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vol. 03

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「美への欲求」は仮想空間でどう満たす? 資生堂fibonaと考える、ビューティー×メタバース

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世界的に関心が高まっている「メタバース」。アバターを通じたやり取りがメインになることが予想され、「アバターをどう美しくするか」などメタバースにおける“美の追求”も今後より活発になると考えられます。そんな中、2022年7月21日、OPEN HUB Parkにて、資生堂研究所が主導するオープンイノベーションプログラムfibonaとNTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)が共創ワークショップを開催しました。ビューティーとメタバースを掛け合わせて何ができるのか、本記事ではワークショップの模様とそこから見えた「ビューティー×メタバース」の可能性についてお届けします。

メタバースの定義と押さえるべき事例とは?

今回のワークショップを開催するに至ったきっかけについて、NTT Comと共同主催した株式会社資生堂みらい開発研究所に所属するfibonaメンバーの佐伯百合子氏はこのように語ります。

「メタバースをどう活用するか考える際に、弊社の中だけで議論するのは限界があると感じていました。化粧品などリアルな製品を扱うことが多いため、メタバースのようなバーチャル空間でも、その延長線上で『メタバースで化粧品を販売する』というアイデアに収束してしまう傾向があります。そこで、今回はデジタルの知見が深い方々との議論を通じて、今までの延長線上にないアイデアを創出したいと考え、ワークショップを開催することにしました」(佐伯氏)

佐伯百合子氏|資生堂 みらい開発研究所、fibonaメンバー

ワークショップは、講義とグループワークの2部構成で開催されました。

第1部の講義では、メタバースに対する理解を深めるため、スタイラス ジャパン株式会社のカントリーマネージャー・秋元陸氏が登壇。メタバースが注目される背景と事例について紹介。

秋元氏は始めに、フェイスブックがメタへと社名を変更した時に発表したイメージ映像を再生し、生活者がイメージしやすいメタバースの一例を挙げます。その上で、2021年10月28日の同社の社名変更以来メタバースの知名度が上がり、参入する企業も増加する一方で、メタバースの定義もサービスを手がける企業ごとに異なる事態が起きていることに触れました。

そもそもメタバースとは何か? 秋元氏は、生活者にとっては以下の要素が満たされていればメタバースと表現できるのではないかと説きます。

それが「常時接続できること」、「共有可能なこと」、「インタラクティブであること」の3つ。それを端的に表しているオンラインゲームの代表が「フォートナイト」であり、「生活者からすると、この3つの条件が満たされていれば十分なのではないか」と秋元氏は述べます。

秋元陸氏|スタイラス ジャパン株式会社 カントリーマネージャー

このようなメタバースの条件を踏まえ、秋元氏は海外のメタバースの事例をいくつか紹介しました。

その1つが、ロンドンの老舗デパートであるセルフリッジズがヤフーと組んで作った、バーチャル空間上のデパート「Electric/City」です。グラフィックや世界観が作り込まれており、空間内に入り込んで買い物ができるというもの。一方で購買体験となると、従来のECサイトに遷移して決済するため、まだまだ現実世界とのギャップはあるのも事実です。

将来的には、「奥行きをつくることができるので『あそこに新作がある』とヒュッと飛んでいくことができてその場で決済できるような、通常の購買体験と近いものになるだろう」と期待を寄せます。

講演の最後に秋元氏は、「メタバースの技術や未来は、遅かれ早かれ皆さんの生活にどんどん浸透していきます。この未来が本当に来るのであれば、今どんなことができるか。お客さまにどんな体験価値を提供できるか。この後、皆さんと一緒に考えていけたら嬉しいです」と話し、講義を締めくくりました。

メタバースの普及を後押しする。NTTグループの「IOWN構想」

次に日本電信電話株式会社の梅津佳奈が登壇し、NTTグループのメタバースに関する取り組みを紹介しました。

梅津らはXR技術を次のインフラと捉えて、「ポストスマホ」として、メタバースを含むXR領域で2030年に数千億円の収益を目指すことを掲げています。そのために、グローバル展開にもチャレンジ。2022年3月31日には「NTT XR」ブランドを立ち上げ、さまざまなサービスを展開しています。

梅津佳奈|日本電信電話株式会社

それらのサービスを支えるインフラとして、梅津はコミュニケーションの発展を支えるネットワーク「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想」について紹介。従来に比べて大容量、かつ低遅延、低消費電力のデータ通信を実現する研究が進められています。

その一例を、梅津は4カ所の異なる場所でクラシックを演奏・指揮する動画を用いて解説しました。通常、オンラインのやり取りでは映像や音に遅延が発生してしまいますが、IOWNを用いた実験では「映像・音の遅延がほぼ無く、遠隔で行うリアルタイムセッションが実現できた」と梅津は語ります。

このようなネットワークの進化を踏まえて、NTTグループはこれから起こるであろうコミュニケーションの変化をこう予想します。

「通信技術はコミュニケーションの進化を支えてきました。声から始まって文字を送れるようになり、写真・絵もムービーも伝送可能になり、今やメタバースで使用される3D空間などの大容量データも伝送できるようになりました。NTTでは例えば、スキルや五感なども伝送できる日がくると考えています」(梅津氏)

異業種の議論から見えてきた「ビューティー×メタバース」の可能性

秋元氏と梅津氏の講義を参考に、第2部のグループワークが行われました。

グループワークのテーマは「ビューティー分野におけるメタバースの可能性の検討」。テーマを追求するため、4つのグループに分かれ、「ビューティーの本質的欲求」と「メタバースの可能性」の2つのフェーズに分けて考えを深めていきます。

グループワークでは、まず互いを知るためにアイスブレイクを行いました。少し緊張した雰囲気はあったものの、会社の枠を超えて相互理解が進む様子に期待が高まります。

その後、各々のグループでワークを開始。個人ワークのアイデア出しでは付箋に、思い付いたことを書き込んでいきます。時間を経て慣れるに従い、筆もどんどん進んでいきます。

その後、個人が出したアイデアをグループ内で共有。その中でさまざまなアイデアが出てきました。

「美しさを追求する上で欠かせない、ヘアメイクアーティストのスキル伝承にメタバースが活用できそう」

「リアルで何かを試す前に、アバターで事前にチャレンジできたらいい。そうすることで、より自己表現や自己実現がやりやすくなるかも」「現実での生活に少し疲れたら、メタバースで素性を隠して発散したい」

次々とアイデアが飛び出し、メタバースに馴染みの薄い参加者も積極的に参加している姿が印象的でした。グループワークを通じて発想がより豊かになるだけでなく、アイスブレイクの際に見られた硬さも消え、専門性や会社の枠を超えた活発な議論が展開されました。

ワークショップの最後はチームごとの発表です。

あるグループでは、ライフスタイルが変わることで自身の美意識も変化するだろうという意見が出ました。そこを深掘りすることで、仮想空間上で非日常を楽しむニーズが顕在化するのではないかと、今後メタバース上で起こり得る人間の欲求について思考を重ねていきました。

こうして2時間におよぶワークショップが終了。各チームに共通していたのは、外面・内面にとらわれず、現実世界に存在する美しさや美意識といった、人々の持つ潜在的なニーズや課題を探し出し、それらをメタバース上にインストールできるのか、ということでした。グループワークは、当初予定していた時間を超えるほど盛り上がり、秋元氏・梅津氏両者の知見がいきたワークショップとなりました。

ワークショップをきっかけに続く共創のかたち

最後に、今回のワークショップを通した講評を、株式会社資生堂 みらい開発研究所に所属するfibonaメンバーの小田康太郎氏とNTT Com OPEN HUB 代表・戸松正剛が行いました。

小田氏は、「メタバースを考えることを通して、普段皆さんの着眼している点やニーズが、より具体的に出てきたのではないでしょうか。自己実現や自己表現、それを取り巻く今後の社会に関して、リアルとバーチャルの違いを踏まえながら議論していたと思います」と述べ、ワークショップの狙いを達成できた点を評価しました

小田康太郎氏|株式会社資生堂 みらい開発研究所、fibonaメンバー

また戸松は別の観点から講評を述べました。

「メタバースでは好きな場所を選んで、好き勝手に生きていけるかというと、そんな単純でもない気がしています。やはり、選んだところでサバイブすることもあるでしょう。それを踏まえて、メタバースの中で生きていくことを美意識がどう助けてくれるのか、皆さんの話を聞きながら思いを巡らせました」

戸松正剛|NTT Com OPEN HUB代表

実際にワークショップに参加した方はどのような感想を持ったのでしょうか。ワークショップ終了後、株式会社資生堂 ブランド価値開発研究所 伊藤稜哉氏は以下のようにコメントしました。

「会社の枠を超えたディスカッションを通じて、新しいアイデアを模索する非常に刺激的な時間を過ごせました。バーチャルの環境を活用して、新しい美のイノベーションにつなげられるのではないかと感じました」

充実の内容で幕を閉じたワークショップ。そして資生堂とNTT Comとの連携はこれからも続きます。冒頭にコメントした佐伯氏は、このように総括しました。

「今日のご縁を大切に、このワークショップからもう一段深い議論ができたらいいですね。今回はアイデア出しなどに終始しましたが、そこから研究を組み立て、製品・サービスに落とし込む時にどう絞り込んでいくのか。デジタルに知見が深いNTT Comと、化粧品開発や実店舗などリアルの分野で強みを持つ当社の間でさらに深い話ができると、より良いアウトプットを描けるのではないかと思います」

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