Smart City

2024.11.06(Wed)

2024年版国内スマートシティ事例 後編
―4つの都市のサービスモデル―

#スマートシティ #データ利活用 #事例 #地方創生
現在、人口減少と高齢化の最中にある日本。都市部に人口が集中し、地域で過疎化が進むことで、人々の生活を支えるインフラやライフラインを維持することが難しくなってしまっているケースがあります。

特に保健・医療、教育、環境管理、防災、交通など、住民の暮らしに不可欠な要素を持続可能なものにするため、今デジタルの力が必要とされています。

2021年にはデジタル田園都市国家構想が始まり、全国各地の自治体では都市OSと呼ばれるデータ連携基盤が整備されつつあります。この都市OSの登場により、さまざまな住民データや行政データを活用したサービスを行政および民間業者が開発して社会実装することができるようになりました。

現在、各自治体はどのように地域の課題をとらえ、どのようなサービスを展開しようとしているのでしょうか。地域のデジタルサービスの最新事例を紹介します。

目次


    埼玉県熊谷市 | 「日本一暑いまち」のスマート暑さ対策

    埼玉県北部に位置する熊谷市は2018年7月に当時の日本最高気温の41.1度を記録するなど、メディアでもこぞって取り上げられる「暑いまち」です。

    熊谷市では2023年7月に「熊谷スマートシティ宣言」を発表。データ連携基盤の整備のほか、地域電子マネー「クマPAY」、地域コミュニティポイント「クマポ」、コミュニティバス「ゆうゆうバス」のスマホ回数券など、さまざまなデジタルサービスが実施されています。

    そんな熊谷市がデジタル田園都市国家構想のもと推進するのが、「やさしい未来発見都市 熊谷」~日本一アツいスマートシティ~の実現を目指す、熊谷スマートシティの取り組みです。 デジタルの力を借りて、気温の高い時期のまちなかでの「安心」を確保するため、「暑さ対策スマートパッケージ」を提供しています。

    熊谷市の暑さ対策スマートパッケージでは、NECとインデザインが開発を担当したLINEベースの都市サービスポータル「クマぶら」を通じて「まちなかヒートエリア」として気温が上がる空間・時間のシミュレーション情報を住民に提供。併せて「クールシェアスポット」として市内に設置された暑さをしのぐための休憩スポットの情報も提供します。一方で、住民はクールシェアスポットを利用することで、コミュニティポイント「クマポ」が貯まります。

    電子コミュニティポイントを活用して市民や来訪者の行動変容を促し、暑さの中でも適切な休憩をとりながら店舗に訪れてもらえる、市民・来訪者、店舗がWin-Winになるサービス設計がされているのです。

    ※2024年度の暑さ対策スマートパッケージ事業は9月30日で終了

    鳥取県 | メタバースの交流スペース「バーチャルとっとり」

    日本で最も人口が少ない鳥取県では、最も重要な地域資源を「人」であるとして「人づくりDX」に取り組んでいます。文化・歴史、観光、芸術、SDGs、建設DXなどの人づくりに関わるデータアセットを統合的に管理するデータ連携基盤を構築。地域を支える人づくりと地域のWell-Beingを実現するサービスを展開しています。

    そのなかでもユニークなのがメタバースの取り組みです。自治体初となる「メタバース課」を立ち上げている鳥取県では、関係人口創出を目的にメタバース上の交流スペース「バーチャルとっとり」を、株式会社ビーライズ・TOPPAN株式会社・日本海テレビジョン放送株式会社・株式会社エムアンドエムドットコーの共同開発で、2024年3月にオープンしました。

    バーチャルとっとりにはスマートフォンで簡単にログインすることができ、18万通りのバリエーションから自らのアバターの設定を行えます。メタバース上は鳥取砂丘をベースに大山や白壁土蔵群が配置された鳥取県らしい空間。鳥取県の美しい自然を体験できるほか、動画やチャットでの情報発信も行え、イベントスペースやコミュニティスペースは参加者のつながりのきっかけを提供します

    バーチャルとっとりでは、県内外の若者同士の交流の場を提供するとともに、観光や移住、就職などに関する情報発信や移住・関係人口創出を目的にしたイベントの開催などを実施。バーチャル上のつながりにより将来的なIターン・Jターン・Uターンや関係人口創出を見込んでいます。

    群馬県前橋市 | 視覚障がい者歩行支援アプリ「めぶくEye」

    前橋市では「めぶく。」のビジョンのもと、デジタルの力を活用して市民のWell-beingを実現する共助型未来都市「Digital Green City」を目指しています。

    2022年度のデジタル田園都市国家構想事業では、官民連携会社のめぶくグラウンドが中心となってデジタル個人認証「めぶくID」とデータ連携基盤を構築。マイナンバーカードを個人認証に活用するとともに、必要な時に必要な範囲だけ利用許諾が求められる「ダイナミックオプトイン」を実装しています。また、同データ連携基盤を利用する共助ポイント、コミュニティ共助学育、マイアレルギーアラートなど、10のサービスを実装しました。

    2023年度のデジタル田園都市国家構想事業では新たに2つのサービスを実装。そのうちのひとつである「めぶくEye」は視覚障がい者サポートの仕組みです。スマホを利用した遠隔ナビゲーションでオペレーターが視覚障がい者の歩行支援を行うことができるほか、オペレーターを介して支援を受けたい視覚障がい者と共助者をマッチングのうえ、街歩きをサポートする共助の仕組みを実装しています。

    また、視覚障がい者の自助の支援機能として、スマホカメラとAI画像認識による歩行ナビゲーションシステムも実装しました。

    本サービスの利用には、「めぶくID」の登録が必要となり、共助者には実績に応じて共助ポイントを付与することで、信頼性と利便性を図る仕組みになっています。

    前橋市はめぶくEyeを通じて視覚障がい者でも安心して歩ける街を実現するとともに、住民の助け合う心や地域愛を育むことを目指しています。

    静岡県三島市、熱海市、函南町 | 伊豆ファン倶楽部

    現在、日本の観光地では観光消費額を増やすために、滞在時間および宿泊数の向上が課題となっています。しかし、観光地の規模が大きくない場合、短期滞在で終わってしまいがちです。

    伊豆の玄関口となる、三島市、熱海市、函南町はそれぞれがキャンプ、ゴルフ、温泉などの魅力的な観光資源を保有する一方で、それぞれの観光地で目的を達するとすぐに東京圏へ帰宅してしまうという課題がありました。

    そこで三島市、熱海市、函南町は連携し、伊豆の関係人口強化を目的に伊豆ファン倶楽部事業を開始しました。リピーターおよび在住市民に向けてマイナンバーカードに紐づいた伊豆ファン倶楽部メンバーIDを発行。提携先となるそれぞれの自治体の飲食店、宿泊施設、体験サービス、物販拠点、交通サービスなどを利用したID保有者に対してポイント付与を行い、地域間での相互送客と消費活性化を図ります。ID保有者の行動データは提携先のサービス開発や創業支援等に活用し、持続的な産業振興へとつなげています。

    拡張・拡散していく地域のデジタルサービス

    2022年度にデジタル田園都市国家構想がはじまり、現在は各自治体が都市OSおよびサービス開発をはじめた黎明期です。都市OSの特徴は開発したサービスの機能やアーキテクチャのアップデートが容易であり、地域内外でデータやサービスの連携が可能である点です。

    各自治体にはそれぞれ固有の課題がある一方で、幅広い自治体で共通の課題もあります。先行事例がアップデートを繰り返してサービスとしての質を向上し、モデルケースとなれば、質の高い行政サービスが全国の自治体へ広がっていくようになるでしょう。

    今回紹介した4事例のほかにもデジタル田園都市国家構想ではさまざまな自治体の事例が紹介されています。それらの事例が日本の叡智となり、日本のスマートシティが価値あるものとして普及していくことが期待されます。

    ※参考:デジタル庁『デジタル田園都市国家構想交付金デジタル実装タイプ(TYPE2/3)の活用事例』/熊谷市HP『暑さ対策スマートパッケージ事業』/鳥取県プレスリリース『メタバース関係人口創出に取り組む鳥取県、新たな交流スペース「バーチャルとっとり」を2024年3月末にオープン!』/前橋市HP『前橋ビジョン「めぶく。」』/『伊豆ファン倶楽部』公式サイト

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