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2024.08.02(Fri)

個からチームへ。
Forbes JAPAN編集長に聞く「Xtrepreneur AWARD」創設の真意

#共創 #イノベーション
グローバルビジネス誌「Forbes JAPAN」がNTT コミュニケーションズ(以下、NTT Com)の事業共創プログラム「OPEN HUB for Smart World」と立ち上げた「Xtrepreneur AWARD(クロストレプレナーアワード)」は、企業の垣根を越えて共創でビジネスをおこし、社会課題の解決に挑もうとする、イントレプレナーでもアントレプレナーでもない、企業のなかで奮闘する次世代の「事業共創家」を表彰するアワードです。

Forbes JAPANは、月刊誌やWebで国内外のビジネストピックを発信するほか、日本経済をけん引する起業家を応援する「日本の起業家ランキング」、グローバルでありながら地域に根差した中小企業を対象とする「スモール・ジャイアンツ」、日本発世界を変える30歳未満を選出する「30 UNDER 30」など、さまざまなアワードを発信する媒体としても知られています。そもそも、なぜForbes JAPANではアワードを通して起業家にフォーカスしてきたのか。同誌編集長の藤吉雅春氏にその狙いを聞きながら、クロストレプレナーアワードを立ち上げた意図に迫りました。

この記事の要約

Forbes JAPANは、ポジティブ・ジャーナリズムを掲げ、未来につながる経済のストーリーを語ることを目指しています。

同誌は、さまざまなアワードを通じて、起業家やイノベーターに光を当て、社会通念をアップデートする役割を果たしてきました。

そのなかで2023年に創設されたのが、クロストレプレナーアワードです。このアワードは、企業間の共創や連携を促進し、大企業のレガシーを生かした新しいプロジェクトを表彰するものです。

クロストレプレナーはもはや特定の「事業共創家」を指す言葉ではないのかもしれません。プロジェクトを推進するチームの形成が重要です。

技術者、アイデアを発掘する人、経営力のある人、コミュニケーション能力の高い人、そしてリーダーシップを発揮する人など、クロストレプレナーは多様な人材の協働から成り立っています。

このアワードを通じて、Forbes JAPANは経営者層に対し、長期的視野と共創の価値を訴えかけています。また、大企業と中小企業・スタートアップの協業が増加し、より多様な連携形態が生まれつつあることも注目されています。

本アワードを通してこうした取り組みが21世紀の社会運動として普及し、グローバルレベルの社会課題を解決していくことが目指されます。

※この要約は生成AIをもとに作成しています

目次


    新しい人に光を当てるのもジャーナリズムの役割

    ――2024年6月に「Forbes JAPAN」は創刊10周年を迎えました。あらためて、媒体の特徴について教えてください。特に、創刊当初から「ポジティブ・ジャーナリズム」という言葉を掲げていますが、ここにはどのような思いが込められているのでしょうか。

    藤吉雅春氏(以下、藤吉氏):一般的に「ジャーナリズム」というと、いま社会で起きている事象やニュースを報道して、そこに潜む問題の構造をあぶり出していくことだと思われています。ですが、言いっぱなしになったり、問題に対する批判がステレオタイプだったりで、20年前の新聞の社説といまの社説がほとんど変わらない構文になっていることもあります。批判であっても本質をとらえた建設的なものにつながる道筋を示していれば、ポジティブ・ジャーナリズムだと思うのです。

    特集を組むときも、アワードを企画するときも、このスタンスは一貫しています。光を当てるべきところを発掘してクローズアップすることで社会をよくしていく。それが、Forbes JAPANというメディアの役割だと私たちは考えています。

    実はこのスタンスは、私の個人的な問題意識ともリンクしています。Forbes JAPANが創刊されるよりずっと前、1990年代からさまざまな取材で全国各地をまわってきたなかで、魅力的な取り組みを山ほど見てきたわけです。当然ですが、中央のメディアですから、著名な企業や人物がタイトルに入らない話題は記事にしにくい。非常にもったいないなと思っていたのです。記事にするには、切り口を変えるなどして見せ方を変え、価値を上げなければならないと考えています。

    藤吉雅春|「Forbes JAPAN」編集長
    1968年佐賀県生まれ。20代よりノンフィクションライターとして全国各地を取材し、多数の媒体に寄稿。取材対象は政府、自治体、経営者、学者、アーティストと多岐にわたる。「Forbes」の日本版として同誌が2014年6月に創刊されたときから立ち上げメンバーとして参画し、2019年3月より現職。著書に『福井モデル 未来は地方から始まる』(文春文庫)、『未来を「編集」する』(実業之日本社)、監修メンバーとしての共著に、『福島原発事故独立検証委員会 調査・検証報告書』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある

    ――「光を当てるべきところを発掘する」という言葉がありましたが、Forbes JAPANではさまざまなアワードを設け、起業家を積極的に表彰しています。きっかけや狙いは何でしょうか。

    藤吉氏:言葉には社会通念をアップデートする力がある。そう思ってアワードという発信方法を選びました。これは、我々がベンチャー企業を「スタートアップ」と呼び始めたことにも通じています。近年、経済産業省が「スタートアップ支援策」を打ち出すなど、政府もスタートアップという言葉を使うようになりました。しかし、Forbes JAPANが創刊された2014年はまだベンチャー企業という言葉が一般的で、「なんだか怪しい」というイメージを持つ人もいたのではないでしょうか。

    でも、本当は新しく何かを始めようとする人の活力や、アントレプレナーシップ(起業家精神)が社会を動かしていくうえでは非常に大事なのです。いまでこそ誰もが認めることですが、当時は「無名」「若い」「小さい」「前例がない」という社会通念がベンチャー企業の成長を妨げてしまっていた。だから、彼らをメインストリームに持ってこなければいけないと思っていました。概念を変えるには、言葉を変えなければいけない。そこで、アメリカでスタートアップが浸透していたことをヒントに、Forbes JAPANでも創刊当初からベンチャーではなくスタートアップと呼ぶことにしたのです。

    スモール・ジャイアンツも同様です。まずは「中小企業=大企業の下請け」といった泥臭いイメージから脱却しなければいけない。実はすごく革新的なことやっている素晴らしい会社はいっぱいある、ということを伝えるためにスモール・ジャイアンツと呼ぶことにしました。

    共創を次世代のメインストリームに

    ――たくさんのアワードを開催するなかで、2023年に創設されたクロストレプレナーアワードはどのような位置付けなのでしょうか。

    藤吉氏:まさにForbes JAPANが取り組むべきアワードだと思っています。過去の取材で、とある経営者が「これからは企業が単体で生き残る時代じゃない」と話していました。企業同士が手を組む、企業と行政が連携するなど、いろいろなパターンが考えられますが、いずれにしても企業は自前主義を脱却しなければならない時代になったと感じています。

    大企業に眠るレガシーを呼び覚まして、企業同士が互いの課題・知見・技術を掛け合わせてプロジェクトを開発したら、一体どうなるのか。「共創」にはものすごく希望がある気がして、僕なんかはもう考えただけでワクワクしてしまうわけです。だから、言葉で概念を刷新したい。このアワードは大企業で新しく事業をやっていこうというイントレプレナーシップと、それらをクロスさせるアントレプレナーシップに光を当てたものですが、この動きを社会に根付かせたいという思いから、「クロストレプレナー」と名付けました。

    ――クロストレプレナーというアワードを創設したことによって、社会にどんな流れをつくっていきたいとお考えですか。

    藤吉氏:これまでさまざまなアワードを続けるなかで、ありがたいことにノミネートを目標にする方も増えてきました。ですが、それは我々が意図したことでもあります。ランキングという価値をつけることで事業創出の活動を活性化させ、機運を高めて成長を支援しようとしてきたのです。

    大企業のなかで新規事業を起こそうとするとき、優れた発想力を持っている人が声をあげても「前例がない」と躊躇されてしまうことがまだまだ多くあります。クロストレプレナーアワードが、チャレンジを後押しするアワードであれたらと考えています。

    ――藤吉さんのご指摘のように、経営のトップの方、決裁権のある方がクロストレプレナーを支援していく土壌が必要だと思います。クロストレプレナーのアワードを通じて、ほかにはどのようなことを伝えていきたいですか。

    藤吉氏:Forbes JAPANでこのアワードをやるべきだと考えている理由の1つには、経営者層に訴えかけていきたいという狙いもあります。なぜなら、経営者のための雑誌だから。我々の対象は、企業、NPO、地域とさまざまな組織・団体のリーダーを含みます。そのうえで「Forbes JAPANは日本のリーダーズマガジンである」と創刊時から掲げてきました。

    このアワードでは、企業のトップに立つ人、判断する立場にある人たちに向けて「コストだ」「金だ」と言っているだけでは真のリーダーではない、と投げかけたいのです。会社の未来永続的な組織をつくるためには長期目線の発想を持ったリーダーが必要で、いまの社会においては、共創に価値を見いだそうとする経営判断こそ必要なのだということを伝えていきたいと考えています。

    大企業のレガシーを最大化することの意義

    ――7月にアワードの選考会が終了しました。全体を通じて今年はどのような印象を受けましたか。昨年から何か変化はあったでしょうか。

    藤吉氏:今年のクロストレプレナーの選考会にあがってきたプロジェクトを見てみると、中小企業が持つ優れた技術を国内外に広めるために大企業のネットワークやリソース、資本力が生かされている、というパターンが増えてきたように感じました。スタートアップや中小企業が事業を展開していくうえで、規制などの参入障壁が日本にはまだまだあるのですが、大企業がサポートすることでその壁を崩していけるのです。

    また、共創というと2〜3社が連携するイメージがありますが、最近では群団を形成するかのように大・中・小と企業の垣根を越えて共創の輪が広がっているのを感じました。同じ志を持つ者同士が集まってどんどん仲間を増やしていくのって、非常に日本的ですよね。「和を尊ぶ」というか、日本には昔から協力する文化がある。なぜか、抜けがけしない。これが成り立つのは、日本ならではのすごく強力な武器だと思います。

    ――最後に、藤吉さんが考える理想のクロストレプレナー像について教えてください。

    藤吉氏:今回の選考を通じてあらためて感じたのは、クロストレプレナーは個人ではなくチームありき、ということです。まず、研究・開発のアイデアを持つ人がいる。特に大企業には技術を日夜研究し、掘り下げている人が必ずいます。次にそのアイデアを発掘し、世の中に出していくために概念を伝える人もいなくてはなりません。そして経営力のある人。やはり、社会貢献だけにとどまってしまうと、そのプロジェクトの継続・発展は見込めません。ビジネスなので、ちゃんと稼ぐ仕組みをつくって組織を推進させていける人がチームには必要です。

    それから、軽視されがちですが高いコミュニケーション能力を持つ人も欠かせません。共創の難しさは、カルチャーも違う、共通言語もない企業同士が手を組むことであり、企業間の橋渡しをする人がいることで成功へとつながります。気配りができてコミュニケーションが上手な人ほど、実はクロストレプレナーのキーパーソンになっていくのではないでしょうか。

    最後に、これらを引っ張っていくリーダーです。その役割はチームとして組織をまとめるだけでなく、プロジェクトを社会に広めていくときに言葉で発信していかなければいけない。いかに社会の人々に共感してもらえるかが成長の鍵になりますから。

    昨年の選考会で、審査員の1人だった独立研究者の山口周さんは「企業が社会運動の主体になっていく」とおっしゃいました。まさにその通りだと私も思っています。いま、大企業はSDGs経営やパーパス経営が一般的になってきています。こうした背景があるなかで、共創というかたちで仲間を増やしながら、グローバルレベルの社会課題を解決する技術を開発していくことは、まさに21世紀の社会運動といえるのではないでしょうか。

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