Food Innovation

2023.03.17(Fri)

対話から始まるイノベーション。
食料危機時代のアフォーダブルな食の価値提供とは

#Smart World #OPEN HUB #Foodtech
私たち一人ひとりに密接に関わる食料問題。人々の健康や、Quality of Life(QOL)にも直接影響を及ぼす食の課題について考えようと、 NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com) が運営するOPEN HUBでは、会員とOPEN HUBのカタリストが交じり合い 、連続性のある対話を行う場「OPEN HUB Dialog(以下、DIALOG)」がスタートしました。「食料価格高騰時代のアフォーダブルな食の価値提供」をテーマに対話を重ね、最終的には新規事業のアイデアの完成を目指します。

食の課題解決に向けて

今日、世界が直面している食料危機問題。その内容は食料自給率や生産性、飢餓や食品ロスの問題など多岐にわたり、世界人口の増加に伴う需要と供給の不均衡と相まって、大きな社会課題として私たちの前に立ちはだかります。

さらに紛争、新型コロナ、気候変動などの要因により、食料の価格は大幅に高騰。家計への負担が増す中で、多くの人が健康的で持続的、かつ手頃で手の届きやすい、これまでとは違った付加価値があるアフォーダブルな食を求めています。

そこで、「食料価格高騰時代のアフォーダブルな食の価値提供」をテーマに対話を重ねる場として「食のDIALOG」を始動しました。DIALOGとは何か、そしてその狙いについて、NTT Comの岡本彩花と山根尭に話を聞きました。

業種の垣根を越えて、課題解決の道筋を見出す

「DIALOGとは特定のテーマを掲げて、連続性のあるラウンドテーブル(コミュニティー)内で勉強会やワークショップなどを実施していき、対話(Dialog)しながら、 事業共創の可能性につなげていくものです。ただしインプットだけで終わる勉強会とは違って、DIALOGでは新規事業を考えることを目指していますので、社会課題の解決に向けた議論を繰り返し、継続的なインプットとアウトプットを行っていきます」

山根尭|NTT Com OPEN HUB Catalyst/Media_Community

そうしたDIALOGの鍵となるのは、多種多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まる異業種交流にあると話します。

「1社で新規ビジネスを生むことは難しく、異業種の方々に参加していただくことで、新しい事業やサービスが生まれ、結果的に現在抱えている社会課題の解決ができるのではないかと考えています」

山根の言葉に、岡本も大きく頷き語ります。

岡本彩花|NTT Com OPEN HUB Catalyst/Business Producer

「食の領域は生産もあれば流通、飲食、小売、消費者に対するアプローチ等々幅広いです。バリューチェーン上の課題も多種多様で、1企業でそのような課題に立ち向かうことは非常に難しいため、さまざまな業界の企業が一丸となって課題解決に向けて奔走していく必要があります。そういった背景から、今回は多分野にわたる業界の会員の皆さまにお集まりいただき『食』をテーマにしたDIALOGを開催しました」

今日の世界的な食料課題を知る

この日のプログラムは、トークセッションとワークショップで構成されており、まずはトークセッションからスタート。スタイラスジャパンのカントリーマネージャー秋元陸氏から、近年の海外で見られる食のトレンドについて話がありました。

2050年までに世界の人口は1.5倍に増加し、今の生産量のままでは明らかに食料不足が発生すると予測されることから、「少なくとも、現在の総生産量の1.5倍の食べ物を生産しなければ増えていく人口のお腹を満たすことはできない。しかし、第一次産業の生産規模を現状の1.5倍にするのは非常に厳しいでしょう」と指摘した上で、ある数値をキーワードに挙げます。

「そこで“30%”という数字が肝になります。今後は都市ごとに食料自給率をある程度担保しなくてはならず、国内消費の約30%を自分たちの都市の中だけで、しかもインドアで生産する必要があるという試算です。それができないと、人口が支えられないといわれています」

こうした考えの背景には、「人は基本的に都心部に集まる」という世界的に共通した定説があります。実際にサウジアラビアやスペイン、韓国などでは都市部に人が密集することを前提とした町づくりを着々と進めており、食の問題も解決に向けて動き出すことが予想されます。

さらに、近年は食料の価格だけでなく安心・安全に対する要求も高まっており、これらのニーズを満たしながら食の課題をどう解決するかが求められているのです。

時代の先を行く、食にまつわる多種多様な事例紹介

このような課題を解決するために何が必要か。秋元氏は、いくつか事例を紹介しました。

まずは食料自給率を上げ、都心部で需要を満たすニーズに応えるためにアグリテック系の会社を紹介。さらに需要と供給を数値で把握し最適化しようと、オンライン収集したデータにもとづく商品陳列によって売り上げの最大化と食品ロスの削減を行うスーパーの事例や、食料自給率を担保するのは難しくとも、食べ物を共に作る行為が人と人をつなぎ、円滑な人間関係を形成する居住区づくりにも言及します。

トークセッション前半の秋元氏の話は、食に関わるビジネスの最前線を知る機会であったとともに、食の課題解決のための多くのヒントが含まれていました。参加者の中には真剣に耳を傾け、メモを取る人の姿も見受けられました。

トークセッションの後半は、NTT Comが実際に生産、流通、小売、消費という食のサプライチェーンで行っている取り組みの紹介へと続きます。

まずは生産領域の事例として、北海道支社で行っている酪農における実証実験「ローカル5Gを活用した牛舎での個体管理作業の効率化」の取り組みが動画で紹介されました。これは食料自給率に関わる働き手の人口減少や高齢化の課題へのアプローチとして検証されているものです。

その後、各担当者から流通の分野で「リアルタイムデータを活用したフードロス削減」をテーマに行っている実証実験や、飲食・小売分野で需要供給の最適化を図る「需要予測をベースとした食品ロス対策」、さらに消費の分野で2021年末に開始した「食品ロスに対する人々の意識改革と行動を変容・促進」するサービス「ecobuy」の紹介がありました。

こうして終了したトークセッションから浮かび上がったことは、食料問題へのアプローチが非常に多彩で幅広いこと。そして既存の枠にとらわれない新しい視点から生まれる解決策や、付加価値のつけ方が問われているということです。参加者はそうした多くの事例を参照に、今日の社会が抱える課題を改めて認識し、考えるためのヒントを得ながら、次のワークショップへと移りました。

異なる視点が多様なアイデアを生み、新規事業へとつながる

ワークショップでは新たな付加価値を提供するアフォーダブルな食体験をグループワークで検討しました。

議論は活発化してさまざまなアイデアが飛び交いました。その一部をご紹介します。

「豆腐の製造過程で生じるホエイをアップサイクルしてお酒を作るなど(実例)、今まで捨てられていた素材に付加価値をつけて再活用してはどうか」

「生産・加工のプロセスそのものをDX化することで高級料理や星付きシェフが認める味の再現性を上げ、効率的に美味しいものを生産することによって、供給不足のみならず“モノはあるが選択肢がない”という課題の解決にもつなげられるだろう」

「畜産におけるエネルギー消費や、動物殺傷の倫理性を考えると、培養肉は今後の選択肢になるだろう。ただ、培養肉だけでは食の豊かさが失われるため、普段は培養肉を食べ、ハレの日には肉をいただく、あるいは培養肉を食べることを1つの楽しい体験にするなどして、使い分けしても良いかもしれない」

「培養肉や遺伝子組み換え食品などは食料危機を回避するのに有効だが、実態よりもイメージによって忌避されている傾向があり、見え方、見せ方を変えていくことで可能性が広がるのではないか」

「穀物や野菜、肉も海外から調達することが難しくなりつつあるなか、今後はより地産地消が求められるだろう。食の生産場所と人が生活する場所が接近するだけでも違うのではないか。より近く、より早く、より新鮮なものが手に入る。コミュニティーで野菜を作るような環境をつくるなど、今後は設計の仕方が重要になるだろう」

「地区ごとにテクノロジーを駆使した野菜工場と肉工場を置くことになると、地産地消につながるだけでなく、物流コストも下がる」

約1時間にわたって繰り広げられたワークショップ。プログラムが終了した後にも多くの参加者が会場に留まり、立ち話を続ける様子から、この日のワークショップが有意義であったことが窺えます。食品の卸売業者に勤めているある参加者からは次のような感想が聞かれました。

「人口が増えると生産量をどれほど増やしていかなくてはならないのかという観点から、漠然と捉えていた食品ロスの問題などを改めて理解できました。調達が難しくなっている中で、どのようにして十分にお客さまに商品を行き渡らせるのかが今の悩みごとです。しかし、調達や供給の仕方などを抜本的に変えていかなくてはいけない時代に来ていることを実感して、大変勉強になりました。特に、今回のように全く異なる業種の方々とご一緒すると、見え方が全く違うことに気づかされました。私の知らない知識や体験をお持ちの方々から話が聞けたのも貴重な体験でしたね」

また別の参加者の方はこのように振り返りました。

「いろいろな方々との出会いがあり、非常に有益でした。やはり食の産業自体が古いので、デジタル化する余地もまだまだありますし、さまざまな観点からアップデートできることがあると感じました」

人を救う、世の中全ての人に関わる食のテーマ

DIALOGの企画を担当するNTT Comの岡本・山根にも終了後に感想を聞いてみると、共に視野が広がったと言い、異業種交流がもたらす大きな可能性を確信していました。

「業界の垣根を越えて多彩なメンバーにお集まりいただいたおかげで新たな発見があり、私自身物事を考える時に思い込みがあったことに気づかされました。そうした思い込みをまずは崩していくことから、新しいアイデアが生まれるのだと感じました」(岡本)

「私のグループには食品とは関係のない重工業メーカーの方が参加されていましたが、重工業の技術を食のアップサイクルに活用できるかもしれないというようなアイデアが出ました。異業種の方からは既存のビジネスにはない視点が出てきますので、やはりDIALOGの可能性を感じます」(山根)

食のDIALOGの次のステップは、この日出た数々のアイデアをビジュアルプロトタイプ化することです。下記が今回のアイデアからビジュアルプロトタイプ化されたものになります。

コミュニティ内で生産から消費までを完結させる需給マッチングによりフードロス削減を実現するとともに、農業体験を通じて消費者の食に対する興味関心を醸成するビジュアル

人によっておいしさの定義や感じ方が違うため、データを数値化することで、自分にあうおいしさを、可視化・言語化できるようにし、新たな食体験を促すビジュアル

素材に関しては、再利用することはできるが、加工品に関しては再利用することが製品によっては、難しいため、現状は廃棄することが多いという課題を可視化したビジュアル

「ビジュアルに落とし込むとワクワクするようなものになると思うので、それをベースに実際にはどんな障壁があるのか、どう考えたら良いのかを、また参加者の皆さんと話し合いたいと思います。より多くの人にアプローチできるようなビジネスアイディアを今日ご参加いただいた皆さんからも、参加いただけなかった皆さんからも募集したいと思っていますし、継続していくことでよりDIALOGを活性化していきたいです」

異業種の方々のアイデアや発想が、これまでの固定概念を取り除き、新しいアイデアやビジネスにつながるため、さまざまな方からのご意見お待ちしております。
ご意見はこちら!
https://smp.openhub.ntt.com/public/application/add/10559

最後に岡本は目指すゴールについて、次のような抱負を述べました。

「食という世の中全ての人に関わる領域の社会課題を解決することで、社会に貢献していきたいという想いが根底にあります。食の課題はたくさんありますが、例えば今日の食料価格の高騰によって、昔食べられたものが食べられなくなっている人もいると思うのです。そういった方々に対していかに新しい食体験を提供できるか、どうしたら食そのものを楽しむことができるかを、検討していきたいと思っています。人々の暮らしをより豊かにするような食体験の創造に向けて、まずはコミュニティー会員の皆さまとさまざまなアイデアを膨らませていきたいです」