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2024.10.02(Wed)
Hyper connected Society
2025.01.31(Fri)
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この記事の要約
この記事では、IoT(モノのインターネット)とその社会実装に関する議論を展開しています。
川原圭博教授と柏大氏が、IoT技術の進展とその可能性について語り、特に「インビジブルな成功」——すなわち、技術が生活に自然に溶け込んで目立たなくなることが重要だと述べています。
川原氏は、IoTがすでに多くの産業で導入されているものの、ビジネス価値を引き出すためには、データ解析能力やビジネス側の理解が不可欠であると指摘。さらに、IoTとAIが組み合わさることで新たなビジネスモデルが生まれる可能性を強調しています。
また、IoTの社会実装には技術的な障壁やリスクも伴うが、実際のニーズを捉えたインパクトを伝えることで、技術の普及と価値創出が加速すると述べています。
※この要約は生成AIをもとに作成しました。
柏大(以下、柏):川原教授は、これまで一貫してIoT関連の研究に携わり、実際に事業も立ち上げていますよね。
川原圭博氏(以下、川原氏):研究を開始したのは、まだIoTではなく「ユビキタスコンピューティング」と呼ばれていた2000年代です。あらゆるモノの中に小さなコンピューターを入れ、いつでもどこでも物理空間の情報を把握できたとしたら何ができるのか、私たちの生活にどんな利益を還元できるか、研究を続けてきました。
そうして10年ほど前に、家庭用インクジェットプリンターで電子回路をつくる技術を開発し、センサーを超低価格でつくれるようになったことで、農地の湿り具合など土壌の状態をセンシングする農業用センサーを開発しました。このセンサーを使い、スマホを通して農地の状態がリアルタイムでわかり、水やりまでスマホでできるシステムを手掛ける事業会社も顧問としてサポートしてきました。
柏:IoTの研究から開発された新たな価値を社会実装する現場にずっと立たれてきたわけですね。
私は日ごろ、NTT ComのIoTサービス部門長として、さまざまなIoT関連サービスの企画や開発を推進しています。また、最近ではIoT技術を持つパートナー企業とともにIoTビジネスを共創する取り組みとして「IoT Partner Program」を開始するなど、IoTサービスの普及に向けて活動しています。
これらの活動を通じて、数年前と比べIoT事業は大きく成長していると感じますが、ちまたでは今、IoTの社会実装が“足踏み”しているのではないかとの声もあるようです。
総務省の「令和5年版情報通信白書」によると「IoT・AI等のシステム・サービスの導入状況」において、2023年時点で「導入している」と答えた企業は16.9%のみ、「導入していないが導入予定がある」は11.3%。「導入していない」が圧倒的に多く59.7%でした。また、過去3年以上にわたって、その比率はほぼ変わっていません。
こうしたIoT普及の現状を、川原教授はどう捉えていますか?
川原氏:ビジネスとして、まだ大いに伸びしろがあると捉えるのが正しい見方ではないでしょうか。
そもそも、日本でIoTの普及が遅れているとは感じていません。最初に述べた「ユビキタスコンピューティング」が提唱され始めたころから、インビジブル・コンピューター(コンピューターが見えない状態)こそがもっとも成功した状態だと説かれていました。
例えば、自動ドアが世に出たころは、誰しも驚き、その機構を気にしたはずです。しかし自動ドアのどこにモーターが入っているかなんて、今や誰も気にしていませんよね。
柏:社会実装されるということは、世の中に当たり前に溶け込むこと、つまり「見えにくくなる」ことだと。
川原氏:ええ。20年前に比べて、Wi-Fiがどこでも入り、IoT機器が日常のあらゆる場所にインビジブル(特に意識されない状態)で存在している。誰も気にしていない状況になっているのだと思います。
ただ一方で、それほどまでに浸透しているにも関わらず、「IoT機器やそこから集まるデータを加工処理して、企業としての付加価値を生む」ことにうまく接続されていない、とも感じています。
柏:そうですね。IoTを活用したビジネスそのものが「裏方」になりがちであるがゆえ、「見えにくい」という側面はあります。
我々が支援させてもらっている例でいえば、製造業の現場向けには、さまざまなセンサーからデータを収集し、運転状況の可視化やAIによる生産性向上などを実現するサービスがあります。また建築や農業領域では、土木建築や農地をドローンで撮影して、遠隔地から損傷のチェックや、雑草の状態を見られるようにするサービスなどもある。その他にも、医療や物流、小売、公共事業などさまざまな領域で、多彩なメニューを導入・推進しています。IoTは確実にビジネスの現場に入り込んできていると感じますね。
川原氏:実はすでに多くの企業がIoTを活用し、省力化や省人化を実現されていますよね。
柏:そうなのです。しかし、確かに多岐にわたる産業で実装されていますが、企業の母数からみるとやはり一部であるのも事実で、社会的な影響力までは見えにくいのでしょう。
総務省の「令和5年通信利用動向調査」でも、IoTを導入しない理由に「導入後のビジネスモデルが不明確だから」という回答が上位にありました。IoTを自分のビジネスに引き寄せられず、何ができるのか考えあぐねている企業が多いのかなと。
裏を返すと、我々のようなサービス提供者が、「こういうことができますよ」とその価値をビジネスモデルとして提示しきれていない面もある。そこが課題でもあり、伸びしろといえる部分ですね。
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THEME
Hyper connected Society
#IoT