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New Technologies
2023.01.13(Fri)
目次
—NTT Comが「自動運転ロボット管制プラットフォーム」を構想するに至った背景を教えてください。
田代丈晴(以下、田代):NTT Comでは、さまざまな社会課題を解決するために、テーマごとに組織を作って取り組みを進めています。その1つがスマートモビリティ推進室です。
取り組みのスタート時は「100年に一度の大変革期」と呼ばれる自動車業界を対象として想定していました。しかしモノとしての車だけでなく「モビリティ」へとテーマを広げていくなかで、自動車業界にとどまらず人手不足や非接触社会の広がりにより実用化の期待が高まる「自動運転ロボット」にも着目するようになりました。
2023年4月には改正道路交通法が施行され、ロボットの自律走行が許可される予定です。そうなると、遠くない未来では街なかをロボットが行き交うようになるでしょう。しかし便利になる半面、ロボット同士が衝突するなどのリスクも想定されます。そこでロボットを管理・管制する仕組みが必要だろうとの考えのもと、管制プラットフォームの構想を立ち上げたのです。
―構想したプラットフォームは、どのような役割を果たすものですか。
田代:大前提として、管制プラットフォームはロボットを直接制御するものではありません。例えば、空港では航空管制官が指示を出しますが、飛行機の制御まではしていませんよね。管制プラットフォームも、航空管制官と同じような役割です。ただ、英語のControlが「制御」と「管制」の両方の意味を持つように、近い概念であり、考え方が伝わりにくいのではないかと想像しました。
そこで、このプラットフォームを多くの方に知っていただくためにも、まずはコンセプトモデルを作って、分かりやすく表現しようと考えました。
―かなり短期間のプロジェクトだったと聞いています。コンセプトモデル開発のスケジュールと体制について教えてください。
田代:2022年6月から始めて、9月にはOPEN HUB Parkに展示することになりました。実質、3カ月を切る短期間での開発が求められました。
私はスマートモビリティ推進室においてビジネスを構想し、そのために必要なプラットフォームを準備するのが仕事です。そのイメージを共有し、作られる管制プラットフォームが私たちのイメージとズレていないかをチェックするプロダクトオーナーの立場で参画しました。
岡原昌之(以下、岡原):私はプロダクトオーナーの補佐として、仕様を明らかにする役割を担いました。またスクラム開発は、チームの間で頻繁にコミュニケーションをとりながら、短期間で開発を進めます。それが円滑に進むよう、スクラム開発を取りまとめるスクラムマスターや開発チームを補佐しつつ、実装を依頼する活動もしました。
佐々木功(以下、佐々木):私はスクラムマスターと開発リーダー、両方の立ち位置で参画しました。スクラムマスターの役割は、プロダクトオーナーと開発チームの潤滑剤となってプロジェクトをうまく回していくこと。また、開発リーダーとしては、プロダクトオーナーからの要件をいかに形にしていくかが問われます。
開発チームの体制は、データのやりとりに関するロジックを担うバックエンド、ユーザーの目に触れるフロントエンド、そしてデザインと、大きく3つのブロックに分かれます。このうち特にフロントエンドとデザインについては、開発に関する戦略パートナーで、これらの領域を得意とするフェンリルに加わってもらいました。
森陽子氏(以下、森氏):お声掛けいただいたとき、3カ月という期間でプロジェクトを完遂できるのだろうかという不安もありました。しかしそれ以上に、今後人々の生活に大きく関わるロボット開発に携わり、社会課題の解決を目指す、という夢のあるプロジェクトに参画できることにとてもワクワクしていました。
―佐々木さんはスクラムマスターのポジションを担っていますが、今回のプロジェクトでスクラム開発を採用したのには、どのような背景があったのですか。
佐々木:ソリューションサービス部では、変革が早い社会に追従していくための手法として、ここ数年でアジャイル開発の中でもスクラム開発という手法を取り入れるようになりました。
今回は田代から伝えられたビジョンをもとに、形のないところから創り上げるため、途中で「動くソフトウェア」を見て新たな要求や変更希望が生じることが予想されました。ウォーターフォール型で開発を進める場合、すべての仕様が決まっている必要がありますし、プロダクトができるまでには時間がかかります。プロジェクト終盤になってから動くソフトウェアを見たのでは、手遅れになりかねません。
一方でスクラム開発なら、具体的な細かい要件を考えながら同時に開発も進められ、適宜、修正を加えられます。3カ月弱のプロジェクトが終わったとき、よりビジョンを反映できているだろうと考えてスクラム開発を採用しました。
―スクラム開発はウォーターフォール型と異なり、変化への対応に価値をおくため、スクラムマスターには開発チームの状況を踏まえた臨機応変な対応が求められます。マネジメントの難しさなどがあったと思いますが、開発中はどのような点に注意を払いましたか。
佐々木:私の持論では、スクラムマスターは携わっているメンバーが最高のパフォーマンスを出してくれる環境を整えるのが仕事です。そのためにどうすればワンチームになれるのか悩みましたし、気も遣いました。
岡原:スクラム開発での重要なキーワードは「対話」です。フェンリルのメンバーとのプロジェクトは今回が初めてだったのですが、時間が経つにつれて意見をどんどん出してもらえるようになりました。特に印象に残っているのは、開発期間が短かったため、デザイン工程を先行して進める提案をフェンリルよりいただいたことです。そのおかけで、開発をスムーズに進めることができました。
森氏:佐々木さんがチームビルディングに注力して、コミュニケーションに気を配ってくださったおかげで、初期段階から意見を言いやすい関係性を築くことができました。例えば、開発するコンセプトモデルに対してチーム内で共通の認識を持つために、『ぼくは航空管制官』というゲームを紹介して「自動運転ロボット管制プラットフォーム」のイメージを共有してくださったり、開発メンバーが話しやすいような雰囲気を作ってくださったりしたおかげで、開発初期のころにチームビルディングが十分に進んでいたと思います。
だからこそ私たちが考える、ゴールから逆算した最善のプロジェクト進行についてご提案することができました。例えば、全体的にはスクラム開発で進めつつ、デザインの一部についてはウォーターフォール型で進めるといったように、臨機応変にプロジェクトを推進することができました。
岡原:自動運転ロボット管制PFというプロダクトが分かりづらいものであると考えていたため、そのコンセプトをよりよく伝えるためには、デザインにこだわることが重要です。後の工程への影響を踏まえて、ウォーターフォール型も取り入れるという提案をいただけたのは、とてもありがたかったですね。
佐々木:印象に残っているのは、フロントエンド周りでまだ要件が明確になっていない部分について、私が担当しているバックエンドとの連携の相談をしたときのことです。フェンリルの開発担当者から「そういうご相談があると予測してあらかじめ進めていました」と返ってきたのです。まさに阿吽の呼吸というように、お互いにしっかりコミュニケーションが取れている状態で、考えを共有できていれば、うまくプロジェクトは回っていくのだと実感した瞬間ですね。スクラム開発の醍醐味を実感したエピソードです。
―コンセプトモデル開発のプロジェクトを振り返ってみて、改めてスクラム開発の価値を実感したのではないでしょうか。
佐々木:金融や医療といった安全性や確実性が求められる分野では、ウォーターフォール型の長所が生きることは確かです。一方で、ウェブ系と呼ばれるような比較的ライトなアプリケーションなどでは、がっちりと物事を考えている間に旬を逃してしまうこともありえるので、スクラム開発でまずは動くソフトウェアを作ってみることが大切です。
短期間でも、何かしら見せられるソフトウェアができるのは非常に有効で、予想通りに新たな要求や変更希望が発生したことから、スクラム開発を選択してよかったと評価しています。
田代:開発途中で実際に動くソフトウェアを提示されて見てみると、イメージや希望とのギャップを埋めやすいですよね。
佐々木:しかも従来のウォーターフォール工程では、スケジュールなどの関係で妥協せざるをえないこともありますが、今回のスクラム開発では時間切れで妥協するようなことなくコンセプトモデルが仕上がりました。
―プラットフォームのリリースに向けた、今後の活動について教えてください。
森氏: リリースに向けて、コンセプトモデルの完成後も継続して協業を続けています。今回、コンセプトモデルの開発を通し、遠慮なく意見を言い合える関係性を築けたことはとても価値のあることだと思います。今後もフェンリルが得意とするUIデザインの知見を生かし、優れたプラットフォームになるよう貢献します。
田代:開発と並行して、ロボット管制プラットフォームの必要性について理解を広めていくことが大切です。OPEN HUB Parkでの展示や講演などでコンセプトモデルを活用して、私たちが実現したいことをしっかり伝えていきたいと思います。
リリース時期については、2023年中を目指しています。ただ、管制プラットフォームの完成はゴールではありません。お客さまの課題に対して、ロボットで実現できること、ロボットが必要だと思う場面の創出に関わっていくことも重要です。
例えばドローンなどロボットと他のお客さまのサービスを組み合わせるなどしてロボットが活躍できる場面を創造しながら、人とロボットが共存できる社会を形づくっていきたいと思っています。その手前では、やるべきことがたくさんあります。
―最後に、スクラム開発による共創で課題を解決したいと考えている方へメッセージをお願いします。
佐々木:スクラム開発なら、エンジニアにとっては何を作っているのかが分かりやすく、お客さまは自分もプロダクトを作っていく一人なのだという意識を持って動けます。お客さまの熱量が私たちを動かし、私たちの熱量がお客さまをさらにドライブする、そんな関係を築ける手法です。
岡原:OPEN HUBは、共創によって社会課題を解決する場所です。スクラム開発を取り入れ、「強い当事者意識を持って解決にあたっていきたい」「新しいビジネスを作っていきたい」というお客さまと多くの共創を進めていきたいですね。
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