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Generative AI: The Game-Changer in Society
2024.06.05(Wed)
この記事の要約
ドラッグストア業界が抱える人手不足と顧客サービス向上の課題を解決するため、富士薬品グループとNTTコミュニケーションズは、デジタルヒューマンと生成AIの活用を検討しています。
2024年3月の「富士薬品グループお客様感謝フェスタ」で、デジタルヒューマン「CONN」による接客デモを行いました。
日用品案内、医薬品販売、リモート薬剤師接続の3つのシナリオを実演し、デジタルヒューマンの可能性を提示しました。接客の自動化や情報提供の質の向上が期待できる一方、セキュリティや応答の課題も残ります。
今後は両社で技術をかけ合わせ、顧客体験と業務効率化を実現する店舗づくりを目指していきます。
デジタルヒューマンと人間が共存する未来の姿を、段階を踏みながら具体化していく方針です。
※この要約はChatGPTで作成しました。
目次
――はじめにドラッグストア業界が抱える課題やDXを推進する背景を教えてください。
鈴木哲也氏(以下、鈴木氏):ドラッグストア業界は国内の店舗数が年々増え、競争が非常に激化しています。私たち富士薬品グループは配置薬販売とドラッグストアをかけ合わせた独自のビジネスを強みとし、ドラッグストア「セイムス」と「ユタカファーマシー」の会員数は約1,000万人に上ります。
店舗では薬剤師などの専門家やスタッフが働いていますが、課題はやはり人員不足です。それによって店舗スタッフには多くの稼働負担がかかっているため、「省人化を図りながらいかに店舗業務を効率化するか」という課題に向き合わなければなりません。一方で、お客さま応対やサービスの品質を向上させることも欠かせません。
人員不足の中で「省人化」と「品質向上」というトレードオフの課題を解決していくうえでカギとなるのがDXであることは間違いありません。私たちDX戦略推進本部は、富士薬品グループの消費者接点である配置薬販売およびドラッグストアの運営を戦略的に支援しており、新たなテクノロジーの検討・導入に積極的にチャレンジすることで、こうした課題の解決に取り組んでいます。
――3月17日に開催された「富士薬品グループお客様感謝フェスタ」ではデジタルヒューマン「CONN」を活用した接客デモが行われたそうですが、この取り組みはどのような経緯で始まったのでしょうか。
鈴木氏:今回で13回目を迎えたお客様感謝フェスタは、日ごろの感謝を込めて開催しているイベントです。どなたでもご参加可能で、さまざまなメーカーの商品を購入したり試したりすることができます。私たちにとって、1万人以上のお客さまと1日でお会いできる大切な機会です。そのイベントで、今回新たな試みとして、最新のテクノロジーを取り入れた「未来のセイムス体験」ブースを設けました。
こちらでは、さまざまな先端技術を用いた接客を体験していただくことで、私たちが描く未来のセイムス店舗像や世界観をお客さまに知っていただくことを目的としています。ブースを企画するにあたって、ICTやDXにおけるパートナー企業であるNTTグループにご紹介いただいたデジタルヒューマン「CONN」のデモを実施したくご相談をしたところから、今回の取り組みが始まりました。
大宅左恵(以下、大宅):「CONN」が誕生して約1年は、デジタルCatalyst
としてOPEN HUB Parkでお客さま応対やイベントの司会など、多岐にわたる活躍をしてきました。今後はさまざまな顧客接点におけるデジタルヒューマン活用に向けて社会実装のためのアップデートを進めていきたいと考えています。そのためにはリアルな顧客接点でのデジタルヒューマン活用の検討をお客さまと一緒に広げていく必要があると考えていたタイミングでのお声がけで、私たちにとっても非常にありがたいお話でした。
――今回、お客様感謝フェスタでの接客デモはドラッグストアでの日常業務である「日用品」「第2類・第3類医薬品」「第1類医薬品」をご購入するお客さまとのコミュニケーションを想定し、作成された3つのシナリオにもとづいて行われたそうですね。これらのシナリオはどのようにつくられたのか、またそのシナリオを設定した背景や狙いと具体的な内容を教えてください。
河村あかね(以下、河村):シナリオ作成にあたっては、富士薬品さまに店舗業務でよくある具体的なシーンとその課題についてヒアリングを行わせていただきました。その課題に対しデジタルヒューマンはどのような業務を代替できるのか、どのようなサービスを提供するとお客さま対応品質向上につながるのか、仮説に基づいたシナリオ案を提示しました。そして、富士薬品さまと一緒に仮説を検証しながらそれぞれのシナリオをブラッシュアップし、仕上げました。
鈴木氏:今回のシナリオは、日ごろ実際の店舗で発生している接客や将来ありえる接客にもとづくものばかりです。いずれもDXによって「省人化」と「お客さま応対・サービス品質向上」を実現できればと考えたものです。
1つめの日用品購入のシナリオですが、店舗スタッフがお客さまから商品の場所をお問い合わせいただくことが多くあります。店舗スタッフの対応稼働の軽減とスムーズなご案内によるお客さま応対・サービス品質向上を、デジタルヒューマンで一挙に解決することを狙ったものです。
河村:お客さまから商品の場所に関する質問を受けると、CONNが「〇〇の場所はこちらです」とQRコードを表示します。それをスマホで読み込むと、その商品が陳列されている棚の位置が表示される仕組みです。商品棚の位置表示にはNTTドコモの「-棚割AIソリューション-Tanagram™」というサービスを活用しています。
店舗スタッフの「お客さまからの商品位置問い合わせ」や「在庫管理業務」において、Tanagram™はそうした業務の軽減支援にも有効であると考え、今回のシナリオに組み込みました。
こうしたご案内に加えて、衣類用洗剤を買いに来たお客さまに対しては、柔軟剤の割引クーポンも出すといった対応もイメージしています。お客さまに寄り添った対応によるサービス品質向上と、クロスセルを実現したいという富士薬品さまの狙いをシナリオに組み入れています。
鈴木氏:2つめの第2類・第3類医薬品販売の接客シナリオに関しては、現状、当社の店舗には専門知識を持つヘルスケアカウンセラーが在籍し、お客さまのさまざまなお悩みにご対応しています。対象となる商品は10,000点以上あり、飲み合わせの注意なども含めると膨大な知識量が求められます。そこで、生成AIを連携したデジタルヒューマンが接客することで正確かつ豊富な情報提供を実現し、さらに購買データを通じてクロスセルにつなげることもできるのではないかと考えました。
西岡篤輝(以下、西岡):このシナリオでは自由度の高い会話を目指しました。実際の店舗でお取り扱いのある商品情報をCONNにインプットしておき、お客さまとの会話から「目がかゆくてかすむ」「ハードコンタクトレンズを装着している」といったお客さま情報を得たうえでお客さまに合った商品をご紹介できるようなシナリオにしています。
鈴木氏:正しい情報をお伝えすることはお客さまからの信頼に直結するため、専門知識を持ったスタッフの対応が不可欠です。そうした点においても、生成AIを連携活用したデジタルヒューマンによる接客には大きな可能性を感じています。一方、お客さまがデジタルヒューマンとの会話に慣れるにはある程度の経験や時間が必要ですので、お客さま×ヘルスケアカウンセラー×デジタルヒューマンの3者を交えた「おくすり相談会」などのコミュニケーションが実現できれば、より質の高いサービスをご提供できると考えています。
3つめの第1類医薬品に関する接客デモは、今後、リモートでの第1類医薬品の相談や販売、服薬指導、処方が解禁された際の、実店舗でデジタルヒューマンを介した薬剤師のリモート接客を想定したものです。
河村:頭痛と発熱にお悩みのお客さまに対し、CONNが「薬剤師を呼び出します」とお伝えしてQRコードを表示するので、それをスマホで読み込んでいただくと、リモートで薬剤師とつながり会話ができるという流れを想定しています。
ドラッグストアには、さまざまな症状やお悩みをお持ちの方がご来店されますが、お客さまの症状をお聞きしたCONNが「それはおつらいですね…」と悲しそうな顔をして共感を示すように今回のイベントでは表情を追加しました。デジタルヒューマンに人間らしい表情や振る舞いをさせることで、リモート接客においてもお客さまに寄り添った接客が体現できるよう工夫しています。
村上太一氏(以下、村上氏):デジタルヒューマンによって人間同士に近いコミュニケーションを実現することは、お客さまと店舗との距離を縮めることはもちろん、お客さまがワクワクするような新たな顧客体験の提供にもつながります。コンビニエンスストアなどと比べるとお客さまの滞在時間が長く、店舗スタッフのオペレーションが複雑かつ多様であるドラッグストアという場において、デジタルヒューマンや生成AIの活用の可能性は非常に大きいと感じています。
――体験ブースには多くのお客さまが訪れCONNの接客を体験しましたが、手応えはいかがでしたか。
鈴木氏:CONNの接客を受けているお客さまを見て最初に思ったのは、興味を持ってくださる方が多い一方で抵抗感もあり、その接客に慣れるまでには少し時間や経験を必要とするのかもしれないということです。しかし、遠巻きに見ておられたお客さまに「CONNと一緒に写真が撮れますよ」とお伝えすると嬉しそうに近づいて来てくださる方が多かったので、何らかの工夫をすることで抵抗感は意外と簡単に払拭でき、デジタルヒューマンとお客さまの距離は一気に縮まるのかもしれないと感じました。
村上氏:お客さまからいただいた生の声として「周りに人がいる時に使うのはちょっと恥ずかしい」といったご意見もある一方で、「人間相手じゃないから話しやすい」というお声もあり、なるほどと考えさせられました。ご自身の症状や身体にまつわることを話すことに抵抗を感じる方は少なくないと思います。一方で、むしろデジタルヒューマンのほうが話しやすいというお気持ちを抱く方もいることをあらためて認識しました。例えば、周囲に聞かれないよう個別のスペースを設けるなど気兼ねなく使っていただくための配慮が必要といった店舗導入時のイメージをリアルに描くことができました。
鈴木氏:フェスタ当日はセイムスの店舗スタッフが100名ほど応援に来てくれたのですが、多くのスタッフがCONNを見て「すごい」と話していましたね。新たな体験という意味では、CXだけでなくEXという点でもデジタルヒューマンは大きな効果や可能性があることを実感しました。
――一方で、デジタルヒューマンや生成AI活用店舗の実現に向けての課題はどのようなところにあるとお考えでしょうか。
村上氏:「セキュリティ」「情報の精度」「レスポンス」の3点でしょうか。セキュリティ面ですが、情報をいかに安全に扱うかという点では乗り越えるべき課題がまだまだ多いと感じます。特に健康や医療に関する個人情報の使用においては、ルールや仕組みづくりが欠かせません。
鈴木氏:生成AIの強みをいかすという点では、医療データなど外部の多種多様なデータと連携することでより幅広いサービスの提供が可能になると考えていますが、そこに至るまでにクリアすべき点は多そうですね。
西岡:おっしゃる通り、マイナンバーにひもづくデータなどを使用する場合、その扱いについてはさまざまな観点から議論が必要です。セキュリティはNTT Comが注力する領域の1つですので、多様なアセットをいかして課題解決を図っていきたいと考えます。
村上氏:一方、情報の精度については薬の飲み合わせや症状を踏まえたうえで個々のお客さまに合った最適な商品をご提案できる環境づくりが重要です。レスポンスの速さに関しては人間と比べて遅いなと感じる時があるので、さらなる改善に期待しています。
河村:提供する情報について、今回のデモではシナリオに基づいた商品をご紹介しましたが、実際にはお客さまが服用中の薬に関するデータなどをもとにした柔軟なご提案を可能にしていくことで、より多くのお客さまのニーズを満たせると感じています。レスポンスについては今後のアップデートに活かしたいと考えます。
西岡:今回のイベントでは、私たちもブースで一般のお客さまと接する中でさまざまなご意見をいただけたことで多くの気づきがありましたし、未来の店舗のイメージがどんどん具体的になってきたように思います。
村上氏:本当ですね。体験ブースを出て行かれる際、「将来のセイムスってこんなふうになるんだ!楽しみだね」とお話しになっているお客さまがいらしたのですが、この言葉がとても心に残っています。今回の取り組みや目指す世界観が間違っていなかったのだと自信になりましたし、お客さまが楽しみに思える未来を、必ず実現したいと思います。
大宅:まだまだ工夫できる点は多くありますから、今後もぜひ意見交換をしながら取り組ませていただきたいと思います。NTTグループでは2024年3月に大規模言語モデル「tsuzumi」の商用サービスを開始していますが、こうしたさまざまな技術を活用しながら、店舗のこれからを一緒につくっていくことができれば嬉しいです。
――今後、デジタルヒューマンや生成AIなどの技術を活用した顧客接点強化の取り組みをどのように発展させていきたいですか。みなさんの展望をお聞かせください。
西岡:店舗にご来店されるお客さまもスタッフの皆さまにも「こういうものがあるといいね」と心から思えるようなソリューションを実現し、同時に省人化や顧客満足度の向上にもつながるようなご提案ができればと思っています。既存のやり方にとらわれず、柔軟な発想で今後も議論を深めていければと考えています。
河村:今回の取り組みはSTEP0として、デジタルヒューマンや生成AI、マーケティングソリューションなどさまざまな技術やソリューションを活用した未来の店舗づくりについて、段階を踏みながら進んで行けたらと良いと思います。新たな価値提供を実現し、富士薬品さまの将来において、顧客層を拡大していくことに貢献できればと考えています。
大宅:デジタルヒューマン市場は2030年に向けて大きな成長が見込まれており、なかでもヘルスケア、リテール、金融などの業界では顧客接点における高度な応対が求められることから、特に高い期待が寄せられていると感じています。
CONNは人間らしいコミュニケーションを通じてお客さまとの信頼関係を築くと同時に、大量のデータを入れ込むことで人間にはできないような複雑な応対を実現してくれます。この両方の強みをいかしながら、デジタルヒューマンが人間と共存していく未来を考え、社会実装していけるよう今後もご一緒できればと思います。
村上氏:デジタルヒューマンや生成AIの他にも、今回のブースではAI顔認証ソフトウェア「SAFR®」、自律走行型パーソナルロボット「temi」といったNTTグループの技術やソリューションも展示活用されていました。これらと当社のサービスの融合は、まだまだ始まったばかりです。より多くのアイデアを具現化し、多角的に取り組みを増やしていければと考えています。生成AIはCXにもEXにも革新的な変化をもたらす可能性を秘めています。PoCから現場への導入を目指し、次のステップへと進んでいきたいです。
鈴木氏: 顧客体験の向上、業務効率化、売上向上といった当社の成長に結び付くさまざまなDXの実現を目指していきたいと思います。富士薬品グループは、「ニーズに即応できる複合型医薬品企業として地域に拠点を置き、生活に寄り添う良質な健康サービスを進化させ、ネットワークすることで、ひとの元気なくらしを支えてまいります」という企業理念を掲げています。これからもお客さまや従業員の元気な今日と明日のために、より最適なサービスを生み出す挑戦をNTTグループと一緒に続けていきたいです。
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