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vol. 13

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メタバースはどんな技術で動いている? デジタルテクノロジーが支えるXRの裏側

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注目度が日に日に高まるメタバース業界。そんなメタバースの世界を構成するVR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)の総称であるXR事業に注力するべく、2022年10月にNTTコノキューが事業を開始しました。同社は事業の一環として、メタバース・プラットフォームの「XR World」、そして都市空間とデジタルを融合する「XR City」を運営しています。こうしたメタバースのサービスはどのようなテクノロジーによって支えられているのでしょうか。NTTコノキューで「XR World」の開発に取り組む宮坂俊成と、「XR City」の開発と事業開拓に取り組む齊藤裕介、木村真治に聞きました。

注目されるメタバース、現在の市場状況は?

—メタバースは現在最も注目を集めている分野といっても過言ではありませんが、皆さんは国内外のメタバース市場についてどのようにご覧になっていますか?

齊藤裕介(以下、齊藤):以前からRobloxやFORTNITEのようなメタバース的なサービスは存在していましたが、2021年にフェイスブックが社名をメタ・プラットフォームズに変更し、メタバース事業への注力を発表したことが世間の注目を集める1つの契機になったと思います。今後もバーチャル空間でのコミュニケーションに対する注目度はさらに高まってくると考えています。

齊藤裕介|NTTコノキュー テクノロジー部門 サービス開発担当課長
ARを活用した新感覚街あそびアプリ「XR City」の開発を担当

木村真治(以下、木村):NFTやWeb3に絡めてメタバースが語られる文脈もあります。それらはユーザーがVRの空間やコミュニケーションを楽しむだけならあまり関係のない技術ですが、提供企業側にとってはマネタイズに関わる重要な技術です。現状、メタバースはバズワード的な認知が先行していますが、認識のギャップが解消されていくことが望ましいと思います。

木村真治|NTTコノキュー テクノロジー部門 グランドデザイン担当課長
ARを活用した新感覚街あそびアプリ「XR City」のツール群開発を担当

宮坂俊成(以下、宮坂):メタバースという言葉がバズワード的に捉えられているというのは同感です。そして、その分野に対してコンテンツホルダーやプラットフォーマーがこぞって参入しているものの、まだ成功したといえるプレーヤーは出てきていません。むしろMMORPG(大規模多人数参加型オンラインRPG)やバトルロイヤルゲームの延長線上で、多くのお客さまを集めているプレーヤーの方がメタバースに近いサービスで成功している事例になっているように感じています。

宮坂俊成|NTTコノキュー テクノロジー部門 サービス開発担当課長
ブラウザーベースのメタバースサービスである「XR World」のサービス開発を担当

リアル空間とデジタルを融合する「XR City」

—まず、リアルとバーチャルが融合するアプリケーションXR Cityについてお伺いします。XR Cityではスマホのカメラを使ってARイベントを楽しむことができますが、こうしたサービスはどのようなテクノロジーによって実現しているのでしょうか。

齊藤:XR Cityアプリの機能は、場所を問わず任意の場所でARを体験できる「任意エリアコンテンツ」と、商業施設など特定の場所でARを体験できる「特定エリアコンテンツ」の2種類があります。このうち特定エリアコンテンツでは、カメラの画像を使って位置を特定するVPSという技術を活用し、その位置に設定・配置したコンテンツをARで表示する仕組みを開発しました。

XR Cityの操作画面

—なるほど。そうしたARサービスは、具体的にどのようなプロセスで開発を進めていくのでしょうか。

齊藤:まず、一般ユーザー向けのアプリとサーバー開発があり、コンテンツ提供事業者向けのコンテンツオーサリングツールとコンテンツを登録するCMSの開発、そして実際にそのシステム上でお客さまが体験できるARコンテンツの開発を行う必要がありました。リリースに向けてこれらの開発を並行して進める必要があったので、膨大な開発量をそれぞれのチームで同期をとりながら進めていきました。

木村:コンテンツ制作者にARサービス提供に伴う技術的な負担をかけず、コンテンツの企画と開発に注力していただけるように工夫したことが大きなポイントです。XR Cityでは、さまざまな参加者がつくったコンテンツを1つのアプリで動かすという難しさがあります。アプリの内部は、UIを持つクライアントアプリと、XRコンテンツを描画するレンダリングコンポーネントとで分かれており、コンテンツを再生・描画する部分はオーサリングツールと共に開発しました。

XR Cityのオーサリングツールは、広く使われているゲームエンジンUnityのSDK※ であり、Unity上でXR Cityコンテンツを開発できる環境を提供します。VPS機能も組み込んで提供しているので、コンテンツ制作者は純粋にコンテンツ開発に集中できるのです。
※SDK:ソフトウェアを開発する際に必要なプログラムやAPI・文書・サンプルなどをまとめてパッケージ化したもの

特定エリアコンテンツ利用時の様子

—サービス提供後に見えてきた課題や得られた手ごたえについてはいかがでしょうか。

齊藤:1回プレイした後にまたプレイしたいと思うようなコンテンツが少なく、なかなか継続的な利用につながらないという点については課題だと考えています。テクノロジードリブンにならないよう、どうしたらお客さまに継続的に利用していただけるのか、XRはどのようなお客さまの課題解決に向いているのかを見いだしていきたいと考えています。また、特定の場所でのARイベント体験の場合、ユーザーが体験するにはまずその場所に足を運ぶ必要があり、体験までのステップが長いという課題もあります。アプリのUI/UXの改善にも取り組み、お客さまがスムーズにARコンテンツを体験できる仕組みを提供していきたいですね。

木村:商業施設や公共施設と融合したコンテンツの場合、その施設本来のユーザーに配慮したルールづくりや事前準備は必要になります。そうした課題がある一方で、テーマ性のある施設や都市とARコンテンツは相性が良いと感じています。以前、青海にあった商業施設のヴィーナスフォートで実証実験を行ったり、京都の古い街並みを模した空間にARでデジタル空間を重畳させたりしたのですが、どちらもテーマ性の高い場所だったのでコンテンツがうまくはまったんです。こうした場所を少しずつ増やしていくと、ユーザーの体験価値も上がって導入する事業者さんも増えていくと期待しています。

メタバース空間を実現する、「XR World」のテクノロジーとは

—次にメタバース空間XR Worldについてお伺いしますが、これはどのような特徴のサービスで、どのような技術が使われているのでしょうか。

宮坂:開発においてこだわったポイントは「Webブラウザーで動かせる」という点でした。メタバースを一企業の提供するOSの経済圏のなかで展開してしまうと、メタバース自体の広がりに制約が出てきてしまう可能性があります。その点、Webブラウザーはすでにオープンな技術として確立されているので、特定の経済圏に依存しないで拡張させていくことが可能です。基本的にはHTMLやJavaScriptのような汎用的な技術を組み合わせ、3D空間の描画にはWebGLという3D描画フォーマットを採用しています。

メタバースの機能要素の1つであるマルチプレイも汎用的なソリューションを使っています。ボイスチャットの実現にはNTTコミュニケーションズの「SkyWay」を採用しているほか、「WebSocket※」 で双方向通信を実現しました。
※ WebSocket:ブラウザーとWebサーバーとの間で双方向通信を行うための通信規格

XR World 外観

—なるほど。開発において技術的に工夫した点、苦労した点を教えてください。

宮坂:最も苦労したのはWebブラウザー上で3D空間を表現することです。コンテンツのサイズがどうしても重くなりすぎてしまうので容量を削りつつ、全体のバランスを取ることにかなり苦心しました。これに関しては、メタバース開発エンジン「Vket Cloud」の提供元でWebブラウザーを用いたオープンメタバースに取り組んでいたスタートアップ企業のHIKKYにお声がけし、共同開発して進めていきました。

—2022年3月にサービスをスタートして以降、アイドルやシンガーとのコラボレーションイベントも話題です。こうした取り組みではどのような成果が得られましたか。

宮坂:10月末にTOKYO FMとコラボレーションしたイベントを開催したのですが、大きな反響がありました。リスナーの方をメタバースに集めて、パーソナリティーの方と直接コミュニケーションできるイベントだったのですが、全国にいるラジオ番組のファンが気軽に参加できるということで非常に好評でした。ラジオというコンテンツがメタバースとの親和性が高いことがわかったのです。こうした気づきは実践してみて初めて得られるものなので、トライを続けながら親和性の高いコンテンツを集め、サービスを拡充していきたいと考えています。

XR World 内部

—なるほど。XR Worldは今後どのような進化をしていくのでしょうか。

宮坂:今後もクリエイターやアーティストの方々とコラボレーションし、露出メディアとしての役割を果たしつつ、良質なコンテンツ展開を続けていきたいと思います。また、コミュニケーション機能を進化させてコミュニティー活動を促進していき、将来的にはXR Worldで社会生活が営めるように進化させていきたいと考えています。

メタバースが切り開く「上を向いて歩く未来」

—XRを通じて、どのような未来を実現したいと考えていますか。

木村:私自身も自覚しているのですが、電車に乗るとほとんどの人が下を向いてスマホを触っていますよね。みんなが下を向いている光景を見ていると「この先に輝かしい未来や社会が実現できるのだろうか」という気がしないでもありません。

私はメタバースの要素技術として、スマートグラスに期待しています。画面を見るのではなくグラスをかけて前を向いたり上を向いたりして、リアルな世界を感じることができる未来をつくっていきたいと思っています。そうやって周囲の人や社会に対して関心を持つきっかけとなることが、XR CityやXR Worldで実現できることかなと思っていますし、そのためにXR技術を活用していきたいと思います。

また、XRによるそうした可能性を実現するための手段の1つとして重要だと考えているのが、NTTが現在取り組んでいる次世代の情報通信基盤「IOWN」です。3Dのデータは当然2Dよりも重くなりますし、XR上のコミュニケーションをよりスムーズに、精緻な情報を得ながら楽しむためには、IOWNの超高速・大容量、超低遅延な情報処理基盤が必要になってくると考えています。

齊藤:あるパートナー企業の方が「現在は人類史上最も人が下を向いている時代」と話していました。スマホのコンテンツには面白いものがたくさんありますが、現実世界にも魅力的なものがたくさんあるので、現実世界とデジタルをうまく融合して、現実世界をより楽しめるような時代をつくることができればいいなと思います。

宮坂:私はXR Worldのようなメタバースでコミュニケーションの手段として足りない部分を埋める何かを提供していきたいですね。メタバースで自分の分身として存在するアバターは「自分がなりたい自分」になれる手段ですが、人は誰もが「いろいろな自分」を持っています。そうした自分のさまざまな顔を活用し、たとえば自分の好きなプロスポーツ選手とコミュニケーションを取ったり、興味のあることに参加したり、そうしたつながりやコミュニケーションが容易に取れるようになるといいなと思います。次世代のコミュニケーションツールとして進化していくことを目指していきたいですね。

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