Smart City

2026.08.05(Wed)

街がAIで動きだす「IOWNキャンパス構想」が示すワット・ビット連携の未来 Interop Tokyo カンファレンス 2026レポート(後編)

デジタル&AIネイティブな社会インフラは、いまやサイバー空間にとどまらず、フィジカル空間へと急速に広がりつつあります。2026年6月10日から12日まで、幕張メッセで開催された「Interop Tokyo 2026」。6月10日には「ワット・ビット連携(3):IOWNキャンパス構想」と題したセッションが行われました。

モデレーターを東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授の江崎 浩氏が務め、竹中工務店の粕谷 貴司氏、NTTアーバンソリューションズの上野 晋一郎氏、NTTドコモビジネスの塚本 広樹が登壇。AIをインフラとして街やビルに常時稼働させる「IOWNキャンパス構想」や、その基盤となる「AIOWN(AI×IOWN)」について、技術・不動産・運営の各視点から議論が交わされました。

本記事は「Interop Tokyo カンファレンス 2026レポート(2)」として、レポート(1)で紹介したブース展示の分散インフラ「GoAT(GPU over APN Testbed)※」の思想を街づくりへと広げるセッション内容をレポートします。

※APNで離れたGPUを接続し、分散した計算資源を一体的に活用する実証環境。

目次


    AIOWNが切り拓く「IOWNキャンパス」という経済圏

    セッションは、モデレーターを務める江崎 浩氏の進行で始まりました。WIDEプロジェクト代表としても知られる江崎氏は、このセッションを貫く大きな枠組みから説明しました。

    江崎 浩│東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授

    江崎氏:NTTは新たに「AIOWN」という構想を提唱しています。これは、ロボットやモビリティまでを含めた新しい経済圏である「IOWNキャンパス」を世の中に広げていこうという考え方です。

    AIOWNは「AI×IOWN」を意味し、NTTが2026年4月に発表したものです。GPU・ネットワーク・電力といったリソースを最適化し、エッジまで含めたオペレーションを担う「AIネイティブインフラ」に位置づけられています。

    すなわち、データセンター産業で培われてきた、電力(ワット)と情報・通信(ビット)を一体で扱う「ワット・ビット連携※」をベースとした新たな経済圏を、ビルや街区、キャンパスへと広げていく。これが本セッションの主題です。続く3名の登壇者が、建築・通信・不動産という異なる立場から、その実装像を語っていきました。

    ※電力の供給や消費を示す「ワット」と、情報通信の量や流れを示す「ビット」を一体で最適化する考え方。AIの処理をどこで行い、どの電力を使い、どのネットワークでつなぐかをまとめて設計することを指す。

    竹中工務店が描く未来のスマートビル

    最初に登壇したのは、株式会社竹中工務店 情報エンジニアリング本部 情報エンジニアリング1グループ長の粕谷 貴司氏です。「ワット・ビット統合×AI連携による次世代ビルの実現」と題し、建設会社の視点からスマートビルの将来像を示しました。

    粕谷 貴司│株式会社竹中工務店 情報エンジニアリング本部 情報エンジニアリング1グループ長

    粕谷氏:将来、人材不足がさらに深刻化することが予想されます。そこで、未来像として人が個別に機器を操作するのではなく、建物自体が状況を判断し、設備やロボットを協調させながら自律的に運用するAIネイティブな世界が必要だと考えています。

    粕谷氏は、実現すべきユースケースとして、設備の不具合対応の自動化、会議室準備など無駄な作業の削減による生産性向上、遠隔からの技術共有による人手不足の解消を挙げます。さらに、省エネ・脱炭素、オーナーの新たな収益機会の創出、都市レベルでのレジリエンス向上も視野に入れます。こうした世界を支えるのが、本格的な社会実装フェーズに入ったデジタルツインと、データを意味づけして扱う「セマンティックなデータ連携※」です。

    ※単にデータをつなぐだけでなく、「この数値は室温を示す」「この情報は会議室の利用状況を示す」といった意味づけを加えて、異なるシステム間でもデータを扱いやすくする考え方。

    粕谷氏:これからは、システムやサービス同士を強く依存させず、必要に応じて柔軟につなぎ替えられる状態(疎結合化)になっていくと考えられます。これは、クラウドが発展した今だからこそできることであり、平常時と災害時を分けず、どちらの場面でも同じ仕組みを活用できるようにするフェーズフリーで常時利用でき、ビルから街へと広げて使える仕組みが必要です。

    竹中工務店は、こうした思想をビルOS「ビルコミ®」として展開してきました。近年は、より簡易で安価な「号館OS(ビルコミLite)」を、東京大学工学部2号館に導入しています。

    粕谷氏:号館OSは、Microsoft Azureの最新コンポーネントを使い、ランニングコストはデータレイク部分を除いて1棟あたり月2〜3万円程度。従来のビルコミ®に比べて安価に構築できます。IPA DADC(情報処理推進機構デジタル・アーキテクチャデザインセンター)が発行しているガイドラインや、SBCO(スマートビルディング共創機構)で策定を進めている標準仕様も採用し、標準化を意識して開発を進めています。

    さらに粕谷氏が紹介したのが、「BSAP Agent(Airlake Copilot Agent)」を活用したデジタルツインアプリです。建物のデータに加え、メールやフォームなど多様なデータソースにアクセスし、複数のAIエージェントを連携させて業務を進めます。

    AI・データが中心となり、建物内外のシステムやサービスと柔軟に連携できる「システム・アーキテクチャ」が必要

    粕谷氏:これまで人が行う前提だった業務をAIが進める前提に変えることで、人は高度な判断業務に集中できるようになります。

    この発表を受けて、江崎氏は「ここで使われている技術はデータセンターと共通であり、ビル以外にも転用が可能です」と補足しました。

    NTTドコモビジネスの街区における取り組み

    続いて登壇したのは、NTTドコモビジネス ソーシャルイノベーション部 シティ・モビリティ部門 部門長の塚本 広樹です。塚本は、分散型AI×IOWNを前提とした街づくり構想を主導する立場から、街区での取り組みを語りました。

    塚本 広樹│NTTドコモビジネス ソーシャルイノベーション部 シティ・モビリティ部門 部門長

    塚本:当社はこれまで、街区づくりでICT基盤やデータ利活用PF提供モデルを中心に展開してきました。一方で、導入後の継続的な運営・価値創出まで十分に踏み込めていないケースもありました。今後は、構築して終わりではなく、常時駆動型の街区運営に取り組みたい。地域特性を踏まえた需要創出にも注力していきます。

    従来は情報の可視化に注力してきましたが、現在は街区の運用とその変革に重点を移していると塚本は言います。そこで鍵になるのが、エネルギー・情報・建物を一体でとらえる発想です。

    塚本:エネルギーと情報、建物を一体で設計し、AIネイティブなキャンパスを支えるOSのような共通デジタル基盤の実現を目指しています。建築の段階からネットワークをどう組み込むかという観点で、設計会社やゼネコンなどの街区開発に関わる多様なプレイヤー向けの協調領域アーキテクチャを提唱しています。

    塚本が描くのは、電力・建物・ロボット・通信・人流・モビリティを集積から制御、管制まで一体で見る「キャンパス」の概念です。それを実装するのが、ビル内に物理的なサーバ室を保有・運用しない「サーバ室レス」や、IOWNを前提に設計され立地制約からも解放される「IOWN Readyビル」、そして複数の専門AIをまとめ上げる「AIコンステレーション※+AI管制プラットフォーム」です。その土台となるのが「AIネイティブインフラ」です。

    ※役割の異なる複数の専門AIを連携させ、1つの大きな業務や判断を支援する仕組み。単体のAIではなく、複数のAIを組み合わせて使う点に特徴がある。

    NTTのAIOWN構想に基づく AI×ワット・ビット×街区

    塚本:AIネイティブインフラとして、コンテナ型データセンターとGPUクラスタを提供します。コンテナDCは最短7カ月程度で構築でき、液冷対応で高いエネルギー効率を実現します。GPUクラスタは国内データセンターの専有型IaaSとして、最新GPUを月額定額でご利用いただけます。

    実績として塚本が挙げたのが、大規模な住宅街区での街区エリアネットワークの取り組みです。

    塚本:街全体にオール光ネットワークを敷設し、近隣のデータセンターと直結しました。これはIOWNの前身ともいえる取り組みで、街の進化を見据えてIOWNの可能性を事前に組み込んでいます。

    これに対し江崎氏は、NTTがとう道(通信用トンネル)や通信局舎を全国に保有している点に触れ、「スケルトン・インフィル的※なインフラ資産として、競争優位の源泉になり得るものです」と指摘しました。

    ※建物の骨格部分と、内装や設備など交換・変更しやすい部分を分けて考える設計思想。ここでは、通信局舎やとう道といった長期利用できるインフラ資産を、街づくりの基盤として活用できるという意味。

    ワット・ビット連携と不動産のビジネスモデル

    3人目の登壇者は、NTTアーバンソリューションズ株式会社 常務取締役 CDAIO 街づくり推進本部長の上野 晋一郎氏です。同社は2019年設立のNTTグループの街づくりにおける推進主体で、不動産デベロッパーのNTT都市開発と、建築エンジニアリングを担うNTTファシリティーズを中核とします。上野氏は「AIOWNと街づくり、ワット・ビット連携」をテーマに、不動産ビジネスの観点から語りました。

    上野 晋一郎│NTTアーバンソリューションズ株式会社 常務取締役 CDAIO 街づくり推進本部長

    上野氏も、これからの主戦場は「街づくり×デジタル×エネルギー」であり、その基盤となるのがAIネイティブインフラ、すなわちAIOWNであると捉えています。さらに、同氏が強調するのがAIの位置づけの転換です。

    上野氏:これまでAIは、必要なときに使う「オンデマンド」の道具でした。これからは常に動き、リアルタイムで判断し、自動で最適化する「常時稼働」のインフラへと変わります。

    上野氏は、AIが街に入り込む動きを「省人化」「体験」「24/365化」という3つのうねりで整理し、その共通点を「リアルタイム推論」による意思決定として提示します。そして、低遅延、分散、セキュリティ/データ主権、統合運用という要件を満たし、それらがボトルネックにならないインフラこそAIOWNだと述べました。すでにビル運営では、AIの活用が成果を上げています。

    低遅延、分散、セキュリティ/データ主権、統合運用の要件を満たすインフラ

    上野氏:たとえば、複数の専門AIを束ねる「AIコンステレーション」技術を生成AIによるイベント企画案の検討に活用し、業務時間を約50%削減しながら、企画の品質も高めることができました。省エネのためのAI空調制御や、画像解析による見守りなどにも、AIはすでに普及しています。

    こうした「成長し続ける街区」を回すために、上野氏はビジネスモデルの転換を訴えます。竣工時を起点にKGI/KPIを設定してPDCAを回す運用は、世界標準のスマートシティ規格ISO 37106でフレーム化でき、同社が関わる街区では世界2例目となるBSIレベル4認証も取得済みだといいます。

    上野氏:不動産はこれまで、作って売る・貸す・メンテするという「フロー型」が中心でした。今後はそこに、使いながら改善し、関わり続けて価値を増やしていく「リカーリング型」を組み合わせる必要があります。そのためには、街区コンサルタントやデータアナリスト、運営者が一体で動く体制が欠かせません。

    その実践の場として上野氏が示したのが、2031年竣工予定のNTT日比谷タワーです。「街づくり×デジタル×エネルギー」をAIOWNとともに実現する象徴的なプロジェクトと位置づけます。

    街にAIを実装するための論点

    3氏の講演を受けたディスカッションでは、街にAIを実装するうえでの現実的な論点が次々と挙がりました。江崎氏はまず、不動産ビジネスの構造的な課題を投げかけます。

    江崎氏:不動産投資が肥大化するなかで、スクラップ&ビルド型では投資効率が厳しくなっています。もし通信線が電力線より安くなれば、ビジネスモデルを転換する余地が生まれるはずです。

    もっとも、デベロッパーには、収益源であるテナント向けスペースを通信・サーバ設備に割きたくないという事情もあります。一方で、AIの活用が街区開発の前提を変えつつあると塚本は指摘します。

    塚本:AIサーバの設置スペースや電力供給能力をどう確保するかが、街区の開発計画そのものに影響し始めています。ビルの機能をデータセンター側へ移していく考え方も出てきています。

    この構造的な課題に、上野氏は不動産開発のプロセスそのものから切り込みました。

    上野氏:建物は、設計、ゼネコン、PMと役割が縦割りで、ICTは従属的な立場に置かれがちです。AIを街に本格的に組み込むには、業務フローそのものを変えていく必要があります。電力とサーバを分散して配置するのか、それとも集中させて光で各拠点に切り出すのか。そうした設計判断も問われます。

    議論はさらに、データの扱いへと及びます。粕谷氏は、データ主権の重要性を訴えました。

    粕谷氏:生成AIはインターネット上のデータを使い尽くしつつあり、今後はドメイン固有のデータが重要になります。エネルギーデータなどを外部へ渡す際に、どう信頼を担保するかが課題です。

    最後の質疑応答では、再生可能エネルギーだけでデータセンターを稼働させることの難しさが問われました。これに対し江崎氏は、データセンターの電力消費は一定ではなく変動があること、蓄電池の活用で対応できることを挙げ、海外には大容量蓄電池の実装事例もあると答えました。

    「街とAIが共存する世界」へ

    登壇した3氏に共通していたのは、AIを「導入する対象」としてではなく、街やビルを支える「インフラ」としてとらえ直す視点でした。そして、江崎氏が繰り返し述べたように、それこそがAIOWNの描く世界です。AIを常時稼働させる街づくりの社会実装は、これからが本番です。各社の取り組みは、すでに動き始めています。

    街区が抱えるエネルギーや運用の課題解決に向けて、NTTドコモビジネスはAIネイティブインフラと街づくりの知見を融合させながら、IOWNキャンパス構想の社会実装を見据えています。

    この記事の領域について当社に期待することをお聞かせください【必須】
    必須項目です。
    その他ご意見ご要望があればお聞かせください
    この記事の評価をお聞かせください
    低評価 高評価
    【必須】
    必須項目です。
    【必須】
    必須項目です。
    セイ【必須】
    必須項目です。
    メイ【必須】
    必須項目です。
    メールアドレス【必須】
    必須項目です。
    会社名【必須】
    必須項目です。
    職種
    役職
    電話番号【必須】
    必須項目です。
    【必須】
    必須項目です。

    NTTドコモビジネスのプライバシーポリシーに同意し、
    記入内容が正しいことについて確認しました