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Manufacturing for Well-being
2023.04.26(Wed)
目次
世界の無形資産・イノベーションを可視化し、社会課題解決と未来創造の実現を目指すデータアルゴリズム企業、アスタミューゼ。その最大の特徴は「世界193カ国、39言語、7億件を超える無形資産可視化データベースの保有」と「未来を創る176の成長領域/解決すべき105の社会課題の策定」にあります。
「アスタミューゼでは、イノベーションに関する特許・論文・グラント(資金投入)などのデータを収集することで情勢を可視化し、その指標やアルゴリズムを開発。さらに科学技術のさまざまな分野——例えば、エネルギーやロボティクス、スペースデブリ、ブランド作物、都市交通といった幅広い事業分野・技術分野別の分類軸を策定し、これら176の分野を成長領域としてピックアップしています」(川口氏)
また、国連が定めたSDGsをベースに新たに策定した「105の社会課題」では、さまざまな社会課題をより事業に落とし込みやすい切り口で提題化しています。
「国連が主導するSDGsは貧困や格差といった世界的な課題に注目していますが、日本のような先進国でそのまま事業活用していくのは難しい。より具体的にビジネスにつながるようなテーマが必要なのです」(川口氏)
一方で、「通常のSDGsではあまり含まれていないような、未来的で創造的な、幸福追求型の社会をつくることも目標のひとつ。こうした未来創造のアプローチが多分に含まれていることも『105の社会課題』の特徴」だと語ります。
なぜ、いま未来創造型アプローチが重要なのか——。川口氏は次のように述べます。
「昨今は『VUCAの時代』といわれて久しいわけです。それはつまり、世界が激動(Volatility)する不確実性(Uncertainty)の高い時代であり、複雑(Complexity)かつ不透明(Ambiguity)な時代だということです。そこに加えて気候変動と自然災害、さらにはパンデミックが猛威を振るっています。また、国際情勢の緊張と経済安全保障など、問題が目白押しなわけですね。その中で格差や分断、価値の多様化が進んでいる。
ここで考えなければならないのは『世界がどう変わっていくか』だけではありません。『どういう社会をつくっていきたいのか』という問い、未来創造型アプローチこそ重要なのです」(川口氏)
アスタミューゼが掲げる“未来創造”という理念は、まさにこの立場から発せられているといえます。さらに川口氏は、「データを活用することで、どんな未来が何十年後に到来するか、およそ予測することが可能になります。機械学習や統計的な手法でキーワードを分析することで、現在どんな分野にどれくらいの研究資金が投下され、その研究成果が社会に変化をもたらすまでにどれくらいの期間を要するのかが明らかになる」と続けます。
そこで有効と考えられるのが、「SF的な発想」です。川口氏が著書『2060 未来創造の白地図』で示した「SFプロトタイピング」は、データドリブンに加えて「将来どんな未来をつくりたいか」に重点を置いたSF的な思考法といえます。未来への積極的な意志とデータが導き出した未来のイメージをバックキャストしていくかたちで、20年後、10年後、そして現在がどうあるべきかを判断する——。ここで重要なのは、科学技術の最新の研究動向です。川口氏はこれを「未来の部品」と呼び、その発展あるいは組み合わせが未来を具体化していく手段になるといいます。
こうした一連の「データドリブンSFプロトタイピング」による未来創造型のアプローチが、VUCA時代に活かされるアスタミューゼ独自の新事業構築方法論になります。
詳しくは「2060年ニッポンの未来創造:前編」をご視聴ください。
次に、川口氏が用意したテーマ「健康の未来:ウェルビーイング」「都市の未来:ライフコンセプト」「モノづくりの未来:エシカルエコノミー」「デジタルテクノロジーの未来:メタバース・AI」などの各分野におけるさまざまな“変曲点”が紹介されます。
「健康の未来:ウェルビーイング」
現在、生体情報センシングはウエアラブルデバイスあるいは非接触によるデータ採集へと広がりを見せています。さらに、生体のリアルタイムデータを医療機器にフィードバックして治療の最適化を図る研究も進められています。これにより時と場所を問わず、質の高い医療を受けることが可能になります。こうしたヘルスケアの進化は、QOL・幸福度の高い未来へとつながることが期待されると川口氏はいいます。
「都市の未来:ライフコンセプト」
世界のスマートシティ計画の中から、環境調和型都市やテーマパーク型都市といった「課題解決型都市」のプロトタイプが紹介されました。また、エストニアやフィンランドの政策における、社会課題解決に向けた新しいコンセプトの数々がシェアされました。世界ではすでに「どんな社会を生きたいか」がライフコンセプトとして市民・生活者から立ち上がり、未来のビジョンが芽生えつつあるのです。
「モノづくりの未来:エシカルエコノミー」
GHG(温室効果ガス)削減技術の国別競争力では、日本は「水素」「太陽光」「水力」などの領域で世界的に優位に立っており、今後30年において、水素やバイオエネルギー、CO2吸収/利活用/保存技術といった領域での躍進が期待されると指摘します。また、生物多様性や自然をより豊かにするビジネスの可能性、マリンデブリ問題への対策となる材料の開発や、CO2を吸収する「海藻養殖ファクトリー」などの事例が紹介されました。
「デジタルテクノロジーの未来:メタバース・AI」
メタバース空間での経済活動や、宇宙空間などの遠隔地での遠隔活動、生成型AIがもたらす未知の可能性などがピックアップされました。遠隔地にいる人間の視線の動きでロボットを動かし接客ができる「分身ロボットカフェDAWN」、人間のような直感的反応ができるAI「PLATO」などを紹介。ゲームやエンターテインメントだけでなく、リアル空間でビジネス利用されることで、新規事業や社会課題解決の新たな可能性が開かれます。
詳しくは「2060年ニッポンの未来創造:中編」をご視聴ください。
最後に、OPEN HUBカタリスト・河野力のモデレートのもと、川口伸明氏×藤元健太郎氏のトークセッションを開催。川口氏の講演で示された多岐にわたる社会課題とイノベーションの中から、藤元氏が関心を寄せる話題を選び、川口氏に率直な問いを投げかけていきました。
最初の話題は、ウェルビーイングの未来について。藤元氏は「感情の測定に関心がある」と切り出します。「ウェルビーイングが文字通り『人間の幸福』を追求することであるならば、セロトニンやオキシトシンといった神経伝達物質の可視化によって感情を測定することは、今後重要なファクターになってきますよね」。
これに対して川口氏は、情動解析の現状と未来について、講演の内容をさらに深掘りしていきます。「感情の測定にはさまざまなアプローチがあります。ただ、脳内にチップを入れるとなると侵襲度が高い。かといって、血液を使った測定は難しいといえます。現状、最も実用性が高いのは表情や行動の画像解析でしょう。もちろん、画像解析では脳内の物質的変化を知ることはできません。腸内細菌叢の研究は、その点を補完するものだといえるでしょう。マイクロバイオームをバイオセンサーに見立てて(菌の種類や構成比から)腸内環境を測定することで、脳内物質の増減を知る指標が手に入るかもしれません」。
川口氏と藤元氏のセッションは、さらに「スマートシティ」「サステナビリティ」「メタバース」といったトピックへと波及。「住宅からキッチンやお風呂がなくなる?」「未来都市は森と一体化していく?」など、藤元氏から次々となされる興味深い問いに触発されるように、川口氏がデータにもとづく価値ある知見を視聴者にシェアしてくれました。
セッションの続きは「2060年ニッポンの未来創造:後編」をご視聴ください。
さらに今回は、川口氏が考える【2060年未来創造 ニッポンのSmart City編】を特別コンテンツとしてお届けします。日本の未来に考えられる課題解決型都市とは? 日本ならではの新しいモノづくりスタイルとは? グラフィックレコーディングを用いて、さらに分かりやすく、未来創造型アプローチを可視化しています。
成長領域と社会課題が掛け合わされて見えてくる、新しい事業の可能性。未来創造型アプローチによるバックキャスティングから、ウェルビーイングな未来が開かれていきます。
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Manufacturing for Well-being
モノづくりとニッポンのウェルビーイング