Future Talk

2024.03.13(Wed)

目前の2024年問題にどう立ち向かう?
物流DXのキーワード6つ

#データ利活用 #小売・流通 #サプライチェーン #法規制 #働き方改革
2024年4月以降、トラックドライバーの年間時間外労働時間が960時間に制限されることで生じる「物流の2024年問題」。輸送力が不足することから、2024年度には14%、2030年度には34%の荷物が運べなくなる可能性が示唆されています。物流が止まれば企業の経済活動は停滞し、翌日配達や時間指定便が当たり前となった生活様式も大きく変わります。物流業界以外にも大きな影響を及ぼすこの問題に、企業はどう対処すればいいのでしょうか。

戦略コンサルティングファーム、ローランド・ベルガーでパートナーを務める小野塚征志氏は、「物流のDXが鍵となる」と語ります。2024年問題を乗り越えるための6つのキーワードから、今やるべきことを探ります。

目次


    「2024年問題」の原因はドライバーの働き方改革

    物流の2024年問題とは、トラックドライバーおよび運送業界にも働き方改革が適用され、物が運べなくなる可能性が生じることを指します。

    トラックドライバーの長時間労働が慢性化していることから、厚生労働省は改善基準告示(労働時間の改善のための基準)を改正することを発表しました。法改正により現在定められている拘束時間や休息期間は見直され、2024年4月以降、年間時間外労働の上限は960時間となります。

    さらに人手不足の問題もあります。トラックドライバーの人数は年2%のペースで減少しています。輸送可能な量を「ドライバーの人数×労働時間」で考えると、法改正後の2024年度には14%、2030年度には34%の輸送力が不足する可能性が示されています。

    小野塚 征志|ローランド・ベルガー パートナー
    慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。富士総合研究所、みずほ情報総研を経て、2007年欧州系戦略コンサルティングファームのローランド・ベルガーに参画。2019年より現職。ロジスティクス/サプライチェーン分野を中心に、多様なコンサルティングサービスを展開する。内閣府「SIP スマート物流サービス評価委員会」委員長、国土交通省「2020年代の総合物流施策大綱に関する検討会」構成員などを歴任する

    そもそも日本の物流サービスはクオリティが高く、「荷物が届くのは当たり前」「時間指定は守られる」という文化が浸透しています。その一方で、特に企業間輸送において運送会社やトラックドライバーは荷主側の事情で倉庫のバース(トラックが荷物を積み降ろしする場所)が混雑していれば長時間待たされる、荷役作業中に段ボールに傷がつけば責任を追及されるなど、運送以外の面でのクオリティを求められることも常態化しているのです。

    また必要なものを、必要な時に、必要な量だけ配送するジャストインタイムの考え方にもとづく高いクオリティの物流システムは、トラックの積載率の低さの原因の1つとも言えます。

    海外では契約で仕事の範囲が明確に決められているため、無駄な待機時間や作業は発生しません。こうした日本の物流の運送過程で生じる待機時間や高度な要求は、本来の「荷物を届ける」という業務遂行の妨げとなり、労働生産性を損なう原因にもなっています。

    ガイドラインの肝は「2時間ルール」「積載率向上」

    こうした国内の状況を打破するべく、2023年6月、政府より「物流革新に向けた政策パッケージ」が策定されました。2024年問題の解消に向けて「商慣行の見直し」「物流の効率化」「荷主・消費者の行動変容」を行うことが定められ、企業には物流の適正化・生産性向上に関する自主行動計画を作成することが求められました。

    さらに経済産業省、農林水産省、国土交通省は、「荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」を発表しました。物流業務の効率化・合理化、運送契約の適正化、輸送・荷役業務等の安全の確保などの観点から、各団体や事業者が実施すべき事柄をまとめて具体案を提示したのです。効率化・合理化に関する項目では、荷待ち時間・荷役作業等にかかる時間の把握、荷主事業者内での物流管理統括者の選任などが定められています。その他にも、荷待ちや荷役作業にかかる時間を2時間以内とする「2時間ルール」や、最大積載量の4割弱しか活用されていないとされるトラックの共同輸配送による積載率向上は、実現すれば大きな効果があるでしょう。

    物流クライシスを乗り切るためには、DXが不可欠

    現在はガイドラインの内容を踏まえて、100超の団体・事業者の自主行動計画が公表されています。2024年の物流クライシスは始まりにすぎません。2030年度には現在の34%の荷物の輸送ができなくなる可能性が示唆され、物流の供給を維持するためにはさらなる変革が求められます。そして、このような物流が抱える問題を解決するため、鍵を握るのがDXです。

    物流DXのキーワード① 物流データの可視化

    ガイドラインにも示されていた「荷待ち時間」「積載率」に関して言えば、最優先事項は物流を可視化することです。なぜなら荷待ち時間や積載率を正確に分かっている会社は多くないからです。

    デジタルタコグラフ(デジタル式運行記録計)や動態管理システムを導入して、リアルタイムでトラックの動向を把握できれば、どこで無駄が発生しているかを分析して対策を講じることができます。また、ブラックボックスになっていた「荷待ち時間」や「積載率」に関するデータが可視化されれば、荷主と運送会社間での運賃の交渉など、さまざまな場面でフェアな議論をするための下地になるでしょう。

    また、企業間で物流データを開示することで、サプライチェーン全体の生産性を上げることもできます。同じ方面に向かう予定の他社のトラックの台数や積載率を把握、連携できれば、トラックの台数を調整できます。また、バースの稼働状況が分かれば空いている時間にトラックを接車する配送計画を立てることもできるでしょう。物流データの可視化をしておくことが、後述する物流の「水平統合」「垂直統合」にもつながっていきます。

    物流DXのキーワード② 水平統合による共同物流

    物流を効率化していくためには、従来の自前主義の考え方から他社と協調していく考え方への発想の転換が必要です。企業や業界の垣根を越えて保管・荷役・輸送・配送などの物流機能を「水平統合」することで、物流にかかるコストを大幅に削減することができます。

    例えば、サントリー、アサヒ、キリン、サッポロのビール4社は、北海道の道東エリアでビールを積載するパレットを共通化し、共同配送しています。ビールという同じ商材であれば配送先やサイズなど共通事項が多いため、規格を統一することで配送の効率化を図ったのです。

    また、現在は個別にアライアンスを組むケースが多いですが、将来的には多数の企業の輸送計画がデータベース化、共有化されることで、AIマッチングによる共同物流が普及していくかもしれません。

    物流DXのキーワード③ デマンドチェーン型の垂直統合

    生産から消費者に至るまでのデータをつなぐ「垂直統合」を進める流れも見られます。例えば食品業界であれば、メーカーは卸から、卸は小売からの発注を受けて商品を出荷し、配送します。一般的に、食品流通においては小売の立場が強いことから、メーカーは店舗での欠品を避けるため、いつ大量発注が行われても対応できるように輸送用のトラックを余分に準備しておく必要があります。注文が少なければ、準備していたトラックは無駄になってしまうかもしれません。

    しかし、メーカーが店舗での在庫状況や売上動向をリアルタイムで把握できれば、生産や配送の無駄を最小限に防ぐことができます。また、SNSで頻出するキーワードや投稿回数のトレンド分析も加えれば、突発的な需要の急増・急減を予測し、生産数や配送計画を調整することも可能です。

    一方で、日本の商慣習においては難しさもあります。例えば、メーカーの営業が需要を高めに見積もることがあり、正確なデータ分析が難しいといった課題があるのも事実です。私は、垂直統合を実現するカギはデータを持っている流通小売側にあると考えています。業界ごとの流通小売プラットフォームが存在する垂直統合が望ましいのではないでしょうか。

    物流DXのキーワード④ 自動運転の実現

    自動運転の活用も、トラックドライバー不足の鍵を握ります。長距離ドライバーのなり手が不足しているのは、人間にとって長時間運転し続ける仕事が過酷だからです。自動運転が実現すれば人間が運転する必要はなくなるので、トラックに乗車しながらドライバーが休息や睡眠を取ることも可能となります。

    政府は2024年度中に新東名高速道路の一部区間で自動運転レーンの開設を計画しているほか、自動運転スタートアップのT2社は2026年3月までにレベル4自動運転トラックによる高速道路輸送のサービス化をめざしています。

    もちろん自動運転の実用化には、安全性や自動運転トラックのコストなど、さまざまなハードルがあります。政府の目標通りに進むかは分かりませんが、近い将来に実現する可能性は十分にあるでしょう。運送距離の一部区間だけでも自動運転が実現できれば、過重労働の解消、ひいては物流の効率化につながるはずです。

    物流DXのキーワード⑤ 物流センター内の自動化

    物流センター内の作業も、自動化が著しい分野です。出荷作業を助ける棚搬送型ロボットや人間の作業をサポートする協調型ロボットなど、センター内の労働生産性を高めるロボット開発が世界中で進められています。ロボットは人間と比較すると、イレギュラーな事象に対応することは苦手ですが、24時間稼働できる、重い荷物を大量に運ぶ、真夏や冷凍センター内でも対応可能など、多くの強みがあります。

    従来のロボットは高額で、一部の場面を除き、費用対効果の観点から導入が現実的ではありませんでした。しかし技術の進歩とコストダウンによって、ようやく人間とロボットの作業効率・費用対効果が比較検討される段階にきています。

    ロジスティード(旧:日立物流)社は一日の出荷量や荷物の規格を定めることで、物流センター内の7割の作業をロボティクス化することに成功しています。食品や衣類など多種多様な規格の商品を扱う業界ではまだハードルがありますが、規格がある程度決まっている商品を扱う業界では今後さらに自動化による物流改善が進んでいくでしょう。

    物流DXのキーワード⑥ 物流管理統括者の設置

    最後になりますが、前述したガイドラインでは、荷主企業に物流管理統括者を選定するよう求めています。物流管理統括者とは、物流業務の全体を統括管理し、部門の垣根を越えた全体最適を実現させる“役員”です。海外ではCLO(Chief Logistics Officer:最高ロジスティクス責任者)やCSCO(Chief Supply Chain Officer:最高サプライチェーン責任者)などの名称で呼ばれています。

    日本企業は、合理性よりも長年の商慣習や現場の声を優先することが多く、そのために物流効率が上がらなかった現状があります。例えば欠品しないために1日に何便もトラックを手配していたところを、欠品のリスクを負っても1便にまとめて輸送コストを下げるなど。一歩引いた視座で判断すべきこともあるでしょう。物流管理統括者は、客観的な立場で各部門と交渉・調整することで、企業として最も効率の良い方法を選択する存在です。

    人流で起きたことが、物流の世界でも起きる

    今後、どのように物流業界は変わっていくのか。先行指標になるのは人の移動、つまり“人流”だと私は考えています。

    この20年で、人流は大きく変わりました。地域毎に発行されていた交通系ICカードが全国各地で使用できるようになったように、物流も各プラットフォームが協調して共通化・標準化が進んでいくかもしれません。人流の世界のGoogle Mapのような存在が物流業界にも現れ、荷物の積み下ろしにかかるリードタイムまで含めて最適なナビゲーションを行うようになるかもしれません。

    物流業界の現状はアナログ作業のデジタル化に留まり、本来の意味でのDXは達成できていません。しかし、近い将来に人流の世界で行われてきたイノベーションが物流業界でも起こるでしょう。

    今、残念ながら日本の物流DXは海外よりも遅れています。その一因には、日本人の物流に求める要求が高度であるため、ロボットやシステムでの対応が難しいことがあります。

    しかし、もし日本が物流DXを実現することができたら、世界一安全に長距離を走ることができる自動運転トラックや、翌日配送や時間指定便にも対応できる物流システムを世界に輸出できるかもしれません。これから日本が世界の物流をリードしていく可能性だって、あるのではないでしょうか。