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Creator’s Voice
2024.12.20(Fri)
この記事の要約
コミンズ・リオ氏は、アート・メディア・エンターテインメントの力を活用して社会課題解決に取り組んでいます。
「RE:ACTION」プロジェクトでは、気候変動や難民問題などさまざまな課題に対して、企業との共創や参加型のプロジェクトを展開しています。
社会課題解決には、業界内の横のつながりと継続的なアクションが重要だと指摘。
また、真の解決には現場で働くソーシャルワーカーの存在が不可欠であり、自身の役割はその「補助」だと考えています。
新規事業として社会課題に取り組む際は、「心臓」となる強い思いを持った人材の存在が鍵となります。
また、中間管理職がソーシャルな視点と事業成果を両立できることが重要です。
さらに、社会課題解決を広めるには「快感ポイントの設計」が必要だと強調。
「RE:麻雀」のように、楽しみながら環境問題に取り組める工夫が、多くの人々を巻き込む上で効果的だと提案しています。
※この要約は生成AIをもとに作成しました。
目次
岩澤沙妃(以下、岩澤):まずは、コミンズさんのご活動について、教えていただけますか。
コミンズ・リオ氏(以下、コミンズ氏):はい。僕が5年前に立ち上げたSEAMESという会社の屋号は、Socially Engaged Art Media Entertainmentの頭文字を取ったもので、アート・メディア・エンターテインメントの力を使って、社会課題の解決につながるような企画をつくっていく会社です。これまで、企業と事業共創をしながら、さまざまなプロジェクトを行ってきました。
代表的な事例としては、「SPINZ」という高校生・大学生向けの社会問題×リアリティー番組や、地球の平均気温が1.5℃上昇し気候変動による負の影響から取り返しがつかなくなってしまうまでのタイムリミットを伝える「Climate Clock」の日本版の制作と設置、気候変動と難民問題へのアクションを呼びかけるアートプロジェクト「RE:VISION ART PROJECT」などがあります。
ただ、単発のプロジェクトだと継続性がないと感じるようになりまして、最近では『RE:ACTION』という大きなプロジェクトのもとに、すべてのプロジェクトを集約しようとしているところです。
これは、任意の事柄に「RE」を付けて行動をアップデートすることでソーシャルアクションにつなげていこうというコンセプトの企画で、企業と事業共創的に進めているプロジェクトと、誰もが参加できるサークル活動的なプロジェクトの大きく2つがあります。
岩澤:具体的に、どのような「RE:〇〇」があるのでしょうか。
コミンズ氏:ひとつは、難民の方を直接サポートできる『RE:CONNECT』というプラットフォームです。これは、気候変動や紛争によって生活を脅かされている難民の方が、現地の状況を写真や動画に撮って送信することで、正確な情報をリアルタイムで集めつつ、その写真や動画を見た人が、送金やボランティア活動を通じて、難民を直接支援できるような仕組みです。
『RE:CLIMATE』というYouTubeチャンネルでは、一見突拍子もない形で気候変動の問題を社会に広めていく、という取り組みを行っています。三井化学さんに協賛いただいた1本目の動画では、お笑い芸人のラランド・ニシダさんに「プラスチックに触れるたびにマイナス1000円」という企画に参加いただき、私たちの普段の生活がどれだけプラスチック製品であふれているのかを体験していただきました。現在、9万回再生まで伸びており、始まったばかりの環境問題系のチャンネルとしては、かなり良い結果が出ているのではないかと思います。
直近では、『RE:BUILD』というプロジェクトの一環で、日鉄興和不動産さんと、赤坂インターシティAIRの全テナントのオフィス利用者がマイボトルを利用している状態を目指す「Building 2 Bottle」プロジェクトを行っています。2カ月間の実証実験終了後には、削減された相当量の使い捨てプラスチックコップやペットボトルを利用したアート作品を制作し、オフィス利用者の方に見えるような形で展示する予定です。
それ以外にも、フェムテックや子どもの教育に関するプロジェクトなど、いろいろな取り組みを進めています。
岩澤:本当に多様なプロジェクトに携わられているのですね。コミンズさんの社会課題解決に対するモチベーションは、どこから来ているのでしょうか。
コミンズ氏:モチベーションという意味では、まず初めに「面白いから」ですね。僕は基本的に好奇心だけで生きている人間なので、睡眠以外のすべての時間を、自分が「面白い」と思うことで埋め尽くしたい。ただ、どうせやるんだったら面白いことをやった先に誰かが助かるとか、社会にちょっと良いことが起きるといいなとは思っています。
あとは、シンプルな「ありがたみ」の気持ちがあります。先進国の中流以上の家庭に生まれて、五体満足で生きていられる。これって、すごく恵まれていることですよね。
世界には、紛争中の国に生まれたり、貧困家庭に生まれたり、裕福でも重い病気を患っている人もたくさんいます。僕がそうではない恵まれた状況にあるのは、ある意味偶然。であれば、せめてそうした苦境にある人たちに、何かしらを還元したい。そういう思いは、根底にありますね。
岩澤:多くの人にとって、そうした「ありがたみ」の感覚を日常的に持つのは、なかなか難しいことのようにも思います。コミンズさんは、どのようにして、その感覚を身に付けられたのでしょうか。
コミンズ氏:新卒で入社したテレビ朝日を退職した後に、世界の12の都市に1カ月ずつ滞在し、それぞれの都市で出会った人に同じ12の質問をインタビューする「World in Twelve」という企画を行いました。その中で、本当に多様な人々に出会いました。昨日はロックスターに会ったかと思えば、今日は難民に会うということもあり、世界にいかに多様な人々がいるかを改めて実感しました。
岩澤:素晴らしい経験ですね。コミンズさんは、「全米一住みたい街」として世界的に知られるオレゴン州ポートランドのご出身だそうですが、そのこともご自身の価値観に影響していると思いますか。
コミンズ氏:そうですね。僕自身は、皆さんが自分の地元を「普通」だと感じるのと同じように、特別な環境だとは思っていませんでしたが、ポートランドは非常にリベラルな街です。例えば、LGBTQ+の観点では、若いうちから自らの性的指向・性自認についてカミングアウトする人もたくさんいますし、私の叔母も性的マイノリティで、よく女性のパートナーを連れてきていました。移民という観点では、イスラム教でヒジャブを着用している女の子もクラスの中に多くいました。つまり、昨今「ダイバーシティ&インクルージョン」として目指されているものが、当たり前にある環境で育ってきたのです。
そうした「当たり前」を持っている僕の視点から見ると、日本にはまだまだダイバーシティ&インクルージョンが存在していないと感じます。例えば「日本を変えたい」と言っている若いプロフェッショナルたちの集まりに行くと、そこには女性が1人もいないとか。「それでいったい何が変わるの?」と思ってしまいます。
岩澤:おっしゃる通り日本固有のさまざまな課題もありますが、それらの解決に向けて一人ひとりができることをやっていくことが重要だと思います。ズバリお聞きしますが、どうすれば社会課題を解決できるのでしょうか。
コミンズ氏:まず、前提としてお伝えしたいのは、私たちがやっているのは厳密には社会課題の解決ではなく、あくまで社会課題の解決の補助であるということです。
岩澤:「補助」ですか?
コミンズ氏:はい。なぜなら、本当の意味で社会課題を解決できるのは、現場で働かれているソーシャルワーカーの方々だけだからです。
例えば、僕はいろいろな団体に寄付も行っていますが、それが社会課題の解決につながるのは、その寄付先で誰かがしっかりそのお金を使って、社会課題の解決につながるアクションを取ってくれているから。僕たちが直接社会課題を解決しているというよりも、いま社会課題に取り組んでいる人たちがちゃんと潤って、本当に世界を変えられるようになるためのシステムをつくっているというイメージなんです。
岩澤:なるほど。社会課題解決も、エコシステムの視点で捉えることが重要なのですね。
コミンズ氏:その上で、社会課題を解決するためには、業界内で連帯して横のつながりをつくりつつ、継続的なアクションを取っていくことが重要だと考えています。どうしても、1社だけで生み出せるインパクトには限界があるからです。先ほど申し上げた「Building 2 Bottle」プロジェクトで、「40階建てビルの全テナントで実施する」ということにこだわっているのも、1つのテナントだけでいい取り組みをしても、社会の認知が取れないからです。
したがって、うちでやっている『RE:ACTION』のプロジェクトのほとんどは、コンソーシアム型で進めています。
岩澤:なるほど。継続的なアクションのためには連帯が必要である、ということは肝に銘じたいお話です。というのも、私は現在、デベロッパーのお客様を担当しているのですが、デベロッパーがビジネスにソーシャルグッドな視点を取り入れることの意義についてもっと認識が広まって、それこそ連帯につながっていけばいいなと思うのです。
コミンズ氏:僕もデベロッパーの方々とご一緒させていただくことが多いのですが、デベロッパーがサステナビリティの意識を持つことは、とても重要だと考えています。なぜなら、社会課題の本質は、私たちの生活のベースにある衣食住やインフラが奪われることにあるからです。難民の問題も、「住む場所がない」ことによって生じているし、不登校の問題も、「衣服がなく毎日同じ服を着ていかなくちゃいけない」ことによって生じていたりする。
特に建物というのは、ほとんどすべての人にとって必要なものです。ですので、その空間をソーシャルグッドなものにしたり、サステナビリティの観点を取り入れたりすることは、非常に重要だと思いますね。
岩澤:まさに私たちのOPEN HUBも、社会課題を起点にした共創のプラットフォームとして企業同士が連帯できるような場をどんどんつくっていきたいと考えています。多様な企業がコラボレーションする上で、重要なことは何でしょうか。
コミンズ氏:まず、フェーズの認識を合わせることが重要で、私たちが事業共創型でプロジェクトを推進する際には、「プレゼロ」「0」「1」「2」「3」といったフェーズに分けて対応しています。
「プレゼロ」というケースはかなり稀なのですが、「ほとんど何もわからないので、とりあえず話を聞いてくれませんか」というフェーズですね。コンサルティングに近いです。一方、「0」というのは最もよくあるフェーズで、具体的な課題に対して、数カ月かけて事業構想の種をつくります。例えば、「オフィス内でマイボトルの利用を促進するために実証実験を行う」といった企画はこれに当たります。
フェーズ「1」は、人々に行動変容を促すフェーズで、6〜12カ月かけてプロジェクトを実行します。「環境のために、明日から行動を変えよう」と思っても、人間はそう簡単には変われないものなので、このフェーズには時間がかかります。その後のフェーズ「2」「3」では、フェーズ「1」の結果を踏まえて、さらなる展開を検討します。
当然、こうした社会課題解決に関するプロジェクトには、それなりの予算が必要です。したがって、予算の確保が難しい場合は、その前段階として社内で認識を合わせるための講演会やワークショップを行っています。
岩澤:まだ前例が少ないこともあり、企業として社会課題解決に関する新規事業に取り組んだり、他社と共創したりすることには、さまざまなハードルがあると感じています。ハードルを乗り越えてプロジェクトを前に進める上で、何かアドバイスはありますか?
コミンズ氏:結局のところ、企画を成功させる上で重要なのは1つだけ、「誰がこの企画の心臓なのか」です。社会課題というのは、「自分が借金をしてでも、絶対にこの課題は解決しなければならない」という強い思いや、みんなが見ていない問題を解決していく志を持っている人たちが、血と汗と涙を流しながら取り組むことで、ようやく解決できるようなものです。アートやメディア、エンタメもそういう意味では近いですよね。「お金なんて1円ももらわなくてもいいから、これを表現したい」と思っている人たちだけが、結果として世界を変え得る作品をつくれるのです。
ですので、会社のブランディングのために社会課題解決に取り組もうとしている人や、偶然CSR部に異動してきた人が、ちょっとお金をこねくり回してやるような企画は、うまくいくわけがないのです。少し厳しい言い方になりますけれど、「たとえどんなハードルがあっても乗り越える」という強い気持ちを持った人がいないのであれば、SDGsウォッシュになる可能性も考えて、むしろやらない方がいいと思います。
岩澤:そうした「本気でやりたい人」は、どうしたら見つけられるのでしょう?
コミンズ氏:そんなに難しいことではないと思います。社員が200人いたら、その中に「社会課題を解決したい」と思っている人は少なくとも10〜20人はいます。
200人もいれば、家族や友人などの身近な人に障害者がいる人や、移民や難民と関わった経験のある人、すなわち、何らかの社会課題に関わったことのある人がそのぐらいはいるからです。「Z世代」と呼ばれる世代であれば、そういう気持ちを抱えている人の割合はもっと多いでしょう。NTT Comさんのように1万人も社員がいる会社であれば、「社会課題を解決したい」と思っている人は、すでに社内にたくさんいるわけです。
重要なのは、会社側がそうした人たちの思いを本当に事業にするんだという覚悟を持ち、彼らを本気でバックアップする体制を整えることです。
岩澤:おっしゃる通りだと思います。しかし、大きな会社だからこそフレキシブルになりきれない部分もどうしても出てきてしまいます。どうすればそうした体制を実現できるのでしょうか?
コミンズ氏:多くの企業の経営層は、すでにSDGs的な視点を持つことの重要性に気が付いています。むしろ、普段いろいろな会社とやりとりしているなかで感じる一番大きなハードルは、中間管理職ですね。下の世代からは「ソーシャルビジネスをやりたい」と言われつつも、売り上げやKPIなどの現実的な数字に対する責任を負っている、そうした中間管理職の方が、ソーシャルな視点を掛け合わせながら中長期的な成果を出せるようになれば、本当に日本は変わるのではないかと思います。
岩澤:「社会課題解決に関する新規事業をつくってみたいけれど、何から始めたらよいのかわからない」という人は、まずどんなことから始めたらよいでしょうか。
コミンズ氏:まず、前提として、ソーシャルビジネスってものすごく難しいのですよ。普通のビジネスだって5年くらいで消えるといわれているのに、ソーシャルビジネスでは利益の一部を寄付みたいなものに回しながら運営をしていかなければならないわけですから。うまくいっているように見えるNPOやソーシャルビジネスであっても、ふたをあけてみれば業績的に大変なところが大多数です。
したがって、まずは情報を集めつつ、小さなアクションから始めることが重要です。子どもの貧困に興味があるのであれば、まずは近くの子ども食堂に行って、話を聞いてみるとか。興味のある社会課題に取り組んでいる団体に寄付を行って、その団体から送られてくるレポートを読んでみるとか。ちゃんとした団体であれば、毎月のようにレポートを送ってきてくれますから。その上で、自分にできそうなことが見えて来たら、少しずつアクションを大きくしていくのです。特に、ソーシャルビジネスでマネタイズまで行おうと考えている場合には、そうしたベビーステップを積み重ねていく以外に方法はないと思います。
岩澤:ありがとうございます。深刻な社会課題を前にすると、「早く成果を得たい」と焦ってしまいますが、地道に積み重ねることが重要なのですね。
コミンズ氏:もう1つ、ソーシャルアクションを世の中に広げていく上で重要なのは、「快感ポイントを設計する」ことです。
「290円の歯磨き粉をオーガニックにして390円で売ってみたけれど、全然売れない」といった相談をよく受けます。歯磨き粉であれば、1本で3カ月間くらい使えると思うので、追加のコストは1日あたり1円くらい。それでも、「環境に優しいから」という理由だけでその商品を選べる人は、人口の1%いるかいないかです。「快感ポイント」がなければ、ほとんどの人は自分の行動を変えられないからです。
岩澤:「社会課題を解決したい」という気持ちを持つことと、それを実際に行動に落とし込むことの間には、大きな乖離(かいり)があるわけですね。
コミンズ氏:はい。そこで重要になってくるのが、「快感ポイントを設計する」、「ソーシャルアクションに楽しさを取り入れる」という視点です。
例えば、うちの学生インターンが「どうすれば環境問題に周りの友達を巻き込めるか」と考えてつくった企画の1つに「RE:MAHJONG」というものがあります。マージャンには「索子」という竹が載っているパイがあるのですが、この企画では、「索子の1と9を使って上がるたびに木が1本植林される」という趣旨のもと麻雀大会を行いました。
すると、1の竹と9の竹が捨てられるたびに、「お前はいま、環境に悪いことをしている」みたいな会話が生まれて、これまで社会課題にほとんど関心のなかったような層の人たちに、環境問題への意識が広がっていくのです。
最終的には、うちの会社からのスポンサーで300本ぐらいの木が植林されることになったのですが、こういうことでいいと思うんですよね。一人ひとりが、「どうしたら周りの人を巻き込めるのか」という視点を持ちながら、できることからやっていく。そうしたアクションの積み重ねによって、社会が変わるのではないでしょうか。
岩澤:社会課題解決は、自己犠牲的な姿勢が求められ、真面目にやらなければならないというイメージがあったので、「エンタメ的な要素を取り入れて楽しくやる」という「RE:麻雀」の事例は、まさに目からウロコでした。
今後、AI技術だけでなくソーシャルビジネスにも注力していくことで、日本が世界をリードしていけるのではないかという希望も感じました。本日いただいたお話をもとに、OPEN HUBでもよりよいコミュニティーづくりに尽力していきたいと思います。改めて、今日は貴重なお話を聞かせていただきまして、どうもありがとうございました。
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