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2024.04.20(Sat)
目次
――NTTドコモビジネスとして、AIエージェント時代の到来をどのように捉えていますか?
平野:生成AIはここ数年で急速に進化してきましたが、その次の潮流となるのがAIエージェントだと考えています。
AIエージェントは自ら状況を判断し、優先すべきタスクを自律的に実行します。さらに、複数のAIエージェントが役割を分担しながら連携する「マルチエージェント」という仕組みも登場しています。
佐々木:これまでAIは個人の業務を支援するツールとして使われるケースが中心でした。しかし現在は、企業全体でAIを活用し、その成果を管理する段階に移りつつあります。つまり、AIが事業の一端を担う存在になり始めているということです。
平野:マルチエージェントは企業内で活用され始めています。AIエージェント同士を連携させるための通信規格「Agent2Agent Protocol」(通称:A2A)がGoogleから提唱され、現在はLinux Foundationの下で開発が進むなど、技術的な基盤も整いつつあります。今後はその連携範囲が広がり、企業の壁を越えてAIエージェント同士が連携することも現実味を帯びてきました。
髙塚:こうした流れを、単なるAIブームの延長ではなく、デジタル世界の取引主体が人からAIに置き換わる産業構造転換の入り口と捉えています。調査会社ガートナーによると、2028年までにBtoB取引の約90%(15兆ドル超)がAIエージェントを介して行われると予測されています。数字だけ見ると大胆な予測に聞こえますが、AIの技術進化や社会への浸透度を踏まえると、あながち非現実的な話とは言いきれません。

――A2Aを実現するうえでのリスクや課題を教えてください。
髙塚:代表的なものとしては、四つのリスクがあると考えています。
一つ目は「なりすまし」です。自社や取引先のAIエージェントを装った偽のエージェントが取引に介在する可能性があります。
二つ目は「取引条件やログの改ざん」です。例えば、商品を10個発注していたはずなのに、途中で100個に書き換えられてしまうなど、AIエージェント同士のやり取りの中で、悪意はなくとも、ハルシネーションにより取引データが改ざんされてしまう可能性もあります。
三つ目はプロンプトインジェクションなどによる「乗っ取り」です。例えば、AIエージェントが参照する外部データやWebページに悪意のある指示が埋め込まれていると、意図しない発注や機密情報の漏えいにつながる可能性があります。
四つ目のリスクである「AIの暴走」も忘れてはなりません。AIエージェントに過剰な権限を付与してしまうと、大量発注や不適切な契約の締結など、人間が想定していなかった行動を取るおそれがあります。さらに、複数のAIエージェントが連携する環境では、一つの誤った判断が連鎖的に広がるリスクもあります。

佐々木:AIエージェントが想定とは異なる挙動を取り、システムやデータに影響を及ぼすリスクも指摘されています。
こうしたリスクを踏まえると、AIエージェント同士が安全に連携するための通信プロトコルや、権限管理の仕組みを整備していかなくてはなりません。
――「AIエージェント属性情報レジストリ」について教えてください。
平野:信頼性やガバナンス上のリスクを踏まえると、AIエージェント同士の取引には、AI自身の属性情報を厳格に管理し、検証できる仕組みが欠かせません。その役割を担うのが、A2Aプロトコルと組み合わせて運用されるAIエージェント属性情報レジストリです。
A2Aプロトコルでは、それぞれのAIエージェントの属性情報を記載した「Agent Card」を公開します。いわば、人間でいう名刺のような情報です。私たちの仕組みでは、このAgent Cardにその内容の正当性を証明するデジタル証明書「Verifiable Credentials」(VC)を紐づけます。VCを用いると、受け取った相手がデジタル署名を確認し、情報の発行元や改ざんの有無を検証できます。AIエージェント属性情報レジストリはAgent CardとVCを管理し、AIエージェントの「トラスト(信頼性)」を担保する仕組みなのです。
――確かに、お互いの身元を確認し合うという点では、名刺交換に近いかもしれませんね。
髙塚:そうですね。A社のAIエージェント(以下、エージェントA)がB社のAIエージェント(以下、エージェントB)にアクセスする場合、A社はAIエージェント属性情報レジストリからエージェントBのAgent CardとVCを取得し、所属企業などの身元を確認したうえでエージェントBにアクセスします。そしてエージェントAからコンタクトされたエージェントBは、AIエージェント属性情報レジストリからエージェントAのAgent CardとVCを取得し、これら情報を基にエージェントAの身元を確認します。双方がVCを用いて互いの正当性を確認することで、信頼できるAIエージェント同士が安全に連携できるようになります。
このように、AIエージェント属性情報レジストリは、AIエージェント間の身元確認を仲介する役割を持ちます。将来的には、AIエージェント同士が自身のVCを提示し合い自律的に身元確認をしあう形になると想定しており、社会実装の状況を見ながらAIエージェント属性情報レジストリの役割や機能を進化させていきたいと考えています。
――AIエージェント属性情報レジストリはどのようなユースケースが考えられますか?
平野:属性情報レジストリを介して、AIエージェント同士がお互いを信頼してやり取りするユースケースを3つ説明します。
一つ目は製造業です。例えば、メーカーとサプライヤーのAIエージェント同士が、納期確認や見積もりの取得、条件交渉、さらには発注までを自動で行うようなイメージです。人手を介した業務を削減できるだけでなく、よりスピーディーな取引が期待できます。
二つ目は、消費者向けサービスです。旅行予約サイトを例に挙げると、消費者が希望する条件をAIエージェントに伝えると、旅行会社や航空会社のAIエージェントと交渉。条件に沿ったホテルや航空券を探して予約・購入まで自動で進めてくれることも可能になるでしょう。
また、三つ目の領域となる医療・研究分野においてもAIエージェントの活躍が期待できます。AIエージェントが病院や研究機関などの橋渡し役となり、データを収集したり、利用条件を調整したりするわけです。個人情報を匿名化するなど、あらかじめ定められた条件に沿ってデータを受け渡すことで、安全かつ円滑な連携が可能になると考えています。

髙塚:AIエージェントの強みは外部と柔軟に連携し、最適な情報を収集しながら自律的に判断できる点にあります。利用者は知識やノウハウを持っていなくても、専門領域のサービスや情報にアクセスしやすくなり、意思決定の負担も大きく軽減できるでしょう。つまり「専門知識の民主化」が進むということです。
――AIエージェント間による「自律経済圏」が実現すると、社会はどのように変わっていくのでしょうか?
髙塚:まず、さまざまなサービスの品質や利便性が大きく向上すると見込んでいます。理由はシンプルで、人的コストを削減できるため、サービスをより安く利用できるようになるからです。さらに、AIエージェントは24時間365日稼働でき、処理も人に比べて高速なため、問い合わせや取引のリードタイムも大幅に短縮できます。
平野:企業間取引の構造も変わっていくはずです。VCで証明できるのは、AIエージェントの身元や権限だけではありません。例えば、ECサイトの星評価のようなレーティングや利用実績も、信頼できる発行者がVCとして発行することで、改ざんの有無を検証可能な情報として付与できます。AIエージェントがそうした評価情報を持つようになれば、取引相手は信頼性を客観的に判断しやすくなります。
――見方を変えるなら、これまで接点のなかった企業同士が取引を始める可能性も高くなるということですね。
髙塚:おっしゃる通り、協業の可能性がグッと広がります。さらに、グローバル化も一段と加速するはずです。人間同士の取引では、言語や文化の違いが障壁となり、特定の国や地域とのビジネスが難しい場面も少なくありませんでした。しかし、AIエージェント同士であれば、そうした制約がほぼ無くなります。将来的には、現地法人を介さずに海外ビジネスを展開する企業も出てくるでしょう。
――安全なAIエージェント社会の構築に向けて、業界・行政・企業が連携すべきポイントは何でしょうか?
佐々木:ルールづくりと基盤整備を並行して進めることが急務だと考えています。AIエージェントが自律的に判断し、企業間で取引を行うようになれば、どこまでを企業の責任とし、どこからをAIエージェントの判断として扱うのか、そのルールを社会全体で合意形成していく必要があります。これは企業だけで決められるものではなく、行政や業界団体との連携が欠かせません。
また、各社が似たようなプラットフォームを展開すると、相互に連携できず、普及の妨げになる可能性があります。共通規格や互換性を確保するためにも、業界全体で共通基盤を整備することが必要です。

髙塚:ルールづくりに近い話ですが、今後、世界で進む標準化にどう関わっていくかも重要になると考えています。A2Aが発展途上の領域だからこそ、当社としてもビジョンや仮説を持ち、議論に主体的に参加していきたいです。
プロトコルについては、A2AやMCP(Model Context Protocol)などが一定のシェアを築き、世界標準になりつつあります。こうした標準化の流れに対して、日本の産業界としてのWILLを適切に反映できるかも、今後の国内でのAIエージェント普及のスピードを左右するポイントになるでしょう。
単に技術仕様を議論するのではなく、具体的なユースケースやユーザのペインを踏まえて「どのような機能を備えるべきか」「どのような仕組みが求められるか」を提言することで、実用性のあるルールづくりにつなげられると考えています。
――属性情報レジストリの普及に向けた、中長期的なビジョンをお聞かせください。
平野:我々はこれまでも「デジタルトラスト」というテーマで活動してきました。デジタル空間での取引には必ずトラスト(信頼性)の担保が必要になります。AIエージェント属性情報レジストリはその中でもフラッグシップになる取り組みです。
今後は、具体的なユースケースごとにリスクを整理し、AIエージェント属性情報レジストリがどのように役立つのかを検証していきたいです。活用事例を明確にしつつ、AIエージェント同士が安心して連携できるトラスト基盤を整備する。そこから市場の形成につなげていくのが理想です。そのためにも、お客さまと連携した実証実験にも積極的に取り組んでいきたいです。
髙塚:新しいサービスが社会に受け入れられるためには、技術的な安全性を担保するだけでなく「多くの人が使っているから安心できる」という信頼感を醸成していくことも欠かせません。ユースケースを示して、心理的なハードルを下げていくことが、普及の後押しになると考えています。
佐々木:もともと研究用途から始まったChatGPTが一気に社会へ浸透したように、属性情報レジストリも多くの人が利用できる環境を整備していかなければなりません。その積み重ねが、数年後の社会実装につながっていくのではないでしょうか。
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