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Future Talk
2024.08.07(Wed)
この記事の要約
この記事は、健康経営の重要性と実践方法について論じています。
健康経営研究会理事長の岡田邦夫氏は、高齢化社会において従業員の健康維持が企業の成長に不可欠だと指摘します。企業の役割は、従業員が自身の健康を管理できる仕組みをつくることです。
NTTコミュニケーションズとNTTPCコミュニケーションズは、ウェアラブルデバイスを活用した健康経営支援サービスを提供しています。これらのサービスは、個人の健康状態の可視化と、組織全体の健康状態の把握を可能にします。
岡田氏は、ライフログデータの活用が個人の行動変容と職場環境の改善に効果的だと評価しています。今後は、メンタルヘルスケアの充実や、AIを活用した具体的なアドバイス機能の開発が計画されています。
健康経営の目標は、個人の健康管理と企業の職場改善を両立させ、従業員と企業のWin-Winの関係を構築することです。
※この要約は、生成AI で作成しました。
目次
——そもそも健康経営とはどのようなものなのでしょうか?
岡田邦夫氏(以下、岡田氏):健康経営とは、企業が従業員の健康への取り組みを「投資」と位置付け、健康を「利益の出る事業」として経営的視点から考えて戦略的に実践することです。背景には、日本における人口の変化があります。1995年に制定された高齢社会対策基本法前文では、人口が減少し、高齢化が進行することに対する危惧が述べられています。企業も、このままでは維持できなくなることが分かっていたので、定年の延長についての議論がすでにありました。今、人口減少や高齢化は深刻な問題として認識されていますが、実は30年前の時点で予測されていたことなのです。
定年の延長にあたって問題になるのが体力と健康です。現在、60歳の時点で約25%の人が再就職できない健康状態になっているといわれています。つまり、今後定年を延長したとしても、働ける人がそう多くないかもしれない。そこで必要なのが、ヘルスリテラシーを高め、自分自身の健康管理が行える人材です。長く働ける健康長寿の国を目指すのであれば、一人ひとりのヘルスリテラシーが不可欠なのです。
日本は、企業が従業員に健康診断を受診させるなど、世界の中でも法律にもとづいた健康投資を行っている国です。しかし、投資効果はいまひとつで、従業員の健康状態はあまり改善していませんでした。「経営者が従業員の健康づくりにもっと力を入れなければならないのではないか」と考え、私は2006年に特定非営利活動法人 健康経営研究会を設立し、健康経営を提唱したわけです。
——健康経営を実践するにあたって、企業は何をすればよいのでしょうか?
岡田氏:企業の役割は、従業員自身が健康を管理できるような仕組みをつくることです。企業は従業員の健康状態を詳細に把握することはできません。個人情報保護の観点で、従業員のライフログは原則として同意なく閲覧できませんし、健康診断に関しても、健診データの情報を得られるのは産業保健スタッフのみで、事業主の立場で閲覧できるのは加工されたデータに限られています。ですから、従業員一人ひとりがヘルスリテラシーを持ち、自分自身で健康問題を解決する能力を持たなければなりません。それを実現するための仕組みづくりが企業の仕事です。
働き方と健康の関連性は明確です。健康長寿産業連合会と順天堂大学の矢野裕一朗先生が共同で行った研究では、従業員の健康習慣の中でも「禁煙」「十分な睡眠時間」「運動」が企業の利益に資することが分かりました。この3つの習慣を定着させるためには、オフィスを禁煙にし、長時間労働をやめ、運動習慣が持てるような働き方を導入することが必要です。これは従業員個人でどうにかできることではありませんので、経営者が決断して企業として実践すべきことです。
——健康経営の考え方は多くの企業に広まり、健康経営優良法人を取得する企業も年々増えています。今後、さらに健康経営を浸透させていく上での課題はありますか?
岡田氏:特に若い人たちの健康に対する意識が低いことが気になります。若いうちは体力に自信があって健康だと思っていても、学生時代の感覚のままでは、年齢を重ねたときに健康を維持できない可能性が高いのです。ただ、病気には必ず前段階があります。健康診断の結果を分析すれば、数年後に病気を発症するリスクが分かりますし、若くて健康なうちから気を付けることができれば、未来の健康を確保できます。
企業が働き方を変えれば、若い人たちの健康度を高められます。長時間労働が当たり前の従業員は、夕食の時間が遅くなり、睡眠時間が短くなる上に、朝食も摂れなくなる。絶食時間が長くなると、昼食時に大量のインスリンが分泌され、動脈硬化のリスクが上がることが知られています。一方、ある企業では従業員に対して朝8時に無料で朝食を出しています。すると、生活が朝型になり、早く帰れるようになることで睡眠も十分取れるため、体調が良くなります。生活が変われば、エンゲージメントが高まり、ワークキャパシティも増えるため、企業は投資効果を得られます。
健康経営は効果が出るまでに時間がかかりますし、「投資する価値があるのか」「労働時間を減らすと利益が減るのではないか」と躊躇される経営者の方もいらっしゃいます。しかし、経営者の方のリテラシーが高いと従業員のリテラシーも高くなり、利益もむしろ増えることが分かっていますので、企業のトップの考え方が重要だといえます。
また、日本経済新聞社のアンケート調査結果では、6割の方が「健康経営優良法人であることが就職の決め手になった」と回答しています。健康経営に取り組んでいるほど離職率が低いというデータもあり、健康経営未実施の企業では11%、健康経営優良法人では5%、そして健康経営に取り組む企業の中で特に優れた企業が選定される「健康経営銘柄」では2.5%まで下がります。健康経営に取り組み、働き方を改善すると、選ばれやすく居心地が良い企業になるのです。
——NTT ComとNTTPCのお二人は、企業の健康経営への向き合い方や、従業員側の健康経営に対する認知について、業務を通してどのような印象ですか?
NTT com三原敦(以下、三原):企業側は規模にかかわらず、従業員の健康意識を向上させるためにさまざまな施策を打っています。一方、毎年保健指導を受けているような健康リスクをもつ従業員へのアプローチに悩んでいる企業が多いようです。まず、健康管理をいかに自分ごと化していくか。そして、「頭では分かっているけれどつい日頃の生活に流されてしまう」という人間の習性にいかに対処するか。この2点に着目しています。
NTTPC古田健(以下、古田):経営者の方々は非常に意識が高いです。健康経営は、生産性向上や人材確保、人的資本経営の早期実現なども含め、最も優先度の高いテーマとして認識されています。一方、経営層を離れて現場に近づけば近づくほど、健康経営の重要性が浸透していない印象です。これは決して現場が悪いというわけではなく、現段階では経営層の意識がまだ現場まで届いていないだけで、今の企業の取り組みを見るに、今後数年の間には必ず浸透していくと考えています。
——両社とも健康経営を支援するサービスを提供していますが、どのようなサービスなのか教えてください。
三原:NTT Comでは、「ハイリスクアプロ-チが難しい」という企業の声に応えたサービス「あなたの健康応援団」を2024年1月にリリースしました。具体的には、健診データから健康リスクの高い方を抽出し、健康的な生活習慣の取り組みが定着するように支援します。これまで、生活習慣の改善は個人任せでなかなか続かないために、健康増進の施策効果が限定的になっていました。そこで、ウェアラブルデバイスFitbit®を着け、歩数や睡眠状況といったライフログを取得することで自身の健康状態が可視化され、自分ごととして把握できるようになります。また、健康リスクの高い方へ応援メッセージを送付したり、インセンティブとしてdポイントを付与したりと、健康増進取り組みの動機付けと継続フォローの仕組みもあります。
企業側は、組織の統計情報として従業員の健康リスクや取り組み状況を把握できるため、どの程度のリスクの人がどれだけいるのか、組織として何を変えたらいいのか、気付けるようになっています。企業と健保が従業員に伴走して施策を行い、効果を評価して、次の施策につなげるPDCAが実現できます。2024年4月から始まっている、第4期特定健診・特定保健指導のアウトカム評価にも対応するサービスです。
古田:NTTPCでは、2023年10月から「健康経営支援サービス」を提供しています。リング型やリストバンド型のバイタルセンサーを着けて脈拍の揺らぎを計測し、自律神経のバランスや集中度・ストレス状態などナーバスな心的状態を可視化し、「社員個人」と「企業組織」に対し価値を提供するサービスです。「社員個人」向けには、自分自身では気づきにくい心身の状態を把握することで、自身がイキイキ働ける仕事のペースをつかんでもらえる各種の指標を提供します。
また、「企業組織」に対しては、個人を特定することなく個々のデータを再集計して統計的に分析し、組織全体としての活性度やリスク度を客観的かつタイムリーに把握できるようになっています。経営者や総務・人事部、現場の管理者は、データを見ながら働きやすい環境づくりに取り組めます。バイタルデータを活用し企業組織の「いま」を把握できる仕組みとしては、NTTグループ内・業界でも初の取り組みで、本サービスが非常に高く評価されているポイントです。
——どちらも、ウェアラブルデバイスでライフログを収集して活用するサービスですね。
岡田氏:健康のために重要なのは、主観的健康感と客観的健康度の乖離が小さいことです。自分では健康だと思っていても、検査データを見るとそうではないこともあります。つまり、両者の乖離が大きい人ほどヘルスリテラシーが低いといえます。客観的健康度を知った上で行動変容できる人はリテラシーの高い方です。
年に1回だけの健康診断では行動を変えるのは難しいものです。ウェアラブルデバイスを使ったライフログでは、毎日のデータの揺らぎが見えるため、行動に修正がかかり、まさに自分ごとになっていきます。健康診断の結果も良くなっていくはずです。
メンタルヘルスについても同様です。ストレスチェックは実施されていますが、やはりその時点だけのものですので、日常的にデータが得られるのは大きいことです。本来、自律神経には交感神経と副交感神経の波があるものですが、現代人は交感神経が常に優位になりやすく、休まらない状態です。例えば運動すると自律神経の波が正常化しますし、日常的にウェアラブルデバイスを着けていれば変化も見て取れるため、ストレス対策が取れるようになります。
また、まったく問題意識のないときに保健指導を受けても、なかなか響かないものですが、自分ごと化された状態であれば、気になることがあったときに医師や看護師、保健師などの専門家に相談すると効果が非常に高くなります。自分のリテラシーを高めることによって、専門家の意見を効果的に取り入れられて、行動変容がさらに進むのです。
もう1つ重要な点として、職場の環境は従業員個人ではどうすることもできません。統計情報として組織の状態を把握することができれば、職場のどこに問題があるのか精査し、解決策を打ち出せるようになります。個人のデータは保護したままで職場全体の環境を改めていくことができるという点が、これからの企業の健康経営の武器になるのではないでしょうか。今は、そこまでのことが求められていると思います。
——今後、健康経営に関して各社がさらに取り組みたいことはありますか?
三原:多くの企業がメンタル不調や休職の問題を抱えています。「あなたの健康応援団」で使用しているウェアラブルデバイスでは睡眠データが取れますが、ストレスが非常に高くなると睡眠が浅くなり、メンタル不調の原因にもなるといわれています。そこで、NTT PARAVITA社の「ねむりの応援団」と連携を進めています。まずは睡眠の状況をモニタリングし、不調のある方に気付きを与えられるよう、今年の秋を目標に機能拡張していく予定です。さらに、睡眠の専門家に相談ができる改善プログラムも、オプションサービスとして拡充を考えています。フィジカル面だけでなくメンタル面もサポートすることで、ずっと健康で元気に働くための支援を充実させていくつもりです。
古田:現状のサービスは、「個人や組織の状態がタイムリーに把握できて、課題が可視化されるようになった」という点で高い評価をいただいています。ただ、特に現場の管理者からは、「可視化された課題に対してどう対処すればいいのか分からない」という声が上がっています。業務量の調整やチームの組み替えといった対策が考えられますが、逆に言うとそれぐらいしか打ち手がない、というのが悩みどころのようです。
そこで、岡田先生にもご協力いただいて、専門的知見を有する生成AIを使ったアドバイザー機能の開発を進めています。バイタルセンサーで取得したデータをもとに具体的アドバイスを管理者にフィードバックする仕組みを考えています。健康経営や人的資本経営の具体的な実践方法などを現場で直接指揮する管理者に対し提供することで、真の働き方改革が実現できると考えています。さらに、身体的な健康課題を解決する「あなたの健康応援団」と本サービスを相互連携し、より効果の高い仕組みをつくっていくことも検討しています。
岡田氏:ウェアラブルデバイスで得た個人のデータはすべて個人に返し、個人の責任で健康管理をしていただく。一方、職場の問題は、取得した統計データを基にして企業の責任で改善する。このような形で、Win-Winの関係を構築していく流れが進んでいくのではないかと思います。この両輪を上手に回すことで、従業員の健康が守られ、働きがいのある良い企業になっていくのではないでしょうか。
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