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Generative AI: The Game-Changer in Society
2024.07.31(Wed)
この記事の要約
NTTコミュニケーションズのOPEN HUBが生成AI時代のマーケティングに向けたイベントを開催しました。
まず、NTTコミュニケーションズのデータ活用による地域活性化の取り組みが紹介されました。その後、音部大輔氏が登壇し、マーケティングの本質は「市場創造」にあると説明しました。そして、生成AIがマーケティングのフレームワークをどこまで理解できるかを、ChatGPTを使ったデモで検証しました。
生成AIは複数のアイデア出しには有用ですが、本質的には人間がマーケティングの概念をインプットできているか、その上で生成AIを使いこなせるかが重要です。音部氏は、生成AIの活用には慎重さが求められると同時に、マーケターには汎用的な原理原則の習得が不可欠だと述べました。
最後に、生成AI時代のマーケターには、消費者ニーズの本質を捉え期待を超える提案ができることが求められ、多様な視点に触れる機会が重要だと語られました。
※この要約は生成AIをもとに作成しました。
目次
今回のイベントには、多様な業界でマーケティングに携わるOPEN HUB Base会員が参加しました。はじめにOPEN HUB Catalystの川口昌宏より、NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)のマーケティングソリューション領域における取り組みの紹介がありました。
「NTT Comはドコモグループの強みを生かし、約9,900万人のdポイントクラブ会員データの利活用を通じて、新しい顧客体験の創出に取り組んでいます。
観光消費の活性化を例に挙げると、福島県浜通り地区を対象にビッグデータとAI分析によるプロモーションを行った結果、来訪者数が約2倍の伸びを見せています。このような地域創生のほか、商業分析、ファンマーケティング、ヘルスケア領域でもデータの利活用を推進しており、今後もパートナー企業の皆さまとの連携を深めていきたいと考えています」
トークセッションの冒頭で、音部氏はまず「昨日持っていなかった手段を今日手に入れることが、『長期的で有機的な成長』につながる」と、新たな技術を習得することの重要性を強調しました。続いて「ChatGPTなどの生成AIを日常的に使っている方はどのくらいいますか?」と会場に問いかけると、約80%の参加者が手を挙げます。
生成AIの活用範囲は調べものから、翻訳、要約、文章・画像の生成、アイデア創出、自身が考えたアイデアへのフィードバックなど様々ですが、この中でも賛否が分かれるのが「アイデア創出」であると音部氏は話します。
「アイデア創出については『生成AIが使える』という人もいれば『全然使えない』という声も聞きます。このセミナーでは、マーケティング領域のアイデア創出において生成AIがどこまで活用できるのか、ぜひ一緒に考えてみましょう」
音部氏の呼びかけに、会場の熱気が高まります。まずは「概念の整理」として、マーケティング用語の定義が解説されました。
「マーケティングとは、いい商品をどうやって売るかを考えることではなく『いい商品』の再定義を促すことです。いい商品の定義が変化すると、そこに市場が創造されますよね。つまりマーケティングとは『市場創造のための活動』といえます。
ただし、こうした概念のままでは消費者に届かないため、具体的に4P(Product、Price、Place、Promotion)へと落とし込む必要があります。その際に注意すべきは、『これはいい商品か、いい価格か、いいチャネルか、いい販促活動か』というベクトルからではなく、目的から考えるべきだということです。誰にどんなベネフィットを提供するのか。その目的が定まっていないと、手段としての4Pを適切に立案することも、判断することも難しいのです。
こうしたマーケティングのフレームワークを生成AIが習得し、戦略立案のパートナーとなり得るのか。まずは生成AIが概念をどこまで理解し、どれだけの共通言語を持つことができるのかを確認してみましょう」
生成AIの活用シーンとして、4Pの具現化においては「役に立ちそう」と見解を示す一方、「ベネフィットの設計にどこまで寄与できるのか」と音部氏は問いを投げかけます。
「ベネフィット」とは「機能」とは似て非なるもの。紙おむつを例にすると、「もれない・むれない」などは『機能』であり、「赤ちゃんが健やかな肌でいられる」「赤ちゃんがぐっすり眠れる」「赤ちゃんと楽しいひとときを過ごせる」などが『ベネフィット』です。
こうした機能とベネフィットの違いを理解し、消費者行動に照らし合わせて具体的にイメージするには、ある程度のマーケティング経験が必要となります。人が数年かけてできるようになることを、果たして生成AIは実現できるのでしょうか。
音部氏がChatGPTに機能とベネフィットの区別をあらかじめインプットさせた上で、次の3つの例を解説するよう促すと、機能とベネフィットそれぞれに対する説明が得られ、用語の意味を正しく理解していることが確認できました。
・スマートフォンの高解像度カメラ(機能)と記憶を鮮明に保つ(ベネフィット)
・電気自動車の高効率バッテリー(機能)と心配なく旅する自由(ベネフィット)
・スポーツシューズの通気性素材(機能)とストレスフリーなランニング(ベネフィット)
ではこれらのベネフィットを生成AIはどこまで明確に捉えることができるのでしょうか。その精度を検証するために「スマートフォンの高解像度カメラ」のベネフィットを5つ回答するようプロンプトを出します。そこからさらに改良と量産を指示すると、一定の質を担保した10のアウトプットが得られました。
「かかった時間はものの数分です。ここにたどり着くまでにどれくらいのマーケティング経験が必要かを考えると、マーケター1年目の方には少し難しいかもしれません。『機能にもとづいて複数のベネフィット案を探索する』という場面で、やり方次第では、生成AIを使ってたたき台を量産することができそうです」
ここからはいよいよマーケティングの本質ともいえる「市場創造」について考えていきます。音部氏は自動車を例に挙げ、時代とともに「いいクルマ」の定義が変化してきたことをこう述べます。
「1990年代はステータス性や高級感、2000年代は車内空間の広さ、2010年代は環境負荷の少なさというように、時代ごとに『いいクルマ』の重要属性が提案されてきました。その属性を消費者が受け入れることで属性順位の転換が起こり、『いいクルマ』の定義が変化してきたのです。
『家族で出かけるいいクルマが欲しい』という普遍的なリクエストに対し、消費者に新たな提案をすることで『いい商品』の定義を刷新し、市場を創出していくのがマーケティングです。皆さんが担当されるカテゴリにおいても、日々激しい属性順位の転換が起きているかもしれません」
こうした市場創造の仕組みと変化について、生成AIはどこまで理解できるのでしょうか。
音部氏は3つの市場を例に、まずはChatGPTが業界ごとに時代や技術の転換点を捉えながら、属性の変化を正しく説明できることを確認します。
・携帯電話市場
・音楽産業
・テレビ市場
さらに、アメリカの情報がベースとなってはいるものの、「1990年代初頭」「1990年代後半」などの細かな粒度でも、属性と市場に関する情報をおおむね整理できているようです。では、より実務に近い活用を想定した場合はどうでしょうか。未来の属性順位転換予測について「2020年代後半に転換するかもしれない重要属性」のリストを提示するようChatGPTに入力しました。
すると、目新しい内容は少ないながら、各業界の専門家でなければ作成するのが難しいと予想されるリストが出来上がりました。このことから、属性順位の転換や「いい商品」を考えるためのアイデアを量産する際も、生成AIは活用できそうだということが見えてきます。
「生成AIを使ってみて分かったのは、やはりプロンプト次第でとても強力な思考機械として役に立ちそうだということです。特に、汎用性の高い原則やフレームワークを知っていることは有益だと思います。例えば、クルマを運転するときに、コーナーのライン取りの原則を知っていることで、進化したクルマの性能を引き出したり、あるいは初めてのコースでもスムーズに運転できたりしそうです。思考機械の進化についても、考え方の原理原則を理解していることでよりよいアウトプットを引き出したり、初めての運用/用途でも扱いやすくなったりするように思います」
正しくプロンプトを重ねていくことで、マーケティングのフレームワークを構築できたという意味で、活用の余地が見えてきた生成AI。プレゼンテーションの締めくくりとして、音部氏はこう述べました。
「マーケティング領域において大事なことは『原則や概念、目的などを明確に理解できていること』です。先ほどプロンプト次第と言いましたが、使う側の『概念の整理』と『目的の理解』がきちんとできていれば、生成AIの有効活用にもつながるでしょう。
一方で、生成AIは便利なものですが、意図的に『頭を使う』必要も出てくるかもしれません。リモートワークが増え、通勤がちょっとした運動の時間になっていたことに気付いた方は少なくないでしょう。移動の機会が減った分、意識して歩かないと体力が落ちてしまうように、生成AIという文明の利器によって私自身が思考力を失っていく懸念を持ちました。それは同時に、生成AIが衰えた思考力を補ってくれる可能性ともいえるのでしょうけれど。
生成AIは思考力を鍛える上で妨げになることもあるし、便利なツールにもなり得ます。それを意識している人とそうでない人ではこれから何らかの差が出てくるかもしれません。生成AIとの共生について今一度考える機会となれば幸いです」
示唆に富んだ講演とQ&Aセッションが終了し、参加者から大きな拍手が送られました。最後に講演後の音部氏から、生成AI時代の「いいマーケター」や共創コミュニティー「OPEN HUB」に期待することについて直接お話を聞きました。
「生成AIが検索エンジンと大きく違うのは、概念を習得した上でフレームワークにもとづき情報を処理できること。今回の一連のシミュレーションからも、それが示唆されたのではないでしょうか。今後はフレームワークを持っているマーケターが生成AIの活用においても有利といえそうです。
もしも春秋時代の軍事思想家・孫武がタイムスリップしたら、葛飾北斎が版画ではなくタブレットを手にしたら同じように活躍できるでしょうか。孫武が戦略の要諦を修得していて、葛飾北斎にビジュアル表現で人の心を動かす才能があるならば、きっと現代でも活躍するでしょう。マーケティングにおいても、普遍的で汎用性の高いスキルや『型』が習得できていれば、たとえ既存の技術が廃れ使うツールが変わっても、応用が利くのではと思います。
さらに顧客理解のポイントとして、消費者は自分の欲しいものは分かっていながら、あまり明確にはしていないことが多そうです。『何が欲しいですか』というオープンクエスチョンでは明確な答えは返ってこないことを、実務で経験されているかもしれません。消費者が欲しいものを仮説を立てながら理解し、データやツールを活用して『こんな商品はどうですか』と提案するのはひとつ大事なことだろうと思います。市場に新しいベネフィットをもたらすマーケターが増えていくことを期待しています。
本日はさまざまな企業の方にご参加いただきましたが、同じ業務をしていても業界が違う、あるいは同じ業界でも組織体制や出自が異なる人と交わることはマーケターにとって重要です。昨年度から、NTTグループのマーケター育成にも関わっていますが、複数の視点でものを見ることでインプットが増えると経験値を稼ぎやすくなります。結果、おのずとアウトプットも増えていきます。特に同じ会社で20年、30年とキャリアを積み重ねてきた人にとっては有意義な場になるのではないでしょうか。
OPEN HUBは多様なものの見方に触れ、たくさんの刺激をもらえる場です。より多くの方がここで出会い、新たなマーケットの共創が大きく広がっていくことを願っています」
<トップマーケターをお招きした「ドコモビジネスマーケターセッション」を開催>
2024年8月28日には資生堂ジャパン株式会社 新価値創造マーケティング本部 本部長 北原 規稚子氏を招いたイベントを開催します。
業界を問わずマーケティングやイノベーションに関するヒントが得られるイベントですので、ぜひ、ご応募ください。
●イベントへのご応募はこちら(申し込みには会員登録が必要です)
【オンデマンド配信中】
「生成AI時代に必要なマーケターの審美眼」
当日の講演の視聴はこちら(申し込みには会員登録が必要です)
https://openhub.ntt.com/event/8883.html
ここでしか聴けないQ&Aセッションも配信中です。
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