているIoT。一方で、総務省の「令和5年版情報通信白書」によると、企業におけるIoT・AIの導入率は、近年15%前後で増減を繰り返す横ばい状態にあり、実は認知ほど普及と活用がなされていないのではないか、といった声も聞こえてきます。

そこで今回は、東京大学・大学院工学系研究科教授で、IoTやAIなどのテクノロジーを通じて「未来生活のデザイン」をライフワークにする川原圭博氏と、NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)のIoTサービス部門長である柏大との対談を実施しました。

ビジネスへのIoT普及におけるボトルネックや、そのブレイクスルーを起こすための“IoT横展開”の方法論などを語り、IoTビジネスの現在から未来を展望します。さらに、生成AIを一躍ポピュラーにしたChatGPTのように、IoTビジネスの起爆剤となるデファクトスタンダード開発の可能性なども踏まえ、IoT×AIがもたらす未来社会像を手繰り寄せます。

この記事の要約

この記事では、IoT(モノのインターネット)とその社会実装に関する議論を展開しています。

川原圭博教授と柏大氏が、IoT技術の進展とその可能性について語り、特に「インビジブルな成功」——すなわち、技術が生活に自然に溶け込んで目立たなくなることが重要だと述べています。

川原氏は、IoTがすでに多くの産業で導入されているものの、ビジネス価値を引き出すためには、データ解析能力やビジネス側の理解が不可欠であると指摘。さらに、IoTとAIが組み合わさることで新たなビジネスモデルが生まれる可能性を強調しています。

また、IoTの社会実装には技術的な障壁やリスクも伴うが、実際のニーズを捉えたインパクトを伝えることで、技術の普及と価値創出が加速すると述べています。

※この要約は生成AIをもとに作成しました。

目次


    “インビジブルな成功”とは? IoTの現在地から見えてくる可能性

    柏大(以下、柏):川原教授は、これまで一貫してIoT関連の研究に携わり、実際に事業も立ち上げていますよね。

    川原圭博氏(以下、川原氏):研究を開始したのは、まだIoTではなく「ユビキタスコンピューティング」と呼ばれていた2000年代です。あらゆるモノの中に小さなコンピューターを入れ、いつでもどこでも物理空間の情報を把握できたとしたら何ができるのか、私たちの生活にどんな利益を還元できるか、研究を続けてきました。

    そうして10年ほど前に、家庭用インクジェットプリンターで電子回路をつくる技術を開発し、センサーを超低価格でつくれるようになったことで、農地の湿り具合など土壌の状態をセンシングする農業用センサーを開発しました。このセンサーを使い、スマホを通して農地の状態がリアルタイムでわかり、水やりまでスマホでできるシステムを手掛ける事業会社も顧問としてサポートしてきました。

    家庭用インクジェットプリンターを用いた、柔軟性を備えた電子回路の作成技術を開発。タッチセンサーやアンテナなど、IoT技術に活用する電子回路が、従来のおよそ1/100以下の超低コスト・短時間で製造可能に。
    川原圭博|東京大学 大学院工学系研究科 教授
    1977年生まれ。2005年3月、東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻博士課程修了。2019年3月に東京大学大学院工学系研究科 教授に就任。2019年10月に東京大学インクルーシブ工学連携研究機構 機構長。内閣府AI戦略会議構成員。2022年から2024年まで、メルカリの研究開発組織「mercari R4D」の所長も務める。室内のあらゆる機器をワイヤレス充電できる「無線給電」、空気圧で膨らむ風船のようにやわらかなボディーを持った新しいモビリティ「poimo」など、IoTやAIなどの情報通信分野での研究開発を通じて「未来の生活」をデザインしていくことをライフワークにしており、先進技術を活用したプロダクト・サービスの普及においては、機能を持て余すことのないコントロール可能な「ちょうどいい道具」であることの重要性を提唱している。

    柏:IoTの研究から開発された新たな価値を社会実装する現場にずっと立たれてきたわけですね。

    私は日ごろ、NTT ComのIoTサービス部門長として、さまざまなIoT関連サービスの企画や開発を推進しています。また、最近ではIoT技術を持つパートナー企業とともにIoTビジネスを共創する取り組みとして「IoT Partner Program」を開始するなど、IoTサービスの普及に向けて活動しています。

    これらの活動を通じて、数年前と比べIoT事業は大きく成長していると感じますが、ちまたでは今、IoTの社会実装が“足踏み”しているのではないかとの声もあるようです。

    総務省の「令和5年版情報通信白書」によると「IoT・AI等のシステム・サービスの導入状況」において、2023年時点で「導入している」と答えた企業は16.9%のみ、「導入していないが導入予定がある」は11.3%。「導入していない」が圧倒的に多く59.7%でした。また、過去3年以上にわたって、その比率はほぼ変わっていません。

    こうしたIoT普及の現状を、川原教授はどう捉えていますか?

    柏大(かしわ・だい)|NTT Com 5G & IoTサービス部
    1973年生まれ。1997年 NTT情報流通プラットフォーム研究所に入社、高度ネットワーク・セキュリティの研究開発に従事。2004年 NTT Com入社。長年SDx(Software Defined Everything)の技術開発・商用導入に携わる。Open Networking Foundation ボードメンバー(2015〜2023)、SDxエバンジェリスト(2019〜2024)。2021年より5G/IoT領域のサービス開発をリード。2022年よりドローンサービス部門長、2024年よりIoTサービス部門長(ドローンサービス部門長兼務)。ソフトウェア技術をIoTにも拡大して、真に現場で役立つDXソリューションを実現すべく奮闘している。

    川原氏:ビジネスとして、まだ大いに伸びしろがあると捉えるのが正しい見方ではないでしょうか。

    そもそも、日本でIoTの普及が遅れているとは感じていません。最初に述べた「ユビキタスコンピューティング」が提唱され始めたころから、インビジブル・コンピューター(コンピューターが見えない状態)こそがもっとも成功した状態だと説かれていました。

    例えば、自動ドアが世に出たころは、誰しも驚き、その機構を気にしたはずです。しかし自動ドアのどこにモーターが入っているかなんて、今や誰も気にしていませんよね。

    柏:社会実装されるということは、世の中に当たり前に溶け込むこと、つまり「見えにくくなる」ことだと。

    川原氏:ええ。20年前に比べて、Wi-Fiがどこでも入り、IoT機器が日常のあらゆる場所にインビジブル(特に意識されない状態)で存在している。誰も気にしていない状況になっているのだと思います。

    ただ一方で、それほどまでに浸透しているにも関わらず、「IoT機器やそこから集まるデータを加工処理して、企業としての付加価値を生む」ことにうまく接続されていない、とも感じています。

    柏:そうですね。IoTを活用したビジネスそのものが「裏方」になりがちであるがゆえ、「見えにくい」という側面はあります。

    我々が支援させてもらっている例でいえば、製造業の現場向けには、さまざまなセンサーからデータを収集し、運転状況の可視化やAIによる生産性向上などを実現するサービスがあります。また建築や農業領域では、土木建築や農地をドローンで撮影して、遠隔地から損傷のチェックや、雑草の状態を見られるようにするサービスなどもある。その他にも、医療や物流、小売、公共事業などさまざまな領域で、多彩なメニューを導入・推進しています。IoTは確実にビジネスの現場に入り込んできていると感じますね。

    業種別のIoTユースケース一覧。実際には、IoTのビジネス活用は多くの業界で進んでいる。しかしながら、IoT活用による成功事例は「見えにくく」、他社/他業界にまで波及効果が及びにくい側面がある。

    川原氏:実はすでに多くの企業がIoTを活用し、省力化や省人化を実現されていますよね。

    柏:そうなのです。しかし、確かに多岐にわたる産業で実装されていますが、企業の母数からみるとやはり一部であるのも事実で、社会的な影響力までは見えにくいのでしょう。

    総務省の「令和5年通信利用動向調査」でも、IoTを導入しない理由に「導入後のビジネスモデルが不明確だから」という回答が上位にありました。IoTを自分のビジネスに引き寄せられず、何ができるのか考えあぐねている企業が多いのかなと。

    裏を返すと、我々のようなサービス提供者が、「こういうことができますよ」とその価値をビジネスモデルとして提示しきれていない面もある。そこが課題でもあり、伸びしろといえる部分ですね。

    データから価値を生むには? IoTビジネスがこれから本格普及する理由

    川原氏:IoTで新しいビジネスモデルを見出すためには、まず企業における人員配置の問題が大きいと感じています。

    IoT機器が普及したことで、実空間のデータは集めやすくなりました。しかし、企業がそれを付加価値につなげるためには、目的に沿ってデータを扱えるデータサイエンティストが不可欠です。加えて、ただ優れたデータサイエンティストを社内に置いただけでは機能しません。経営サイドやビジネスサイドにも、データから得られるインサイトをビジネス創出につなげるには、ある程度のデータサイエンスのセンスやスキルが求められます。

    なぜなら、「この商業施設の入場者の人流解析をして、こういう属性のデータを取り出して分析できれば、売り上げが10%アップする。そのためにデータ解析をしてほしい」など、因果関係と狙いを明確にした指示を出す必要があるからです。

    柏:おっしゃる通りで、データサイエンティストに限らず、エンジニアや研究者がビジネスの現場とのつながりを持って、どんなデータをどんな狙いで、どう活かすかを示していく、経営側もそれらを活用していくことが重要になると思います。

    また、こうした相互理解の重要性は、ビジネスモデルを共創する事業パートナーとの関係にも同じことがいえると思いますが、川原教授が先に述べられた農業のIoTビジネスでは、どのようなデータアセットがポイントになったのでしょうか?

    川原氏:例えば、サラダに使うベビーリーフは大きさが10cmくらいのものが売れ筋で、育てるためには水の量やタイミングがシビアに求められます。特に夏の暑い時季は難しく、職人的に上手な方が水やりすると3週間で10cmにまで育つ。しかし、あまりうまくない方が水やりすると、4週間かかってしまうのです。

    1年間は52週ですから、最大17回収穫できるはずが、13回しかとれなくなる。水やりの出来によって、年間4回出荷分の売り上げ・利益を機会損失していることになります。

    柏:その差分をIoTセンサーの導入によって埋められると理解してもらえたら、「すぐに導入したい」と考えてもらえそうです。

    川原氏:ただ、はじめは農業の現場を十分に理解できておらず、実証実験をするにあたって足しげく農地に通ったのですが、実情を肌身で知ると「この水やりなら、スマホで遠隔操作できるな」などの気づきがありました。

    すると農家の方も「スマホで水やりできるようになるなら、これまでビニールハウスを5つしか運営できなかったけれど、30くらい増やせるな」と一気にビジネスモデルが拡大し、IoTに新たな付加価値を生み出す交流の重要性を実感しましたね。

    柏:やはり、相互理解がポイントですよね。IoTに明るい人間が現場の課題を深く知り、現場を知る方がIoTの知見に触れる、その相乗効果でブレイクスルーが生じると思います。

    ちなみに、交流をテーマにしたIoTビジネスとしては、NTT Comでは「モビスキャ」というサービスを始めています。弊社が提携しているタクシーやバスをはじめとした商用車両は、通常業務の中で大量の映像データを記録しているのですが、このビッグデータ自体は特別色があるものではなく、そのままでは価値を生みません。

    そこで、このデータをモビスキャのプラットフォームにて、データを活用したいパートナー企業向けに加工して提供しています。これにより、映像を記録している業界のアセットがほかの業界で活用され、「こういうサービスで使えないか」「こんな社会課題を解決できるのでは」という新たな価値創出の切り口を生む手助けになります。

    現在はインフラ企業のニーズに応えているモビスキャは、今後、街中で得られるビッグデータの解析から「生活の質を向上させる法則」を見つけて都市計画や建築に反映する「アーバンサイエンス」などへの活用も期待されている。

    川原氏:多彩な業界に開かれているのがよいですね。そうしてさらに新しいIoTサービスが生まれてきたら、「うちの業界でもこんなことができるかもしれない」「我が社でこう活用するのはどうか」と連鎖してアイデアが出始めるでしょうし、こうした事例が増えるにつれ、IoTビジネスへの関心もより高まっていきそうです。

    柏:その展開をまさに期待しています。IoTビジネスでよくあるジレンマが、ある現場で大きな成果が生まれているにも関わらず、その現場に深くカスタマイズされた事例であるがゆえに、“横展開”への着想が生まれにくいことです。でも実際には、ほかのケースや業界に応用可能な成功事例もたくさん蓄積されています。

    そうしたIoTの豊かなポテンシャルに期待を持ってもらうためにも、「実際にどう変化が起こったか」「売上・利益にどれほど関与するか」をもっとわかりやすく見えるようにしていければ、IoTの価値への実感が広がって、空気が変わる予感がしています。

    大切なのは、IoT×AIの「インパクトを考える」こと

    柏:川原教授は、先進技術を社会実装に結びつける際に重視しているコツやポイントはありますか? 

    川原氏:もっとも意識しているのは、その技術が社会に実装された場合のインパクトを伝えることです。

    事業担当者だけでなく、利用者も含めた納得感を得るためには、現実の課題をしっかり捉えた上であるべき理想を明確に掲げる。そして「この差を新たな技術で埋められるとしたら、誰しもハッピーですよね」とすべてのステークホルダーにビジョンを共有し、インパクトの実現を目指して足並みをそろえることが肝要だと感じます。

    また、それはリスクの想定においても重要です。得られるインパクトを握れていれば、リスク回避の検討も前向きにできるでしょう。新たな技術を社会実装するには、得てして新たなルールを整備したり、既存の規制に対応したり、といったハードルが多いものですから。

    柏:特に日本は文化的に安心・安全への意識が強い。だからこそそうした社会が実現しているのですが、新たな技術の社会実装に慎重になりすぎる面もありますからね。よりビジョナリーにポジティブな未来像を掲げて共有する必要があるのかもしれません。

    IoTビジネスがそうした社会的インパクトを目指す上で、川原教授がほかに注力されている技術領域にはどんなものがありますか?

    川原氏:やはりAIを中心とした周辺技術に尽きますね。IoTで膨大なセンシングデータを蓄積できるようになり、またその膨大なデータの解釈をAIでできるようになりました。これは大きい。

    もとよりテキスト、画像、音声といった多彩な異なるデータを組み合わせるマルチモーダル化によって、AIは精度を上げて進化してきました。これにIoTによる実空間のデータが織り交ぜられれば、さらに豊かなAI活用ができるようになる。それこそデファクトスタンダードといえるような、新たなIoT活用の例が生まれるかもしれません。

    柏:グローバルのある地域の警察では、すでにマルチモーダル化によるIoT×AIの社会実装のアイデアが具体化しつつあるようです。

    市街地に設置されたIoTデバイスが音声を拾い、AIが解析する。銃声の可能性がある場合は、映像に切り替えてその場をモニターで映す。同時に位置情報を捕捉してドローンを飛ばし、容疑者を追うのです。その間に、警察官が準備をして捕まえに行く。

    川原氏:実装するためには、法律や条例などに相当ハードルがあったと思いますが、すでに具体化されつつあるのはすごいですね。

    柏:川原教授が述べられたような「インパクト」が明示されたのだと想像できますね。社会課題として安全の社会的ニーズも高いでしょうから。

    川原氏:そうしたユースケースが身近に出てきたとき、日本におけるIoT×AIの潮目も大きく変わるでしょう。

    デファクトスタンダードは「実在する誰かのニーズ」から生まれる

    柏:では、改めてIoT×AIの未来に目を向けると、今後どのような豊かな社会が生み出されると予想、あるいは期待されますか?

    川原氏:専門家や職人的なプロフェッショナルが持つ「体で覚えたルール」のデータ化です。IoTでデータ化してAIに読み込ませて、誰もが使えるアセットにできたら素晴らしいと考えています。

    例えば、陶芸家の「肌で感じた気温や湿度から、水の量や指の圧力を最適化して粘土をこねる」ルールのセンシングとか。そうした勘や経験にもとづく技術も、IoTのセンシング技術があればデータ化できるでしょうし、それがややあいまいなデータであっても、無数のパラメーターから最適解を探るのは生成AIの得意領域ですからね。

    あらゆる業界で、こうした匠の技の一般化や、その業界の特性などのデータ化ができれば、多くの産業で質の高いアウトプットが平易にできるようになります。それは日本のみならず、人類全体にとってのハッピーにつながると思うのです。

    柏:なるほど。今まではIoTやAIの活用というと、省力化やコストカットの側面にフィーチャーされがちでしたが、何か人間らしい感性や営みにフォーカスできるような領域で活用したい思いは私もありますね。

    最後に、アカデミアとビジネスを横断して先進的な研究を進めている川原教授にぜひ伺いたいのですが、「新たなアイデアを提案する」ときに意識していることはありますか?

    川原氏:自分でも知り合いでもいいので、架空のマジョリティーではなく、「実在する誰か」のニーズにかなっていることですね。

    私がいる工学の世界は「人の役に立ってナンボ」の意識がある。この研究が実を結ぶとどんな利益があるのか、どれほどのインパクトがあるのか、“自分ごと”として伝えられるかどうかをとても大切にしています。

    実際、現場に通い詰めて体感することや、打ち合わせ後にポロッとこぼれた「本当はもっとこんなことやりたいんだよね」といったひとことからアイデアが生まれることも多いです。また、そうした実体験から生まれたアイデアは、共感の輪が広がりやすく、実現に向けた推進力も生まれやすい気がします。

    柏:顧客ファーストやデザイン思考などにも通ずる考え方ですね。改めて、私も強く意識していけたらと思います。本日はありがとうございました。

     

    参考:docomo businessのIoTソリューション詳細・相談はこちらから

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