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vol. 07

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次の100年を生き抜くために。「強いコンセプト」はこう磨く

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日本の未来を担う実践者たちが交わり、「知」の化学反応を起こすNewsPicks主催のトーク番組「New Session」。 今回のテーマは「100年生き残る『強靭なコンセプト』の作り方」です。私たちは不確実性のただ中で「創造的イノベーション」だけでなく「環境への本質的な適応」も求められています。 「形ばかりのSDGs」などではなく、この2つを真の意味で両立したコンセプトだけが、次の100年を生き残る事業となり得るのです。 そんな「強靭なコンセプト」を生み出すために必要な考え方、そこから創られる社会・未来像について掘り下げていきます。ゲストにデザインストラテジスト 太刀川英輔氏、武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科教授、ビジネスデザイナー 岩嵜博論氏、NTTコミュニケーションズ株式会社 OPEN HUB for Smart World代表 戸松正剛の3者を迎え、モデレーターは奥井奈々氏、古坂大魔王氏が務めました。

制作:NewsPicks Studios
本記事は、NewsPicks Brandに掲載された記事の転載です。

「三方よし」の議論に抜けている視点

奥井奈々氏(以下、奥井氏):まず、これからのビジネスに必要な「コンセプト」とは、どんなものでしょうか。

岩嵜博論氏(以下、岩嵜氏):私は2021年8月に『パーパス』という書籍を共著で出させていただきました。このパーパスも、1つのコンセプトだと考えています。ビジョンやミッションは企業が一方的に言うものですが、「みんなでこんな世界を目指そうよ」というのがパーパスであり、大きな船だと捉えることができます。ですから、「みんなで」のような構えを企業のコンセプトとして立てるのが重要だと思います。

岩嵜博論|武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科教授、ビジネスデザイナー。リベラルアーツと建築・都市デザインを学んだ後、博報堂においてマーケティング、ブランディング、イノベーション、事業開発、投資などに従事。2021年より現職。ストラテジックデザイン、ビジネスデザインを専門として研究・教育活動に従事しながら、ビジネスデザイナーとしての実務を行っている。

太刀川英輔氏(以下、太刀川氏):「コンセプトがどうやって生まれるのか」という問いは、僕のライフテーマです。新しいアイデアを作ることを超えて、どうすればコンセプトを作ることになるのか。それは、いかにこれまでとの変異的な差分が生まれるかと、その新しさが社会に適応しているか。変異と適応、この2つを往復することだと考えています。

しかし、これまでの経済活動の中で生み出されたコンセプトは、空間的、時間的にも適応している範囲が狭いものが多く、持続不可能な社会を生み出してきてしまった。ですから、今後は広い範囲を意識したコンセプトを考えるべきです。こうした往復の結果が適切に凝縮されて「いい名前」がつくことで、生み出されたコンセプトは顕在化しますよね。

太刀川英輔|社会に希望ある変化を生み出すために活動するデザインストラテジスト。モノ・空間・平面のデザインを横断し、100以上の国際賞を受賞している。生命の原理から学ぶ新しい創造性教育「進化思考」の提唱者。

戸松正剛(以下、戸松):コンセプトという語は「コン=強く」と「セプト=受け入れる」に分解できて、総じて「強く受け入れられる」という意味です。アイデアは自分一人が持っているだけでもいいですが、コンセプトは、相手に受け入れられることが前提で、逆に言えば、受け入れられなければコンセプトとは呼べません。聞いたら誰かに話したくなる、または行動に移したくなるのが「強いコンセプト」です。

戸松正剛|NTTコミュニケーションズ株式会社 OPEN HUB for Smart World代表。
NTTグループ各社にて、主にマーケティング/新規事業開発に従事。米国留学(MBA)を経て、NTTグループファンド出資のスタートアップの成長/Exit支援、Jリーグほかプロスポーツ業界とのアライアンスなどを手掛ける。2018年より大企業同士の共創コミュニティー「C4BASE」を立ち上げ、運営。2021年OPEN HUB for Smart Worldを設立。NTT Com DD株式会社社外取締役。

もう1つ、重要なのはコンセプトそのものと、それを提起する主体の持続性です。ビジネス界隈では「三方よし」というキーワードがよく使われますが、そもそも近江商人が掲げた「三方よし」の本質とは「不況でも好況でもしっかり儲けて、自分たちが生き延びる」こと、つまり「御家の存続」です。その手段として「三方よし」を目指している。

古坂大魔王氏(以下、古坂氏):美談として語られがちな「三方よし」ですが、基本は組織を生き残らせることなんですね。

太刀川氏:僕は生物の進化になぞらえてコンセプト創出する手法の提唱をしているのですが、実は生物の世界では、「単一種が一人勝ちをする状況は、その生態系が終わるサイン」なんです。

例えば、森でオオカミがいなくなるとシカが増え、シカが草を食べすぎることで、生態系が乱れます。一見、シカが勝っているようですが、利他性が発達しただけなので、森を食い尽くせば、シカもじきにいなくなります。

経済も同じで、競争関係ではなく、さまざまな共生関係で成り立っているからこそ持続しています。経済を生態系に当てはめると、もしどこかの企業が一人勝ちする状況になれば、経済が乱れる危険なサインになるわけです。

強いシンプルな言葉に行き着くために

奥井氏:「強靭なコンセプト」を生み出すために必要なものはありますか?

岩嵜氏:これまでの話にも出たように、コンセプトに大事なのは、相手の心にスッと入ってくる「分かりやすさ」。一方で、「これってどういうことなんだろう?」と思ってしまう多義的な解釈を生める要素も必要なんです。「ふるさと納税」が良い例です。仕組みは分かりやすいものですが、寄付を受けた側は返礼品を渡して関係人口を増やしたりなど、いろいろな広がりを見せています。

古坂氏:たしかに「ふるさと納税」に「納税」の感覚はないですね。「応援」のような受け取り方もされています。

岩嵜氏:寄付を受けた側が「ふるさと納税」というコンセプトに対していろいろな解釈やアクションを起こして、結果として社会が豊かになる、という現象が起きています。もし「ふるさと納税」が「地方税移転制度」という名称だったら、それを聞いた瞬間「自分には関係なさそうだな」と思ってしまいそうですよね。

太刀川氏:コンセプトとしては、「意外な変異的差分を的確で短い言葉にまとめられているか」がよく問われます。それだけではなく「誰のために」や「どういう関係性が広がるのか」という適応の観点をセットで考えることも大切です。例えば椅子は、椅子単体ではなく「お尻を楽にする」という適応的な関係性のもとで初めて成り立ちます。

つまり、コンセプトでは「どう違うのか」「どのような関係性に即しているか」の両面がクリアに語られる必要があるのです。

戸松:マーケティングコンセプトを考えるときに意外に抜けがちな要素が「なぜ売る?」「誰が売る?」という部分です。原体験や目的、当事者意識がないコンセプトにはグッとくるものがありません。なので、「人」の部分が抜けたコンセプトは空虚に見えます。

そして、コンセプトが強いシンプルな言葉に結実する過程には、第三者視点が必要です。

例えば、スターバックスの強いコンセプトである「サードプレイス」は、同社の元CEO、ハワード・シュルツが多くの人に自分の思いを壁打ちした結果、「あなたが目指しているものはこの言葉じゃない?」と辿り着いたものだと言います。

たった一人で、コンセプトを磨き上げることは難しいので、自分の思いをポジティブに受け止めつつ、適切に批判してくれる第三者の存在は大切だというわけです。

職場は公園化する

奥井氏:NTTコミュニケーションズは今回、ビジネスコンセプトを創出するためのワークプレイス「OPEN HUB Park」を開設しましたが、こちらのコンセプトはどのようなものでしょうか。

戸松:「OPEN HUB Park」は「どうやったらコンセプトを生み出し続けられるか」をテーマとしたワークプレイスです。リアルとバーチャルの融合した共同作業空間を模索していくために、オフィスには最先端技術のICTインフラを備えています。

「OPEN HUB for Smart World」は、新たなコンセプトを創り、社会実装を目指す事業共創の場として2021年10月20日にスタート。5GやIOWNなどの最高峰のICTインフラを基盤として、リアルとバーチャルの垣根を越えたワークプレイスを提供し、未来へのインスピレーションの創発を促す。

コロナを機に、リモートで仕事をする方が多くなりました。コロナが収束しても、すべてをリアルに戻す方はいないと思います。ハイブリッドで生活していくコンセンサスはある一方、リアルとバーチャルを融合するための方法論については、依然結論が出ていません。

そこで、「OPEN HUB Park」では「リモートの世界にバーチャルを取り入れると何が起こるのか」「オフィス内のロボットを通じて共同作業をするとどんな感じになるのか」を探りながら、新たなコンセプトを考えていけたらと思っています。

岩嵜氏:「パーク」という部分がとても良いですね。というのも、コロナ後のオフィスの役割は元通りではなく、公園のようになっていくと予想しています。公園のように、誰もがフラッと来られるような職場──「OPEN HUB Park」はその1つの形だと思いました。

古坂氏:僕も子どもがいるので実際に公園によく行くのですが、オープンな場所である公園には、子育てや地域のさまざまな知が集まりますもんね。

太刀川氏:未来のリアル空間の価値は、オンライン上にはないセレンディピティ、つまり偶然の出会いです。セレンディピティの回数を上げるためには、会社の内外を問わずに「OPEN HUB Park」が偶発の場になるようなコンテンツを増やすのがいいでしょう。

解釈の数だけ関係性が広がる

奥井氏:コンセプトを基に、これからのビジネスはどうトランスフォームしていくのでしょうか。

岩嵜氏:複雑化した世界で、コンセプトの力はかなり重要になってくるでしょう。先ほどもお伝えしたように、分かりやすく、さまざまな解釈を生み出すコンセプトは人々の自発的な行動を促すからです。

1つの言葉が100通りの解釈を生み出して、それが100通りのアクションにつながっていきますが、スタート地点の言葉は1つなので、向かっていく世界は1つに終着する。一見矛盾しているんですけど、その矛盾をどう両立するかが鍵です。

古坂氏:ただの言葉なのに、前後左右に空間が広がっていくイメージですね。

太刀川氏:そんな世界で今後迫られるのは、私たちが狭い範囲でしか作ってこなかった経済を、いかに時間的に永く・空間的に思慮深く広げていくかです。

今は、何かを供給すればお金を得られるけれど、供給したものを回収し、再資源化しても同じお金を手に入れることができないですよね。そうすると供給する人はたくさんいるけど、再資源化する人が少なくなるから、持続不可能な社会になっている。このままの状況が続くと持続不可能、つまり文明が終わるので、循環系の発展をいかに進めるかが最重要課題です。

戸松:コンセプトって、その気になれば、たくさん生み出せてしまいますよね。けれど、伝わらないものが多いのも実情です。こうした「伝わらないもの」を無理やり伝えようとすると、過度な広告やパッケージなど環境的コストが掛かってしまう。こういったネガティブな面にも気をつけなければなりません。

あるタイミングで、生み出してきたコンセプトをみずから淘汰することも尊い行為だと思います。また、切り口を変えたり、違うコンセプトと掛け合わせるなど、元々のコンセプトを揺り動かし、アップデートすることも大事でしょう。

奥井氏:共創の未来に開かれる強靭でサステナブルな社会をキーワードで表すとすると、どのようなものになるでしょうか。

太刀川氏:「脱人間中心」

人は人を幸せにするのは得意でも、生態系のつながりを想像するのは苦手です。ところが逆に生態系サービスを指標化すると、例えば僕ら人間は蜜蜂からは年間20兆円くらいお金をもらっていることになります。

こうして人間も生態系に頼って生きているのに、無自覚に人間社会だけを生態系から切り出している。50年前から「CO2が上がると災害が増える」と提言され続けているのに、それを最近まで私たちが受け取れなかったのは、人間中心の社会で私たちが生きているからです。

人間中心の外にある生態系に対してリアリティを持って接していかないことには、持続可能な社会は実現できないと思います。

近年、ニュージーランドはアボリジニの聖地ワンガヌイ川に法的な人格を与えました。つまり自然に対して権利を認めたわけです。このように自然を擬人化していけば、リアリティを持って生態系に接することができるかもしれません。

岩嵜氏:「適応型社会」

「適応型社会」とは、コンセプトを解釈していきながら、環境に応じてコンセプトを変化させていく考え方です。それを繰り返すことが、環境適応型でサステナブルな社会に近づくうえで重要だと思います。

戸松:「ヨコ・ソラーレ社会」

北京五輪で銀メダルを獲得したカーリングチームの「ロコ・ソラーレ」って、見ていて気持ちよかったですよね。理由は、ヨコ社会型のプレースタイルだったからだと思います。彼女たちは「AじゃなくてBでしょ」とダイレクトに他選手に意見を唱えるし、意思決定も非常に早く、ストーンを投げた後ですら柔軟に戦略を変更します。

日本は依然、タテ社会の色合いが強く、長く保持され続けた「強固」すぎるコンセプトから脱却できないケースが散見されますが、ロコ・ソラーレのようなヨコの連携を中心とした「しなやかさ」を帯びたコンセプトを持つことで変化に対応していけると思います。

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