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vol. 03

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工場の機密データを持ち出さずに分析。データ利活用の最前線

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設備のデジタル化によってデータの収集・活用を行い、プロセスの効率化を図ろうとする取り組みは、製造業においても活発になっています。しかし、その一方で、工場のような機密性の高い情報が管理されている環境では、データ活用を促進するソリューションを導入しづらいという課題も存在しています。

データ分析に欠かせないクラウドの最前線を走るアマゾン ウェブ サービス(AWS)の鄭 昌浩氏、そしてNTT Com スマートファクトリー推進室にてAIを用いたデータ分析ソリューションを提供する高山国彦と加藤晃久とともに、データ活用の現在地と未来をひも解きます。

スマートファクトリーの最前線で何が起こっているのか?

―製造業にとって、AIやIoT等を駆使したスマートファクトリー構想の導入は、早急に進めるべき課題とされています。そうしたスマート化の最前線では、現在どのような取り組みが行われているのでしょうか。

加藤晃久(以下、加藤): スマートファクトリーに関する取り組みを3つご紹介します。まずは画像解析。例えば、これまでは巨大なタンクのなかの混ざり具合などを、ベテランの作業員が覗き窓から目視で確認して判断していたわけです。これは長年の経験から得られる職人芸のようなもので、素人には真似ができません。そこで、数千枚の写真をもとにAIモデルをつくって、画像解析をかけるようにしました。

また、無線接続をベースにしたセンサーを機器に取り付けて、機器の振動具合によって、正常か異常かを判断する仕組みもデジタル化し、異常があればセンサーが自動的にアラームを鳴らして、点検作業員がケアをしにいくという流れができています。

ほかには、データの記録方法も変わりました。取得したデータが、すべて自動でシステムに集約されていき、所轄官庁への提出も簡単にできるような状態で保存されるように。それまでは、まず紙の帳票に記録して、それを戻ってからデータ入力し、帳票はファイルに閉じて戸棚に入れて鍵をかける、という煩雑な工程を踏んでいました。

高山国彦(以下、高山):最近では、VRやARを活用して危険予知の研修を行ったり、ドローンを活用して人が行きにくい高所の確認作業を行いやすくするといった話もよく耳にします。

また、研究開発のシミュレーションでAIを使って行うことも増えてきています。「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」※ なども強いキーワードですね。
※ マテリアルズ・インフォマティクス:機械学習を含む情報処理技術を活用し材料開発を行うこと。

鄭 昌浩氏(以下鄭氏):加藤さんもおっしゃっていたように、画像や映像といった素材をAIで解析し、状況を数値的に評価できるようになったことは、昨今の大きなトレンドの一つです。ベテランの技術者が高齢化し、経験豊富な人材の確保が難しくなってきているなか、デジタルの技術を使って非属人的な構造をつくる試みは重要です。

また、映像についても、カメラの性能や解像度がどんどん上がり、画像の精度も高まってきました。それによって解析に用いることができるデータの量が増えていることもトレンドと言えますね。

鄭 昌浩|アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 コンピュート事業本部 シニアスペシャリストソリューションアーキテクト ハイブリッドエッジ担当

高山:例えば「ハイパースペクトルカメラ」で撮影した映像を分析すると、特定の波長を色で視認できるようになります。それによって、製品検査の段階で傷を検知したり、果物とか野菜の成熟具合を把握することができるのです。

現場がデータの利活用に踏み切れない2つの理由

―テクノロジーの導入によって取得できるデータの精度が向上し活用範囲も拡大しているわけですね。

加藤:はい。しかし、現状の日本の現場環境では、データの利活用において2つの課題があります。1つ目は、データを閉鎖的な環境で使わなくてはいけないということです。

日本の製造業では、データをプラントの外に持ち出すことは、情報漏えいのリスクがあると考えられています。たとえ断片的な情報でも、ノウハウを推測されることにつながるため、コア・コンピタンスを守るためにも徹底して管理されているのです。外部のネットワークから遮断された環境でPCを操作しているために、OSがWindows 98のままというシステムがあったりします。こうした実態もあって、データの利活用を検討するうえでも、プラント内限定でないといけないケースが少なからずあるのです。

高山:プラントのデータが外部とつながっていない環境はセキュリティ的には安全なのですが、プラント構外で利活用する場合には、社内ルールにもとづく手続き等が間に入りデータを速やかに取得できない非効率が発生してしまう。お客さまからはこういったジレンマに悩む声もよく耳にしてきました。

加藤:2つ目の課題は、リソースです。AIを活用した解析需要が増えてきている一方で、解析知見を有し、かつプログラムコードを書けるAI技術者は限られています。解析のシステムを持続的に回していくためには、AI技術者の属人化を解消する必要があるのです。

鄭氏:機械学習を利用するためには「どんなデータを、どこに集めて、どう成形して、分析にかけて、結果をどう読み取るか」というデータアナリスト的な専門的知識が欠かせません。そうなると、とにかくAIを活用したというアプローチだけでは足りず、ユーザが画面上で視覚的に捉えて行動を指定できるGUI(グラフィカルユーザインターフェース)ベースでのソリューションが望まれるのは当然の流れでしょう。ソリューションプロバイダとしては、AIと呼ばれるソリューションを“民主化”し、誰もが使える形にしていかなくてはなりません。

共創で生まれた、誰もが「使える」ソリューション

―そうした課題に対するソリューションが、AWSとNTT Comが共創した「Node-AI on AWS Outposts」ですね。共創の経緯を教えていただけますか。

鄭氏:AWSは大容量のデータを扱ったり、低レイテンシーのアクセス、ローカルネットワークを活用したいといったお客さまの御要望に対して、AWS のクラウドサービスをお客さま施設に拡張する「AWS Outposts」というサービスを提供しています。これは、AWSの機能の一部を、お客さまの施設の中に物理的に設置し、ご利用頂けるサービスです。要するに、オンプレミスの使い勝手をいかしつつ、AWSの機能を使えるようにするものです。

高山: AWS Outpostsのこうした機能とNTT Comのノーコード時系列解析ツール「Node-AI」を組み合わせれば、工場の機密データを持ち出さずに、AI/ML(機械学習)のソリューションを提供できると考えました。そこでAWSに相談させていただいたことをきっかけに、「Node-AI on AWS Outposts」のプロジェクトが進み始めました。

高山国彦|NTT Com スマートファクトリー推進室

―NTT Com側のアセットであるNode-AIについて教えてください。

加藤:Node-AIというのは、NTT Comが2021年の秋から商用化した解析ツールです。特徴は大きく3つあります。

1つ目は、ノーコード※ で扱えるということ。つまり、AI/MLの専門家でなくても、ある程度のスキルセットを持った人であれば、業務に活用しやすいのが特徴です。

2つ目は、コラボレーション機能が備わっていて、複数のメンバーで利用できることです。AIモデル構築後の引継ぎも見据えたシステムになっています。

3つ目は、Node-AIで作成したAIモデルをすぐに適用できること。Node-AI Berryというソフトウェアによって、AIモデルを1コマンドでAPI化し、エッジ、クラウド問わず利用することができます。

Node-AIは、製造業の工場の皆様にもご協力をいただきながら、開発した経緯があります。それゆえに、とりわけ製造業にフィットしやすいツールであると思いますし、現場からも高い評価をいただいています。
※ノーコード:コーディングによるプログラミングを行わずに、ウェブサービスやアプリケーションの開発を可能にする、非エンジニア向けの開発プラットフォーム。

加藤晃久|NTT Com スマートファクトリー推進室

―両者のツールを組み合わせたNode-AI on AWS Outpostsとはどのようなソリューションなのでしょうか?

鄭氏:AWS Outpostsは、AWSのサービスをオンプレミス環境に拡張できるという製品です。AWS Outposts自体は、「S3」と呼ぶオブジェクトストレージを備えますので、大容量データの保存にも適しています。お客さまの施設内このAWS Outpostsを設置し、解析するデータをAWS Outpostsの上に収集していきます。

Node-AI on AWS Outpostsでは、AWS Outposts上でNode-AIを動作させます。それによって、データを外部へ持ち出すことなく、オンプレミスの環境で機械学習を実施でき、結果もAWS Outpostsに格納できるのです。エンドユーザーとしても、直接データを参照し、予測等にデータを活用できるというメリットがあります。

加藤:このソリューションの強みは、AI技術者不足への対応や、お客さま施設内で、コア・コンピタンスを守りながらの運用が可能になることです。

鄭氏:元々AWSをご利用いただいているお客さまにとっては、普段使い慣れているAWSのサーバーの設定や権限管理の仕組み、各種マネージドサービス(Amazon EC2/Amazon S3/Amazon EKSなど)をそのままご利用いただける点も、使い勝手の良さにつながっていると思います。

AIとの二人三脚が、製造業の進化を飛躍させる

―Node-AI on AWS Outpostsのようなツールの普及は、日本の製造業にどのような変化をもたらすでしょうか?

高山:人間が行う作業としては思いもよらなかったようなアプローチが増えていくはずです。そうした技術の応用によって、開発スピードもどんどん上がっていくと思うと、とてもワクワクします。また、AIを活用する場が広がることで、経営に直結するような利用シーンも増えていくことでしょう。

加藤:例えば、生産技術部門では、「脱炭素」という経営課題に向き合うためのエネルギー需要予測にAI解析が活躍します。人手不足に関しては、熟練の技術を持ったベテランの社員の知見やスキルを、AIに読み込ませて普遍化することで解決できるでしょう。団塊の世代が抜けていく中で、若手のスキル不足、技術伝承といった課題を解決する糸口になるのではないでしょうか。さらに、研究開発部門では、マテリアルズ・インフォマティクスがもっと浸透してくることが予想されます。マーケティングや物流部門にとっても予測や最適化は欠かせません。

さまざまなデータ利活用をオンプレミスの環境でも実施できるとなれば、セキュリティを理由に導入を理由に諦めていた多くの企業にとっても、二の足を踏む理由はなくなり、攻めの改革にチャレンジできるはずです。

また、Node-AIは現状時系列解析ツールですが、将来的には、グループ会社の持つ「Deeptector」という画像解析ツールなどをAWS Outpostsに連携させていく可能性も大いにあります。また、この記事をご覧になられているようなお客さまがお持ちの解析ソフトウェアにも参加してもらう、3社のコラボレーションパッケージのようなかたちでの展開もあり得るのではないかと考えております。

鄭氏:時系列データだけではなく、動画や音、言語といった非構造化データを解析できるようになれば、新たな予測や、危険予知、その他さまざまな分野での活用が可能になっていくでしょう。これまで以上にAWS Outpostsの有用性を認知していただけるのではないか、と期待しています。

たとえば、AGV(無人搬送車)などのロボットに対しては、コントローラーとしての何らかのコンピュータが必要です。今後、ロボットが高速に動くようになってくれば、遅延に対しても敏感になってきます。また、ドローンで撮影した映像を用いた解析や、VR・MRを用いた研修のように、大量のデータの送受信を必要とするソリューションも遅延に敏感です。Node-AI on AWS Outpostsをエッジコンピューティング的な観点で利用することで、クラウドを利用した制御系のサービスよりも、さらに低遅延のシステムを構築できるかもしれません。

このように、さまざまな種類のデータ入力や出力を統合的に処理していく“マルチモーダル”なAI解析ソリューションになっていくことを期待しています。

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