Carbon Neutrality

2024.04.26(Fri)

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これからの10年で社会はどう変わる?
COP28から見る、脱炭素とビジネスチャンスをめぐる最新動向

#データ利活用 #事例 #AI #環境・エネルギー #地方創生
2023年11月〜12月にUAE・ドバイで開催された、国連気候変動枠組条約第28回締約国会議「COP28」。各国の脱炭素化進捗状況の可視化・評価を行うグローバル・ストックテイクが初めて実施されました。今後、これに応じてパリ協定の1.5℃目標達成に向けて各国のCO2排出削減目標の引き上げ議論が活発化することが期待されます。

折しも2023年は世界平均気温が過去最高を更新し、温暖化対策は待ったなしの状態です。ただ、危機感をあおるだけでは人々の行動は変わりません。脱炭素の道を進むことでビジネスチャンスが広がり、より便利で快適な暮らしが実現していく——今回のCOP28でIGES(公益財団法人 地球環境戦略研究機関)が発表した1.5℃目標達成に向けたロードマップ「IGES 1.5℃ロードマップ」は、そんなポジティブなメッセージと、目標に向けた日本の具体的な道筋を示したことで海外の機関からも好評を得ました。

今回は、地球温暖化対策における最前線ともいえるこのIGES 1.5℃ロードマップをもとに、いま企業は何をすべきか、IGES 気候変動とエネルギー領域プログラムディレクターの田村堅太郎氏、リサーチマネージャーの栗山昭久氏、NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)ソリューションサービス部の熊谷彰斉が語り合いました。

この記事の要約

NTT Comの熊谷氏、栗山氏、田村氏の対談では、IGESの脱炭素ロードマップに基づき、企業が環境課題に取り組む意義や方法について議論されました。

企業の環境意識改革を加速させ、ビジネスチャンスとして捉えることで社会変革に貢献できるとの見解が示されました。

また、データ活用や統合アプローチによるビジネスの新展開が重要視され、環境対策と経済活動の結びつきが強調されました。

※この要約はChatGPTで作成しました。


「ここからの10年間」が転換期に。ビジネス起点で日本社会が大きく変わる

熊谷彰斉(以下、熊谷):2023年の世界平均気温は観測史上最高を記録し、もはや温暖化対策は人類共通の喫緊の課題となっています。私はNTT ComでGXに関する新規事業などに携わっている立場でこうした課題に向き合っており、今回のCOP28にかなり注目していたひとりです。

COP28では、各国の脱炭素化進捗状況の可視化・評価を行うグローバル・ストックテイクが初めて行われました。それを踏まえ、今後、パリ協定の1.5℃目標達成に向けて各国のCO2排出削減目標をどのように引き上げるのかが課題です。その1.5℃目標達成に向けたロードマップ「IGES 1.5℃ロードマップ※1」をCOP28で発表されたIGESは、総じてどのような役割を担われているのでしょうか。

田村堅太郎氏(以下、田村氏):私たちIGESは持続可能な開発の実現に向け、環境対策の政策づくりにつながるさまざまな研究を行っている戦略研究機関で、COPでは大きく2つの役割を担っています。

まずCOPのメインである気候変動対策の国際交渉において、日本政府代表団をサポートする専門機関としての役割があります。もう1つ、COPでは各国政府や国際機関、NGOなどが研究や活動成果を発表するサイドイベントも多数開催されますが、私たちもここでこれまでの研究成果を発表しています。「IGES 1.5℃ロードマップ」の発表もそのひとつです。

田村堅太郎|公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES) 気候変動とエネルギー領域 プログラムディレクター
ロンドン大学経済政治学院(LSE)大学院博士号(国際関係論)取得。横浜国立大学エコテクノロジー・システム・ラボラトリー講師を経て、2003年にIGESに入所。研究テーマは、気候変動政策の国際協力、主要国における政策決定プロセスの比較分析、及び低炭素技術の国際的な技術移転・普及。IGES 1.5℃ロードマップ策定のほか、COPをはじめさまざまな環境問題のラウンドテーブルやイベントでのファシリテーターも務める

今回のCOP全体での成果をあえて2つに絞ると、「ロス&ダメージ」と、熊谷さんが触れられた「グローバル・ストックテイク」が挙げられます。

ロス&ダメージとは、気候変動の影響によって引き起こされる損失・損害のことで、干ばつや洪水、海面上昇による国土の消失、豪雨や竜巻などの被害が想定されています。前回のCOP27では、これらの災害の影響を直接受ける途上国を支援するための基金の設置が決まり、今回初めてこの基金の運用ルールが合意されました。COP28の初日に発表されたビッグニュースなので、ご存じの方も多いと思います。ただ基金の詳細な制度づくりはこれからです。

もう1つのグローバル・ストックテイクは、パリ協定の目標達成に向けて各国の進捗状況を5年ごとに可視化・評価する仕組みのことです。私たちもアジア諸国のNPOと連携してGHG(温室効果ガス)排出量や削減施策の実態について調査・評価してきました。COP28では第1回成果報告が実施され、その結果を受け各国の削減目標を定めたNDC(Nationally Determined Contribution:国が決定する貢献)の改定・引き上げが求められています。

熊谷:NDCの改定・引き上げが求められているということは、現在の脱炭素取り組み状況ではパリ協定の目標である「地球の平均気温上昇を産業革命前と比べて1.5℃に抑えること」を達成できない、と考えられているのでしょうか。

田村氏:そうなのです。この目標を達成し、ロス&ダメージを食い止めるには、今後10年間でGHG排出量を1.5℃ベンチマークに収められるかどうかが勝負で、そのためには「再エネ3倍、省エネ改善率2倍」が必要であると合意されました。国際的な場では、この“勝負の10年間”が「クリティカル・ディケイド」と呼ばれ、切迫感を持って語られています。

一方で、私たち研究者はこれまで「危ない、危ない」と言い続けてさまざまなデータを提示してきましたが、危機感をあおる“北風政策”に限界も感じています。

熊谷:なるほど、おっしゃる通りかもしれません。というのも、私たちNTT Comは、環境省が推進するデコ活(脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動)の一環で「従業員エコアクションチャレンジ(ONE TEAM CHALLENGE)」といった取り組みを進めており、私もその推進者の立場として環境省の方とお話しする機会があります。こうした取り組みの背景には、危機感だけでは一人ひとりの行動を変えることは難しい、という認識があると考えています。

ゆえに今後、企業には、環境問題を自分ごと化して、前向きに取り組んでいけるような対策や投資がさらに求められるのではないでしょうか。

熊谷彰斉|NTT Com ソリューションサービス部 イノベーションオフィサー
NTT Comにて、業務アプリケーションのSE/PM業務、コンタクトセンター業界向けのSI業務およびクラウドサービスの企画、コミュニケーション支援AIサービス「COTOHA」の立ち上げ業務に従事。その後、LINEにて、AI事業「LINE CLOVA」「LINE AiCall」の立ち上げを実施。現在はNTT Comにて、GX事業の立ち上げに従事している

田村氏:その通りかと思います。そこでIGESも発想を変え、北風ではなく“太陽政策”的なアプローチを取ることにしました。パリ協定の目標達成に向け、脱炭素戦略を通じて付加価値の高いビジネスチャンス実現につながるロードマップを描き、ポジティブな方向性を示すことで脱炭素への構造変革を促すシナリオをつくれないかと考えたのです。それが今回のCOP28で私たちが発表した「IGES 1.5℃ロードマップ」(以下、1.5℃ロードマップ)です。

熊谷:グローバル・ストックテイクとして脱炭素の取り組みの進捗管理が開始されたということは、より明確でオープンな脱炭素目標ができるという意味で企業にとってもメリットがあります。その半面、利益を追求する企業は、管理負荷の増加としてマイナスに捉えてしまう向きもあります。1.5℃ロードマップは、そうした脱炭素への変革がビジネスにどのようなポジティブさをもたらすかを踏まえて設計されていますよね。

田村氏:環境への取り組みを「大変で難しい問題」で終わらせるのではなく、実はそこにビジネスチャンスが生まれることを伝えたいと思いました。アカデミックを起点とした今回のロードマップにはまだビジネスに落とし込み切れていない部分もありますが、これから起こる社会変化にどのようなビジネスチャンスがあるのか、継続的に掘り出して提示していく予定です。

※1 IGES 1.5℃ロードマップ:
https://www.iges.or.jp/jp/pub/onepointfive-roadmap-jp/ja

“太陽政策”で見えてきた可能性。求められる、事業者/消費者一人ひとりの省エネ

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