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Future Talk
2024.03.01(Fri)
目次
改めて、2024年1月1日の「電子取引データ保存の義務化」に至るまでの流れを整理しましょう。電子帳簿保存法とは、「国税関係の帳簿(仕訳帳や総勘定元帳など)や書類(決算関係書類や請求書など)」を、紙ではなく電子データで保存する際のルールを定めた法律です。
法律では経理業務における電子取引データの保存についてさまざまな要件が定められていますが、その一部が2022年に改正されました。国税関係の帳簿や書類を電子保存する際に必要だった税務署長の事前承認が不要になり、保存した際のタイムスタンプや検索に関する要件も緩和されました。
多くは電子保存のハードルを下げる内容でしたが、厳格化されたポイントがあります。それが電子取引データの電子保存を「義務化」するという点です。
帝国データバンクが2023年12月8日~12日に実施した調査「電子帳簿保存法に対する企業の対応状況アンケ―ト」によると、「義務化」まで残り1カ月をきったタイミングで電子帳簿保存法への対応が完了していた企業は3割弱。企業規模によって差が見られ、小規模企業は2割強の対応状況でした。多くの企業が駆け込みで対応に追われていた状況が読み取れます。
山上は、各企業の対応を次のように振り返ります。
「今回の義務化を受けて、電子帳簿保存法に則ったソリューション導入など、経理業務のデジタル化が一部進んだことは間違いありません。ただし、多くの企業では法制度対応を目的としたデジタル化に留まっているというのが実情です。
例えば、取引先から受領したPDFの請求書などを電子帳簿保存法に対応するクラウドストレージに保管する一方で、紙で受領した請求書などは紙で保管する、といった運用をされている企業も多くいらっしゃいます。将来を見据えるならば、業務の効率化、従業員の働き方改革、ひいては企業全体の生産性向上をめざして、経理DXの未来像を描いていくことが大切です」(山上)
そもそも、デジタル化が一部しか進んでいない場合、どのような課題があるのでしょうか。最も大きな点として山上は「生産性の足かせ」になると指摘します。
「紙の請求書を受け取った場合、その後工程として、仕訳登録や支払依頼の回覧、また、会計システムへの投入が必要です。これには、転記やチェックといった膨大な工数が必要となります。たとえその作業を行ったとしても、作業ミスなど正確性の問題は残ってしまうため、人的リソースやリードタイムが無駄になる状況を避けることはできません」(山上)
また上記に加え、「コスト」の観点も見落としてはならないと言います。
「紙による経理業務では、直接的な部材コストの他に、印刷や配送、保管、破棄に至るまで、業務プロセスごとにそれぞれコストが積み重なっていきます。当然のことながら、人件費もかかります。
さらに、時として『コンプライアンスやガバナンスの問題』に発展する場合もあるでしょう。紙の書類の紛失や取り違いなどによる情報漏洩、供覧性が低いが故に生じる業務の属人化というリスクがあります。この他、『テレワークへの対応』や『カーボンニュートラルへの対応』を阻害するなど、企業が対応を求められるさまざまな課題にとっての障壁になりかねないのです」(山上)
では、アナログな業務から脱却し経理業務のデジタル化を進めていくには、どのようなステップがあるのでしょうか。ここでは3段階に分けてご紹介します。
なお、より高い段階のデジタル化を実現できることが理想的ですが、企業により取り巻く環境は異なります。予算や人材、取引先の状況など、自社の状況に合わせて段階的に検討し進めていくことが大切です。
STEP 1 経理関連のドキュメントをデジタル化する
まず、経理業務のデジタル化を進める上で前提となるのが「扱うドキュメントを、極力、『紙』から『デジタル』に置き換えていく」ことです。イメージしやすいものとして、紙をPDFに置き換えていくという方法があります。
「たとえば、取引先に対して請求書をPDF形式で発行する、あるいは、取引先から紙で受領した請求書をスキャンして電子化し、保存・管理していく。このようにドキュメントをデジタルに置き換えていくだけでも、従来の紙の配送にかかっていたコストの削減やリードタイムの改善を図ることができ、働く場所の制約を解消できるなどのメリットも生まれます」(山上)
この方法は、既存の業務プロセスを大きく変えずに導入できるという面で取り組みやすいと言えますが、デジタル化により実現できる業務効率化の効果は限定的である点には注意が必要です。
STEP 2 経理業務をデジタル化する
「ドキュメントのデジタル化」の次のステップは「業務のデジタル化」です。
取引先から受領した請求書の確認作業をツール活用で省力化する、あるいは、会計システムなどへの転記作業をシステム連携で自動化するなど、手作業を極力なくしていきます。経理業務では大量の情報を扱うため、得られるメリットは非常に大きいと言えます。
「これらを進めるためには、ドキュメントに記載された取引情報をデータ形式で扱えるようにする必要があります。AI-OCRを用いればドキュメントの取引情報を読み取り、データ形式で取り込むことができますが、精度は100%ではありません。変換データに間違いがないかどうかを確認したり、必要に応じて補正したりなどの作業が発生することも想定しておくべきでしょう」(山上)
理想は、データ形式への変換を行う必要がないソリューションを導入することだと山上は説明します。では、「業務のデジタル化」において重要となるデータ形式にはどのようなものがあるのでしょうか。
その具体例が「デジタルインボイス」です。請求に関わる情報を、人を介すことなく、売り手から買い手へ直接データ連携し自動処理する仕組みのことです。国際的には「Peppol(ペポル)」という標準仕様があります。
「デジタルインボイスに則ったソリューションを導入すれば、請求書の発行や受け取り前後の業務プロセスまで含めて一気通貫でデジタル化し、業務効率化することができます。日本でも、デジタル庁が2023年7月に標準仕様(JP PINT)を公開したため、今後、ますます普及すると想定されます」(山上)
なお、「業務のデジタル化」においてソリューションの選定と同じく重要になるのが、業務プロセスの再設計です。既存の業務プロセスを棚卸しした上で、本来あるべき業務プロセスを定義し標準化していく。こうした業務設計をしっかりと行った上で、ソリューションを適切に組み込むことで、社員を非効率な単純作業から解放させ、業務効率を最大限に引き上げることができます。
STEP 3 データを利活用する
ステップ1、2を経れば、経理業務に関わるさまざまな情報がシステム上に蓄積されているはずです。このデータをあらゆる形で利活用し、事業全体の生産性向上や戦略的な事業運営に生かしていくのが経理DXの最終段階です。
「企業ごとに年間の取引金額を算出すれば、取引先との価格交渉など取引条件の見直し材料として活用することができるでしょう。また、財務情報を可視化し、経営陣に対してタイムリーにレポーティングすることで、より迅速な経営判断や事業判断に生かすこともできます。
これらに限らず、データ利活用の可能性は、企業によりさまざまな活用の仕方が考えられます。ステップ2までの取り組みで効率化した人的リソースと蓄積したデータを、企業の競争力強化のために役立てていく。こうした取り組みができれば、経理DXの本来の目的を達成していると言えるのではないかと考えます」(山上)
経理に関わる定型業務の効率化は、多くの企業にとって共通の課題です。これを経理DXできれば、経理部門の業務効率化に留まらず、社内の各部門が持つさまざまなデータとつなげてより攻めの事業戦略に生かすことができます。
NTT Comが提供するクラウド型請求書電子化支援サービス「BConnectionデジタルトレード」は、日本企業の生産性向上という社会課題を解決するため3年前に立ち上がりました。事業推進を担当する山上は、お客さま企業へ提供する事業領域の拡大に、意欲を見せます。
「BConnectionデジタルトレードは、企業グループ内の数十社でご活用いただくケースはもちろんのこと、ERP更改に合わせて取引先1万3000社向けの請求書発行、請求書受け取りの用途で導入をいただいたケースもあります。たとえば、企業間取引のプラットフォーマーが各社の取引データをもとにしたビジネスマッチングを行えば、新規顧客開拓にもつなげられるかもしれません。私たちNTT Comもサービス提供者として、お客さま企業の取引データの活用について、いろいろな企業と意見交換しながら、スコアリング、レンディング、ビジネスマッチングなど、アイデアを膨らませているところです。
バックオフィスのデジタルトランスフォーメーションを推進していきながら、一方で企業全体がデータを利活用して成長できるようにしたい。それがひいては、日本企業の生産向上という、当初目標にした課題の解決につながっていくのだと思います」(山上)
クラウド型請求書電子化支援サービス「BConnectionデジタルトレード」
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