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Coming Lifestyle
2025.01.10(Fri)
この記事の要約
ヤマトグループは2010年9月に事業会社、労働組合、健康保険組合の三位一体で「ヤマトグループ健康宣言」を発表し、生活習慣病、メンタルヘルス、禁煙に注力してきました。
特に受診勧奨では、全国統一の基準を設定し、ヤマト運輸EX推進課と健康保険組合の密な連携により約98%という高い受診率を達成しました。情報伝達では、社員の大半を占めるドライバーやベース(物流ターミナル)のスタッフの特性を考慮し、動画コンテンツやポスターを活用しています。
また、禁煙外来の無料受診制度の導入や、メンタルヘルス対策としてのセルフケア・ラインケア教育、ストレスチェックの実施、特定保健指導の徹底(実施率90%以上)など、具体的な施策を展開しています。
今後の課題として、特定保健指導の改善率向上、社員のヘルスリテラシー持続、女性や若手社員への健康意識の啓発を挙げており、短期的な成果だけでなく、長期的な視点での健康経営を目指しています。
※この要約は、生成AIで作成しました。
目次
中川愛美(以下、中川):まずは、社員の健康づくりに対する考え方や、健康経営の全体像についてお聞かせいただけますでしょうか。
岩本和雄氏(以下、岩本氏):2010年9月に、ヤマトグループ全体の方針として「ヤマトグループ健康宣言」を発表しました。社員一人ひとりが「健康力」を高め、豊かな社会の実現に貢献することを目指しています。特に、生活習慣病、メンタルヘルス、禁煙の3つに対する取り組みを継続的に行っています。
高橋幸一氏(以下、高橋氏):ヤマト運輸は「宅急便」を主力とした物流企業であり、社員の心身が健康であることが、社会に良質なサービスを提供し、事業が成長していく源泉だと考えています。「社員の健康は何よりも大切である」という観点から健康宣言は始まっています。
中川:健康宣言を発表されてから10数年たちますが、社員の方々への浸透度はいかがですか?
岩本氏:通常、健康経営に関する宣言は、健康保険組合と企業で宣言されることが多いのではないかと思います。一方、ヤマトグループ健康宣言は、事業会社とヤマト健保に労働組合も加わって、ヤマトグループ全体で発表した宣言です。健康宣言のポスターは各事業所にも掲示してあります。事業会社やヤマト健保が「健康づくり」に関する話題を職場や社員に発信する際にも、理解してもらえる環境ができていると感じます。
中川:労働組合も参加している宣言は、たしかにあまり聞きませんね。
高橋氏:最近まで健康経営の取り組みはヤマト健保が主体で、ヤマト運輸をはじめとした事業会社ごとの取り組みは、ばらつきがありました。法律で定められている健康管理は実施していましたが、それ以上の取り組みは、ヤマト運輸でも進んでいるとは言えない状況にありました。そこで、健康経営を含めた社員の働きがいを高めるための組織として、2021年にヤマト運輸EX推進部(現・EX推進課)を設置し、具体的なアクションを進めているところです。
中川:ヤマト運輸様とヤマト健保様が連携して行っているコラボヘルスについてお聞かせください。
岩本氏:健康の基本は健康診断だと考え、全社員の受診確認と事後措置対応を徹底して行っています。病院受診が必要とされる場合には、ヤマト健保から受診勧奨を行っていますが、なかなか受診されない社員もいます。このような場合は、事業会社から後押ししていただいています。また特定保健指導についても、対象者の把握や面談スケジュールの調整を各事業所で行える環境が整っており、実施率は90%を超えています。
ヤマト運輸との連携では、EX推進課と月1回定例会を実施し、情報共有を行い、今後の対応策を協議しています。定例会の具体的な内容は保健事業の年間スケジュールによって変わります。例えば、受診勧奨の送付後であれば、受診状況のデータを共有して、どの事業所でどの程度受診が済んでいるのかを確認します。そして、受診が進んでいない事業所に関しては、ヤマト運輸からもフォローしていただけるよう依頼します。その際、事務的に依頼するだけではなく、受診しなかったことで健康を損なった事例や、受診によって重症化しなくて済んだ事例などを共有して、受診勧奨によって得られる効果を具体的に伝えるようにしています。
中川:密に連携を取っていらっしゃるのですね。保健事業をスケジュール通り進めていくのはなかなか難しいと思いますし、健康保険組合との関係が遠い企業も少なくありません。これだけ細かく連携して、情報共有もしっかり行いながら進捗を図っていらっしゃるのは素晴らしいと思います。
ヤマト運輸様から社員の方々に受診勧奨を行う場合は、どのような流れになるのでしょうか?
高橋氏:ヤマト運輸には各地域の営業所を統括する主管支店が全国で92拠点あり、1つの主管支店には平均2,000人ほどの社員が在籍しています。実際に社員と接するのは主管支店の人事・総務担当者になるので、本社からは主管支店の担当者に対して、全社的な方針や事業所で実施してほしい内容を伝えることになります。本社から一方的に情報を伝えるのではなく各事業所に負担をかけずに取り組みを進められるよう留意しています。
岩本氏:以前は、ハイリスクと判断される社員へのアプローチはヤマト健保で行っていましたが、現在はEX推進課で対応しています。一方、ハイリスクとはいえないものの、生活習慣の改善が必要と考えられる社員へのアプローチはヤマト健保が行っています。役割分担を以前よりも明確にしています。
高橋氏:このような役割分担は2024年から始めた試みです。EX推進課が設置されて最初に取り組んだことは、産業医の再配置でした。産業医の選定業務で事業所に負担がかかっていたため、産業医業務を外部委託し、産業医が必要な全国にある約1,400の拠点に配置し直しました。そして、産業医の体制を整えた後に取り組み始めたのがハイリスクアプローチです。コロナ禍の影響もあってか、社員の中で生活習慣病を含めた体調不良が少し目立っていました。全国的な平均と比べると決して多いわけではないのですが、健康リスクの高い社員には個別に対応したほうが良いだろうと、この1年ほどで強化し始めたところです。
高橋氏:ヤマト運輸では、受診勧奨の基準やルールも全社で統一しました。受診勧奨自体はこれまでも行っていましたが、各医療機関や個々の産業医の判断によるもので、基準はばらばらでした。また、受診勧奨後のフォローもルール化されていなかったため、きちんと追いかけている主管支店もあれば手紙を送って終わりという主管支店もあり、社員から見ると公平感に欠ける状態でした。
そこで、社内の常勤産業医に意見をもらいながら検査値に受診勧奨基準を設定し、「この基準を超えたら、本社から一律に受診勧奨通知を送る」「受診したという報告をもらうまでフォローする」というルールを設定しました。その結果、2024年度は全国で約16,000人に受診勧奨を発信しましたが、約98%がすでに受診しています。
中川:98%ですか! そこまで受診率が高いとは驚きました。これだけの受診率を達成するために工夫したことはありますか?
高橋氏:実際に社員に受診勧奨を行うのは、直属の上司に当たる営業所長などですが、営業所長の知識にばらつきがある状態では「本社がそう言っているから受診するように」というような伝え方になりがちです。そこで、動画コンテンツを制作している部署に協力を依頼し、健康診断では事後措置が大切であることや、健康管理も労務管理の一部であることなど、必要な情報を動画にまとめてもらいました。これを営業所長に見てもらい、受診勧奨の理由をきちんと社員に説明してもらえるようにしました。
三原敦(以下、三原):企業からよく聞く悩みが、「施策を考えても事業所が動いてくれない」というもので、事業所のことを十分に理解できておらず、施策を押し付けてしまっているケースも見受けられます。ここまで社員のことをしっかり考え、事業所が受け入れやすい施策を打ち、さらに健康保険組合や労働組合との連携も密に行われているケースはあまり聞いたことがありません。事業所と実直に向き合っていらっしゃると強く感じます。御社の取り組みは、多くの企業のお手本になりますね。
高橋氏:ヤマト運輸の場合、社員の中で最も多いのがドライバーで、その次はベース(物流ターミナル)で仕分けをするスタッフです。彼らは会社から貸与されたパソコンやスマートフォンで作業をしているわけではないため、メールで伝えるというオフィスワークの文化が通用しません。どのようにすれば効率的に伝えられるかを考えた結果、動画を制作しみんなで一緒にモニターで見てもらうことや、わかりやすいポスターを事業所に貼ってもらうといった取り組みを進めています。
中川:ヤマトグループ健康宣言では、生活習慣病のほかに、禁煙とメンタルヘルスへの取り組みも掲げられていましたね。
高橋氏:生活習慣の中でも特に改善の余地があるのが喫煙で、ヤマト運輸の喫煙率は全国平均よりもかなり高い状況です。もともとヤマト健保が、禁煙外来の受診費用を全額補助する申請型の制度を設けていましたが、あまり利用が進んでいませんでした。何とかしたいと考え、ヤマト運輸内の医務室で禁煙外来を始めました。そして、ヤマト健保の協力を得て、申請せずとも最初から無料で受診できるような仕組みにしたのです。すると、従来の補助制度は年間30人ほどしか利用していなかったところ、数カ月で100人以上が受診するようになりました。
社員アンケートでは、喫煙者の6割ほどが「きっかけがあればタバコをやめたい」と回答しています。この6割の人たちへのアプローチを重視しています。
中川:メンタルヘルスについてはいかがですか?
高橋氏:セルフケアやラインケアの教育を年1回実施しているほか、ストレスチェックで組織診断を行い、組織ごとにフィードバックして改善してもらうようにしています。現在、社内に保健師を配置することを検討しており、これが実現すれば、ストレスチェックでフォローが必要な社員に対して、さらなるアプローチを行うことも可能になるのではないかと考えています。
三原:多くの企業から、ストレスチェックでは問題がなかった社員が精神疾患にかかってしまうケースがあると聞きます。また、リモートワークを実施している場合、社員の表情や振る舞いの変化が見えにくく、メンタルヘルスの悪化に気づくのが遅れてしまうことも課題です。逆に、コロナ禍を経て出社頻度が変わったことで、メンタルヘルスの問題が増えているケースもあるようです。
こうした企業の声を踏まえて、NTT Comで提供している健康経営支援サービス「あなたの健康応援団」にメンタルヘルス対策の機能を追加しました。
「あなたの健康応援団」は、健康診断のデータから健康リスクの高い社員を抽出し、ウェアラブルデバイスから、歩数や睡眠などのライフログをもとに生活習慣の改善に取り組むサービスです。これまではフィジカル面のみをサポートする内容でしたが、これからはメンタル面のサポートも可能になります。
メンタル不調が生じる手前の段階として、睡眠の不調が生じやすいことが分かっています。そこで、ウェアラブルデバイスのデータから睡眠の状態が悪化している社員をスクリーニングし、専門のトレーナーによる伴走型の睡眠改善プログラムを提供します。睡眠を改善することで、結果的にメンタル不調のリスクを下げられるというわけです。日々の睡眠データが可視化されることで健康管理が「自分ごと化」され、社員の健康に対する意識が変わることが期待できます。
企業側は、組織全体で睡眠不調の可能性が高い社員が何人いるか把握できるようになっています。不調者数の推移をモニタリングし、ある組織で不調者が増えてきている兆候が発見された場合、その組織では業務過多など何か問題が起きているかもしれません。こうした状況を察知して対策を取れるようになります。
岩本氏:メンタルヘルスの問題を抱えると、長期にわたって休職したり、再発によって休職を繰り返したりするケースが見受けられるので、重症化する前に気づくことは重要だと思います。「上司が部下の変化を把握しましょう」とは言うものの、実際にはなかなか難しいもので、睡眠のデータから不調の兆しがつかめるのは良いですね。
高橋氏:メンタルヘルスに睡眠からアプローチする方法もあるのかと勉強になりました。社員にいかに自分ごととして関心を持ってもらえるかが重要だとあらためて感じています。私たちもヤマト健保が導入している健康管理アプリを使っていますが、なかなかアプリを見てもらえないというのが課題の1つで、何げなく開いてしまうSNSのような感覚でアクセスしてもらえたら理想的ですよね。
中川:本日は素晴らしい取り組みをたくさんお話しいただきました。最後に、今後の課題や展望などがあればお聞かせいただけますか?
岩本氏:特定保健指導の実施率は、事業所の協力もあって90%を超えていますが、翌年にまた指導対象になってしまう社員の割合も以前より高くなってきています。また、2024年度から特定保健指導の評価方法が変わり、単に面談を実施するだけでなく成果を出す必要があります。
現在、特定保健指導は外部に委託していますが、面談時にヤマト健保の保健師を同席させて、社員本人にきちんと伝わるような話し方をしているかどうか確認するようにしています。より効果的な面談の実施によって、特定保健指導の対象から抜け出せる社員の割合を増やせるようにしたいと考えています。
また、面談直後は健康意識が高まるのですが、時間が経つと忘れてしまいます。例えば注意喚起のメールが届く仕組みなど、健康に対する意識を持続させるための働きかけも必要だと感じています。現在も、日常的に健康情報に接してヘルスリテラシーを高めてもらおうと、健康管理アプリを通じてさまざまな健康情報を配信したり、健康診断の結果に応じた関連情報を流したりしています。
社員には元気に働き続けるだけでなく、定年後の人生も楽しんでもらいたいと思いますので、若くて健康に自信があるうちから健康の重要性に気づき、健康づくりに取り組んでもらいたいですね。
高橋氏:受診勧奨によって98%が受診してはいますが、一度受診して終わりではなく、治療や生活習慣の改善を継続することが大切だと考えています。先ほど触れた保健師の配置や、社員のヘルスリテラシー向上など、今後も社員の健康増進につながる施策を進めていきたいと思います。
そもそも健康経営の取り組みは、短期的に成果が出るものではありません。長期にわたって取り組みを続け、実際に社員が健康で長く働けるようになったという結果が得られて初めて、健康経営に貢献できたといえるのではないでしょうか。「素晴らしい取り組みだ」と言っていただけてありがたく思いますが、真価が問われるのはこれからだと考えています。
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