DIVE to METAVERSE

2023.07.21(Fri)

ピンチをチャンスに変えるメタバースアイデアとは。
DIALOGから生まれる新しい事業共創のかたち

#セキュリティ #OPEN HUB #イノベーション #AI #メタバース
OPEN HUBでは、フェムテックやロボティクス、フードイノベーション、孤独など、特定のテーマに沿ってOPEN HUB Base会員とカタリストが連続性のある対話を展開する「OPEN HUB Dialog(以下、DIALOG)」が開催されています。その狙いは、中長期的に対話を紡ぐことで課題解決や新たなイノベーションを実現する共創を進めること。今回は、メタバース活用による事業創出をテーマにした「メタバースDIALOG」に2022年12月から参加している3名の会員と、OPEN HUBカタリストを務める山根尭が、活動経過の振り返りと今後の共創実現に向けて座談会を行いました。

目次


    私たちがメタバースDIALOGに求めるもの

    山根:特定のテーマを掲げて、継続的にワークショップを重ねることで事業共創を目指すDIALOGですが、今回は「メタバースDIALOG」にご参加中の3名の方に集まってもらいました。まず皆さんが勤務先でどのような業務を担当されており、なぜこのDIALOGに参加しようと思ったのかを聞かせてもらえますか?

    坂巻氏:京浜急行電鉄の坂巻です。イノベーション創出・新規事業を担当しています。昨年社内でクローズドのビジネスコンテストが開催され、新規事業のアイデアのひとつにメタバースが挙がったんです。具体的にどう取り組むべきか悩んでいたところ、OPEN HUBでタイミング良くメタバースDIALOGがスタートすることを知り、参加しました。

    坂巻康治|京浜急行電鉄株式会社 新しい価値共創室

    岩井氏:日本特殊陶業の岩井です。私も新規事業を担当しています。弊社の主力製品のひとつが「スパークプラグ」というエンジンに点火させる自動車部品で、世界トップシェアなのですが、電気自動車の拡大に伴いピークアウトすることが想定されます。

    私たちが今後も社会に貢献するためには、新規事業創出が必要です。そこで注目していることのひとつにメタバースがあります。例えば、自社の保有技術に電圧をかけて振動させる「圧電セラミックス」があるので、メタバース分野に貢献できるのではないかと考えています。DIALOGの参加もメタバース事業実現に向けたもので、このアイデアに限らず社内ではメタバースに関心がある社員が非常に多く、このOPEN HUBをきっかけに社内3部門が連携して参加しています。ここで得た生の情報を社内に還元してアイデアを生み出し、DIALOGにまたフィードバックすることで、共創や新規事業の推進につなげたいという思いがあります。

    岩井恵梨|日本特殊陶業株式会社 ベンチャーラボ東京課

    田島氏:ALSOKのセキュリティ科学研究所に所属する田島です。これまでは警備領域や介護領域におけるAI活用を研究していましたが、最近メタバース分野の研究も始めました。きっかけは、FacebookがMetaに社名を変更し、メタバース事業に乗り出したことでした。当時、社内の事業アイデア創出の担当だったこともあってメタバースに興味を持ち、新サービスの可能性を検討しようと考えたのです。

    弊社はサービス企業なので、メタバース分野ではメタバースのプラットフォーム上に何かサービスを載せることになります。アイデアはいろいろあるのですが、なかなかかたちが定まらない中、OPEN HUBでメタバースDIALOGがスタートすると伺い、参加させてもらうことになりました。NTTグループでは「DOOR」というメタバース空間を運営されているので、弊社がコラボレーションできる可能性もあると考えて取り組んでいます。

    田島和博|ALSOK 綜合警備保障株式会社 セキュリティ科学研究所

    インプットとアウトプットを繰り返す意義とは。新しい試みを継続する場としてのDIALOG

    山根:DIALOGでは、インプットとアウトプットを繰り返すことを大切にしており小田急電鉄さんが運営するメタバース体験施設「NEUU」の見学会や識者を招いた勉強会などインプット、ワークショップなどのアウトプットなど、さまざまな活動を展開しています。これまでの活動で何が印象に残っていますか?

    坂巻氏:NEUUの見学会は面白かったですね。以前弊社もVRゴーグルを装着して横浜の街のストーリーを体感する「オープントップXR観光バスツアー」を実施したのですが、小田急さんもあれを参考にしたとお話しされていて印象に残っています。

    京浜急行の手がけたオープントップXR観光バスツアー
    小田急電鉄運営のメタバース体験施設「NEUU」に、DIALOGの見学会で訪れた際の様子

    岩井氏:DIALOGでは最新の体験施設でメタバースを実体験できますし、活動のベースとなるOPEN HUB Parkには最新デバイスもそろっていて、最先端の情報に触れながら議論ができます。自社は愛知が本拠点なので、多くのメンバーは愛知にいるのですが、「(DIALOGを通じて)こんな体験をした」という感想や動画を共有すると、やはり大きなインパクトがあります。

    田島氏:最先端の有識者のお話を聞きながらアイデア創発ができることも魅力のひとつです。自分で情報収集しても、なかなか出会えない方々ばかりなので。

    山根:ありがとうございます。新しい視点をインプットすることで新しい発想につなげられたらと思っていますが、アウトプットのほうはいかがですか?

    坂巻氏:今年の2月、2日間のワークショップをやりましたね。大変でしたが、大きな刺激になりました。

    山根:メタバースというとどうしても一番ユーザーに触れやすい“体験”に目が行きがちですが、あのワークショップではまず自社の事業として取り組むべき方向やビジョンを明確にしたうえで、企業の特徴や領域を洗い出し、どこにメタバースの力が発揮できるかを考えてもらいました。

    山根尭|NTT Com OPEN HUB Catalyst/Media_Community
    “メタバースの7つのレイヤー” ©Jon Radoff(Licensed under CC BY 4.0

    メタバース領域もひとつではありません。ゲームやeスポーツといった体験領域のほか、インフラ領域もあれば、クリエイターエコノミーという領域もあります。また時間や空間を超越できるのもメタバースの特徴です。そうしたメタバースを構成する要素一つひとつを踏まえ、事業化に向けたアイデアを練っていく狙いがありました。もともと事業化や共創を促進することがゴールなので、アウトプットの機会もより増やしたいと思っています。

    田島氏:ワークショップの場で体験したようなアイデア出しは、これまでなかなか経験してこなかったので本当に勉強になりました。社内のアイデア出しは、本業である「警備」にこだわったところからスタートしますが、ワークショップでは大きな命題の下で考えていく作業だったので、いつも一直線になりがちな自分の視点が広がったと感じています。

    山根:ワークショップを継続することで「自社として取り組むべきメタバース領域」が明確になりますし、またその目標に対して関連性を持ったインプットを行っていければ、将来のイノベーションにつながると思います。ぜひこれを進めていきましょう。

    一同:楽しみです。

    メタバースを体験にとどまらず実用していく

    山根:DIALOGの活動を受けて、皆さんは社内でどのようにアウトプットに取り組んでいますか?

    岩井氏:DIALOGのワークショップでNTT Com さんのメタバースプラットフォーム「DOOR」について学びました。これをきっかけに、社内でDOOR上に「自部門の目指す未来」を起こし、共有する仲間が出てきました。これまではそうしたアイデアをまとめる際にPowerPointを使うことが多かったのですが、DOOR・メタバース上にアイデアを起こしたことで、臨場感を持って共有できたそうです。

    現在、こういったアイデアでの活用は社内限定のものですが、こうした試みをDIALOGで参加者さんたちにも共有し、さまざまなアセットを持つ異業種の皆さんからも意見をもらいながら、クイックにプロトタイプを回せるようにしていくことができたら面白いだろうなと考えています。

    ほかにも、社内ではMetaの「Horizon Workrooms」を使ってVRゴーグルとメタバース空間で定期的に会議をし、そのフィードバックをしていくなど、メタバースを一過性のイベントに終わらせず、継続してやっていくようにしています。

    坂巻氏:素晴らしいですね。

    岩井氏:継続できるのは、やはりDIALOGという“場”があることが大きいと思います。

    山根:DIALOGではオンラインホワイトボード「Miro」にDIALOGの仮想空間を作っていて、参加者同士が交流できたり、事務局から告知したり、開催していないときでもオンラインでコミュニケーションが活性化されるような取り組みをしています。また参加企業さんごとに専用のスペースもあります。専用スペースはまだ企業ごとにクローズドなのですが、MiroとDOORを連携させて会員の方々が実際に触れながらアイデアを検証したりフィードバックしたりできると有意義かもしれませんね。もちろんリアルのほうが濃い意見を聞けるかもしれませんが、バーチャル上だとよりクイックに、より多くの方が体験できるので、DIALOG自身がメタバース空間を活用していく方向も見据えています。

    Miroでは「付箋」を使用して参加者/運営側を問わず多くのコミュニケーションが展開される。ワークの内容は基本的にすべてアーカイブされており、後から見返すことも可能

    メタバースが既存事業に“新しい可能性”をもたらす

    山根:皆さんの企業がメタバースにどのような付加価値を期待しているのか、そのあたりも教えてください。

    坂巻氏:移動を支援する鉄道会社がメタバースに取り組むというと、自己矛盾しているように見えるかもしれません。しかし人口減少など鉄道会社を取り巻く環境は厳しいですし、コロナ禍を経て通勤・通学が当たり前というライフスタイルも変わりつつあります。そのため私たちも「移動しない世の中」を前提とし、これからの社会に貢献できる新規事業を考え、「移動しない世の中」の代表格であるメタバースを活用した新しい価値を模索しています。

    岩井氏:先ほど説明した圧電セラミックスですが、超音波を発生させることで、空中でモノの触覚を再現できる「空中ハプティクス」という技術を可能にします。これを活用すれば“より五感に訴えるメタバース体験”ができるのではないか——というアイデアを出発点にした新規事業も検討中です。

    田島氏:私が最初に考えたのはメタバース世界の警備サービスですが、現実世界の警備についても考えています。というのは、ヘッドマウントディスプレーを装着してメタバースに没入することもあると思いますが、そうなるとやはり無防備になり、安全性が保たれません。ヘッドセットが普及した世界では、メタバースに没入している間の見守りサービスというニーズが出てくることも考えています。

    山根:なるほど、面白いですね。鉄道会社が「移動しない世界」を前提に新規事業創出を目指すというのは非常にユニークです。圧電セラミックスの活用はメタバース体験がより豊かになる期待がありますね。また、メタバース世界の警備もニーズは高いと思います。実際に、特定のユーザーからしつこくつきまとわれているけれども「アカウントを消すとほかの人とのつながりのデータも全部削除されてしまうから、消すに消せない」という悩みがあるそうです。

    田島氏:確かに、それはデジタルゆえの悩みですね。

    坂巻氏:こうして異業種の方と議論すると、自社の中だけでは気付けない視点が得られる。DIALOGの良い点ですよね。私も普段は陶業の方や警備業界の方と話す機会はほとんどないので、視野が広がるのを感じます。

    山根:最後に今後の目標をお聞かせください。

    坂巻氏:当社はスタートアップの方もそうですが、DIALOGに参加されている大企業の方とも共創の機会があればぜひ取り組みたいと考えています。このメタバースDIALOGで縁をいただいた皆さんやNTT Comと、スモールスタートでいいので何か一歩を踏み出せるように取り組んでいきたいです。

    田島氏:自社だけで頑張ってもなかなか答えが出なかったり、サービス化につながらなかったりというケースは多いですよね。坂巻さんがお話しされたように、このOPEN HUBで知り合った方々と実現に向けて取り組むことで、サービス化の可能性は広がると感じています。

    岩井氏:私もそう思います。また、私たちが持つ技術やエンジニアによるクリエイターエコノミーなど、さまざまなアセットを活用しながらコラボレーションを進め、社会がより良くなっていくことに貢献したいですね。私は現在、社会人大学院でまちづくりを研究しているんですが、メタバースと親和性が高いんです。メタバースが発展すると、土地に縛られずどこでも働けるようになるので、新しい働き方へもつなげていけたらと思います。

    山根:ありがとうございます。実は今後、メタバースDIALOGの新規メンバーを募ることも考えています。活動や意見も今以上に新鮮かつ活発になると思いますし、コミュニティーもさらに活性化するでしょう。その時にはぜひ皆さんに中心になってもらいながら、共創に向けてより盛り上がっていくことを期待しています。