Partnership with Robots

2023.08.02(Wed)

進化するロボット制御。
オフィスロボットの普及を陰で支える革新的プラットフォーム

#スマートシティ #データ利活用 #AI #ロボティクス
ロボットが街の中を歩き回って警備をしたり、荷物や食品を届けたり。さらに人も乗せて目的地まで自動で送ってくれる。オフィスではロボットが来客者を識別して会議室まで案内し、デジタルヒューマンが人と同じようにお客さま対応をしてくれる——。

人とロボットが共存することで、街そのものが進化する未来がすぐ近くに来ています。NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)のスマートシティ推進室では、そのような未来像の実現に向け、さまざまなロボットが街やビルで活躍できる「マルチロボット最適化ソリューション」の開発を進めています。その狙いとNTT Comが実現したい未来について、ロボティクス事業を推進するスマートシティ推進室の伊藤克信、大塚祐治、横山栞から話を聞きました。

目次


    ロボットが街で活躍するために

    ——NTT Comのスマートシティ推進室では、事業の柱の1つとして複数種類・複数台のロボットがそれぞれの役割を果たし、人とロボットが協働・共生する街を実現するロボティクス事業を進めているとのことですが、どのような課題解決に向けてこの事業をスタートされたのでしょうか?

    伊藤克信(以下、伊藤):ICTとロボティクスは親和性が高く、さまざまな領域のロボットとの連携が期待できると考えています。1つめは「遠隔操作(テレプレゼンス)型ロボット」の領域です。物理的な距離を超えて遠隔地のロボットを操作することで人々の活動を支援できると考えています。2つめは「自律走行型ロボット」などの領域です。デリバリーや警備などの人が担っている業務の一部を代替し、労働力不足などの社会課題に対応できると考えています。3つめは「コミュニケーションAI」の領域です。デジタルヒューマンとAI(人工知能)が組み合わさることで人と話をしているような自然で高度なコミュニケーションが実現できます。その中でスマートシティ推進室では「自律走行型ロボット」(移動を伴うサービスロボット)をメインに、無人化・省人化、新たなサービスの実現に向けて事業を進めています。

    現在、少子高齢社会による労働力不足を補うために、配送業務、清掃業務、警備業務などをロボットで補う実証実験や社会実装が進んでいます。ロボットを実際に導入し、施設内やゆくゆくは街の中で動かしていくために、異なるメーカーのロボットを同じフィールドで円滑にコントロールできる制御システムが必要不可欠です。

    例えば、異なるメーカーの配送ロボットと清掃ロボットが同じエリアで活動する場合、どのような経路を走行するのか、どちらの仕事が優先されるのか、その状況に応じた判断が必要です。また、その判断・運用はどこが担うのか。仮にロボットが人に衝突し、人がけがをしたら誰がその補償をするのか。施設や街の中でロボットが移動できなくなったり、ロボットが迷子になってしまったりした場合、どのようにリカバリーすればいいのかなど、運用面での仕組みも必要です。

    今回のロボティクス事業は、こうしたシステム的な課題、運用面での課題の解決に向けてNTT Comが持つICTの知見を活用して社会実装を目指す取り組みとなります。

    伊藤克信|スマートワールドビジネス部 スマートシティ推進室(取材当時)

    ——ロボティクス事業におけるNTT Comの強みを教えてください。

    大塚祐治(以下、大塚): ロボットを動かし、さまざまなデータと連携させ、エレベーターや自動ドアなど移動経路のポイントとなる要素を組み込んだりするためには、ネットワークが必要です。NTT Comはまさにそうした街を構成するさまざまな要素をインテグレーションしてインフラを構築できる技術を持っているからこそ、複数のロボットメーカーとの間に立つ中核を担う存在となることで、統合的な制御プラットフォームを構築できるという強みがあります。

    第1フェーズとしては、単一ビルにおけるロボットのスムーズな移動・走行の実現、第2フェーズは複数のビル間でロボットを共有・連携するかたちでの利用、そして第3フェーズでは特定のエリア一帯でのロボットの利用実現を目指しています。

    大塚祐治|スマートワールドビジネス部 スマートシティ推進室

    データ連携基盤をインフラの一部として活用

    ——現在進めているマルチロボット最適化ソリューションとはどのような仕組みなのでしょうか?

    伊藤:我々が想定している移動を伴う自律ロボットには、警備ロボットや清掃ロボット、配送ロボットなどがあります。ロボットごとに、位置情報の管理方法、移動スピード、衝突回避の方式、取得できる情報など、仕様が異なり、複数メーカーのロボット制御プラットフォームとの連携やメーカー横断で制御する仕組みが必要です。そのため、各社に応じたAPIと共通機能(最適経路の生成、タスク管理など)の開発を差異化要素として進めています。

    さらに、ロボットの活躍領域の拡大に向けて、フロア間や専有部に移動できるようにするため、エレベーターや自動ドアなどの設備連携も必須として、関連設備との連携用APIの開発も行っています。

    これら複数メーカーのロボット制御プラットフォームや各種設備、データ、アプリ、共通機能などを連携させるHUBとなるのが、NTT Comが提供するSmart Data Platform for City (以下、SDPF for City)※です。データ連携基盤を整えることで、マルチロボット最適化ソリューションの実装、高度化を進めています。

    ※SDPF for City:人の流れや施設内外の情報、ロボットなどのモノの情報など都市に点在するさまざまなデータをシームレスに融合できるプラットフォーム。SDPF for City上にデータを整理し、連携しやすくすることで、日々の活動から生まれるデータを企業成長のエンジンに。(参考https://www.ntt.com/business/dx/smart/city/

    ——SDPF for Cityはデータ連携基盤としてロボットを動かすプラットフォームの一部なのですね。

    大塚:SDPF for Cityは、ロボットのためだけではなく、街のOSのようなかたちで、エネルギーの効率的な循環や、介護や警備などさまざまなサービスを連携するプラットフォームです。ロボティクス事業では、そのアウトプットの1つとしてロボットの活用を目指しています。こうしたプラットフォームがあることで、アプリの改修やロボットの組み合わせパターンの増加にもスムーズに対応できると思います。

    実際にロボットを活用している商業施設も登場

    ——現在、実証実験を進められているそうですが、どのような内容なのでしょうか。

    横山栞:2つあり、どちらもNTT研究所(NTTスマートデータサイエンスセンタ/NTTアクセスサービスシステム研究所)と共同で進めています。

    1つは、最適な経路生成機能の実証です。ロボットが目的地に移動する際に、例えば周囲に人が多すぎるとロボットが停止したり、エレベーターの動きに対応できなかったりなど、目的達成を阻む要因が多く存在します。そうした要因を取り除いて、最短でかつ安全に目的地に到達する経路を生成する技術について実証を進めています。

    もう1つは、マルチ無線プロアクティブ制御技術Cradio®のロボットへの応用実証です。Cradio®とは、Wi-Fiや4G・5Gなどのネットワークの電波強度を構造物の 3D モデルを使ってシミュレーションしたり、端末の移動先の電波品質を事前に予測したりできる技術です。電波が弱いエリアに入る前に自動的に電波の強いネットワークに切り替えるなど、ユーザーが無線ネットワークの電波を意識することのない、スムーズな通信の実現に寄与するものになります。この技術を、エレベーターなど昇降を伴うビル内の縦移動や、より広いエリアにおけるロボットの移動にも応用できないか、実証を進めています。

    横山栞|スマートワールドビジネス部 スマートシティ推進室

    ——なるほど。実際にビル内や街なかでのロボット移動がスムーズかつ安全に行われるようになれば、ロボットが活躍する場も広がりますね。

    伊藤:はい。まずは単一ビル内でのロボット活用に取り組んでおり、清掃・警備・配送分野でスムーズにタスクを完遂する仕組みを構築したいと考えています。そして、それが複数ビル、屋外での活用につながれば、多用途・他分野でのロボット活用やロボットならではのサービスなど、さまざまな可能性が広がってくると予測しています。

    ——実際にロボットを導入・活用している施設も増えていると伺っています。その中でNTT Comが参加したプロジェクトもあるとのことですが、どのような施設で活用しているのか教えてください。

    伊藤:2023年3月にオープンした「東京ミッドタウン八重洲」では、三井不動産がビルの付加価値向上、管理業務の軽減に向け、先進的なロボット活用に取り組んでいます。NTT Comは複数のロボットの自律的な縦移動の実現をサポートするために参加しました。

    その1つに、フードデリバリーサービスと組み合わせたロボットがあります。東京ミッドタウン八重洲で働くユーザーが商品を注文すると、ビル内のロボットの待機場所に配達員が来てユーザーの注文品をロボットに渡し、ロボットが注文したユーザーの元に配達するというものです。通常、デリバリー業者は機密保持の観点からオフィス内部には入室できない、入室のハードルが高いという課題がありますが、ロボットであればそういったセキュリティ面もクリアできるのです。このシステムでは、エレベーターやセキュリティドアなどのビル内設備と、複数のロボットを制御するプラットフォーム、デリバリー用のアプリと連携したほか、ロボットの位置情報の把握やバッテリー残量を確認できる仕組みを開発しました。

    ロボットと共に働き、暮らすための都市設計を

    ——メーカーや施設と連携して実証実験を進めていく中で得られた手応えや知見とはどういったものでしょうか。

    伊藤:やはり一番困難な点は、ロボットが走行するための環境をきちんとつくってあげることです。現場のロボットは傾斜や滑りやすい路面、段差が苦手です。ロボットが通路を塞いでしまって、人が道を譲るということもあります。今後は「ロボットが動きやすい街や建物」をどう開発するかがテーマになりそうです。

    また、ロボット自体も、人やモノを避けたり、縦列移動するといった機能向上が必要です。そこは今後パートナーや建設会社と一緒につくり上げていきたいです。

    横山:東京ミッドタウン八重洲では、建設の段階からロボットの走行を想定した設計・施工が行われましたので、あらかじめロボットがスムーズに運行できる環境を用意することができました。このように将来的にはロボットの走行を前提とした建設、街づくりが当たり前になるでしょう。しかし、既存の人間ファーストで建てられたビルのアップデートも同時に進めていかなくてはならないので、それは今後の大きな課題の1つであると思っています。

    人とロボットが共存する社会に向けて

    ——ロボットをオフィスや街に普及させることで、どのような社会が実現されるのか。皆さんの考えをお聞かせください。

    伊藤:ロボットが街の中で動き回り、人々の生活を支援したり協働したりするようになるには、まだまだ解決しなければならないことがたくさんあります。直近の目標は、これまでの取り組みを通じて浮かび上がってきた課題を解決し、皆さんがロボットを導入しやすい環境をつくり上げていくことです。そしてその先に、人とロボットが共存したときの人の働き方の変化や、仕事のやり方を変革するといったことにつなげていくフェーズが来ると考えています。

    人とロボットの共存・共生を実現し、本当の意味でパートナーのようになっていくために、ロボット自体もさらに進化する必要があるでしょう。「自律走行型ロボット」だけでなく「コミュニケーションAI」や「遠隔操作型ロボット」なども含めたさまざまなロボットが高度化され、人と自然な形で共存できるようになれば、ロボットフレンドリーな社会に近づいていくのだと思います。そして5年先、10年先に、すべての要素が最終的に組み合わさったロボティクス環境をつくり上げることができれば、人にとってロボットはなくてはならない存在になるはずです。そんな未来を目指したいと考えています。

    大塚:私も同じ思いです。ロボットが最適な動きをしたり、人の業務を一部代替したり、スムーズなオペレーションを行うその基盤に、NTT Comの技術を集約し、人とロボットが共存できる共通機能をつくっていきたいですね。

    横山:私自身、このロボティクス事業に取り組んでまだ1年くらいですが、ロボット自体も非常に優秀でかなりいろいろなことができることに驚いています。その一方で、ビルの内部を移動するにはエレベーターなどのビル設備や安定したネットワークとつなげる必要があるなど、人との共存のためにはまだ課題が多いことも事実です。そのためにNTT Comがロボティクスのための共通基盤を開発し、人とロボットが協働して動くことができる環境をつくり上げ、皆さんから「このロボットすごいね」と言われるようになれば、うれしいですね。「その裏にはNTT Comがいる」という。そんなロボットの未来に貢献したいです。