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Smart City
2025.01.17(Fri)
目次
――NTT Comは、2013年にDCサービスのブランド『Nexcenter』を立ち上げています。DCサービス自体は、いつ頃から手掛けていたのでしょうか。
松林:1990年代には、東京の大手町や大阪の堂島にある通信ビル、いわゆる通信局舎にサーバーの設置を始め、そこから全国の通信ビルにDCを展開しました。その後、インターネットの普及などに伴いDCサービスを拡充・展開していき、2013年に『Nexcenter』という統一ブランドを発足。現在では首都圏・近畿圏を中心に全国で70拠点以上のDCを運営し、サービスを提供しています。あるDCの電力消費量は20〜30MW。40Aの一般家庭なら7500世帯分程度の電力を使用しており、年を追うごとに大規模化しています。
――1990年代半ばからはインターネットが急速に普及し、DCの需要が高まりました。NTT Comが本格的に参入したのもその頃です。阪神・淡路大震災も1995年1月17日に発生しました。
江崎教授:実は、インターネットを生存確認に使った最初の機会が阪神・淡路大震災でした。幸いインターネットの専用回線は大きな被害を受けなかったので、大学や研究機関、個人が動かしていたサーバーを用いて生存者情報などをインターネットで発信したのです。
この時、災害時でもDCのサーバーがしっかりと動いて、かつ、コネクティビティを提供できることを示したわけです。東日本大震災でも、海底ケーブルの8〜9割が破損しましたが、NTTとKDDIが回線を共有。DC自体も大きな被害を受けなかったため、インターネットがダウンすることはありませんでした。震災直後の15分間、株式市場には1日分のトランザクションが集中しましたが、それでも東京証券取引所のサーバーは稼働し続けたのです。あれは今でも神話として語り継がれています。
松林:『Nexcenter』のBCP対策は、地震の揺れそのものに関してはほぼ問題ありません。例えば、大阪第5DCは、南海トラフ地震による震災や津波、洪水、高潮を想定し、免震・制震装置を備えており、電力・通信設備、サーバールーム、その他の重要設備は全て建物の2階以上(地面より7m以上)に設置しています。また、建物に引き込まれる通信ケーブルは大型の通信用耐震トンネル「とう道」に直結しているので、地震でも損傷する心配がありません。電力も異なる変電所から複数のルートで供給しています。ハード面に加えて、災害を想定した演習や研修などソフト面を含め、さまざまな取り組みを講じていますが、これらも基本的対策と位置付け、時代に則した対策に随時アップデートをしているところです。
江崎教授:日本のDCの地震に対するBCP対策の有効性は、これまでの地震でも倒壊しなかった歴史が証明しています。ただ、南海トラフ地震の脅威や能登半島地震の現状を考えれば、電力網が断絶してしまうリスクに備えたもう一段上の対策を考えて行くべきでしょう。国も「デジタルインフラ(DC等)整備に関する有識者会合」の中間とりまとめ3.0(以下、中間とりまとめ3.0)で、「脱炭素電源を含めた電力の地産地消の観点からも、データセンターの分散立地の推進が一層重要」と提言しています。
――江崎教授も同有識者会合のメンバーですが、DCの分散立地はBCP対策だけでなく、脱炭素電源を含めた電力の地産地消の観点からも重視されています。その理由を教えてください。
江崎教授:顕著なのは生成AIの登場です。生成AIに不可欠なGPU(画像処理半導体)は大量の熱を発し、冷却のために膨大な電力を消費します。そこで注目されているのが、脱炭素電源、再生可能エネルギーの活用です。実は、生成AIと再生可能エネルギーは相性がいいのです。
最新の生成AIは、常に全力ではなく、稼働効率を良くするために細切れで動いています。つまり、生成AIを稼働させるために必要な電力量も、稼働状況に合わせて変動できるということです。常に一定の電力量を必要とする従来のDCにとって、発電量が安定しない再生可能エネルギーは使い勝手が悪いのですが、生成AI用DCならば、発電量が少ないときには全力で動かず、発電量が安定したら全力を出せばいい。再生可能エネルギーの発電施設は地方に多いので、生成AI用DCを分散立地するのは、電力供給の面でも理にかなっています。
生成AI用DCを分散立地しやすい理由は他にもあります。現在、DCが首都圏・関西圏に集中している理由のひとつが、利用者に近い場所にサーバーを置いて少しでも遅延を少なくしたいから。生成AIは学習と推論といったプロセスがありますが、推論は結果を即座に提供するため、利用者との通信遅延が課題になります。しかし、学習であれば、DCと利用者間の通信に遅延があっても気にする必要はありません。生成AIの学習を担うサーバーなら、地方にDCを置くことができます。実際、中国では西部に学習用の、経済圏である東部に推論用のDCを設置しています。
松林:今までは一つのDCにさまざまな用途のサーバーが格納されていたのですが、これからは、例えば「遅延を気にしない学習向けのサーバー類は地域に置こう」など、用途によりDCの適した形態や場所を選ぶ時代になりつつあります。再生可能エネルギー施設も地域に多い。私たちも、エネルギーの生産地や遊休地にDCを持っていく検討を加速しているところです。
江崎教授:今回の能登半島地震では、停電が続いて情報通信がままならなかった。災害時に都市機能を喪失させないためには「エネルギー供給」と「情報インフラ」の両方がそろっていることが重要だと明確になりました。総務省をはじめとして有識者の間では、今後、再生可能エネルギーの生産地とDC、避難所や役所など災害時に必要な場所を近接させたコンパクトシティを実現して、災害が発生してもエネルギー供給と情報インフラを維持し続けられるようにしていこうといった話になりつつあります。
重要なのは、コンパクトシティには電力の自給自足だけでなく、DCのような情報通信拠点も組み込むこと。現在、再生可能エネルギーの有力な候補は、ペロプスカイトに代表される次世代ソーラーセルを用いた太陽光発電です。それらを使い、災害時に街へ電力を供給し、かつ、情報サービスも提供する。再生可能エネルギー設備を備えたDCがコアになればいいという提案もあります。
※ペロプスカイト:ペロブスカイトという結晶構造を持つ酸化鉱物の一種。高い変換効率を実現する新タイプの太陽電池として注目が高まっている。
――将来的にはDCの分散立地も進みそうですが、加速させるための課題をどうお考えでしょうか。
江崎教授:一番の課題になるのは、電力線が整備されていないことでしょう。通信線はNTTさんが頑張ってくれるので、オール光を含めて比較的、整備がしやすい。しかし、電力線の整備はより難しい。
また、加速のためには、人がいなくても稼働できる仕組みが必要です。都市部にDCが設置される理由のひとつに、トラブルが起こったときにエンジニアが駆けつけられることが挙げられますが、今後は、ロボットやソフトウェアでも対応できるように進化していきます。
もちろん、DCを設置する地方自治体からすれば「自動化だと雇用を生まない」という意見もありますが、税収は上がる。税収が上がれば住民サービスが向上し、住民も増える。DCが次々と建設されている千葉県印西市などは好例です。
松林:私も「中間とりまとめ3.0」の考えには賛同しています。その推進に向けたDCの分散立地には、もう一歩踏み込んだオペレーションの自動化も必要だと考えています。NTT Comの『Nexcenter Lab』では、機器類の電源のオン・オフやランプチェックといったオンサイト業務をロボットが行う実験や、遠隔地にいるベテランがVRを装着した現地の作業員に指示を出しながらオペレーションを行う実験などを行っています。こうした技術の組み合わせも含めて、分散立地による距離や移動の制約をカバーしていくことで、自動化のさらなる促進につなげていければと思っています。
――Nexcenter Labでは、液冷方式サーバーに対応した超省エネ型データセンターサービス『Green Nexcenter®』の検証環境の提供を進めています。省エネは分散立地の促進にとっても重要なポイントです。2025年3月にGreen Nexcenter®の提供開始を予定しているそうですが、概要を教えてください。
松林:先ほど、生成AIには高性能のGPUが必要で、このGPUのパフォーマンスが極めて高いがゆえに発熱も大きくなるとお伝えしました。現在のDCは、基本的にはエアコンから出る冷たい空気でサーバー類を冷やしています。しかし、それでは冷却が間に合わないので、Green Nexcenter®では水の優れた熱伝導効率を用いてGPUチップをダイレクトに冷やす液冷方式サーバーに対応します。
しかし、サーバールームに水を入れることに拒否感を示すお客さまは少なくありません。既存のDCには水を通す配管が設置されていないため、Green Nexcenter®を提供するために施設の改造から始めました。万が一、水が漏れたときの床面などの対策や管が突然抜けても水が漏れない仕組みなども徹底しています。
もうひとつ、Green Nexcenter®が画期的なポイントは、1つのラックごとに液冷方式サーバーに対応できることです。企業のお客さまによってはGPUを使ったDXの推進において、サーバーラックは1つで実証からスタートしたい、あるいは、性能の発揮にはラックは2つで十分というお客さまもいらっしゃいます。大きなルーム全体を契約してくれたら液冷に対応すると表明するDC事業者が少なくないのですが、Green Nexcenter®ではラックごとに液冷方式サーバーを提供できるようにし、使った電気分を計量法という法律に則った形で活用できるサービスにしています。
江崎教授:熱問題の解消では、光ベースの技術も期待されています。例えば、電気は熱を発生させますが、電気の代わりに光を使えば、デバイスの発熱を根本的に抑えることができる。この光技術を昔から研究し、できるところから実装を進めているのがNTTです。
――NTTの光技術はIOWNという形で実装が進んでいます。中間とりまとめ 3.0の中でも、オール光ネットワークの活用が分散立地の推進にとって有効であることが示されています。今後、IOWNをどのようにDCへと活用していくのでしょうか。
松林:IOWNの主要技術分野のひとつ、オールフォトニクス・ネットワーク(APN)は、『APN専用線プラン powered by IOWN』というサービス名で提供しています。国内70拠点以上のDC間や主要都市間などをAPN専用線で接続。DC間通信の遅延を削減し分散立地のニーズにも対応していきます。
また、生成AIの登場で、GPUを1箇所に集めるのではなく、マルチに接続して学習させ、全体としてパフォーマンスを出すことがテーマになってきました。そこで、GPUを活用する立地を分散させ、その間をAPN専用線でつなぐという実験(GPU over APN)を行い、世界で初めて成功しました。この実験の成果は2024年10月7日に発表し、多くの注目をいただいています。DCを分散させて、学習に活用できるようネットワークの側面から支援する。DCとネットワークを複合的に活用する新たな利用形態として、実用化に向けて磨きをかけていきたいと思います。
――最後に、分散立地を見据えた上で、企業はどういった観点でDCを選ぶべきか教えてください。
江崎教授:ひとつは、ロックオンされないDCを選ぶということです。インターオペラビリティ(相互運用性)やオルタナティブ(代替)、つまり、他ともつながるか、他のものが使えるかが、ポイントです。NTTは、IOWN Global Forumに象徴されるようにオープンな取り組みを進めています。そういった技術を取り入れたDCを選ぶことが重要です。
松林:DC事業者同士を含めた横のつながりを強化し、相互運用性を高めたり、代替できるようにすることは、本日のテーマでもあるレジリエンスにつながります。DCのパフォーマンスにネットワークの機能を重畳させるなど、NTT Comならではのサービスを提供しながらお客さまの選択肢を増やすことを意識しています。複合的な観点でレジリエンスを如何に強化しているか、これも重要な選択肢であると考えています。
江崎:「利他」と「利己」という言葉があります。利他を意識しつつ自分の利益も確保して、最終的には全体に対して貢献をしていくエコシステムを構築しなくてはいけません。『OPEN HUB for Smart World』の理念にもピッタリ当てはまるのではないでしょうか。
松林:ChatGPTが出現したのはたった2年前です。それが以前からあるものかのように浸透し、ひいてはDCの在り方まで変えようとしている。不確実性が増す世の中にありながら、常に5年後、10年、30年と先の未来も見据えて、深謀遠慮と柔軟性を両立させていかなければいけません。江崎先生のような有識者のお力も借りながら、時流や技術の進化に合わせた多くの選択肢をつくって、お客さまに柔軟に選んでいただく。これからも、そのための努力を続けていく、NTT Comにご期待いただければと思います。
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