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2024.04.20(Sat)
目次
――アパレル産業では大量生産・大量廃棄が課題とされています。その背景や要因は何がありますか。
平田健夫氏(以下、平田氏):国内のアパレル産業の供給量は、経済産業省の統計によると、1990年の約20億点から2022年には1.8倍以上の約37億点へと増加しました。一方で、一着が着られる期間はむしろ短くなっており、安く大量に売り、短い期間で廃棄することを前提とした産業構造になっています。ファッションは人の心に豊かさを与える素晴らしい産業ですが、こうした大量生産・大量廃棄を背景に、環境負荷の大きさが課題となっています。
実は、環境に負荷を与えるのは廃棄だけではありません。製造過程で多くのCO₂排出や水の使用など環境負荷が生じています。化学繊維は石油から作られる素材ですし、天然繊維も原料を加工する際に大量のエネルギーを使います。コットンの栽培では、農薬による土地や水の汚染リスクもあります。

――衣類をリユースやリサイクルする取り組みも見かけますが、循環がうまく進まないのはどのような障壁があるのでしょうか?
平田氏:もともと衣類はリサイクルがしづらい製品です。缶やペットボトルのように素材が単一なら再資源化しやすいのですが、コットンと化学繊維が混ざっていたり、ボタンやジッパーといった副資材が付属していたりなど、分解して素材に戻すことが難しい。修理も、基本的に手作業のため、どうしてもコストがかかります。
さらに、製品自体の価格が下がっているため、修理してまで使い続けることが生活者の選択肢からなくなってきています。安価な製品にするために品質や耐久性が落ち、着る期間が短くなり、修理費用も見合わない――。
また、アパレル企業側も、トレンドに合わせて次々と新製品を短いサイクルで販売し続けることに依存する収益モデルであることも課題です。こうした複合的な要因が絡み合い、悪循環が起きています。
青砥正英(以下、青砥):資源循環を実現するには3つの要素が必要です。まず、「製品を作る・販売する側」は長く着られる服、素材に戻しやすい服を作ります。「製品を買う・使う側」は、長く使う意識を持つことが必要です。そして、「規則を定める行政」は、企業や個人の努力だけでは難しい部分を規制やルールで後押しします。しかし、現時点ではこれら三位一体の仕組みが整っていません。だからこそ、私たちはITの力でそれぞれをつなぎ、循環を支える基盤をつくることに意義があると考えています。

――資源有効利用促進法改正や海外の動きもあるなか、企業にはどのような変化が求められていますか?
青砥:まず企業は、自社の資源循環の現状を可視化し、把握することが欠かせません。素材を生産し、製品として仕上げて生活者に利用してもらうまでのライフサイクル全体で、排出されるCO₂や使われる水の量はどれくらいかを捉えていく。もちろん、いきなり全行程を把握することは難しいので、できるところから段階的に可視化していくことが第一歩となります。
平田氏:DPPは国内外の変化に対応するための重要な基盤になっていくと考えています。グローバルで事業を展開するブランドがこれからも世界で選ばれ続けるためにも、DPPへの対応は重要な要素になってくるでしょう。
これからは「売って終わり」ではなく、長く使える製品を作り、生活者が「長く使うことに価値がある」と感じられるようにすることが大事です。そうすることで、製品やブランドへの愛着が生まれ、新しいものが必要になった時にまた自社の製品を選んでもらえるブランドになるでしょう。長いスパンで生活者とよい関係を築いていけるビジネスに変わることが求められていると思います。
――フリマアプリの利用も広がっていますが、生活者の価値観は「多く持つ」から「長く使う」へと変化しているのでしょうか?
平田氏:ここ数年、リペアをサービスに取り入れる企業や、ユーザーから衣類を買い取り再販売するブランドなど、循環型ビジネス(サーキュラーエコノミー)が少しずつ広がっています。フランスでは2023年から、衣類や靴の修理費用の一部を国が補助する制度を設けて、衣類の廃棄量を減らす取り組みが進んでいます。CYKLUSでも、修理(リペア)に特化したイベントを毎年開催していますが、「修理して着続けることがかっこいい」という声を聞く機会が増えており、利用者の意識が少しずつ変化しているのを感じています。
また、リペア事業者が修理自体にデザイン性を持たせる工夫を重ねてきたことで、リペアが単なるメンテナンスではなく、製品の価値を高めるクリエイティブな要素として捉えられ始めています。修理の履歴がストーリーとしてその衣類に刻まれ、1点ものとしての価値が生まれているのです。
――欧州で利用が広がるDPP(デジタルプロダクトパスポート)を活用して、衣類の修理・回収・再販・リサイクルをシームレスにつなげる実証実験(PoC)をスタートしましたが、どのような課題の解決を目指しているのでしょうか?
青砥:クリアしたかった課題は2つあります。1つは売り手側のトレーサビリティです。アパレル製品は、素材生産、生地加工、縫製、流通など、工程ごとに会社が異なるため、情報が分断されてしまっています。そこで、それらの情報を安全に管理・共有する仕組みとしてDPPを導入しました。サプライチェーンの情報連携基盤となる再生資源循環プラットフォーム「CEMPF®(Circular Economy Management Platform)」を活用し、製品ごとの基本情報(製品仕様、素材構成など)、環境指標(LCAに基づくCO₂排出量、水使用量、環境認証など)、開発背景やブランドの想いといった製品のストーリー、リペア情報・履歴、各種窓口(リペア、リユース、リサイクルへの導線)など、分断された情報を収集・管理。衣類一着一着にQRコードを織り込んだタグを縫い付け、メーカー、リペア事業者、生活者がそのQRコードを読み込むと、必要な情報を適切な形で参照できるようにしています。
もう1つはユーザーの目線です。DPPを通じて衣類がたどった経緯や背景、履歴といったストーリーを知ることで「大事に使う」「長く使い続ける」という行動につながることを期待しています。
――生活者はどのようなデータを参照し、どう活用できるのでしょうか?
平田氏:1つ目は、製品が作られる過程の情報です。どこで、どのようにつくられたのかが可視化されることで、製品の背景やストーリーを知ることができます。また、適切な環境や労働への配慮など、責任をもって作られていることをユーザー自身が確認できることも、製品や企業に対する信頼や安心につながります。
人も、その人のことを知ることで関係性が近くなったり、深まったりすることがあります。製品に対しても同じように、背景やストーリー、その服の持つ個性を知ることで、「大切に使おう」というモチベーションにつながると考えています。
2つ目は、製品を長く使い続けるための情報です。お手入れの方法や適切な保管方法、修理の仕方などがわかれば、ユーザー自身が日常的にケアをしながら、良い状態で長く使い続けることができます。また、自分では対応できない場合でも、「どこで修理できるのか」「どこでメンテナンスやケアをしてもらえるのか」といった情報がわかれば、必要なサービスを利用することができます。
3つ目は、衣類が役目を終えた後、次の循環につなげるための情報です。自分が使い終えた時に、「次のユーザーに手渡すにはどうしたらいいのか」「どこに持っていけばリユースできるのか」「リサイクルする場合には、どのような方法が適切なのか」といった情報がわかれば、ユーザー自身が次の循環に参加することができます。適切な選択肢と、具体的な方法をわかりやすく示すことで、リユースやリサイクルを促進し、製品を次のユーザーや資源へとつないでいくことができます。

――DPPの核となるCEMPF®の機能についても教えてください。
青砥:CEMPF®の主要機能はトレーサビリティのための情報の一元管理です。ただ、それだけでは企業の利益に結びつきにくいため、3つの付加価値機能も備えています。
1つ目は管理機能。トレーサビリティ認証方式の要求事項に合わせて管理方法をカスタマイズすることが可能です。2つ目はマッチング機能。素材を提供する側と必要とする側をつなぎ、取引を成立させます。3つ目はインセンティブ機能です。例えば、CO₂削減や再資源化への貢献度が高い素材を提供してくれる方にポイントの付与や、リサイクル費用の還元といった経済的なインセンティブを設計・付与できるような仕組みを備えています。
なお、CEMPF®はプラスチックや鉄鋼など他業界でも導入・検証実績があり、業界ごとにインターフェースをカスタムフィットさせて提供しています。

――DPPの仕組みが広がることで、どういった新しい価値が生まれていくのでしょうか?
平田氏:企業側にとっては、これまで見えにくかった「製品が実際に使われた後の情報」を蓄積し、ものづくりに活かせるようになることが、大きな価値になると考えています。例えば、製品のどの部分が壊れやすいのか、どのような修理が行われたのか、何年使われたのか、どのような製品がリユースや再販につながりやすいのか。そして、どの製品が長く価値を維持できているのか。こうした製品の具体的な「その後」の情報を蓄積していくことができます。
DPPによってこうした情報を収集し、ブランドにフィードバックすることができれば、修理が多い部位の強度を高められるようにデザインや製造方法を工夫することが可能です。
そして、耐久性の高い製品、長く使われる製品、そして中古市場でも価値が持続する製品の開発につなげることができます。
――今後はどのような発展が見込まれますか?
青砥:技術面では、今回はQRコードを活用しましたが、将来的にはNFC(Near Field Communication)やRFID(Radio Frequency Identification)といった電子タグの活用も視野に入れています。トレーサビリティはブランドの真贋判定にも有効です。どこで作られ、どのような経路をたどったかを見れば、正規品であることを裏付ける手段にもなります。
これまで、衣類を売る企業と購入者とのタッチポイントは、販売した後で途切れてしまっていました。しかしDPPを活用すれば、ユーザーの手に渡ってからリペアや廃棄の段階まで、継続的に接点を持つことができます。販売後も企業と生活者がつながり続ける。それがDPPの目指す世界です。ものを作る動脈と、使われたものを回収して再生する静脈。この2つをつなげることで、さまざまな産業のサーキュラーエコノミーが実現していくと考えています。
――「売って終わり」だった企業と生活者の関係はどのように変わるでしょうか?
平田氏:ブランドやメーカーは、「商品を売り、また新しい商品を買ってもらう」というサイクルに依存せずに、販売後もDPPを通じて生活者とつながり続けることができるようになります。修理やケアの履歴など、製品がたどってきたストーリーを可視化することで、製品やブランドへの信頼や安心が高まり、ユーザーとの長期的な関係構築につながります。
生活者にとっても、そうした製品のストーリーが残っていれば「丁寧に使われてきた服」だと分かります。それによって製品に愛着を持てるようになり、「大切に使おう」という気持ちが自然にうまれるのではないでしょうか。
このように企業と生活者の関係は、商品を購入する時点だけの「企業と消費者」という関係性から、販売後も続く「企業と所有者」の関係性になり、ブランド体験そのものが大きく変わっていく可能性があります。
リペアやメンテナンス、二次流通などの循環型ビジネス(サーキュラーエコノミー)が広がれば、企業にとっては製品を販売した後にも新たな価値を提供し、事業機会を生み出すことができます。経済性と環境性を両立できる未来が実現していきます。
――循環型ビジネス(サーキュラーエコノミー)への転換を考えている企業は、何から始めるといいでしょうか?
平田氏:最初から自社ですべての循環型サービスを導入しようとする必要はないと思います。まずは、自社の事業の中でできることから取り組みながら、自社だけでは難しい部分については、循環型のサービスや技術を持つ事業者と連携していくことが重要です。
そのためには、さまざまな循環型ビジネス(サーキュラーエコノミー)を提供する事業者がつながるプラットフォームを活用し、それぞれの企業が自分たちの強みを生かして役割を担っていくことが有効です。1社ですべてを完結させるのではなく、それぞれの企業が役割を果たしながら、良いものが長く使われ、役目を終えたものも適切な形で資源として循環していく。そうした仕組みを産業全体でつくっていくことが、循環型ビジネス(サーキュラーエコノミー)を社会に実装していくために重要だと考えています。
青砥:サーキュラーエコノミーを突き詰めると、産業の垣根を超えた膨大なトレーサビリティが必要になりますが、まずは実現できる範囲から始め、その成果を可視化していく。共感してくれる企業が増えれば、おのずとトレーサビリティの範囲も広がります。資源循環の取り組みはまだスタートしたばかり。規制もルールも完全に整っていない段階だからこそ、まずは小さいところから始めていくことが重要だと思います。企業と生活者との関係性を、「価値を育て続ける関係」へと変えていけるように挑戦していきたいと思います。
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