Generative AI: The Game-Changer in Society

2024.03.27(Wed)

生成AI活用のポジティブな可能性
~3つの視点から探る、国内外の活用事例~

#セキュリティ #事例 #AI
日々急速に進歩する生成AI。人間との共存の在り方が問われる一方で、私たちの働き方や暮らしを大きく変えるポジティブな可能性を秘めています。ここでは、「信頼性/安全性」「業務効率化」「創造性」の3つの観点から活用事例をピックアップ。生成AIの最前線をお届けします。

目次


    人間の目や耳では判別できない
    生成AIの画像や音楽を識別

    GoogleのDeepMindは2023年8月、生成AIで生み出された画像や音楽を判別し保護する電子透かしツール「SynthID」をリリースしました。生成AIでつくられたコンテンツにIDのような電子透かしを埋め込むことが可能で、虚偽コンテンツを判別したり、生成した情報を保護したりするのに役立つとされています。

    これまでは目視できる透かしデータを入れ込むといった方法が取られていましたが、SynthIDを活用することで、人の目や耳で判別できないデータが埋め込まれ、コンテンツとしてのクオリティを維持しながら、データ編集しても透かしが削除されない一定のセキュリティを実現します。

    近年、高度化したディープフェイクの悪用が問題になるなど、生成AIコンテンツを保護/見分けることの重要性が増してきています。SynthIDが他のツールにも搭載され、電子透かしが当たり前の機能として普及していけば、近い将来、個人や企業が積極的かつ、安全に生成AIコンテンツを活用できる未来が訪れそうです。

    クリエイターに朗報。
    学習元素材の権利者として利益を還元

    「水田と古民家」とプロンプトを入力すると日本らしいビジュアルが生成される

    生成AIの生成物には、アウトプットのコントロールが困難であったり、著作権侵害のリスクや利益還元の仕組みの整備が追いついていないという課題があります。そうしたなか、権利クリアされた2.4億点の素材と、16,000の作家や法人からなる写真作品をストックするアマナイメージズが、著作権者へ対価をもたらす新たな仕組みの開発に乗り出しました。

    注目すべきは、イスラエルのブリアAIが開発した画像生成AI機能を実装したことで、ストック素材に新たな価値が付加され、元著作権者には対価が還元されるという点です。この基盤モデルは、生成されたビジュアル1枚あたり100~300枚程度の学習素材を判別し、生成画像が購入された際に、学習素材としてどの写真をどのくらいの割合で使用したかを把握し、売り上げの一部をその貢献度に応じてフォトグラファーに還元するという仕組みです。

    「現在は検証段階ですが、ユーザーのサービス利用に伴い収益が向上すると、元著作権者への対価が生まれ、さらなる学習深化が進み、結果として品質の向上につながる、という好循環が期待されます」とアマナイメージズは話します。こうした仕組みによって、クリエイターの権利保護や新たな表現活動が加速していくかもしれません。

    企業に眠る集合知を活用し、業務効率を劇的に改善

    マッキンゼー・アンド・カンパニーが開発した「Lilli」は、コンサルティングプロジェクトに特化した社員用チャットツールです。「知識はマッキンゼーの生命線です」と開発メンバーが語るように、社内に蓄積された情報には、10万以上のドキュメントやインタビュー記録、70カ国にまたがる専門家のネットワークが含まれます。それらを1つのアプリケーションに集約させたのがLilliです。

    これにより、ベテラン社員でも通常2週間ほど要していた、プロジェクトプランの作成時間を大幅に短縮できると期待されています。また、ミーティング前にLilliと意見交換をし、論理の弱点や取引先から想定される質問を予測しておくことで、クオリティを上げるとともに、準備時間を最大20%節約できると試算しています。

    当初3人だった開発チームも今では70人以上に拡大。Lilliが高い費用対効果を発揮し、安全に業務活用されるよう、機能を拡張させていくと同社は発表しています。今後は、企業に眠る情報資産のほか、ベテランの「暗黙知」や「形式知」といった資産の活用まで、発展が期待されています。

    業務代替する「同僚のような存在」が誕生?

    NTTデータと日本IBMは、2023年12月、保険業界向けのデジタル・ワーカー「デジタル従業員」の共同開発に合意しました。この取り組みは、同業界における労働人口の高齢化や離職率の増加を背景に、従業員の生産性を向上させることを目的としています。

    これまでも用途ごとに自動化ツールが導入されてきましたが、結果としてツールの増大化や、適切に使うためのスキル習得という課題がありました。今回、AIソリューション「IBM watsonx Orchestrate」を基盤にツールを集約することで、一連の作業の自動化・効率化が期待されます。さらに、個社に特化した情報の学習や、個人の行動と性格をふまえたサジェスト機能も開発される見込みで、心強い「同僚のような存在」がもうすぐ現れるかもしれません。

    今後、両社は2023年度中に保険会社での試験導入を経て、2024年度以降は実導入を進めると発表しています。このソリューションを保険業界におけるリファレンスケースとして確立するとともに、他業界へとどのように展開していくのか注目です。

    生成AIと共に描く、
    持続可能な社会のドキュメンタリー

    ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、生成AIを駆使した仮想空間「Sustainable Horizons」を公開しました。ここでは、世界の各都市で持続可能な未来のためにAIがどのように活用されているか体験することができます。空間内で色鮮やかな無数のバブルが街並みを幻想的に描き出す中、AIナレーターの案内でロンドン、アムステルダム、コペンハーゲンとストーリーが進んでいきます。

    都市人口の過密を背景に、土地を垂直に利用しAIで作物の生育を管理する「Vertical farm」や、街中に設置されたゴミ箱の重量を測定し、回収のルートを最適化する管理システム「Smart Bin」など、二酸化炭素排出削減やスマートモビリティやスマートシティの実現につながるソリューションの導入例が紹介されます。

    生成AIの情報の正確性をめぐる議論もあるなか、新聞社として信頼の担保が不可欠なWSJが、このプロジェクトを発表したことは生成AIにおける明るいニュースといえるでしょう。この美しく没入感のあるプラットフォームは、アメリカのデジタルエージェンシーActive Theoryとの共同制作によって生み出されました。見る人に情報だけでなく感動も与える体験は、これからの報道の在り方を変えるきっかけになるかもしれません。

    現実と非現実の境界線上にある新しい広告表現

    パルコは2023年10月、画像生成AIを活用した「HAPPY HOLIDAYSキャンペーン」を公開しました。生成AIを活用した広告制作は同社にとって初の試みで、人物や背景、ナレーション、音楽に至るまで、プロンプトによって生成しています。

    同社は制作にあたり、元ファッションデザイナーで現在はLA在住のクリエイティブディレクター・木之村美穂氏と、世界トップクラスのAI・デジタルクリエイター Ai-Editorial – Christian Guernelli氏を起用。実際に撮り下ろしたかのようなリアリティとこれまでパルコが追求してきたアート性・ファッション性を表現しました。

    プロジェクト担当者は「新しい才能を見いだし起用するのと同様に、まだ前例のない新しい技術をいち早く取り入れることも、企業としての存在価値だ」と話します。トップクラスのクリエイターと最新技術が時代を映し出した本キャンペーン。同社のプレゼンスを高めるとともに、今後の広告表現を通じて私たちにどのような驚きをもたらすのか、生成AIの新たな未来を予感させます。

    関連記事:「生成AIとは?主なサービスとメリット・課題点、利用時のガイドライン

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